前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第7章 夏の思い出作り

第100話「夏の夜風 ― 離れていても」

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 夜になっても、外はまだ熱を孕んでいた。
 アスファルトが昼間に吸い込んだ熱をゆっくりと吐き出すように、
 窓の外の空気はじんわりと重く、どこか湿っている。
 けれど、開け放した窓から吹き込む風はやわらかく、
 昼間の喧騒とは違う、夏の夜だけの静けさを運んできていた。

 机の上には、真白と一緒に勉強したノートとプリント。
 赤ペンが一本、キャップを外したまま転がっている。
 それを手に取ると、彼女が使っていたときの光景が鮮やかに蘇った。

 机に向かって、真剣な顔でペンを走らせる真白。
 問題を解いて、ふと顔を上げて笑う真白。
 アイスを一口食べて「おいしい」と微笑む真白。
 どれもこれも、ひとつひとつが頭から離れない。

 ペンを指先で転がしながら、思わず息をつく。
 ――あの距離感、やっぱりずるい。
 触れた指の温もりが、まだ手のひらに残っている気がする。

 ベッドに腰を下ろすと、扇風機の風が頬を撫でた。
 静まり返った部屋の中、蝉の声だけが遠くで続いている。
 スマホを手に取り、画面を開いた。
 トーク欄の一番上には、当然のように「結城真白」の名前。
 ……ほんの数時間前まで、あの名前の本人がここにいたのに。

『今日は楽しかった。ありがとう』

 メッセージを送ってみる。
 送信ボタンを押す指が、妙に緊張していた。
 数秒後、すぐに既読がつく。

『こっちこそ! なんか、勉強会っていうよりデートみたいだった☺️』

 その絵文字の破壊力に、思わず笑いながら顔を覆った。
 いや、それ反則だろ。

『やっぱりそう思った?』
『うん。だって、勉強してる時間より笑ってた時間の方が長かったし』
『それは否定できないな』
『ふふ、次はもっと真面目にやるね。……たぶん』

 “たぶん”のあとに小さくついたハートマークが、
 文章以上に気持ちを伝えてきて、胸の奥がくすぐったくなった。

『帰り道、風が気持ちよかったよ』
『昼間より静かで、少し涼しくて』
『こういう時間、好きかも』
『なんで?』
『蒼真君のこと、ゆっくり考えられるから』

 その一文を見た瞬間、呼吸が止まった。
 スマホの光が眩しくて、思わず視線を逸らす。
 けれど、脳裏にはその声がそのまま響いていた。
 ――“ゆっくり考えられるから”。
 まるで耳元で囁かれたみたいに、心臓の鼓動が速くなる。

『考えるって、どんなこと?』
『内緒😊』

 その返事が逆に甘い。
 “内緒”の裏に隠された感情を想像するだけで、
 喉がひどく乾いた。

 外を見ると、夜空は少し曇っていて、星はまばら。
 街の明かりがぼんやりと遠くに滲み、風鈴が小さく鳴っている。
 その音が、昼の喧騒を洗い流していくようだった。

 ――今ごろ真白も、この風を感じてるのかな。

 同じ夜の中、同じ風を感じながら、
 同じように今日を思い出してくれているなら。
 それだけで、この夏の暑ささえ愛おしく思える。

 再びスマホが震える。

『ねえ蒼真君、今日さ……』
『あの時、ノート拾ってくれたでしょ?』
『手、ちょっとだけ握ってたの気づいてた?』

 心臓が一瞬で跳ねた。
 まるで、その瞬間が再生されたように、頭の中に映像が浮かぶ。
 彼女の瞳、距離、息づかい。
 ほんの一瞬だったのに、あの温度だけは鮮明だった。

『気づいてた。てか、あんなの忘れられるわけない』

 数秒後、また画面が光る。

『……そっか。私も、忘れられないんだ』
『今日のこと、全部』
『思い出すたび、胸がちょっときゅってなるの』

 文字越しなのに、まるで本人の声が聞こえる気がした。
 優しくて、照れくさくて、それでいて真っ直ぐな真白の声。

『俺も同じ。思い出すたびに、暑くもないのに熱くなる』
『それ、どんな例え?笑』
『要は、ドキドキしてるってこと』
『……私も、かも』

 その一文が届いた瞬間、
 胸の奥で“何か”が静かに弾けた気がした。

 時計の針はすでに十時を過ぎている。
 けれど、眠気なんてまったくこない。
 窓の外から吹き込む夜風が、まるで真白の気配のように感じられた。

『ねえ、蒼真君』
『なに?』
『明日の朝、会える?』
『朝?』
『うん、少し早起きして、駅前のベンチで』
『……それって、デートの続き?』
『違うよ』
『ほんとに?』
『……半分はそうかも』

 文字の一つひとつが、まるで心拍に合わせて脈を打つようだった。

『分かった。行くよ。約束な』
『うん、約束』

 “約束”という二文字が、画面の中央に浮かぶ。
 それだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
 ――また会える。
 たったそれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて。

 スマホを伏せ、ゆっくりとベッドに横になる。
 天井の暗がりに、真白の笑顔が浮かぶ。
 昼の光の中よりも、今のほうがはっきりと見える気がした。

 心臓の鼓動が少しずつ落ち着いていく。
 それでも、どこかでまだ“彼女の声”が響いていた。

 ――離れていても、ちゃんと繋がっている。
 その実感が、何よりも確かな温もりになっていた。

 風鈴がまた、小さく鳴る。
 まるで、「また明日ね」と囁くように。






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