悪魔につけこまれたお姫様の話

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姫と悪魔

6 悪魔憑き

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 地下牢の床を踏み鳴らし、男が喚いている。

「約束が違う! どういうことだ、ヴィネ!」

 見張りの兵が、「うるさいなあ」と億劫そうに呟き、立ち上がった。

「人聞きの悪い。悪魔は契約を違えません。ちゃんと王位につけてあげたでしょう? 一日ですが」

 くすくすと忍び笑ってみせる兵の顔は、男が契約した悪魔に変じていた。

「くそ、くそ! 悪魔め!」

 罵りながらも、男の目はぎらぎらと欲望に輝きはじめる。

「もう一度だ! 贄ならいくらでも用意してやる! 私を王にしろ!」

 目障りな腹違いの弟も、屈辱を味わわされた女も始末した。再び王位につき、今度はあの姫を手に入れるのだ。権力で屈服させ、陵辱し、孕ませてやる。そうしてこそ、長年の鬱憤が晴れるのだ。

 ヴィネは男の思考を読み、ふんと形のいい鼻を鳴らした。

「無残に汚されるお姿も、見てみたい気がしたんですけどね。やっぱりヒキガエルにはもったいない。それは私のお楽しみ」
「おい! 何をぶつぶつ言っている! 契約だ!」

 ヴィネはきっぱりと答えた。

「お断りします。あなたから欲しいものは、なーんにもないので」
「なんだと!」
「現れたのはそう、最後にお働きを労っておこうかなと」

 ヴィネは優雅に一礼する。

「マルク公国将軍閣下。どうもありがとうございました。おかげでシェリル様と契約することができました。あのお方は大変お幸せで満ち足りていらっしゃいましたので、こんな状況にならなければ、悪魔などお呼びではありませんでしたからね」
「まさか、はじめから、それが狙いか! ふざけるな! ヴィネ!」

 男は鉄格子を揺さぶって怒鳴る。
 しかし、頭を上げたその顔は、元の若い見張りの兵士に戻っていた。彼は憎々しげに罪人を睨み付ける。

「静かにしろ、悪魔憑きめ!」

 騒ぎを聞きつけて、階上から上官が降りてきた。

「何事だ」
「はっ。こやつ、憚りなく悪魔の名を叫んでおります」
「本当に忌まわしい……異端審問官様にお伝えせねば……」
「おい! 私は将軍だ! 王だ! お前も、お前も、逆らうなら処刑台に吊ってやる!」

 狂乱する男を前に、兵士たちは呆れ果てて顔を見合わせた。
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