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★番外編 エリーゼのために①
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二つの月の新月が重なった、闇の深い春の夜のこと。
梟族の男が一羽、東街道中央街の街の灯りを眼下に、翼に風を孕んで、日課の空の散歩を楽しんでいた。
時計台を螺旋に回って上昇し、街の東へ向かう。
夜中でも魔灯の眩い目抜き通りを抜けると、大きな屋敷が連なる一帯にさしかかる。
ぐんと暗くなるのに合わせて、彼は金の目の瞳孔を開く。
目のいい彼は、屋敷のひとつの上階のテラスに影を見る。
翼を片方上げて、振っている。
その日、彼は空を滑り降りて、近づいてみた。
寝巻き姿の少女だった。
地味な薄茶色の羽色で、特に飾り羽も模様もない。小夜啼鳥(さよなきどり)族だった。
小鳥の少女は真っ黒な目で、自分の倍はあろうかという梟が音もなく舞い降りるのを見つめていた。
テラスの柵に止まって、梟はベストと共布の、グレーの中折れハットをとって挨拶した。
「こんばんは、お嬢さん。いつも合図してくれるから来てみたが。驚かせたかい、特に用がないならすぐ行くさ」
「いいえ、こんばんは、お洒落なふくろうさん」
少女は囁き声で答えた。
「降りてきてくれて嬉しいわ。とっても気持ちよさそうに飛んでいるから、羨ましかったの」
「ああ、夜の空はいいよ。風が澄んでる」
「いいなあ。あのね、お願いがあるの。わたしを屋根の上に連れて行ってくれないかしら」
梟は一瞥して察している。
艶のない不揃いな羽根、薄い胸元。
もう雛という年頃でもないのに、これでは飛べない。
鳥族は卵から孵っても生まれつき弱い雛が、一定数いる。彼らは淘汰され、強いものだけ育っていく。
彼女も、おそらくそうなるはずだった存在だ。
ただ、このいかにも裕福な屋敷に生まれついて、ここまで長らえている。
「お星様が見たいの。ひさしが邪魔なの」
微かな声が、彼女の精一杯のようだった。
「お安い御用だ、お嬢さん」
梟は片翼を広げて少女を撫でた。風の魔力を付与されて、少女はふわりと浮き上がった。
屋根の傾斜のなだらかな場所に下ろしてやると、少女は両の翼を空に伸ばして、目に星を映した。
「素敵。一面、お星様だわ」
「うん、最高の夜だ」
満天に煌めく星々は、さやかな音をたてて今にも降ってきそうだった。
「わたし今ね、お星様の曲を作ってるの。できたら、ママに歌ってもらうのよ。わたしのママは歌手なの、それでね、パパは作曲家。もう引退しちゃったけど、今もおうちでコンサートしてるの」
「道理でお嬢さん、綺麗な声をしてるよ」
褒められて、少女ははにかんだ。
「ありがとう。わたし、エリーゼよ」
梟は少女に応えて名乗った。
「フロックだ」
「ふくろうの、フロックさん。ふふ、覚えやすいわ。ねえ、わたしのお友達になってくれない?」
エリーゼの無邪気な申し出に、フロックは苦く笑った。
「俺が怖くないのかい。梟だぜ」
「全然。お願いきいてくれたわ、いいひとよ」
普通なら、小鳥族は猛禽族を怖がるのだ。同じ鳥族だからこそ、肉食の獣族に対するよりも拒否感が強い。
エリーゼはそういった本能すら、薄いのかもしれなかった。
「あんまり簡単に信用するのはよくないな」
「……だめなの?」
「いや、光栄だ。よろしく、エリーゼ」
「嬉しいわ、よろしくね、フロックさん!」
しかし、少し声を弾ませただけで、エリーゼは咳込んだ。
「まだ風が冷たいな。戻ろう」
「やだ、もう、すこし」
「また来るから」
「いつ?」
「雨の降らない夜、これくらいの時間に、気が向いたら。……いや、エリーゼ。ずいぶん夜更かしだな。大丈夫なのか」
小夜啼なんて種族名でも、フロックとは違い、夜行性ではないはずだった。
「わたし、お昼はしんどくてねちゃって、夜は嫌でも目が覚めちゃうの。ひとりはつまらなくって、さみしいの。ねえ、待ってるから来てね」
「わかった。だから今晩はもう、おやすみ」
宥めてテラスに下ろした。
「こんな素敵な夜ないわ、またね、フロックさん」
エリーゼはずっと翼を振っていた。
フロックは正直なところ、妙な関わり合いを作ってしまったと気が重かった。
彼は気ままで、自由が好きで、束縛は嫌いだった。
それでも、その場かぎりであしらってしまえなかった。
育たなかった兄弟に重なってしまったからか。鳥なのに屋根に登ることすら自力でできないのが、哀れだったからか。
どちらもそうだった。
けれど、一番の理由は彼女の声だった。
お世辞でなく、彼女の囁きは、幼く弱々しい身体に不釣り合いなほど、艶を含んで美しかった。
気が向いたらと言った。
ならば、気が向かなければ、放っておけばいいのだ。
しかし、どうもよくなかった。酒を飲んでも娼婦と戯れても、郊外の丘の気に入っている場所で寛ごうとしても、エリーゼがふと頭をよぎった。
数日後、屋敷のそばを飛ぶと、エリーゼはテラスで待ち構えていて、すぐにフロックを見つけて翼を振った。
「こんばんは、フロックさん」
「ご機嫌どうだい、エリーゼ」
「とってもいいわ」
「そりゃよかった」
フロックは翼を扇のように広げた。合間に隠していたタンポポを差し出すと、エリーゼはふふ、と軽く息を漏らして笑った。
「素敵、手品みたい」
その表情に、フロックは降参した。なんの因果なのか、梟の自分が、このか弱い小鳥の少女に惚れたのだと、認めざるをえなかった。
フロックはそれから、エリーゼのもとに通いはじめた。喜ぶ顔が見たくて、咲き始めた野の花を一輪ずつ差し出しては、寝巻きの胸ポケットに挿してやった。
彼女の部屋にはいつも薔薇や百合が活けてあった。それでも、出歩けない彼女は、菫や白詰草といった素朴な花を珍しがって喜んだ。
しばらく間が空いたときは、ひどくしおれていた。
「嫌われちゃったって思って、悲しかった」
「そんなことあるもんか。悪かったよ、急な仕事だったんだ」
「なんのお仕事しているの」
「力仕事」
「ちゃんと教えて」
「傭兵さ。お嬢さんには縁のない、乱暴な仕事だよ」
「そんな言い方、やだ。知ってるわ、魔物や悪者をみんなのためにやっつけてるのよ」
フロックは、屋根の上では、風の中の灯火を守るように、翼の中にエリーゼを入れるようにしていた。
彼女は冷えると、すぐ咳が止まらなくなった。
「拗ねてごめんなさい。フロックさんは強くて、優しいんだわ」
それからは、仕事の話もするようになった。怖いところは和らげて、面白かったことは膨らませて、エリーゼのための冒険物語だった。
「しゃべるリスなんて本当にいるの? パパもママも聞いたことないって言ってたわ」
エリーゼが言ったとき、フロックはとぼけた。
「そういや、入れっぱなしだったかな?」
フロックのベストのポケットがもぞもぞと動き出すのに、エリーゼが目を瞬かせた。
風の魔力の付与で動かしたリスのぬいぐるみが、ぴょんと飛び出した。
「まあ」
『驚カセタカイ? 仲良クシヨウゼ!』
「リスさん、お名前は?」
『ねむ!』
下手な腹話術も喜んでくれた。
「かわいい。ネムちゃん、よろしくね」
「本物は嫁さんと子供と孫までいるおっさんリスだけどな」
「フロックさん、魔法使いみたい」
「ちょいと風の付与が使えるだけさ。梟には割といる」
寝巻きのポケットに収まったリスのぬいぐるみの頭を撫でて、エリーゼは訊いた。
「フロックさんはお嫁さんや子供、いるの?」
「いないよ。いたら、こんなことしてたら叱られるだろ」
「恋人は?」
「決まった子はいない」
「なんだか、いけない答えだわ」
「ろくでなしだよ俺は」
「……いいもん、今はわたしがひとりじめ」
エリーゼは、フロックの足先に乗って、ふかふかの羽毛を包んだシャツの胸に寄りかかってきた。
フロックはエリーゼの顔を上げさせて、ちいさな真っ直ぐの嘴に、自分の曲がった嘴を触れ合わせた。
翼の中で守っていたから、ちゃんと嘴も温かだった。
「……パパとママ以外のひととしたの、初めて」
黒い瞳を潤ませて、エリーゼは悩ましげに息をつく。
「怒られるか?」
「ないしょにする……ね、もう一回……」
「わるいこと教えちゃったな」
「やだ、もっと」
エリーゼの喉から、チュルチュルと、甘い響きの囀りが漏れた。フロックが首筋に嘴を埋めて繕ってやると、いよいよ止まらなくなった。
エリーゼのお返しの羽繕いは、フロックの厚い羽毛の表面をつんつんとつつくばかりだったが、その拙さが愛おしかった。
「フロックさんはろくでなしで、わたしはわるいこなら、おあいこ」
「そうだな。お似合いだ」
フロックはそう、うそぶいた。うぶなお嬢さんを惑わせて、悪さをしている自覚はあった。
季節は過ごしやすくなっていくのに、エリーゼの具合は少しずつ悪くなっていった。
エリーゼがテラスでしゃがみこんでしまっているのを見つけた夜、フロックは急いで抱き上げて部屋の中に入れた。
震えて、身体中で息をしているのをベッドに横たえた。
「パパとママ呼んでやる」
不審者と突き出されても構わなかった。
それでも、エリーゼが必死で抱きついてきた。
「やめて、これくらい、よくあるもん……」
涙を滲ませて、息を整えている。
「ぜったい、やだ、フロックさんが怒られて、もう来てくれなくなっちゃったら、わたし、ほんとに、しんじゃうから」
エリーゼはフロックの胸に顔を埋めて、抱いていてほしいと願った。
フロックは廊下へのドアを開けるのを、身勝手と知りながら、思いとどまった。
エリーゼの発作が収まってきて、フロックは尋ねた。
「医者は、なんて言ってる」
「だめ。毎日、パパとママがお医者さんと治療師さんを連れてくるの。がんばろうねって励ましてくるの。でも、お薬は吐いちゃうし、魔力を流されるのも苦しいばっかり……昼間、とっても起きてられないわ。本当はもうやだ、治らないの、わかってるの」
エリーゼの身体には、時にきつい薬の匂いや、馴染まない魔力の残り香があった。
能う限りの手を尽くしてなお、この状態なのだった。
「俺にできること、ないか」
エリーゼはフロックを見上げた。
「……フロックさん、わたしを食べてくれない?」
「何言ってんだ」
「ふくろうは小鳥を、食べるでしょ?」
「俺は、言葉を喋る相手は食べない」
「だって、あのね。わたしこんなでも、やっぱり死ぬの嫌なの、怖いの。でも、こうやってくっついてると気持ちよくって、安心する。このまま眠っておしまいになっちゃえばいいって思う。それでね、どうせ死んじゃうなら、フロックさんのお腹に入って、ずっと一緒がいいって、思ったの」
「そんなこと考えるのやめな。俺は確かに肉食の乱暴ものの梟だ。飯食うところなんか見てみろ、二度と会いたくなくなるだろうよ。でも、俺は、エリーゼには傷一つだってつけるもんか……!」
エリーゼは苦しげな息の下で、微笑んだ。
「フロックさんがいてくれるだけで、いいわ。わたし、幸せよ。恋なんて、できないと思ってたのに……」
季節は夏に差し掛かっていた。
エリーゼを生かしたい。治してやりたい。
迫り来る死の足音に追われながら、フロックは血眼になって手立てを探していた。
たとえエリーゼ自身が諦めようと、諦められなかった。
そんな中のことだった。
魔物との戦闘で、同じギルドの傭兵、黒山羊族のユールが瀕死の重傷を負った。
彼を現場からギルドの救護室まで運んだから、知っている。
ユールは、頭と重要な内臓をいくつも損なって、ほとんど血も失ってしまっていた。せめて魔力が流れ出さないように、風の魔力の付与を最大限にかけて包んだが、もうだめだとフロックは悟っていた。
明らかに治癒術の限界を超えた状態だった。
それでも、彼は生き返った。
三日眠って目覚めた後は、傷跡すら残らず回復した。
あれはどう考えてもおかしいと、医者に確かめても言葉を濁された。
ユールの治療の日から、治療師のリファリールが半月ほど休んだ。関係ない、前々から疲れが溜まっていたから休みをとらせただけだと医者は言い張ったが、むしろ確信した。
リファリールは腕がいい。
人族のようだが、薄緑の肌に、髪には飾りでなくしっかりと根付いた白い花が咲いている、あまり見たことのない容姿の少女だ。光、木と水、そして土の魔力に恵まれていた。
彼女はユールの恋人だ。
そして、回復したユールからは、色濃くリファリールの魔力が感じられた。
リファリールがユールに施したのは、通常の治癒術ではない。
命を削り、分け与えた。
重い代償を伴う禁呪を、彼女は使えるのだと、理解していた。
「俺は言いふらさないって約束する。頼む、これ一回きりだ。助けてくれ」
フロックは、職場に戻ってきたリファリールに、医者もユールもいない、二人きりの場で、平伏した。
「……できるだけのことなら、します」
リファリールは、エリーゼに会うのを承知してくれた。
その夜、フロックはリファリールを連れて、エリーゼを訪ねた。
エリーゼはもう、ベッドから起きられなくなっていた。それでもテラスの鍵だけは、常に開けていてくれた。
エリーゼは薄く目を開けて、フロック以外の人影に怯えたようだった。
「エリーゼ、大丈夫だ。俺の勤め先の治療師さんだ。俺が知ってる中で一番、腕がいいんだ」
「はじめまして、エリーゼさん。わたし、リファリールといいます」
エリーゼは身を捩って逃れようとした。
「やだ、くるしいのは、もうやだ。フロックさん、そのひと、かえってもらって」
「いい子だから。頼むよ」
見るに耐えなくて、翼でエリーゼを覆った。
「苦しいのは、嫌ですよね。少しだけ、息が楽になるようにするのはいい?」
リファリールはベッドの横にひざまずいて、エリーゼに声をかけた。
「くるしく、しない?」
「はい」
少女の姿のリファリールに、彼女は少し警戒を解いたらしかった。
リファリールはフロックからエリーゼを受け取って、しばらく抱いていた。
できるかぎりエリーゼに馴染む魔力を編んで、もどかしいほど少しずつ、エリーゼの胸に当てた手のひらから流し込んでいた。
病んだ子供にひとさじずつ、水をやるように。
違う。
フロックは怒鳴りたいのを耐えていた。エリーゼを驚かせたくなかった。ほんの少しの負荷すら、今の彼女には命取りになる。
やがて、静かに深く眠った彼女を、リファリールはベッドに戻した。
テラスに出て、リファリールは言った。
「ごめんなさい。わたしの力では、治してあげられません」
フロックは羽毛を逆立てる。
「ユールはぶっ倒れてでも、助けてやっただろうが。てめえの命惜しんでやらないってんなら、今ここで引き裂いてやる」
本気だと、テラスの石造の床を、鋭い爪で蹴って削った。
治療師の少女は、怯えなかった。
静かに答えた。
「できないんです。あれは、ユールさんが相手だからできたの。それに、わたし、傷を治すことはできても、命の長さは伸ばせません」
やっと見つけた一筋の希望が、光を失っていく。
フロックは必死で言い募った。
「なあ、だったら、俺の命でも魔力でも、全部使っていい、エリーゼにやれないか。あの子は死ぬのを怖がってる。自分の翼で飛んだことがない、あんな綺麗な声なのに歌ったことがない、それが鳥に生まれてどれだけ切ないことか、あんたわかるかよ!」
リファリールは悲しげな顔をして、首を横に振る。
「だめなのか、どうしてもか。あんたの力でもか……!」
フロックは両の翼を力なく下げた。
「……悪かった。送る」
リファリールは別れ際、髪に咲く白い八重咲きの花を摘み取って寄越した。
「治りません。でも、一晩だけ、エリーゼさんは元気になります。きっと最後になってしまうけれど、それでいいなら、食べさせてあげて」
リファリールの魔力の塊を、フロックは翼に乗せて見つめていた。
その甘い、誘うような香りを吸うと、腹の底が絞られるように痛んだ。
梟族の男が一羽、東街道中央街の街の灯りを眼下に、翼に風を孕んで、日課の空の散歩を楽しんでいた。
時計台を螺旋に回って上昇し、街の東へ向かう。
夜中でも魔灯の眩い目抜き通りを抜けると、大きな屋敷が連なる一帯にさしかかる。
ぐんと暗くなるのに合わせて、彼は金の目の瞳孔を開く。
目のいい彼は、屋敷のひとつの上階のテラスに影を見る。
翼を片方上げて、振っている。
その日、彼は空を滑り降りて、近づいてみた。
寝巻き姿の少女だった。
地味な薄茶色の羽色で、特に飾り羽も模様もない。小夜啼鳥(さよなきどり)族だった。
小鳥の少女は真っ黒な目で、自分の倍はあろうかという梟が音もなく舞い降りるのを見つめていた。
テラスの柵に止まって、梟はベストと共布の、グレーの中折れハットをとって挨拶した。
「こんばんは、お嬢さん。いつも合図してくれるから来てみたが。驚かせたかい、特に用がないならすぐ行くさ」
「いいえ、こんばんは、お洒落なふくろうさん」
少女は囁き声で答えた。
「降りてきてくれて嬉しいわ。とっても気持ちよさそうに飛んでいるから、羨ましかったの」
「ああ、夜の空はいいよ。風が澄んでる」
「いいなあ。あのね、お願いがあるの。わたしを屋根の上に連れて行ってくれないかしら」
梟は一瞥して察している。
艶のない不揃いな羽根、薄い胸元。
もう雛という年頃でもないのに、これでは飛べない。
鳥族は卵から孵っても生まれつき弱い雛が、一定数いる。彼らは淘汰され、強いものだけ育っていく。
彼女も、おそらくそうなるはずだった存在だ。
ただ、このいかにも裕福な屋敷に生まれついて、ここまで長らえている。
「お星様が見たいの。ひさしが邪魔なの」
微かな声が、彼女の精一杯のようだった。
「お安い御用だ、お嬢さん」
梟は片翼を広げて少女を撫でた。風の魔力を付与されて、少女はふわりと浮き上がった。
屋根の傾斜のなだらかな場所に下ろしてやると、少女は両の翼を空に伸ばして、目に星を映した。
「素敵。一面、お星様だわ」
「うん、最高の夜だ」
満天に煌めく星々は、さやかな音をたてて今にも降ってきそうだった。
「わたし今ね、お星様の曲を作ってるの。できたら、ママに歌ってもらうのよ。わたしのママは歌手なの、それでね、パパは作曲家。もう引退しちゃったけど、今もおうちでコンサートしてるの」
「道理でお嬢さん、綺麗な声をしてるよ」
褒められて、少女ははにかんだ。
「ありがとう。わたし、エリーゼよ」
梟は少女に応えて名乗った。
「フロックだ」
「ふくろうの、フロックさん。ふふ、覚えやすいわ。ねえ、わたしのお友達になってくれない?」
エリーゼの無邪気な申し出に、フロックは苦く笑った。
「俺が怖くないのかい。梟だぜ」
「全然。お願いきいてくれたわ、いいひとよ」
普通なら、小鳥族は猛禽族を怖がるのだ。同じ鳥族だからこそ、肉食の獣族に対するよりも拒否感が強い。
エリーゼはそういった本能すら、薄いのかもしれなかった。
「あんまり簡単に信用するのはよくないな」
「……だめなの?」
「いや、光栄だ。よろしく、エリーゼ」
「嬉しいわ、よろしくね、フロックさん!」
しかし、少し声を弾ませただけで、エリーゼは咳込んだ。
「まだ風が冷たいな。戻ろう」
「やだ、もう、すこし」
「また来るから」
「いつ?」
「雨の降らない夜、これくらいの時間に、気が向いたら。……いや、エリーゼ。ずいぶん夜更かしだな。大丈夫なのか」
小夜啼なんて種族名でも、フロックとは違い、夜行性ではないはずだった。
「わたし、お昼はしんどくてねちゃって、夜は嫌でも目が覚めちゃうの。ひとりはつまらなくって、さみしいの。ねえ、待ってるから来てね」
「わかった。だから今晩はもう、おやすみ」
宥めてテラスに下ろした。
「こんな素敵な夜ないわ、またね、フロックさん」
エリーゼはずっと翼を振っていた。
フロックは正直なところ、妙な関わり合いを作ってしまったと気が重かった。
彼は気ままで、自由が好きで、束縛は嫌いだった。
それでも、その場かぎりであしらってしまえなかった。
育たなかった兄弟に重なってしまったからか。鳥なのに屋根に登ることすら自力でできないのが、哀れだったからか。
どちらもそうだった。
けれど、一番の理由は彼女の声だった。
お世辞でなく、彼女の囁きは、幼く弱々しい身体に不釣り合いなほど、艶を含んで美しかった。
気が向いたらと言った。
ならば、気が向かなければ、放っておけばいいのだ。
しかし、どうもよくなかった。酒を飲んでも娼婦と戯れても、郊外の丘の気に入っている場所で寛ごうとしても、エリーゼがふと頭をよぎった。
数日後、屋敷のそばを飛ぶと、エリーゼはテラスで待ち構えていて、すぐにフロックを見つけて翼を振った。
「こんばんは、フロックさん」
「ご機嫌どうだい、エリーゼ」
「とってもいいわ」
「そりゃよかった」
フロックは翼を扇のように広げた。合間に隠していたタンポポを差し出すと、エリーゼはふふ、と軽く息を漏らして笑った。
「素敵、手品みたい」
その表情に、フロックは降参した。なんの因果なのか、梟の自分が、このか弱い小鳥の少女に惚れたのだと、認めざるをえなかった。
フロックはそれから、エリーゼのもとに通いはじめた。喜ぶ顔が見たくて、咲き始めた野の花を一輪ずつ差し出しては、寝巻きの胸ポケットに挿してやった。
彼女の部屋にはいつも薔薇や百合が活けてあった。それでも、出歩けない彼女は、菫や白詰草といった素朴な花を珍しがって喜んだ。
しばらく間が空いたときは、ひどくしおれていた。
「嫌われちゃったって思って、悲しかった」
「そんなことあるもんか。悪かったよ、急な仕事だったんだ」
「なんのお仕事しているの」
「力仕事」
「ちゃんと教えて」
「傭兵さ。お嬢さんには縁のない、乱暴な仕事だよ」
「そんな言い方、やだ。知ってるわ、魔物や悪者をみんなのためにやっつけてるのよ」
フロックは、屋根の上では、風の中の灯火を守るように、翼の中にエリーゼを入れるようにしていた。
彼女は冷えると、すぐ咳が止まらなくなった。
「拗ねてごめんなさい。フロックさんは強くて、優しいんだわ」
それからは、仕事の話もするようになった。怖いところは和らげて、面白かったことは膨らませて、エリーゼのための冒険物語だった。
「しゃべるリスなんて本当にいるの? パパもママも聞いたことないって言ってたわ」
エリーゼが言ったとき、フロックはとぼけた。
「そういや、入れっぱなしだったかな?」
フロックのベストのポケットがもぞもぞと動き出すのに、エリーゼが目を瞬かせた。
風の魔力の付与で動かしたリスのぬいぐるみが、ぴょんと飛び出した。
「まあ」
『驚カセタカイ? 仲良クシヨウゼ!』
「リスさん、お名前は?」
『ねむ!』
下手な腹話術も喜んでくれた。
「かわいい。ネムちゃん、よろしくね」
「本物は嫁さんと子供と孫までいるおっさんリスだけどな」
「フロックさん、魔法使いみたい」
「ちょいと風の付与が使えるだけさ。梟には割といる」
寝巻きのポケットに収まったリスのぬいぐるみの頭を撫でて、エリーゼは訊いた。
「フロックさんはお嫁さんや子供、いるの?」
「いないよ。いたら、こんなことしてたら叱られるだろ」
「恋人は?」
「決まった子はいない」
「なんだか、いけない答えだわ」
「ろくでなしだよ俺は」
「……いいもん、今はわたしがひとりじめ」
エリーゼは、フロックの足先に乗って、ふかふかの羽毛を包んだシャツの胸に寄りかかってきた。
フロックはエリーゼの顔を上げさせて、ちいさな真っ直ぐの嘴に、自分の曲がった嘴を触れ合わせた。
翼の中で守っていたから、ちゃんと嘴も温かだった。
「……パパとママ以外のひととしたの、初めて」
黒い瞳を潤ませて、エリーゼは悩ましげに息をつく。
「怒られるか?」
「ないしょにする……ね、もう一回……」
「わるいこと教えちゃったな」
「やだ、もっと」
エリーゼの喉から、チュルチュルと、甘い響きの囀りが漏れた。フロックが首筋に嘴を埋めて繕ってやると、いよいよ止まらなくなった。
エリーゼのお返しの羽繕いは、フロックの厚い羽毛の表面をつんつんとつつくばかりだったが、その拙さが愛おしかった。
「フロックさんはろくでなしで、わたしはわるいこなら、おあいこ」
「そうだな。お似合いだ」
フロックはそう、うそぶいた。うぶなお嬢さんを惑わせて、悪さをしている自覚はあった。
季節は過ごしやすくなっていくのに、エリーゼの具合は少しずつ悪くなっていった。
エリーゼがテラスでしゃがみこんでしまっているのを見つけた夜、フロックは急いで抱き上げて部屋の中に入れた。
震えて、身体中で息をしているのをベッドに横たえた。
「パパとママ呼んでやる」
不審者と突き出されても構わなかった。
それでも、エリーゼが必死で抱きついてきた。
「やめて、これくらい、よくあるもん……」
涙を滲ませて、息を整えている。
「ぜったい、やだ、フロックさんが怒られて、もう来てくれなくなっちゃったら、わたし、ほんとに、しんじゃうから」
エリーゼはフロックの胸に顔を埋めて、抱いていてほしいと願った。
フロックは廊下へのドアを開けるのを、身勝手と知りながら、思いとどまった。
エリーゼの発作が収まってきて、フロックは尋ねた。
「医者は、なんて言ってる」
「だめ。毎日、パパとママがお医者さんと治療師さんを連れてくるの。がんばろうねって励ましてくるの。でも、お薬は吐いちゃうし、魔力を流されるのも苦しいばっかり……昼間、とっても起きてられないわ。本当はもうやだ、治らないの、わかってるの」
エリーゼの身体には、時にきつい薬の匂いや、馴染まない魔力の残り香があった。
能う限りの手を尽くしてなお、この状態なのだった。
「俺にできること、ないか」
エリーゼはフロックを見上げた。
「……フロックさん、わたしを食べてくれない?」
「何言ってんだ」
「ふくろうは小鳥を、食べるでしょ?」
「俺は、言葉を喋る相手は食べない」
「だって、あのね。わたしこんなでも、やっぱり死ぬの嫌なの、怖いの。でも、こうやってくっついてると気持ちよくって、安心する。このまま眠っておしまいになっちゃえばいいって思う。それでね、どうせ死んじゃうなら、フロックさんのお腹に入って、ずっと一緒がいいって、思ったの」
「そんなこと考えるのやめな。俺は確かに肉食の乱暴ものの梟だ。飯食うところなんか見てみろ、二度と会いたくなくなるだろうよ。でも、俺は、エリーゼには傷一つだってつけるもんか……!」
エリーゼは苦しげな息の下で、微笑んだ。
「フロックさんがいてくれるだけで、いいわ。わたし、幸せよ。恋なんて、できないと思ってたのに……」
季節は夏に差し掛かっていた。
エリーゼを生かしたい。治してやりたい。
迫り来る死の足音に追われながら、フロックは血眼になって手立てを探していた。
たとえエリーゼ自身が諦めようと、諦められなかった。
そんな中のことだった。
魔物との戦闘で、同じギルドの傭兵、黒山羊族のユールが瀕死の重傷を負った。
彼を現場からギルドの救護室まで運んだから、知っている。
ユールは、頭と重要な内臓をいくつも損なって、ほとんど血も失ってしまっていた。せめて魔力が流れ出さないように、風の魔力の付与を最大限にかけて包んだが、もうだめだとフロックは悟っていた。
明らかに治癒術の限界を超えた状態だった。
それでも、彼は生き返った。
三日眠って目覚めた後は、傷跡すら残らず回復した。
あれはどう考えてもおかしいと、医者に確かめても言葉を濁された。
ユールの治療の日から、治療師のリファリールが半月ほど休んだ。関係ない、前々から疲れが溜まっていたから休みをとらせただけだと医者は言い張ったが、むしろ確信した。
リファリールは腕がいい。
人族のようだが、薄緑の肌に、髪には飾りでなくしっかりと根付いた白い花が咲いている、あまり見たことのない容姿の少女だ。光、木と水、そして土の魔力に恵まれていた。
彼女はユールの恋人だ。
そして、回復したユールからは、色濃くリファリールの魔力が感じられた。
リファリールがユールに施したのは、通常の治癒術ではない。
命を削り、分け与えた。
重い代償を伴う禁呪を、彼女は使えるのだと、理解していた。
「俺は言いふらさないって約束する。頼む、これ一回きりだ。助けてくれ」
フロックは、職場に戻ってきたリファリールに、医者もユールもいない、二人きりの場で、平伏した。
「……できるだけのことなら、します」
リファリールは、エリーゼに会うのを承知してくれた。
その夜、フロックはリファリールを連れて、エリーゼを訪ねた。
エリーゼはもう、ベッドから起きられなくなっていた。それでもテラスの鍵だけは、常に開けていてくれた。
エリーゼは薄く目を開けて、フロック以外の人影に怯えたようだった。
「エリーゼ、大丈夫だ。俺の勤め先の治療師さんだ。俺が知ってる中で一番、腕がいいんだ」
「はじめまして、エリーゼさん。わたし、リファリールといいます」
エリーゼは身を捩って逃れようとした。
「やだ、くるしいのは、もうやだ。フロックさん、そのひと、かえってもらって」
「いい子だから。頼むよ」
見るに耐えなくて、翼でエリーゼを覆った。
「苦しいのは、嫌ですよね。少しだけ、息が楽になるようにするのはいい?」
リファリールはベッドの横にひざまずいて、エリーゼに声をかけた。
「くるしく、しない?」
「はい」
少女の姿のリファリールに、彼女は少し警戒を解いたらしかった。
リファリールはフロックからエリーゼを受け取って、しばらく抱いていた。
できるかぎりエリーゼに馴染む魔力を編んで、もどかしいほど少しずつ、エリーゼの胸に当てた手のひらから流し込んでいた。
病んだ子供にひとさじずつ、水をやるように。
違う。
フロックは怒鳴りたいのを耐えていた。エリーゼを驚かせたくなかった。ほんの少しの負荷すら、今の彼女には命取りになる。
やがて、静かに深く眠った彼女を、リファリールはベッドに戻した。
テラスに出て、リファリールは言った。
「ごめんなさい。わたしの力では、治してあげられません」
フロックは羽毛を逆立てる。
「ユールはぶっ倒れてでも、助けてやっただろうが。てめえの命惜しんでやらないってんなら、今ここで引き裂いてやる」
本気だと、テラスの石造の床を、鋭い爪で蹴って削った。
治療師の少女は、怯えなかった。
静かに答えた。
「できないんです。あれは、ユールさんが相手だからできたの。それに、わたし、傷を治すことはできても、命の長さは伸ばせません」
やっと見つけた一筋の希望が、光を失っていく。
フロックは必死で言い募った。
「なあ、だったら、俺の命でも魔力でも、全部使っていい、エリーゼにやれないか。あの子は死ぬのを怖がってる。自分の翼で飛んだことがない、あんな綺麗な声なのに歌ったことがない、それが鳥に生まれてどれだけ切ないことか、あんたわかるかよ!」
リファリールは悲しげな顔をして、首を横に振る。
「だめなのか、どうしてもか。あんたの力でもか……!」
フロックは両の翼を力なく下げた。
「……悪かった。送る」
リファリールは別れ際、髪に咲く白い八重咲きの花を摘み取って寄越した。
「治りません。でも、一晩だけ、エリーゼさんは元気になります。きっと最後になってしまうけれど、それでいいなら、食べさせてあげて」
リファリールの魔力の塊を、フロックは翼に乗せて見つめていた。
その甘い、誘うような香りを吸うと、腹の底が絞られるように痛んだ。
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