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第6章 春休みと、新しい季節
第73話「春の放課後デート」
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チャイムが鳴り、教室のざわめきが一気に放課後モードへ切り替わった。
廊下に出ると、まるでお祭りのような喧騒が広がっている。
「おーい! バスケ部の体験、まだまだ受付中だぞー!」
「演劇部! 次回公演のチラシ配ってまーす!」
「吹奏楽部です! このあと中庭で演奏します!」
声が飛び交い、壁には色とりどりのポスターが並んでいた。楽器を抱えた先輩、バスケットボールを片手にした部員、衣装姿でチラシを渡す女子……どこも勧誘に必死だ。
「すげえな、どこも全力だな」
思わず口からこぼれると、隣の真白がくすっと笑った。
「ね。見てるだけで楽しいよね」
彼女の瞳は、廊下の喧騒にきらきら反射していた。
ちょうど前を通った吹奏楽部が、軽快なメロディを奏でながら歩いていく。金管の音色が夕方の校舎に響き、見物している生徒たちが手拍子を送っていた。
「わぁ……きれいな音。楽しそうだね」
「だな。……でも俺、音符読めないから速攻で落ちこぼれるわ」
「ふふっ、それは想像つくかも」
軽く肩を揺らして笑う真白。そんな仕草だけで、騒がしい廊下が少しだけ和らぐ気がした。
体育館の方からドリブルの音と歓声が響いてくる。
「体験入部したい人ー! シューター足りてませーん!」
先輩の声が飛び、集まった一年が盛り上がっていた。
「活気あるね」
真白が目を輝かせる。
「ああ……」
俺はその光景に、奇妙なデジャヴを覚える。
――ゲームで何度も見た場面だ。モブの勧誘イベントとして、画面越しに眺めていたはずの光景。
けれど今は、ざわめきも汗の匂いも全部リアルで。俺自身がそこに立っている。
「蒼真君は……部活、やらないの?」
「俺? うーん、どこも楽しそうだけど……正直、運動部で輝けるタイプじゃないしな」
「……そうかな。私は、今の蒼真君で十分だけど」
さらりと告げられ、思わず息が詰まる。
ゲーム知識で彼女を守るつもりが、逆にあっさりと心臓を撃ち抜かれてしまった。
さらに進むと、演劇部の先輩が衣装姿のままチラシを配っていた。
「次回公演『ロミオとジュリエット』! ぜひ観に来てね!」
「すごいね、みんな本気だ」
「だな……。まあ、俺は観客で十分だけど」
「私はちょっと興味あるかも。……でも、台本暗記とか自信ないな」
「真白なら、大丈夫そうだけどな。声もきれいだし」
「え……」
照れたように頬を赤らめる真白。その横顔に、俺も思わず笑ってしまった。
廊下を歩く間ずっと、賑やかな部活勧誘の声と笑い声が響き続ける。
その真ん中で、俺と真白は肩を並べて歩き、他愛もない会話を交わし続けていた。
(……部活も悪くないけど。俺にとっては、この時間こそが一番楽しいのかもしれない)
言いかけて、胸の奥がざわめいた。
――この場面、ゲームでは「ヒロインが演劇部に入って距離が開くフラグ」が仕込まれていたはずだ。
俺は前世でそれを画面越しに見て、どうにもやるせない気持ちになったのを覚えている。
(でも今の真白は、俺の隣にいる。ルート分岐の歯車は、もう違う音を立てて回ってるんだ)
「じゃあ真白は? やってみたい部活とかあるのか?」
「うーん……合唱もいいし、演劇も楽しそう。テニスも気になるなあ」
指を折りながら考える真白の姿は、まるで買い物で迷う子供みたいに楽しげだった。
けれど次の瞬間、ふっと表情を和らげて俺を見た。
「でもね……やっぱり蒼真君と過ごす時間が一番大事かな」
「……っ」
一瞬、呼吸が止まった。
廊下の喧騒が遠ざかる。目の前にいるのは、ゲームで何度も不幸にされてきたヒロインじゃない。
俺の手で未来を選び直して、一緒に笑ってる――ただそれだけの真白だ。
(やべえ……反則級に破壊力あるだろ、これ)
「な、なんで黙ってるの?」
「いや……ちょっと攻撃力高すぎてな」
「えっ……攻撃?」
「こっちの話」
慌てて視線をそらすと、真白は不思議そうにしながらも、頬をほんのり染めて笑った。
「おーい、新堂ー!」
背後から野次のような声が飛んできた。振り返ると、同じクラスの男子が数人、にやにやとこちらを見ている。
「結城さんと帰るのか? 部活入らせずに専属彼氏ですか?」
「いいなー。夫婦で家庭科部とかどうだ?」
「なっ……!?」
真白は耳まで赤くして慌てふためく。
「ち、ちが……そ、そういうんじゃ……!」
「いや、どう見てもそういうんだろ」
「蒼真君まで!? もうっ!」
俺が苦笑すると、冷やかしていた連中は「やっぱ公認カップル確定だな!」と手を振って去っていった。
昇降口へ歩きながら、真白はまだ頬を膨らませていた。
「……ほんと、恥ずかしい」
「まあ仕方ないだろ。隠しようがないし」
「うぅ……蒼真君は平気なの?」
「俺? まあ……もう慣れた」
「……ずるい」
そう言いつつ、彼女は俺の袖をそっと掴んで歩く。
靴箱の前で靴を履き替えながら、ふと真白が俺を見上げる。
「でも……悪い気はしないんでしょ?」
「え?」
「からかわれるのも、私と一緒だから……ちょっと嬉しいんじゃない?」
「……っ」
痛いところを突かれて、俺は返事に詰まった。
そんな俺を見て、真白はいたずらっぽく笑う。
「図星だ」
「……お前なぁ」
結局、俺の反論は最後まで言葉にならず、真白の勝ち誇った笑顔だけが残った。
昇降口を抜けると、夕方の光が校庭を照らしていた。
部活に向かう生徒たちが元気に駆け抜けていく。吹奏楽部の音色が遠くから聞こえてきて、校舎を背にした俺と真白の影が長く伸びていた。
「……賑やかだね」
「だな。なんか、新学期って感じだ」
そんなやりとりをしながら校門を出る。春風が頬を撫で、まだ肌寒いのに心は不思議と温かかった。
ふいに真白が立ち止まった。
視線を落とし、そっと俺の方へ手を差し伸べてくる。
「……あのね。やっぱり、こうして帰りたいな」
少し恥ずかしそうに笑う顔。その意図はすぐに分かった。
「……おう」
俺は迷わず手を取った。指先が重なり、柔らかいぬくもりが伝わってくる。
「やっぱり安心する……」
「それは俺のセリフだよ」
互いに照れくさく笑い合いながら、並んで歩き出す。
夕焼けに染まる街並み。
どこまでも続く帰り道が、今日はやけに短く感じた。
廊下に出ると、まるでお祭りのような喧騒が広がっている。
「おーい! バスケ部の体験、まだまだ受付中だぞー!」
「演劇部! 次回公演のチラシ配ってまーす!」
「吹奏楽部です! このあと中庭で演奏します!」
声が飛び交い、壁には色とりどりのポスターが並んでいた。楽器を抱えた先輩、バスケットボールを片手にした部員、衣装姿でチラシを渡す女子……どこも勧誘に必死だ。
「すげえな、どこも全力だな」
思わず口からこぼれると、隣の真白がくすっと笑った。
「ね。見てるだけで楽しいよね」
彼女の瞳は、廊下の喧騒にきらきら反射していた。
ちょうど前を通った吹奏楽部が、軽快なメロディを奏でながら歩いていく。金管の音色が夕方の校舎に響き、見物している生徒たちが手拍子を送っていた。
「わぁ……きれいな音。楽しそうだね」
「だな。……でも俺、音符読めないから速攻で落ちこぼれるわ」
「ふふっ、それは想像つくかも」
軽く肩を揺らして笑う真白。そんな仕草だけで、騒がしい廊下が少しだけ和らぐ気がした。
体育館の方からドリブルの音と歓声が響いてくる。
「体験入部したい人ー! シューター足りてませーん!」
先輩の声が飛び、集まった一年が盛り上がっていた。
「活気あるね」
真白が目を輝かせる。
「ああ……」
俺はその光景に、奇妙なデジャヴを覚える。
――ゲームで何度も見た場面だ。モブの勧誘イベントとして、画面越しに眺めていたはずの光景。
けれど今は、ざわめきも汗の匂いも全部リアルで。俺自身がそこに立っている。
「蒼真君は……部活、やらないの?」
「俺? うーん、どこも楽しそうだけど……正直、運動部で輝けるタイプじゃないしな」
「……そうかな。私は、今の蒼真君で十分だけど」
さらりと告げられ、思わず息が詰まる。
ゲーム知識で彼女を守るつもりが、逆にあっさりと心臓を撃ち抜かれてしまった。
さらに進むと、演劇部の先輩が衣装姿のままチラシを配っていた。
「次回公演『ロミオとジュリエット』! ぜひ観に来てね!」
「すごいね、みんな本気だ」
「だな……。まあ、俺は観客で十分だけど」
「私はちょっと興味あるかも。……でも、台本暗記とか自信ないな」
「真白なら、大丈夫そうだけどな。声もきれいだし」
「え……」
照れたように頬を赤らめる真白。その横顔に、俺も思わず笑ってしまった。
廊下を歩く間ずっと、賑やかな部活勧誘の声と笑い声が響き続ける。
その真ん中で、俺と真白は肩を並べて歩き、他愛もない会話を交わし続けていた。
(……部活も悪くないけど。俺にとっては、この時間こそが一番楽しいのかもしれない)
言いかけて、胸の奥がざわめいた。
――この場面、ゲームでは「ヒロインが演劇部に入って距離が開くフラグ」が仕込まれていたはずだ。
俺は前世でそれを画面越しに見て、どうにもやるせない気持ちになったのを覚えている。
(でも今の真白は、俺の隣にいる。ルート分岐の歯車は、もう違う音を立てて回ってるんだ)
「じゃあ真白は? やってみたい部活とかあるのか?」
「うーん……合唱もいいし、演劇も楽しそう。テニスも気になるなあ」
指を折りながら考える真白の姿は、まるで買い物で迷う子供みたいに楽しげだった。
けれど次の瞬間、ふっと表情を和らげて俺を見た。
「でもね……やっぱり蒼真君と過ごす時間が一番大事かな」
「……っ」
一瞬、呼吸が止まった。
廊下の喧騒が遠ざかる。目の前にいるのは、ゲームで何度も不幸にされてきたヒロインじゃない。
俺の手で未来を選び直して、一緒に笑ってる――ただそれだけの真白だ。
(やべえ……反則級に破壊力あるだろ、これ)
「な、なんで黙ってるの?」
「いや……ちょっと攻撃力高すぎてな」
「えっ……攻撃?」
「こっちの話」
慌てて視線をそらすと、真白は不思議そうにしながらも、頬をほんのり染めて笑った。
「おーい、新堂ー!」
背後から野次のような声が飛んできた。振り返ると、同じクラスの男子が数人、にやにやとこちらを見ている。
「結城さんと帰るのか? 部活入らせずに専属彼氏ですか?」
「いいなー。夫婦で家庭科部とかどうだ?」
「なっ……!?」
真白は耳まで赤くして慌てふためく。
「ち、ちが……そ、そういうんじゃ……!」
「いや、どう見てもそういうんだろ」
「蒼真君まで!? もうっ!」
俺が苦笑すると、冷やかしていた連中は「やっぱ公認カップル確定だな!」と手を振って去っていった。
昇降口へ歩きながら、真白はまだ頬を膨らませていた。
「……ほんと、恥ずかしい」
「まあ仕方ないだろ。隠しようがないし」
「うぅ……蒼真君は平気なの?」
「俺? まあ……もう慣れた」
「……ずるい」
そう言いつつ、彼女は俺の袖をそっと掴んで歩く。
靴箱の前で靴を履き替えながら、ふと真白が俺を見上げる。
「でも……悪い気はしないんでしょ?」
「え?」
「からかわれるのも、私と一緒だから……ちょっと嬉しいんじゃない?」
「……っ」
痛いところを突かれて、俺は返事に詰まった。
そんな俺を見て、真白はいたずらっぽく笑う。
「図星だ」
「……お前なぁ」
結局、俺の反論は最後まで言葉にならず、真白の勝ち誇った笑顔だけが残った。
昇降口を抜けると、夕方の光が校庭を照らしていた。
部活に向かう生徒たちが元気に駆け抜けていく。吹奏楽部の音色が遠くから聞こえてきて、校舎を背にした俺と真白の影が長く伸びていた。
「……賑やかだね」
「だな。なんか、新学期って感じだ」
そんなやりとりをしながら校門を出る。春風が頬を撫で、まだ肌寒いのに心は不思議と温かかった。
ふいに真白が立ち止まった。
視線を落とし、そっと俺の方へ手を差し伸べてくる。
「……あのね。やっぱり、こうして帰りたいな」
少し恥ずかしそうに笑う顔。その意図はすぐに分かった。
「……おう」
俺は迷わず手を取った。指先が重なり、柔らかいぬくもりが伝わってくる。
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