前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第6章 春休みと、新しい季節

第74話「春の休日デート」

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 土曜の午前。駅前の広場は、買い物客や家族連れで賑わっていた。
 約束の時間より少し早く着いた俺は、人波の中で彼女を待つ。

「……あ」

 見慣れた声が耳に届く。振り向いた瞬間、心臓が跳ねた。

 淡いラベンダー色のカーディガンに、白いスカート。
 春らしい装いに身を包んだ真白が、小走りでこちらへやってくる。

 ――もう何度もデートでこうして待ち合わせをしてきたはずなのに。
 なのに、姿を目にするたびに新鮮で、思わず見とれてしまう。

「お待たせ……少し気合い入れてみたんだ」
 頬を赤らめて微笑む真白。

「……やっぱり何度見ても、反則級に可愛いな」
 思わず漏らすと、真白の顔がさらに赤くなる。

「も、もう……そういうこと、さらっと言わないでよ……」
「でも、ほんとのことだし」
「……っ」

 たじろぐ彼女の姿に、また胸の奥が温かくなる。
 この“何度目かの待ち合わせ”は、確かに積み重ねられた日常の一部になっている。
 それでも、俺にとっては毎回が初めてのように心臓を揺さぶってくる。



 駅前から続く商店街は、春の陽気に誘われて人で溢れていた。
 雑貨屋やブティックのショーウィンドウには新作の服やアクセサリーが並び、カフェの前では甘い香りが漂ってくる。

「わぁ、かわいい服……」
 真白が足を止め、ガラス越しに並ぶワンピースを見つめる。
「蒼真君、これどうかな? 似合うと思う?」

 そう言って、自分の体にそっと服を合わせる仕草。
 何度目かの光景なのに、俺の心臓はまた跳ね上がった。

「……いや、何回でも言うけど、どれも似合うだろ」
「そ、そうかなぁ。色とか、派手じゃない?」
「むしろ真白が着たら落ち着いた雰囲気になるんじゃないか?」

 そう答えると、彼女は一瞬きょとんとしたあと、照れたように笑った。

「……蒼真君って、毎回ちゃんと褒めてくれるよね」
「本当のこと言ってるだけだって」
「それが一番ずるいんだよ」

 隣を歩く真白が、ふと俺の横顔を覗き込む。
「でもね、こうやって色んな服を見るの、楽しいんだ」
「買わなくても?」
「うん。蒼真君と一緒に『似合うかな?』って考えるだけで特別になるから」

 その笑顔に、言葉が詰まる。
 ゲームの中では決して描かれなかった何気ない日常――。
 こうして歩くだけで幸せそうにしてくれる彼女を、俺はどこまでも眩しいと思った。

「じゃあ今度は俺が聞いてみるか」
「え?」
「俺に似合う服、どんなのだと思う?」
「……っ!?」

 真白は一瞬固まり、みるみる頬を染めた。
「そ、そんなの……なんでも似合うし……」
「いや、そこは具体的に頼む」
「む、無理! 恥ずかしすぎる!」

 慌てる真白を見て、つい笑いが漏れる。
「……こういうやり取りも、もう何度目だろうな」
「わ、忘れていいのっ!」
「忘れられるかよ」

 彼女がますます赤くなるのを横目に、俺は心の中で小さく呟いた。
(何度繰り返しても、この瞬間が新しい)



 商店街を一回りしてから、俺たちは近くの公園へ足を向けた。
 桜並木の下にはシートを広げて花見を楽しむ家族連れや学生たちが集まり、子どもたちのはしゃぐ声が響いている。
 売店の前で冷たいドリンクを買い、ベンチに腰掛けると、ようやく一息つけた。

「ふぅ……にぎやかだね」
 紙コップを両手で包みながら真白が笑う。
「だな。……でも、こうして座ってると、なんか落ち着く」
「うん。私も」

 桜の花びらが風に舞い、ひらりと真白の髪に落ちた。
「ほら」
 指先でそっと取ってやると、彼女は少し照れて「ありがと」と微笑んだ。
 その仕草が、胸をずきんと打ってくる。


「……ねえ、蒼真君」
「ん?」
「こうやって、普通に一緒にいるだけで幸せなんだなって思うの」

 真白は桜を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「派手なことじゃなくても、勉強の合間とか、帰り道とか。そういう日常が積み重なっていくのが、一番嬉しい」

 俺は一瞬、返事を飲み込んだ。
 ――ゲームの中では、そんな日常は徹底的に奪われていた。
 イベントシーンで強制的に距離を裂かれ、気づけば悲劇に叩き落とされる。
 画面越しに見ていたあの頃の俺は、ただ拳を握るしかなかった。

(でも今は違う。俺はこうして、彼女の隣に座ってる)

「俺もだよ」
「え?」

「真白とこうやって座って、他愛もない話してるだけでさ……。なんか、世界の全部が大丈夫な気がする」

「……っ」
 真白の頬がほんのり桜色に染まる。
「蒼真君って、時々すごいこと言うんだから……」
「そうか? 本当のこと言ってるだけなんだけどな」
「だからずるいってば……」

 唇を尖らせて俯く姿すら、愛しさがあふれてどうしようもない。

 そのとき、ベンチの前に小さな影が寄ってきた。
 「ハトだ!」と子どもが追いかけてきて、鳩の群れが一斉に羽ばたく。
 驚いた真白が小さな悲鳴を上げて俺の腕にしがみついた。

「わっ……!」
「大丈夫か?」
「う、うん……びっくりしただけ」

 彼女は胸に手を当てて小さく息をつく。そのまま、そっと俺の腕に寄り添った。

「……なんか、こうしてると安心する」
「俺もだよ」

 周囲の喧騒や子どもたちの笑い声が遠のいていく。
 ただ並んで座り、肩を触れ合わせているだけで、胸が静かに満たされていった。

 春風が吹き抜け、舞い散る花びらの中。
 俺はふと思う。
(ゲームには絶対に存在しなかった景色だ。……これこそ、俺が守りたかった時間なんだ)

 公園を出る頃には、空が茜色に染まり始めていた。
 桜並木を抜ける小道は、帰宅する人たちや散歩の親子連れでにぎわっている。
 昼間の賑わいとは違い、どこか落ち着いた空気が漂っていた。

「今日は楽しかったね」
「そうだな。あっという間だった」
「……うん。なんか、時間が早く過ぎちゃった気がする」

 真白が寂しそうに笑い、視線を足元に落とす。
 その仕草が胸に引っかかって、俺は立ち止まった。

「……真白」
「え?」
「ほら」

 そう言って、俺はそっと手を差し出す。
 一瞬戸惑ったように瞬きをしてから、真白は微笑んでその手を握り返した。
 指と指が絡む感触に、鼓動が自然と速くなる。

「……あったかい」
「寒いからな」
「ふふっ、そういうことにしておくね」

 彼女が小さく笑って肩を寄せてくる。
 並んで歩くだけなのに、世界が色づいて見えるから不思議だ。

 沈みかけた夕陽が、桜の花びらを金色に照らす。
 その景色の中で、真白がぽつりと囁いた。

「……また次の休日も、一緒に過ごせたらいいな」

「……当たり前だろ」
 即答すると、彼女は驚いたように目を丸くしてから、照れくさそうに笑った。

 手を繋いで歩く帰り道は、どうしてこんなにも短いんだろう。

 ああ、幸せだ……。






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