前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第6章 春休みと、新しい季節

第69話「春休みデート」

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 待ち合わせ場所に立つ俺の視界に、ひときわ明るい色が飛び込んできた。

「――待たせちゃったかな?」

 軽やかな声とともに現れた真白は、いつもの制服姿ではなかった。
 淡いクリーム色のワンピース。薄桃色のカーディガンを肩にかけ、春風に揺れる髪には小さなリボンの髪留め。
 それだけで景色が一段明るく見えるほど、彼女は季節そのものをまとっていた。

「……」
 声が出なかった。
 ただ立ち尽くす俺に、真白は少し首をかしげる。

「……どうかな? 春っぽい服、選んでみたんだ」

 不安げに自分の裾をつまんで見せる仕草が、妙に胸に刺さった。

「……すごく似合ってる。可愛い」
「っ……!」
 頬を赤く染めて、真白は視線を落とした。
「……蒼真君にそう言ってもらえると、安心するな」

(やばい。何度見ても、何度隣に立っても、この可愛さには慣れない)

 人通りの多い街を並んで歩く。
 ショーウィンドウの華やかさよりも、隣で小さく笑っている真白に視線を奪われっぱなしだった。

「ねえ、あそこに新しいカフェできてるよ。行ってみない?」
「いいな。……じゃあ、ちょっと寄ってみるか」

 ガラス張りの店内は明るく、甘い香りが漂っていた。
 真白はメニューを覗き込みながら、楽しそうに唇に指を当てる。

「うーん……蒼真君はチョコ系? それともフルーツ系?」
「え、俺? いや……真白が食べたいのに合わせるよ」
「だめ。それじゃデートにならないでしょ」
 真白は小さく笑って、俺の目をまっすぐ見た。

(……正面からそう言われると、何も言い返せねぇな)

 運ばれてきたのは、イチゴと生クリームの鮮やかなパフェ。
 スプーンを手にした真白が、なぜかこちらに差し出してきた。

「はい、蒼真君。あーん」
「は……!? ここで!?」
「うん。……ね?」

 周囲の視線が気になって仕方ない。
 けれど期待に満ちた真白の目から逃げられず、俺はしぶしぶ口を開いた。

「……ん。……うまい」
「でしょ? ふふ、よかった」

 今度は俺の番だと、自然にスプーンを差し出す。
 真白は一瞬驚いた表情を見せて、それから小さく口を開けた。

「……ん……。おいしい♡」
 恥ずかしそうに微笑むその横顔は、周囲の喧騒すら消すほど綺麗だった。

(俺、本当に……こんな日常を手に入れていいのか?)

 夕方、カフェを出て並んで歩く。
 街路樹の芽吹きが春風に揺れる中、真白がふいに小さな声で言った。

「新学期も……同じクラスだといいな」
「……ああ。俺もそう思う」

 たったそれだけの会話が、心臓を掴むように響く。
 ――ゲームの記憶では、このタイミングでクラスを分けられ、距離が開いていった。
 それが、バッドエンドの始まりだった。

(……同じ未来になんて、絶対させない)

 無意識に強く手を握ると、真白が少し驚いてこちらを見上げた。

「蒼真君?」
「……ごめん。……でも、大丈夫。俺がずっとそばにいるから」
「……うん」

照れくさそうに、それでも嬉しそうに笑った真白の横顔。
……ほんと、簡単に俺を幸せにしてくれるよな。

既に玲央は物語から退場した。こういうバッドエンドに思考を繋げるのは俺の悪いクセだ。


◇◇◇

 映画館のロビーは、休日の午後らしく混み合っていた。
 ポップコーンの甘い匂いと、人いきれ。ざわめきの中で隣に立つ真白の存在が、やけに際立って見える。

「ね、何味にする? キャラメル? それとも塩?」
「……えっと、真白が好きなのは?」
「私はキャラメルかな。でも蒼真君が塩がいいなら……」
「いや、キャラメルでいい。俺も食べたい」
「ほんと? ……ふふ、よかった」

 小さく笑う真白の横顔に、胸が高鳴る。
 ただのポップコーンの選択が、こんなにも特別に感じるのはなぜだろう。


 照明が落ち、映画が始まる。
 隣の真白はスクリーンに夢中で、笑うときは肩を小刻みに揺らし、泣きそうになるとそっと袖を握ってきた。

(やばい……これ、集中できるわけがない)

「……っ、うぅ……」
 涙があふれそうになった真白が、慌ててハンカチを探す。

「ほら」
 俺は自然にポケットから取り出して差し出した。

「あ……ありがと」
 小声で礼を言い、目元を押さえる真白。
 スクリーンの光に照らされた横顔は、泣きながらも綺麗すぎて、俺の胸に焼き付いた。

「……優しいね、蒼真君」


「貸しただけだよ」
「それでも。……すごく安心した」

 囁きが耳に残り、俺はただ頷くしかなかった。

 上映後、明るくなった劇場を出る。
 ロビーのざわめきに戻ってきても、まだ真白は俺のハンカチを大事そうに握っていた。
「……これ、ちゃんと洗って返すから」
「別にいいよ。やる」
「だめ。これは蒼真君の大事なものなんでしょ?」
「……まあ、そうだけど」
「じゃあ、洗って返す。……それで、また使ってね」

 微笑みながら言うその一言が、妙にくすぐったくて、俺は顔をそむけた。

 映画館を出て、夕暮れの街を歩く。
 そのとき、スマホが震えた。画面に表示されたのは――千佳からのLINE。

《映画館デート? いちゃいちゃしてたんでしょ?》

「……っ!」
 思わず固まった俺を、真白が覗き込む。
 画面を見た瞬間、彼女の頬がみるみるうちに赤く染まった。

「も、もう……千佳ちゃんったら……!」
 小声で抗議する真白の姿が、どうしようもなく可笑しくて、俺はつい笑ってしまう。

「笑わないでよ、蒼真君!」
「いや、ごめん……でも、可愛すぎるから」
「~~っ!」
 真白がぷんと頬を膨らませる。その仕草すら愛しくて、笑みが止まらなかった。

 夕焼けに染まる街並みを並んで歩きながら、俺はふと思う。
 こうして隣にいて、笑って泣いて――ただそれだけで、世界が十分鮮やかになる。

(……この時間が、ずっと続けばいい)


 映画館を出たあと、真白の提案でショッピングモールに立ち寄った。
 休日の館内は賑やかで、アパレルショップや雑貨屋から軽快な音楽が流れている。

「ね、ちょっと見ていかない?」
「いいよ。……でも俺、服とかあんま詳しくないからな」
「じゃあ私が選んであげる。蒼真君に似合いそうなの、探したいの」

 胸を弾ませてそう言う真白は、完全に“彼女”の顔をしていた。
 その表情だけで、俺はもう頷くしかない。

 店内に入り、真白はラックに並ぶシャツを一枚手に取る。
 白地にさりげない青のストライプ。

「これ、蒼真君に合いそう。ほら、ちょっと当ててみて」
「え、いや……恥ずかしいんだけど」
「大丈夫、大丈夫。……はい、肩にかけて……うん、やっぱり似合う!」

 真白は目を細め、満足げに微笑んだ。
 鏡越しに映る自分の姿より、その隣で笑う真白の表情の方がよっぽど眩しかった。

「……じゃあ、買おうかな」
「やった。これでまた一歩、私好みの蒼真君に近づいたね」
「いや、それはどうなんだよ」
「ふふっ、冗談冗談」

 買い物を終えて雑貨屋をぶらついていると、真白が小さな髪留めに目を留めた。
 淡いブルーに小さな花のモチーフ。

「かわいいな……でも、ちょっと高いかな」
 手に取っては戻す真白。

 俺は自然にレジに足を運んでいた。
 会計を終えて戻ると、真白はきょとんと俺を見上げる。

「蒼真君、それ……?」
「はい。プレゼント。新学期につけてきてくれると嬉しい」
「……っ!」

 言葉を失った真白の頬が、一瞬で桜色に染まる。
 受け取った髪留めをぎゅっと胸に抱きしめて、彼女は小さな声でつぶやいた。

「……大事にする。絶対」

 帰り道、偶然、紗和とすれ違った。
 紙袋を抱えて歩く彼女に、真白が笑顔で声をかける。

「紗和ちゃん!」
「あ……二人とも。デート、かな?」
「……うん。春休みだからね」
「ふふ。仲良しでいいな」

 柔らかく笑う紗和の視線には、もう以前のような陰りはなかった。
 むしろ背中を押すような温かさを感じて、俺は少し安心する。

 夕方の風に、真白の髪がふわりと揺れた。
 彼女の横顔は、夕焼けに照らされてどこまでも鮮やかだった。

(こうして並んで歩く日常が、俺にとっては何よりの宝物なんだろうな)

 せっかくだから、と三人でモール内のカフェに入った。
 木目調の落ち着いた空間で、窓際のテーブルに腰を下ろす。

「……あの、急にご一緒してよかったのかな」
 紗和は注文した紅茶を両手で包み込むように持ちながら、おずおずとこちらを見る。

「いいよいいよ。偶然会ったんだし、こうして一緒に休憩するのも悪くないだろ」
 俺がそう答えると、真白も笑顔でうなずいた。
「うん。紗和ちゃんとお話できて嬉しいよ」

 その言葉に、紗和の頬がふわりと和らぐ。

「新学期、どうなるかな……クラス替えとか」
 俺が何気なく口にすると、紗和は視線を落とした。
「……私、クラス替えは苦手で。知らない人ばかりだと……どうしても緊張しちゃうから」

「わかるなぁ。俺も不安はあるよ」
 俺が同調すると、真白が優しく笑う。
「でも、大丈夫だよ。紗和ちゃんはちゃんと友達できるし……それに、もし同じクラスになったら、私がいるから」

「……ありがと。真白ちゃんと蒼真君が一緒なら……少し安心かも」

 ほっとしたように微笑む紗和を見て、俺は(控えめだけど、ちゃんと自分の気持ちを伝えられるようになったんだな)と胸の内で感心した。

 しばらく他愛もない話をして過ごした。
 春休みの宿題のこと、好きな本のこと。
 紗和は話題を選びながらも、ゆっくりと言葉を紡いでくれる。

 真白も穏やかに相槌を打ち、三人の間には柔らかい空気が流れていた。

 やがてカップの底が見え始めた頃、紗和がふっと立ち上がる。

「……それじゃあ、そろそろ行くね。これ以上は……邪魔しちゃ悪いから」

「えっ、そんなこと――」
 真白が慌てて止めようとするが、紗和は静かに首を振る。

「二人が並んでいるのを見ると……なんだか安心するんだ。だから、今日はこれで」

 柔らかな笑みを浮かべ、軽く会釈して歩き出す。
 その背中には未練の影はなく、むしろ応援するような温かさが漂っていた。

 俺と真白はしばらく見送ったあと、顔を見合わせる。

「……紗和ちゃん、優しいね」
「……ああ。ほんと、いい子だ」

 俺の言葉に真白が小さく笑い、そっと俺の腕に寄り添った。
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