前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第7章 夏の思い出作り

第93話「放課後の虹 ― 手を伸ばせば届く距離」

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 午後の授業が終わるころ、空はすっかり晴れ渡っていた。
 午前中の雨が嘘のように消え、窓の外には鮮やかな光が差し込んでいる。
 濡れた校庭が反射してまぶしく、どこか夏の気配を感じさせた。

 放課後のチャイムが鳴る。
 帰り支度をするクラスメイトたちの喧騒の中、真白が俺の方を見て小さく手を振った。

「ねえ、蒼真君。ちょっと外、行ってみない?」
「外?」
「うん。雨上がりだし、もしかしたら……見えるかも」

 その言葉の意味を理解するより早く、真白は教室を出て行った。
 俺も慌ててカバンを持ち、後を追う。

 階段を降りて昇降口を抜けると、ひんやりとした風が頬を撫でた。
 雨上がりの匂い――土と草と、少しだけ残る湿気の混ざった、清潔な匂い。

 真白は校庭の真ん中で立ち止まり、空を見上げていた。
 その視線の先を追うと――そこには、大きな虹がかかっていた。

 青と金と薄紫。
 まだ湿った空に、七色の橋がゆるやかに弧を描いている。

「わぁ……」
 真白の口から、小さな息が漏れる。
 その声は驚きというより、祈りのように穏やかだった。

「虹なんて、久しぶりに見たな」

「うん。……綺麗」
 真白は眩しそうに目を細めた。
 光が瞳の奥で反射して、小さな粒のように輝く。

「ほら、見て。ちゃんと二重になってる」
「ほんとだ。下の方、薄いけど見えるな」
「ふふ、なんか得した気分だね」

 そう言って笑う真白の横顔を見ていると、
 虹よりも、その笑顔のほうがずっと鮮やかに思えた。

 ふと、真白が両手を前に伸ばす。
 虹の端に向かって、指先が光を追うように動いた。

「届かないって分かってるのに、つい手を伸ばしたくなるね」
「わかる。ああいうの、掴めたらすごいよな」
「でもね、きっと本当に届かない方がいいんだと思う」
「どうして?」
「だって、届かないものがあるから、今みたいに“綺麗だな”って思えるんだもん」

 その言葉に、胸が少しだけ痛くなった。
 前世で失ったもの、守れなかったもの。
 ――手を伸ばしても届かなかった“幸福”。
 けれど今、俺の隣にはそれがちゃんとある。

「……そうだな」
 俺は静かに言って、真白の方を向いた。
「でも、届くものはちゃんと掴みたい」
「掴みたいもの?」
「たとえば、今の時間とか。真白と一緒にいるこの瞬間とか」

 真白の目が一瞬だけ大きく見開かれ、すぐに柔らかく細められた。
「……もう、そういうこと言うの、ほんと反則」
「反則でも、言いたくなるんだよ」

 雨上がりの風が吹き抜け、二人の制服を揺らした。
 虹の光が淡く滲み、真白の髪を透かしてきらめく。

「ねえ、蒼真君」
「ん?」
「もし、あの虹を渡れたら――どこに行きたい?」

「うーん……真白の行きたいとこ」
「え?」
「どこにでも付き合うよ。雨でも晴れでも」
「……そういうの、ずるいよ」

 真白はうつむき、笑いながら小さく頬を染めた。
 その姿が、虹の下で一層愛しく見えた。

やがて虹は少しずつ薄れていく。
 けれど、消える瞬間までその光は確かにあって、二人を包み込んでいた。

「蒼真君」
「うん?」
「また、次の虹も一緒に見ようね」
「ああ。約束する」

 その約束が、空に残る最後の光と一緒に胸の中へ沈んでいく。

 虹が消えた後も、
 俺たちの間には、確かにその色が残っていた。


◇◇◇

 あの日の虹が消えてから、季節は一歩ずつ夏へ近づいていた。
 雨の日が減り、代わりに雲間から射す日差しが強くなった。
 グラウンドの芝生はすっかり乾き、午後の空気は少しだけ熱を帯びている。
 窓の外で揺れる木々の葉が、きらきらと光を反射していた。

「うわ……今日、暑くない?」
 昼休み、真白が頬を扇ぎながら言った。
 白いハンカチで汗を押さえ、上目づかいに俺を見る。
「六月って、こんなに暑かったっけ」
「去年は梅雨が長引いてたから、ここまでじゃなかったな」
「ふふ、じゃあ今年は“早めの夏”だね」

 真白の髪が少し湿っていて、前髪が頬に張りついている。
 その仕草さえ絵になるほど自然で、思わず視線を逸らした。

「……蒼真君?」
「な、なんでもない」
「また変なこと考えてたでしょ」
「ち、違うって!」
 軽く笑う真白に、クラスの喧騒が遠くなる。
 放課後の光が差し込み、机の上の影がゆらゆらと揺れていた。

 そして放課後。

 外に出ると、風がひときわ暖かくなっていた。
 空は透き通るような青で、遠くに積乱雲の白が浮かんでいる。
 梅雨の名残がわずかに香り、空気の中には夏の匂いが混じっていた。

「ねえ、今日はどこか寄っていく?」
 真白が制服の袖を軽くつまみながら尋ねる。
「んー、どうしようか。暑いし、アイスでも食べて帰る?」
「賛成! 駅前のカフェ、期間限定のやつ出てるんだって」
「真白、情報早いな」
「ふふ、そういうのは逃さないの」

 笑いながら歩く彼女の横顔を見て、改めて思う。
 この何気ない日常こそ、俺が守りたかった世界なんだ。
 前世のゲームでは、もう二度と手に入らないと思っていた“穏やかな放課後”。
 でも今は、こうして隣に彼女がいる。

 カフェに着くと、店内は冷房の風が心地よかった。
 窓際の席に座り、真白がメニューを覗き込む。
「どれにしよう……あ、これ、かわいい!」
 指さしたのは、カラフルなフルーツがのったサンデーだった。
 ガラス越しの陽光を受けて、溶けかけのアイスがきらめく。

「それ、写真撮るタイプだろ」
「うん。蒼真君との思い出コレクションに追加しなきゃ」
「そ、そんなコレクションがあるのか」
「あるよ? 見せてあげよっか?」
「やめろ……恥ずかしい……」

 真白は笑いながらスマホを構えた。
 カシャ、とシャッター音が響く。
 その笑顔があまりに自然で、まるで“夏の始まり”を閉じ込めた一瞬みたいだった。










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