悪魔につけこまれたお姫様の話

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姫と悪魔

7 姫と悪魔(終)

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 公国の聖堂を、真白いロングドレスにローブを纏ったシェリルは進む。
 神官の待つ祭壇に辿り着くと、左手の手袋を外し、紋章のある甲を光に晒した。

 シェリルは、ひととき恐れた。

 所詮人間である異端審問官は欺けても、祭壇に注ぐ光ーー神そのものは、欺けないのではないだろうか。
 この場で、悪魔と結んだのはシェリルだと、明かされるのではないか。

 でも、恐れとともに、そうあってほしいと願っていた。

 神様が真におわすならば、教えに背いた自分は悪魔に魂を奪われようと、罪のない弟は救われるはずだった。

 あの日から、シェリルは恐ろしい、無残な光景を目にしすぎた。狂った民衆、変わり果てた父母。裏切った伯父。
 印の真実を見破れぬ神官も信ずることができず、悪魔と結んでしまった罪の意識に苦しみ続けた。
 伯父は日をおかず処刑され、シェリルは父母の喪が明けるのを待つことなく、この戴冠の日を迎えている。

 シェリルは光の中で祈る。

 神様、私を、お救いください。
 ーー罰してください。

 しかし、なにも起こらないままーー神官の手によって、王冠が重く、シェリルの頭に授けられた。

「女王陛下、万歳!」

 民の歓声が、虚しいばかりだった。

 神は識らずとも、悪魔は心に浮かべるだけで現れる。
 控えの間に下がったシェリルを、ヴィネが平伏して迎えた。
 シェリルに付き従うものたちは、ヴィネの瞬きの中で凍っている。耳の痛くなるような静けさの中に、ヴィネの呪言だけがあった。

「シェリル様。輝かしき女王陛下。僭越ながら戴冠のお祝いを申し上げます」

 シェリルは深くため息をついて問うた。

「……あなたは神を識っている?」

 神の敵と呼ばれる彼らなら、あるいはと思ったのだ。
 しかし、彼は笑みを含んだ上目遣いで答えた。

「恐れながら、私めは寡聞にして存じません。そのような強大な権能を持つ存在、ぜひお目にかかりたいものですが」

 嘯く悪魔を前に、シェリルは覚悟を決める。

「ヴィネ、王の責務は未熟な私にはあまりに重い。けれど為さねばなりません。王子ギルフォードが成人し王位を継ぐ八年の後まで、私はこの国を正しく治めねば」
「ご立派なお志でございます」
「あなたの力を貸しなさい。求める対価を与えましょう」

 シェリルは左手を差し伸べる。
 ヴィネは目を蕩けさせて、印に口付けを贈った。脈打つ痛みとともに、印が赤く煌めいた。

「いと気高き女王陛下。仰せのままに、私めの権能は貴女様のもの」

episode「姫と悪魔」
end

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