前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

文字の大きさ
59 / 101
第4部 クリスマスとお正月

第59話「本当の笑顔」

しおりを挟む
【side真白】

 放課後の教室。
 日直が黒板を消す音と、椅子を引く音がぱらぱらと響いていた。
 ほとんどの生徒が帰り支度を始めている中で、私はまだ机の上にプリントを並べ直していた。

「……あれ、千佳?」
 ふと顔を上げると、窓際に残っていたのは千佳だった。

 彼女は鞄を机に置いたまま、窓の外を見つめている。
 その横顔は、いつもの明るさとは違って――少し寂しげだった。

「千佳、帰らないの?」
 声をかけると、彼女ははっとして振り返り、慌てたように笑みを作った。

「え? あ、ううん。ちょっとぼーっとしてただけ。大丈夫大丈夫!」

 その笑顔。
 私はすぐに気づいた。――無理をしているって。

「……ねえ千佳。最近、なんだか無理して笑ってるように見えるんだ」

 思わず口にすると、千佳の表情が固まった。
 けれどすぐに、いつもの調子で肩をすくめてみせる。

「ましろん、考えすぎだって! 私は元気印の千佳ちゃんだよ?」

 軽い言葉。
 でも、その声は少し震えていた。

「……千佳」
 私は彼女の机の横に立ち、静かに言った。
「私ね、千佳が無理してるとすぐ分かるの。だって、私……千佳のこと、大事な友達だもん」

 彼女の瞳が揺れる。
 その瞬間、心の奥に押し込めていた気持ちが、堰を切ったように零れ落ちていった。

「……だって、ましろんは何でも持ってるじゃん。可愛くて、勉強もできて、蒼真君までいて……」
「千佳……」

「私なんて、ただ騒いでるだけ。二人を応援したいのに、時々すごく羨ましくなるんだ」

 彼女の声は震えていた。
 けれど、それは確かな本音だった。

 私は千佳の手をそっと握った。
「……羨ましいって思うの、全然悪くないよ」
「……え?」
「だって、私だって千佳の明るさに何度も助けられてきた。蒼真君と一緒にいられるのは幸せだけど……それを千佳に羨ましいって思ってもらえるなら、私は誇らしいよ」

 千佳の目が大きく見開かれる。
 次の瞬間、涙がぽろりと頬を伝った。

「……ましろん、ずるいよ。そんなこと言われたら……」
「ずるくてもいいよ。私は千佳に、笑っていてほしいから」

 夕陽が差し込む教室で、私たちはしばらく黙って手を握り合った。
 千佳の涙は止まらなかったけれど、その表情は少しずつ柔らかくなっていった。

(――大丈夫。蒼真君と一緒に、きっと千佳を支えていける)

 私は心の奥でそう強く思った。

 冬の冷たい風が校舎の窓を揺らしていた。
 放課後の教室は、もうすっかり人気がなくなり、橙色の夕陽だけが残されている。

 私は千佳と二人で、まだ机に座っていた。
 ついさっきまで泣いていた千佳の瞳は、赤く縁取られている。
 けれど、その奥には――ようやく決意を固めたような光が宿っていた。

「……ましろん」
 千佳が、ゆっくりと口を開いた。
「私ね……たぶん、蒼真君のこと、好きになりかけてた」

 胸が、ちくりと痛む。
 けれど、不思議と拒絶の感情はなかった。
 ただ「やっぱりそうだったんだ」と、静かに受け止めることができた。

「そっか……」
 私が小さく頷くと、千佳は唇を噛みしめながら続けた。

「だって、優しいし……困ってたら必ず助けてくれるし……。私みたいなのにも普通に接してくれるから……。気づいたら、心が揺れちゃってて」

 途切れ途切れの声。
 その一言一言が、どれだけ彼女の中で重かったかを物語っていた。

「でもね」
 千佳は涙を拭い、笑顔を作った。
「私は……やっぱり、ましろんと蒼真君を応援したいんだ。二人の幸せを壊したくない。だから――これは、ここで終わり」

 その笑顔は少し震えていたけれど、確かに彼女の決意が込められていた。

「千佳……」
 胸の奥が熱くなる。
 彼女の勇気が痛いほど伝わってきた。

「ありがとう。……そんな風に言ってくれて」
 私がそう答えると、千佳はふっと息を吐き、肩の力を抜いた。

「でも、もしこれから私がちょっと弱音吐いたら……笑って聞いてくれる?」
「もちろん。だって友達だもん」
「……そっか。うん、そうだよね」

 窓の外では夕陽が沈みかけ、赤く染まった空が広がっていた。
 その光の中で、千佳の横顔は涙の跡を残しながらも、どこか晴れやかに見えた。

(――彼女は強い。だからきっと、この気持ちを抱えたままでも前に進める)
(私も……大切な友達として、支えていきたい)

 私はそう心に誓いながら、そっと千佳の肩に手を置いた。

◇◇◇

 その日の放課後。
 教室にはもうほとんど人がいなかったけれど、窓から差し込む夕陽がまだ赤々と床を照らしていた。

 俺は教室に戻ると、真白と千佳が並んで座っているのが見えた。
 二人とも何かを話していたらしく、千佳の目はほんのり赤い。
 だけど――その表情はどこか晴れやかで、見慣れた無邪気な笑顔に近づいていた。

「蒼真君」
 真白が俺に気づき、柔らかく微笑む。
「……ちょっと、大事な話をしてたんだ」

「大事な話?」
 俺が首をかしげると、千佳が苦笑混じりに言葉を続けた。

「えっとね……私、蒼真君のこと、好きになりかけてたんだ」

 その告白に一瞬息を呑む。
 けれど、彼女の口調はどこか吹っ切れていて、俺に迫るようなものではなかった。

「でもね、私やっぱり二人を応援したいって思った。ましろんと蒼真君が一緒にいるのを見て、羨ましいって気持ちもあるけど……それ以上に、二人が幸せでいてくれるのが嬉しいから」

 真白が隣で小さく頷く。
 きっと、もう二人で答えを出したんだろう。

「……千佳」
 俺はゆっくり言葉を探しながら、正面から見つめた。
「ありがとう。そんな風に思ってくれて……俺たちも、千佳がいてくれて本当に嬉しい」

 真白もすぐに続ける。
「そうだよ。私、千佳が友達でいてくれて幸せだよ」

 その言葉に、千佳の頬がまた少し赤くなった。
 けれど、彼女は涙をこらえて笑顔を見せる。

「……二人とも、ありがと。なんか、ちょっと楽になったよ」

 不意に、彼女はいつもの調子で両手を広げる。
「じゃあ――友情の証ってことで、三人でぎゅーっとしよっか!」

「はっ!? ちょ、ちょっと千佳!?」
「おいおい……」

 俺と真白が慌てるより早く、千佳が勢いよく抱きついてきた。
 狭い教室の真ん中で、三人はもつれるように笑い合う。

 その笑い声は、もうどこにも迷いを残していなかった。

(……そうだ。これでいいんだ)
 俺は心の中で強く思う。
 千佳がまた本当の笑顔を見せてくれたこと――それが、何より嬉しかった。





 翌朝の教室は、いつもと変わらぬざわめきに包まれていた。
 窓から射す冬の光が白い床に反射し、そこに響くのは千佳の快活な声。

「だからね、そこで転んだら漫画みたいに“ガシャーン!”ってなっちゃってさ!」

 身振り手振りを交えて話す千佳に、クラスメイトたちは大笑いしている。
 彼女の明るさは、まるで寒空を一瞬で春に変えてしまうかのようだった。

「千佳ってさ、本当に場を明るくするよな」
「ムードメーカーって、こういう人のこと言うんだな」

 そんな言葉に、千佳は「えへへ、照れるじゃん!」とおどけて返す。
 その笑顔には、昨日までの翳りはもう見えなかった。

(……よかった。ちゃんと吹っ切れてる)
 俺は胸の奥で小さく息をついた。

 隣に座る真白も、そっと微笑んでいた。
「……千佳ちゃん、本当にすごいね。あんなふうに周りを笑顔にできるなんて」
「ああ。俺たちも、あの元気に救われてるんだろうな」

 会話を交わす俺たちに気づいたのか、千佳がぱっと振り返った。
「ちょっとちょっと~! 二人だけでニヤニヤしてないで、ちゃんと話聞いてよ!」
「いや、聞いてたけど……」
「うそだぁ。絶対ラブラブモードに入ってたでしょ! こら、クラスでいちゃつかない!」

 わざと大げさに怒った顔をして、手を腰に当てる千佳。
 周囲からまた笑いが起こり、真白は恥ずかしそうに肩をすくめた。

「もう……千佳ちゃんったら」
「ふふっ、やっぱりこれが千佳だよな」

 彼女の存在は、俺と真白にとってもクラス全体にとっても、なくてはならない空気の潤滑油。
 そのことを改めて実感する。

 放課後になっても、千佳の明るさは衰えなかった。
 廊下で誰かに声をかけ、部活に行く友達を送り出し、最後までクラスを笑顔で満たしていた。

(大丈夫だな。これからも千佳は千佳らしく――俺たちの大切な仲間でいてくれる)

 窓の外に沈む冬の夕日を眺めながら、俺は心の中で強くそう確信した。

~第4章 完~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...