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第5章 新しい春に向けて
第64話「最高のホワイトデーを」
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放課後、教室を出た俺は、真白と別れてから再び商店街を歩いていた。
手には、さっき買ったペンダントの小さな袋。だが――これだけで満足するわけにはいかない。
(物だけじゃ足りない。真白が勇気を振り絞ってくれたんだ。俺だって、自分で“形”を作らないと)
思わず足が向いたのは、スーパーの製菓コーナーだった。
砂糖、バター、薄力粉。棚に並んだ材料を前に、しばらく立ち尽くす。
(……料理は苦手じゃないけど、お菓子作りなんてほとんど経験ないな)
でも、それでいい。簡単に手に入る贈り物よりも、不器用でも自分の手で作ったものを渡したい。
真白のチョコがあんなに嬉しかったんだから。
「よし……挑戦してみるか」
必要な材料をカゴに入れながら、胸の奥で決意を固めた。
帰宅してから、台所に立つ。
ボウルと泡立て器を用意して、レシピをスマホで確認しながら生地を混ぜる。
――だが。
「……あれ? 固すぎる?」
「うわっ、粉飛んだ!」
想像以上に難しい。
真白があのチョコを仕上げるまでに、どれだけ時間をかけ、どれだけ失敗を繰り返したか。
その努力を思うと、胸がじんと熱くなる。
(……真白。本当にすごいな)
額の汗を拭って、もう一度やり直す。
何度か試行錯誤を繰り返し、ようやく形になった焼き菓子をオーブンから取り出した時――
部屋に広がる甘い香りに、思わず笑みがこぼれた。
「よし……これで準備は整った」
机の上には、小箱に入れた焼き菓子と、雑貨屋で買ったブレスレット。
二つを見比べるだけで、胸が熱くなる。
(絶対に喜ばせる。真白の勇気に、俺の全部で応えるんだ)
翌日。
学校の廊下で、紗和と千佳の声が聞こえてきた。
「ねえねえ、ホワイトデーってやっぱり期待しちゃうよね」
「うん! 女の子なら誰でもそうだよ~」
笑いながら話す二人を横目に、真白が小さく俯く。
その耳までほんのり赤くなっていて――俺は、自然と口元が緩んだ。
◇◇◇
【side真白】
ホワイトデーが近づくにつれて、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなっていった。
バレンタインのとき、自分の全力を込めて渡したチョコ。
蒼真君は笑顔で受け取ってくれて、その瞬間の安堵と幸せは一生忘れられないと思う。
でも――。
(お返し……どんなふうに返してくれるんだろう)
放課後、窓際の席でペンを走らせながらも、思考は何度もそちらに逸れてしまう。
甘い香りの漂う教室で、女の子たちが「何が返ってくるかな」と嬉しそうに話す声が聞こえてくると、胸がきゅっと高鳴った。
「真白は何が欲しい?」
千佳ちゃんが、笑いながらひょいと顔を覗き込んでくる。
「えっ……わ、私は……」
慌てて視線を泳がせる。
欲しいものなんて決まってる。
物じゃなくて――蒼真君からの気持ち。
だけど、そんなこと恥ずかしくて口にはできない。
「……ひ、秘密」
そう答えると、千佳ちゃんはにやにや笑いながら「そっかー」と肩をすくめた。
帰り道。
沈みゆく夕陽が赤く校舎を染める中、蒼真君の隣を歩いているだけで、胸がいっぱいになる。
彼の横顔はいつも通り穏やかで、どこか考え込むような表情をしていた。
(……やっぱり、何か用意してくれてるのかな)
そう思うだけで、頬が熱くなる。
勇気を出してチョコを渡した日のことが、鮮やかに蘇る。
受け取ってくれた瞬間の、あの優しい笑顔。
震える声を真剣に聞いてくれた眼差し。
――あれだけで、本当に幸せだった。
(だから……ホワイトデーなんて、返してもらえなくてもいいのに)
そう思う気持ちと、
(でも……やっぱり欲しい)
という気持ちが交互に押し寄せてくる。
「……蒼真君」
「ん?」
「えっと……その……」
言いかけて、言葉が喉に詰まる。
聞きたいことはたくさんあるのに、勇気が出ない。
代わりに、そっと彼の袖をつまんだ。
そのわずかな仕草に、蒼真君は驚いたように目を見開いて――ふっと笑った。
その笑顔だけで、すべてが報われたような気がした。
(……うん。どんな日になるとしても、蒼真君と一緒なら大丈夫)
そう胸の中で呟きながら、私は彼の横顔を見つめ続けた。
家に帰り着いてからも、心臓の高鳴りはなかなか落ち着かなかった。
机に並んだ教科書を開いても、目に入ってくるのは数字や文字じゃなくて――蒼真君の笑顔ばかり。
(ホワイトデー……もし渡してもらえたら、どんな時間になるんだろう)
ペンを握ったまま、私は机に突っ伏して目を閉じた。
頭の中に、自然と映像が浮かんでくる。
――放課後の教室。
人影が少なくなった窓際。
蒼真君が、少し気恥ずかしそうにしながら袋を差し出す。
『これ……ホワイトデーのお返しだ』
低い声。
けれど、その奥に隠された優しさが伝わってきて、胸がぎゅっと締めつけられる。
「わ、わたしに……?」
『ああ。真白だから、渡したいんだ』
夢のような光景。
手の中に収まるのは、リボンで包まれた小さな箱。
ただそれだけなのに、涙が出てしまいそうなほど嬉しい。
(……でも、それだけじゃ終わらない気がする)
蒼真君の手が、そっと私の髪に触れる。
大きな手のひらの温もり。
彼の優しい眼差し。
『ありがとう。俺の隣にいてくれて』
不意に告げられた言葉に、胸がいっぱいになる。
「……わたしの方こそ。蒼真君がいてくれるから、笑っていられるんだよ」
もし本当にそんな時間を過ごせたなら――。
きっと、これまでで一番幸せな日になる。
気づけば頬が熱くて、枕に顔を埋めていた。
「な、なに考えてるの私……!」
声に出して誤魔化しても、胸の鼓動は収まらない。
(でも……いいよね。少しくらい妄想したって。だって、もうすぐ本当に、その日が来るんだから)
そう思うだけで、心の奥がじんわり温かくなった。
窓の外では冬の星が瞬いている。
その輝きさえ、今の私には甘い光に見えた。
手には、さっき買ったペンダントの小さな袋。だが――これだけで満足するわけにはいかない。
(物だけじゃ足りない。真白が勇気を振り絞ってくれたんだ。俺だって、自分で“形”を作らないと)
思わず足が向いたのは、スーパーの製菓コーナーだった。
砂糖、バター、薄力粉。棚に並んだ材料を前に、しばらく立ち尽くす。
(……料理は苦手じゃないけど、お菓子作りなんてほとんど経験ないな)
でも、それでいい。簡単に手に入る贈り物よりも、不器用でも自分の手で作ったものを渡したい。
真白のチョコがあんなに嬉しかったんだから。
「よし……挑戦してみるか」
必要な材料をカゴに入れながら、胸の奥で決意を固めた。
帰宅してから、台所に立つ。
ボウルと泡立て器を用意して、レシピをスマホで確認しながら生地を混ぜる。
――だが。
「……あれ? 固すぎる?」
「うわっ、粉飛んだ!」
想像以上に難しい。
真白があのチョコを仕上げるまでに、どれだけ時間をかけ、どれだけ失敗を繰り返したか。
その努力を思うと、胸がじんと熱くなる。
(……真白。本当にすごいな)
額の汗を拭って、もう一度やり直す。
何度か試行錯誤を繰り返し、ようやく形になった焼き菓子をオーブンから取り出した時――
部屋に広がる甘い香りに、思わず笑みがこぼれた。
「よし……これで準備は整った」
机の上には、小箱に入れた焼き菓子と、雑貨屋で買ったブレスレット。
二つを見比べるだけで、胸が熱くなる。
(絶対に喜ばせる。真白の勇気に、俺の全部で応えるんだ)
翌日。
学校の廊下で、紗和と千佳の声が聞こえてきた。
「ねえねえ、ホワイトデーってやっぱり期待しちゃうよね」
「うん! 女の子なら誰でもそうだよ~」
笑いながら話す二人を横目に、真白が小さく俯く。
その耳までほんのり赤くなっていて――俺は、自然と口元が緩んだ。
◇◇◇
【side真白】
ホワイトデーが近づくにつれて、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなっていった。
バレンタインのとき、自分の全力を込めて渡したチョコ。
蒼真君は笑顔で受け取ってくれて、その瞬間の安堵と幸せは一生忘れられないと思う。
でも――。
(お返し……どんなふうに返してくれるんだろう)
放課後、窓際の席でペンを走らせながらも、思考は何度もそちらに逸れてしまう。
甘い香りの漂う教室で、女の子たちが「何が返ってくるかな」と嬉しそうに話す声が聞こえてくると、胸がきゅっと高鳴った。
「真白は何が欲しい?」
千佳ちゃんが、笑いながらひょいと顔を覗き込んでくる。
「えっ……わ、私は……」
慌てて視線を泳がせる。
欲しいものなんて決まってる。
物じゃなくて――蒼真君からの気持ち。
だけど、そんなこと恥ずかしくて口にはできない。
「……ひ、秘密」
そう答えると、千佳ちゃんはにやにや笑いながら「そっかー」と肩をすくめた。
帰り道。
沈みゆく夕陽が赤く校舎を染める中、蒼真君の隣を歩いているだけで、胸がいっぱいになる。
彼の横顔はいつも通り穏やかで、どこか考え込むような表情をしていた。
(……やっぱり、何か用意してくれてるのかな)
そう思うだけで、頬が熱くなる。
勇気を出してチョコを渡した日のことが、鮮やかに蘇る。
受け取ってくれた瞬間の、あの優しい笑顔。
震える声を真剣に聞いてくれた眼差し。
――あれだけで、本当に幸せだった。
(だから……ホワイトデーなんて、返してもらえなくてもいいのに)
そう思う気持ちと、
(でも……やっぱり欲しい)
という気持ちが交互に押し寄せてくる。
「……蒼真君」
「ん?」
「えっと……その……」
言いかけて、言葉が喉に詰まる。
聞きたいことはたくさんあるのに、勇気が出ない。
代わりに、そっと彼の袖をつまんだ。
そのわずかな仕草に、蒼真君は驚いたように目を見開いて――ふっと笑った。
その笑顔だけで、すべてが報われたような気がした。
(……うん。どんな日になるとしても、蒼真君と一緒なら大丈夫)
そう胸の中で呟きながら、私は彼の横顔を見つめ続けた。
家に帰り着いてからも、心臓の高鳴りはなかなか落ち着かなかった。
机に並んだ教科書を開いても、目に入ってくるのは数字や文字じゃなくて――蒼真君の笑顔ばかり。
(ホワイトデー……もし渡してもらえたら、どんな時間になるんだろう)
ペンを握ったまま、私は机に突っ伏して目を閉じた。
頭の中に、自然と映像が浮かんでくる。
――放課後の教室。
人影が少なくなった窓際。
蒼真君が、少し気恥ずかしそうにしながら袋を差し出す。
『これ……ホワイトデーのお返しだ』
低い声。
けれど、その奥に隠された優しさが伝わってきて、胸がぎゅっと締めつけられる。
「わ、わたしに……?」
『ああ。真白だから、渡したいんだ』
夢のような光景。
手の中に収まるのは、リボンで包まれた小さな箱。
ただそれだけなのに、涙が出てしまいそうなほど嬉しい。
(……でも、それだけじゃ終わらない気がする)
蒼真君の手が、そっと私の髪に触れる。
大きな手のひらの温もり。
彼の優しい眼差し。
『ありがとう。俺の隣にいてくれて』
不意に告げられた言葉に、胸がいっぱいになる。
「……わたしの方こそ。蒼真君がいてくれるから、笑っていられるんだよ」
もし本当にそんな時間を過ごせたなら――。
きっと、これまでで一番幸せな日になる。
気づけば頬が熱くて、枕に顔を埋めていた。
「な、なに考えてるの私……!」
声に出して誤魔化しても、胸の鼓動は収まらない。
(でも……いいよね。少しくらい妄想したって。だって、もうすぐ本当に、その日が来るんだから)
そう思うだけで、心の奥がじんわり温かくなった。
窓の外では冬の星が瞬いている。
その輝きさえ、今の私には甘い光に見えた。
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