前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

文字の大きさ
98 / 101
第7章 夏の思い出作り

第98話「勉強会とアイスクリーム」

しおりを挟む

 朝から空が白く眩しい。
 カーテンの隙間から差し込む光は、もはや“夏”というより“灼熱”そのものだった。
 ベランダ越しに蝉の鳴き声がひっきりなしに響き、街の空気全体が熱を含んで揺れている。

 扇風機の音が、部屋の静寂を律動的にかき混ぜていた。
 机の上には開きっぱなしのノート、シャーペン、そして……冷凍庫にスタンバイさせた“あの約束のアイス”。
 スマホの画面には、数時間前のメッセージがまだ表示されたままだ。

『午後から行くね! “勉強会”だよ? ちゃんと机片づけておいてね🍦』

 ――夏休み、一日目。
 真白との“初イベント”が、今まさに始まろうとしていた。

 玄関のチャイムが鳴った。

「おじゃましまーす……」

 ドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、夏らしい装いの真白。
 白いブラウスに淡いデニムのスカート。
 ポニーテールにまとめた髪から、ほのかに香るシャンプーの匂いが風に乗る。

「お、思ったより軽装だな」
「だって暑いんだもん。……あ、ちゃんと片づけてる!」
「当然。今日は“特別ゲスト”が来る日だから」
「ふふ、普段の部屋がどんなか気になるなぁ」
「見せない」
「やましい!」
 真白が笑いながら、靴を脱ぎリビングへと上がっていく。
 素足が畳を踏む音が、妙に心地よく響いた。

「じゃあ、まずは“第一回・夏の勉強会”開始です!」
「タイトルが重いな」
「気分だよ、気分!」

 リビングのテーブルを挟んで座る。
 彼女が取り出したノートは、まるで美術品のように整理されていた。
 表紙に貼られた小さな付箋、カラフルなマーカー、ペン字の綺麗さ――。
 その几帳面さがまるで彼女そのものだった。

「ねぇ、蒼真君。見直しノート作ってる?」
「いや、作ってない。テキトーにメモってる」
「ダメじゃん!」
「ダメ出し早いな」
「私が作ってあげよっか?」
「……え?」
「ほら、貸して」

 真白はすっと立ち上がり、俺の横に移動した。
 髪が肩にかかり、涼しい風と一緒に香りが近づく。
 距離が、近い。

「ここ、途中の式すっ飛ばしてる。だから答えずれてるの」
「まじか」
「こうやって、順を追って……」

 彼女の指が俺の手の上に軽く触れ、ノートの上をなぞる。
 その瞬間、心臓が一拍跳ねた。
 指先に伝わる体温が、妙に意識に残る。

「……聞いてる?」
「き、聞いてるよ! 超集中してる!」
「ほんとに~?」
「ま、真白が近いだけで頭がバグるんだよ……!」
「ふふっ、なんか可愛い」

 笑いながら少し離れる真白。
 その仕草がなんだか名残惜しい。

 数時間が経ち、時計の針は午後三時を過ぎていた。
 ノートにはびっしりと書き込み。
 鉛筆の削りカス、消しゴムのかす。
 ふたり分の努力の痕跡が、机の上に散らばっている。

「……よし、ここまでで一段落!」
「ふぅ……やっぱ疲れるな」
「おつかれ、蒼真君。頑張ったね」

 真白が微笑む。
 その笑顔に、心臓がまた静かに熱を持った。

「さて、約束の時間です」
「約束?」
「アイスクリーム休憩!」

 冷凍庫から二つのカップを取り出す。
 チョコとバニラ。
 テーブルに並べた瞬間、真白の目がキラリと輝いた。

「どっち取る?」
「俺はチョコ」
「じゃあ私はバニラ~。……ねえ、一口交換しよ?」
「え?」
「ほら、こういうのって“青春の定番”でしょ?」
「青春の……え、そんな定番あった?」
「もう、いいから!」

 真白がスプーンですくって、差し出してくる。
 笑顔で、けれど少し照れくさそうに。

「はい、“あーん”」

「ま、待っ――」
 スプーンが唇に触れる。
 冷たい感触。
 それと同時に、ほんのりとバニラの甘い香りが残った。
 まるで一瞬、世界が止まったようだった。

「……ど、どう?」
「う、うまい。冷たい」
「それ感想になってない!」
「真白が食わせたからだよ。味飛んだ」
「な、なにそれ~!」

 頬を膨らませながらも、真白は笑っている。
 その笑い声が、扇風機の音に混じって、夏の空気に溶けていく。

「じゃあ今度は私の番」
 真白がチョコのカップを指さす。
「ほら、あーん」
「お、おう……」
 スプーンを差し出すと、真白が小さく口を開けた。
「……ん」

 チョコのひんやりした甘さとともに、真白の表情がふわりと緩む。
「ん~、こっちも美味しい」
 その口元に、ほんの少しだけチョコがついた。

「……真白、ついてる」
「え?」
 指を軽く伸ばして拭おうとした瞬間、彼女が一歩引いた。
 頬を赤くして、笑いながら言う。
「……蒼真君、ちょっと今のタイミングはずるい」
「わ、悪い。無意識だった」
「ふふ、嘘つき」

 そう言って、ティッシュで自分の口を拭く。
 笑いながらも、その頬の赤みはなかなか引かなかった。

 アイスを食べ終えた後も、しばらく二人は何も話さなかった。
 蝉の声と、扇風機の音と、遠くの子どもの笑い声。
 窓の向こうの夏が、ゆっくりと流れていく。

 机の上のノートには、まだやり残したページがいくつもあった。
 でも今は、不思議とそれがどうでもよかった。
 “頑張ったあとの休憩”という時間そのものが、何よりも尊かった。

「ねえ、蒼真君」
「ん?」
「こういうの、いいね」
「勉強会?」
「うん。でも、ただの勉強じゃなくて……一緒に頑張れる時間、っていうの?」
「……それ、いい言葉だな」
「えへへ、でしょ?」

 笑顔が眩しくて、思わず目を細める。
 真白の頬に当たる夕方の光が、柔らかく金色に染まっていた。

 ――夏の午後。
 汗と甘さと、少しの照れくささ。
 その全部が、いつまでも続けばいいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...