6 / 26
姫と悪魔
6 悪魔憑き
しおりを挟む
地下牢の床を踏み鳴らし、男が喚いている。
「約束が違う! どういうことだ、ヴィネ!」
見張りの兵が、「うるさいなあ」と億劫そうに呟き、立ち上がった。
「人聞きの悪い。悪魔は契約を違えません。ちゃんと王位につけてあげたでしょう? 一日ですが」
くすくすと忍び笑ってみせる兵の顔は、男が契約した悪魔に変じていた。
「くそ、くそ! 悪魔め!」
罵りながらも、男の目はぎらぎらと欲望に輝きはじめる。
「もう一度だ! 贄ならいくらでも用意してやる! 私を王にしろ!」
目障りな腹違いの弟も、屈辱を味わわされた女も始末した。再び王位につき、今度はあの姫を手に入れるのだ。権力で屈服させ、陵辱し、孕ませてやる。そうしてこそ、長年の鬱憤が晴れるのだ。
ヴィネは男の思考を読み、ふんと形のいい鼻を鳴らした。
「無残に汚されるお姿も、見てみたい気がしたんですけどね。やっぱりヒキガエルにはもったいない。それは私のお楽しみ」
「おい! 何をぶつぶつ言っている! 契約だ!」
ヴィネはきっぱりと答えた。
「お断りします。あなたから欲しいものは、なーんにもないので」
「なんだと!」
「現れたのはそう、最後にお働きを労っておこうかなと」
ヴィネは優雅に一礼する。
「マルク公国将軍閣下。どうもありがとうございました。おかげでシェリル様と契約することができました。あのお方は大変お幸せで満ち足りていらっしゃいましたので、こんな状況にならなければ、悪魔などお呼びではありませんでしたからね」
「まさか、はじめから、それが狙いか! ふざけるな! ヴィネ!」
男は鉄格子を揺さぶって怒鳴る。
しかし、頭を上げたその顔は、元の若い見張りの兵士に戻っていた。彼は憎々しげに罪人を睨み付ける。
「静かにしろ、悪魔憑きめ!」
騒ぎを聞きつけて、階上から上官が降りてきた。
「何事だ」
「はっ。こやつ、憚りなく悪魔の名を叫んでおります」
「本当に忌まわしい……異端審問官様にお伝えせねば……」
「おい! 私は将軍だ! 王だ! お前も、お前も、逆らうなら処刑台に吊ってやる!」
狂乱する男を前に、兵士たちは呆れ果てて顔を見合わせた。
「約束が違う! どういうことだ、ヴィネ!」
見張りの兵が、「うるさいなあ」と億劫そうに呟き、立ち上がった。
「人聞きの悪い。悪魔は契約を違えません。ちゃんと王位につけてあげたでしょう? 一日ですが」
くすくすと忍び笑ってみせる兵の顔は、男が契約した悪魔に変じていた。
「くそ、くそ! 悪魔め!」
罵りながらも、男の目はぎらぎらと欲望に輝きはじめる。
「もう一度だ! 贄ならいくらでも用意してやる! 私を王にしろ!」
目障りな腹違いの弟も、屈辱を味わわされた女も始末した。再び王位につき、今度はあの姫を手に入れるのだ。権力で屈服させ、陵辱し、孕ませてやる。そうしてこそ、長年の鬱憤が晴れるのだ。
ヴィネは男の思考を読み、ふんと形のいい鼻を鳴らした。
「無残に汚されるお姿も、見てみたい気がしたんですけどね。やっぱりヒキガエルにはもったいない。それは私のお楽しみ」
「おい! 何をぶつぶつ言っている! 契約だ!」
ヴィネはきっぱりと答えた。
「お断りします。あなたから欲しいものは、なーんにもないので」
「なんだと!」
「現れたのはそう、最後にお働きを労っておこうかなと」
ヴィネは優雅に一礼する。
「マルク公国将軍閣下。どうもありがとうございました。おかげでシェリル様と契約することができました。あのお方は大変お幸せで満ち足りていらっしゃいましたので、こんな状況にならなければ、悪魔などお呼びではありませんでしたからね」
「まさか、はじめから、それが狙いか! ふざけるな! ヴィネ!」
男は鉄格子を揺さぶって怒鳴る。
しかし、頭を上げたその顔は、元の若い見張りの兵士に戻っていた。彼は憎々しげに罪人を睨み付ける。
「静かにしろ、悪魔憑きめ!」
騒ぎを聞きつけて、階上から上官が降りてきた。
「何事だ」
「はっ。こやつ、憚りなく悪魔の名を叫んでおります」
「本当に忌まわしい……異端審問官様にお伝えせねば……」
「おい! 私は将軍だ! 王だ! お前も、お前も、逆らうなら処刑台に吊ってやる!」
狂乱する男を前に、兵士たちは呆れ果てて顔を見合わせた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる