前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第5章 新しい春に向けて

第62話「バレンタイン当日」

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 2月14日。
 朝の校舎は、普段よりもざわついていた。
 昇降口では女子が紙袋を抱えて行き交い、廊下では男子たちが落ち着かない様子でちらちらと周囲を窺っている。

(……いよいよ、今日なんだ)

 胸の奥で心臓がやけに大きな音を立てる。
 カバンの中に入れた小さな箱――赤いリボンで結んだそれが、やけに重く感じられた。

 午前の授業はほとんど上の空だった。
 隣に座る真白が、何度もペンを落とすのを俺は見ていた。
「大丈夫か?」
 小声で囁くと、彼女はびくっとしてから笑って誤魔化す。
「うん……ちょっと緊張してて」

 その頬はほんのり赤い。
 きっと同じことを考えているんだろう。

 昼休みになると、クラスのあちこちで小さな歓声が上がった。
「はい、これ! 友チョコね!」
「ありがとー! あ、こっちも!」
 女子たちが楽しそうに袋を交換し合う光景。
 男子の一部はソワソワしながら廊下へ出ていき、呼び出されたり、渡されたり……。

 そんな賑やかな空気の中で、俺と真白は互いにタイミングを掴めずにいた。
(人目が多すぎる……さすがにここで渡すのは無理か)

 視線が交わると、二人して小さく笑った。

 放課後。
 夕暮れ色に染まる校舎の屋上。
 冷たい風が頬を撫でるが、それ以上に胸の鼓動が熱かった。

 真白は両手で小さな箱を持ち、ぎこちなく差し出してきた。
「そ、蒼真君……これ、受け取ってくれる?」
 潤んだ瞳が、真っ直ぐ俺を映している。

 俺は息を飲み、ゆっくりと頷いた。
「もちろん。……ありがとう、真白」

 手の中に収まった赤いリボンの箱は、小さいのにずっしり重い。
 それはチョコレートの重みだけじゃなく、彼女の想いが詰まっているからだ。

「……その、ね」
 真白は視線を逸らし、指先をもじもじと動かす。
「甘すぎたら、ごめんね。でも……気持ちは、ちゃんと込めたから」
「真白が作ってくれたなら、どんな味だって嬉しい」
 そう言った瞬間、真白の顔がぱっと赤くなり、胸の前でぎゅっと手を握った。

「……わ、私も……蒼真君に受け取ってもらえて、本当に嬉しい」

 夕陽が差し込む中、彼女の笑顔はどんなチョコよりも甘かった。

(この瞬間のために、今日一日があったんだ)

 リボンを撫でながら、俺は心の底からそう思った。


◇◇◇

 校舎を出ようとしたところで、廊下で声をかけられる。
「新堂君、これ……」
 差し出してきたのは紗和だった。
 手のひらサイズの小さな包み。
「友チョコ、というか……お礼かな。いつも助けてもらってるから」
 恥ずかしそうに目を伏せる紗和に、俺は「ありがとう」と素直に笑った。

 続いて千佳もやってきて、勢いよく袋を押し付けてくる。
「はいっ! これは友チョコ! ……いや、義理チョコ? どっちでもいいや!」
「ありがとな、千佳」
「うんうん! ましろんと蒼真君が仲良くしてるの、見てると元気出るんだよね」
 その無邪気さに、真白も思わず吹き出す。
「ありがとう、千佳ちゃん。大切に食べるね」
「うんっ! 二人とも幸せそうでいいなぁ~」

 軽やかな笑い声に包まれ、教室の空気がやわらいでいく。

◇◇◇

 校舎を出ると、冬の夜気が頬を撫でた。
 街路樹にはイルミネーションが灯され、オレンジと白の光が枝葉を彩っている。
 吐く息は白く、冷たいのに――隣に真白がいるだけで、不思議とあたたかかった。

「ねえ、蒼真君」
「ん?」
「……渡せてよかった。ずっと緊張してたから」
「俺もだよ。今日一日、ずっと真白のチョコのことで頭がいっぱいだった」

 そう言うと、彼女はふっと目を瞬き、そして微笑む。
 イルミネーションの光が頬を染め、まるで光の花が咲いたように見えた。

「ふふ……なんか、変だね。渡したのは私なのに、安心してるのも私で」
「俺だって安心してるよ。受け取れて、すごく幸せだ」

 目が合った瞬間、二人して吹き出してしまう。
 そんな自然な笑顔さえも、特別な宝物に思えた。

 真白は歩幅を小さくして、俺の隣に寄ってくる。
「……ちょっとだけ、いい?」
 小さな声でそう言うと、そっと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

 心臓が跳ねる。
 制服越しに伝わる温もりが、夜の冷気をすべて押し返す。

「……真白」
「な、何? やっぱり重い?」
「いや。嬉しい」

 俺がそう答えると、真白はほっとしたように笑みを浮かべる。
 光の粒が彼女の瞳に映り込み、まるで星空を閉じ込めたみたいだった。

 数歩歩いたところで、彼女が肩に頭を預けてくる。
「……ごめん、重いかな」
「全然。むしろ……離したくない」

 俺は握った手をさらに強く包み込んだ。
 彼女も指を絡めて、ぎゅっと握り返してくれる。

 イルミネーションに照らされた二人の影が、長くひとつに重なる。
 街の喧騒が遠ざかって、ただ二人だけの世界になったようだった。

「ねえ……蒼真君」
「ん?」
「……もう少し、このままで歩いていい?」
「もちろん。ずっとでもいい」

 真白はぱっと笑みを咲かせ、まぶしいほどに輝いた。
「……じゃあ、わがまま言っちゃう。手、絶対離さないでね」
「離さない。ずっと」

 夜風が吹き抜けても、二人の手は温かさを保ち続けた。
 街灯とイルミネーションが照らす帰り道を、寄り添いながら歩く。

(……バレンタインの夜が、こんなに幸せになるなんて)
(真白と一緒なら、どんな道も一生の思い出に変わるんだ)

 心の中でそう噛みしめながら、俺は彼女の手を握りしめたまま歩き続けた。
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