前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第5章 新しい春に向けて

第63話「ホワイトデーの誓い」

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 家に帰り着いてからも、胸の高鳴りは収まらなかった。
 部屋の机の上に置いた真白のチョコ――ラッピングのリボンさえ、眩しいくらいに輝いて見える。

 そっと包みを開け、中から現れたチョコを目にした瞬間、心臓がぎゅっと締めつけられる。
 丁寧に溶かし、形を整え、飾りつけまできちんと仕上げられたその一粒一粒。
 真白の不器用なようで真っ直ぐな性格を、そのまま閉じ込めたみたいだった。

「……ほんとに、すごいな」

 思わず呟く。
 味わう前から分かる。
 これは「好き」という気持ちを凝縮した結晶だ。
 彼女が勇気を振り絞って、俺に渡してくれた想いそのものだ。

 机に肘をつき、両手で頭を抱える。
 嬉しさと同時に、強い決意が胸を占めていった。

(……俺も、応えなくちゃ)

 今までだってそうだった。
 真白を守るために必死になって、後悔しないために足掻いてきた。
 だけど今回ばかりは、ただ「守る」だけじゃ足りない。

 彼女の心に宿った想いを、もっと大きな喜びに変えたい。
 「渡してよかった」じゃなく、「蒼真君に渡せてよかった」と心の底から思わせたい。

 視線を窓に向けると、夜空には白い月が浮かんでいた。
 冬の冷たい空気が、妙に澄んで感じられる。

(ホワイトデー……絶対に、真白を笑顔にしてやる)
(これまでで一番幸せな思い出にしてやる。どんな手を使ってでも)

 胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。
 ただのお返しじゃなく、俺からの「告白」をもう一度重ねるような一日にしたい。

 机の上に並ぶ教材もノートも、この瞬間だけはどうでもよかった。
 真白にどう喜んでもらうか――その考えで頭がいっぱいになる。

「よし……」

 小さく呟き、拳を握る。
 まるで試合前に自分を鼓舞する選手みたいに、胸に火がついた。

 ――真白からの贈り物に応える日。
 ――真白を、もっと深く幸せに包み込む日。

 それは、俺の新しい「誓い」だった。


 翌日。
 教室のざわめきの中で、俺は真白の横顔を盗み見ていた。

 ノートにペンを走らせる姿。
 ときどき髪を耳にかけて、問題に集中する表情。
 そんな何気ない仕草さえ、昨日チョコを渡してくれたときの勇気と重なって見える。

(……絶対に応えなきゃな)

 心の奥で強く拳を握った。

 けれど、その瞬間ふと、嫌な記憶が脳裏をかすめる。
 ――ゲーム内のバレンタイン。
 本来のシナリオでは、真白が必死に勇気を出してチョコを用意しても、主人公は受け取ることをためらう。
 その隙を突くように、神崎玲央が「慰める」ふりをして近づき、彼女を奪っていく。
 画面越しに見た、チョコが踏みにじられ、真白が泣き崩れるあの惨劇。

(あんな展開……二度と繰り返させるか)

 胸の奥に、怒りと焦燥が同時に燃え上がる。
 だからこそ、今年のこのイベントは絶対に失敗できない。
 彼女が勇気を振り絞ってくれた「特別な日」に、俺も全力で応えたい。

 放課後、真白と別れたあと。
 俺はひとり、商店街へと足を運んだ。
 冬休み明けの夕暮れ、街は制服姿の学生で溢れている。

 甘い香りが漂う菓子屋のショーウィンドウ。
 並んでいるのは色とりどりのホワイトデーギフト。
 マカロン、クッキー、キャンディ――包装も華やかで、目を奪われる。

(でも……これじゃ足りないな)

 ただの既製品を渡して、真白が本当に喜ぶだろうか。
 いや、きっと彼女は笑って受け取ってくれる。
 けれど、それじゃ俺が求める答えじゃない。
 あのゲームの悲惨な未来を「塗り替える」と誓った以上、形だけの返事じゃ意味がない。

(真白が俺のために作ってくれたんだ。なら俺も……同じように、自分の気持ちを形にしないと)

 足を止め、深く息を吸う。
 通りの雑貨屋の前で、視線が吸い寄せられた。
 小さなアクセサリーや、可愛い小物が並んでいる。

 中に入ると、ケースの中に並んだペンダントが目に留まった。
 派手すぎない、シンプルなデザイン。
 真白の清楚な雰囲気にぴったりだと思えた。

(……これだ)

 自然と胸が熱くなる。
 けれど、それだけじゃ終わらせない。
 「物」としてだけじゃなく、ちゃんと俺の想いを込めて渡したい。
 ゲーム内で失われたものを、現実のこの世界で取り戻すために。

(よし、準備を進めるか)

 財布を握りしめ、俺はレジに向かった。
 頭の中では、もう当日の彼女の笑顔が浮かんでいる。

(待ってろよ、真白。絶対に、最高のホワイトデーにするからな)

 バレンタインが終わった翌朝。
 教室の空気は、まだ甘い匂いを残していた。

 机に座った瞬間――。

「おっ、新堂。昨日は随分とニヤけてたらしいじゃん?」
「結城さんから“本命”もらったんだろ? 隠さなくてもいいって」

 すかさず男子の茶化しが飛んでくる。
 女子のグループもヒソヒソ声で盛り上がっていた。

「ラッピング、めっちゃ可愛かったよね」
「ほんと。あんなの渡されたら、絶対惚れるわ」

 視線が一斉に俺に向けられ、背中がむず痒くなる。

(……昨日のこと、もうそんなに広まってんのか)

 ちらりと隣の真白を見ると、彼女も顔を赤くして俯いていた。
 それでも、机の上の指先は嬉しそうに小さく動いている。

「……蒼真君」
「ん?」
「その……みんなの前でからかわれるのは、恥ずかしいけど……嫌じゃないよ」

 囁く声が耳元をくすぐり、胸の奥が一気に熱くなる。

(……ああ。こいつ、本当に強いな)

 去年までの真白なら、からかわれたらただオロオロしていただろう。
 けれど今は、俺と並んで「恋人」として立ってくれている。

 その事実が、たまらなく誇らしい。

「おいおい、新堂、顔真っ赤だぞ!」
「お似合いすぎて、もう何も言えねえな」

 さらに歓声が上がり、教室全体が笑いに包まれる。

 ――けれど、俺の胸中には別の記憶も蘇っていた。

(……ゲームの中では、このイベントが“絶望の始まり”だったんだ)

 真白が勇気を振り絞って渡した本命チョコを、玲央が横から掻っ攫う。
 主人公が受け取ることすらできず、彼女の想いは踏みにじられる。

 そんな悪夢を、俺は何度も画面越しに見せられた。
 あの時の虚しさと怒りは、今でも忘れられない。

(でも……現実の俺は違う)

 真白のチョコは、俺の手に渡った。
 震える声も、恥ずかしそうな笑顔も、全部受け取った。
 彼女は俺を選んでくれて、俺は守り抜いた。

「……蒼真君?」
 真白が小さく首を傾げる。
 その大きな瞳が、不安そうに揺れていた。

「ん、どうした?」
「えっと……ちょっと怖い顔してたから」

「ああ……ごめん。大丈夫。俺はめちゃくちゃ幸せだよ」

 そう言うと、真白はホッとしたように笑った。
 その笑顔を見て、心の奥に残っていた影は完全に霧散していった。

(もう二度と、あんな結末にはしない。
 俺がここにいる限り、真白の想いは踏みにじらせない)

 クラスのざわめきの中で、俺は改めて強く誓った。
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