前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第7章 夏の思い出作り

第96話「夏祭りの約束 ― 浴衣と花火と君の笑顔」

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 ――夏の夜の街は、光と音と匂いで満ちていた。

 通りの両脇に並ぶ屋台。
 綿あめ機が回る音、遠くで鳴る太鼓のリズム。
 提灯の明かりがゆらゆらと揺れて、顔にかかる影を薄く染めていた。
 人の声が重なり、笑い声が混じり、甘いソースの香りが風に乗って流れてくる。

 そんな喧騒の中、俺は神社の鳥居の前で立ち止まっていた。
 待ち合わせの時間は午後七時。
 辺りは人でごった返しているのに、妙に落ち着かない。
 手に持ったラムネの瓶の表面が、手の熱で少しぬるくなっていた。

 ――彼女が来る。

 それだけで、周囲の騒がしさがどこか遠くに感じられた。
 そしてその瞬間。

「……蒼真君、待たせちゃった?」

 声の方を振り向いた瞬間、心臓が一瞬止まった。

 提灯の灯りの中を、真白が歩いてきた。
 淡い水色の浴衣に、白い朝顔の模様。
 帯は優しい藤色で、背中に小さな結び目がふわりと揺れている。
 髪は後ろでまとめられ、涼しげなかんざしが月光を反射していた。

 息を呑む。
 人混みの中なのに、そこだけ時間が止まったようだった。

「……似合ってる、なんて言葉じゃ足りないな」

 素直にそう言葉がこぼれた。
 真白はわずかに目を見開き、すぐに頬を染めた。

「そ、そんな……言い過ぎだよ……」
 言葉とは裏腹に、唇の端が少し緩んでいる。
 照れた仕草が、花火よりも鮮やかだった。

「行こっか」
「うん」

 並んで歩き出す。
 提灯の明かりがゆっくりと流れ、真白の袖が俺の手にかすかに触れた。
 そのたびに、胸の奥が微かに跳ねる。

 焼きそばの香り。チョコバナナの光沢。
 遠くの屋台から響く金魚すくいの水音。
 どれも子どものころに戻ったようで、懐かしくて、くすぐったい。

「ねえ、見て。ヨーヨー釣り!」
 真白が指さした。水面に浮かぶカラフルなゴム風船。
 提灯の光を反射して、赤や緑の玉がゆらゆらと揺れている。

「ふふっ、なんか懐かしいね」
「子どものころ、よくやってた?」
「うん。全然取れなかったけど」
「今は取れそう?」
「もちろん!」

 真白は小さく拳を握り、しゃがみこんだ。
 その姿勢で、肩からこぼれる浴衣の襟がわずかに緩む。
 首筋に落ちる灯りが、息を呑むほどきれいだった。

 金魚すくいの屋台にも立ち寄った。
 透明な水槽の中を泳ぐ赤い尾が、光を反射してきらめく。

「よーし……!」
 真白が真剣な顔つきでポイを構え、狙いを定める。
 その表情はいつになく集中していて、横顔を見ているだけで頬が緩んだ。

「……っ、もう! 笑ってるでしょ!」
「いや、可愛いなって」
「な、なにそれ……!」

 真白が顔を赤くして睨みながらも、次の瞬間には笑っていた。
 その笑顔が、屋台の光よりずっと眩しかった。

 結果――三匹。
 屋台の親父が「お嬢ちゃん上手いねぇ」と笑い、真白は満面の笑みで金魚の袋を掲げた。
 その笑顔を見ているだけで、胸がいっぱいになる。

 少し歩き疲れたころ、川沿いの土手に出た。
 風が涼しく、遠くから太鼓の音が聞こえてくる。
 すでに多くの人が腰を下ろし、空を見上げていた。

「ここ、座ろ?」
「おう」

 二人並んで座ると、川面を渡る風が頬を撫でた。
 真白の髪が風に乗ってふわりと揺れ、肩に触れそうになる。
 その距離が、妙に心地よかった。

「ねえ、蒼真君」
「ん?」
「花火って、毎年見ても飽きないね」
「そうだな。でも――今年のは特別かも」
「特別?」
「真白と一緒だから」

 真白が小さく息を呑んだ。
 そして、ほんの少しの間を置いて、柔らかく微笑む。
「……そう言われると、照れるよ」

 夜空に光が走った。
 ドン――!
 最初の花火が打ち上がる。

 轟音とともに、紅い光の花が夜空に咲いた。
 そして次々と、青、金、紫――色とりどりの光が空いっぱいに広がる。
 そのたびに真白の瞳が輝きを増し、光を映してきらめく。

「わぁ……綺麗……」
 その声は、花火の音よりも静かで、確かに響いた。

 頬を照らす光。
 わずかに開いた唇。
 その一瞬一瞬が、焼きつくように美しかった。

 間近で打ち上がる大輪の花が、夜空を金色に染める。
 光が川面に反射し、ゆらめく波が煌めく。
 真白が少し体を寄せ、そっと囁いた。

「ねえ、蒼真君」
「うん?」
「今が……ずっと続けばいいのに」

 その言葉に、胸の奥が熱くなる。
 この世界が“ゲームの中”だったことを、ほんの一瞬だけ思い出す。
 でも、今は違う。
 もう運命なんて、誰にも決めさせない。

「きっと続くよ。俺が、そうするから」
「……ほんとに?」
「ああ。約束する」

 真白が少しだけ笑い、指先をそっと差し出す。
 俺も自分の指を絡めた。
 指と指が触れ合い、小さな温もりが夜風に溶けていく。

 花火の音がゆっくりと遠のいていく。
 最後の一発が夜空を白く染め、静寂が戻った。
 残るのは、遠くの祭囃子と、金魚の袋の中で揺れる水音だけ。

「ねえ、蒼真君」
「ん?」
「また来年も、一緒に見ようね」
「……ああ。約束だ」

 そう言って見上げた空には、
 花火の煙が薄れていく中で、星がひとつ、静かに瞬いていた。

 帰り道。
 人混みの中でも、真白の手を離さなかった。
 浴衣の袖が軽く触れ合い、指先が少し汗ばんでいる。
 それでも――不思議と心地よかった。

 夜風が吹き抜け、提灯の灯りが遠ざかっていく。
 ふたりの影が、並んで長く伸びていた。
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