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城を出た俺はリアムが用意していた幌馬車に飛び乗り、街を移動していた。
この世界に来て初めての外!とテンションが上がったが、尾行するよう王様に命令された人間がどこにいるかわからないという理由で、荷台の幕が全て下ろされていたため外の景色は一切見えなかった。
リアムは鎧や剣などを返さなければならないと言って宿舎の方へ戻ったらしく、この馬車には乗っていない。
今、一緒に乗っているのは御者台に座っている男性と、俺たちと一緒に荷台にいる栗色のウェーブがかった背中まである髪が特徴の女性。
男性は背中しか見えないが、多分みんな二十代なんだろう。
「着いたわ。 ここでリアムが来るまで、ゆっくりしましょう。 大丈夫。 私が懇意にしている宿だから、匿ってもらえるわ。」
城を出発して十分もしない間に馬車は止まり、女性が立ち上がりながら降りるよう伝えてきた。
いつの間に後ろに回っていたのか、御者台に座っていた男性がカーテンのように下ろしていた布をめくり、荷台に登ってきた。
そして荷台の一番奥の隅でうずくまり、不安そうにしている零に近づくと安心させるように声をかけ始めた。
布をめくった時に見えた男性の顔は頬に斜めの傷痕があるものの、リアムとは違って面倒見のいい兄貴って雰囲気が漂っている爽やかな青年。
もしかしたら、俺と同い年かもしれない。
「なあ、悪いんだけど、零を連れてきてくれないか? 俺だと怖がられるみたいで……。」
女性の後に続いて馬車を降りようとしていると、遠慮がちに声をかけられた。
振り返って声のした方を見ると、男性が困ったように奥を指差した。
指さされた方を見た俺は、納得したように頷いた。
ああ……俺も最初は苦労したからなあ。
壁の方へ顔を向けて隅っこで蹲り、震えている零は早く怖いことが去ってくれないかと願いながら、じっと耐えている子どものようだった。
零とまともに関わろうと決めた一ヶ月前。
リビングに連れてきたはいいものの、ずっと怯えて部屋の隅から動こうとしない零にどう接していいか分からず、さっきの男性のように途方に暮れてリアムに相談したことがあった。
その時リアムに言われたのが、『自我が芽生える前から人間に怖い目、痛い目に遭わされてきたんだ。 零にとっては、お前も王様も、研究員もみんな同じ人間なんだよ。 自分は敵じゃないって、気長にわからせるしかないんじゃないか? 俺はその方法しかわからなかったから、そうしてきた。』だったんだよなあ。
結局俺も他に方法が思いつかなかったから毎日話しかけたりして、ようやく受け入れてもらえたのが、つい先日。
多分あの二人も慣れてもらうまでに、相当時間がかかるだろう。
「零、一緒に外に出よう。 あの人たちはリアムの仲間だから、零に怖いことや痛いことはしないよ。」
俺は零に近づくと、震えている背中にそっと手を乗せ、優しく声をかけた。
リアム以外からは話しかけられることがなかったせいか、あまり難しい言葉は理解できていないと教えられていたため、できるだけ簡単な言葉を選んで、彼らが敵ではないことを伝えた。
しかし零は今までに見たことがないほど怯えていて、慣れたばかりの俺の言葉では安心させることができなかった。
「お前ら、そのまま中にいろ。 このまま出発することにした。」
どれくらいの時間、零を説得していたのか、ギシっと音がして誰かが乗り込んできた気配がした後、リアムの声が後ろから聞こえてきた。
するとリアムの声に反応したのか、零がゆっくりと顔を上げるとこちらを振り返って見た。
そしてリアムを見つけると、ホッとしたような表情を見せた。
リアムは緊張からか少し過呼吸になっている零に近づくと、安心させるように頭を撫でながら街を出発すると言った。
ふと御者台の方を見ると先ほどの二人が乗り込んでいたため、俺が零に手こずっている間にリアムと今後について話し合いが行われていたんだろう。
「一応、正式に零を引き取ったから、罪人として追われることはない。」
「でも、あの王様が素直に零くんを渡すとも思えないわね。」
「ああ。 あの街のギルドで登録したら、追跡魔法を施された従魔の証を渡されるかもしれない。 だから別の町で、ギルド登録をした方がいいと思うんだ。 本当は別の国で登録したかったんだけど、一番近い町でもここから歩いて二週間はかかる。 その間の食料とか考えたら」
「俺たちは昨日のうちに退職して、ギルド登録も終わっている。 だから食料の買い出しなんかは俺たちがやるから、お前らは森にでも隠れていればいい。 零の安全を一番に考えようぜ。」
走り出した馬車は一度止まったが、そのあとは順調に走っている。
一度止まった時に御者台の男性が誰かと話していたが、その後馬車が走り出すと、おもむろにリアムが口を開いた。
その後三人で何やら難しい話を始めたが、この世界のことも、王様のこともよく知らない俺には理解できない。
零はリアムの悩んでいる様子を見て不安になったのか、助けを求めるように俺の元へ来た。
でもごめんよ、俺にも彼らの話はわからねえ。
ただ気持ちを少しでも紛らわせてやろうと、俺は零を連れて荷台の端に行くと少しだけ布を捲った。
「すごいな。 緑しかないぞ。」
「緑?」
布のわずかな隙間から見えたのは、一面草原の世界だった。
街からまだそう遠くには行っていないと思うのだが、馬車が通っている街道らしき整備された砂地を除いて、右も左も草原のようなものしか見えない。
もっと辺りを見渡したいが、これ以上開けるとリアムに怒られそうだから止めておこう。
それでも日本では田舎でしか見ることのできないような自然一杯の光景に感動しながら、膝立ちになっていた俺の前に座っている零に声をかけると、不思議そうに聞き返してきた。
「零、話せるようになったのか?」
葉山さんに声帯を切られてから一度も声を聞いたことがなかった俺は、驚いて零の肩を掴んだ。
馬車の走る音でかき消されそうなほど、小さな声。
でも確かに聞こえた。
「いってえな。 いきなり何するんだよ?」
「不必要に、零を怖がらせるんじゃねえ。」
嬉しさと信じられない気持ちで零を見ていると、いきなり頭を殴られた。
殴られた場所をさすりながら振り返って文句を言うと、リアムは零の方へ視線を向けながら不機嫌そうな表情で立っていた。
言われて改めて零を見ると、殴られるのかと不安そうな顔で俺を見ている。
「翔さん、だったか? そいつは俺たち以上に過保護だから、あんまり変なことはするなよ。」
「ノア、今まで零に会えなかったからって、変なこと言うんじゃねえ。」
零の反応からして、今まで掴まれたら痛いことをされてきたのだろうということに気づき、慌てて手を離していると、御者台に座っている男性が意味ありげに笑いながら忠告してきた。
するとその子どもじみたからかいを聞いて、リアムが呆れたように宥めていた。
そうか、ノアっていうのか。
長い名前じゃなくてよかった。
「あ、今さらなんだけど、俺、黒崎翔。 よろしく。」
「なんだ? お前ら、まだ自己紹介終わってなかったのか? あのバカはノア。 で、あっちの姉ちゃんはアメリアだ。」
そう言えば、自己紹介してない。
やっぱ仲間に入れてもらったんだし、こっちからするべきだよな。
俺が慌てて御者台の二人に向かって自己紹介をすると、零の頭を撫でていたリアムが驚いたように二人を見た。
自己紹介をリアムが合流するまでにしておくという約束でもあったのか、二人が気まずそうにあらぬ方へ視線を泳がせると、リアムは大きなため息をつき、俺に二人を紹介してくれた。
紹介された二人は手を挙げたり、会釈をしたりして挨拶をしてくれたが名前しかわからなかったから、これから色々聞いて仲良くなれたらいいかな。
そんなことを考えていると、馬車がゆっくりと止まった。
「これから森の中に入るのは危険だし、今日はここで野宿だな。」
周りが見えないため、何かあったのかと心配になって御者台の方を見ると、ノアがリアムに意見を聞こうと馬の手綱を握ったままこちらを振り返って見ていた。
ノアとアメリアの隙間から外の様子を伺うと、草原だった景色が一変し、辺りは木々が生い茂っていた。
でもノアは森の中は危険と言っていたから、ここは森の中ではなく、入口なのかもしれない。
「私たちは馬車を売って必要なものを買ってくるけど、食料と寝袋以外に必要なものは……零くんの服も買ってくるわね。 零くん、お姉ちゃんにちょっと触らせてくれるかな?」
「アメリア、お前、そういう趣味が……。」
「服のサイズ確認に決まっているでしょ。 バカなこと言ってないで、さっさと火を起こしなさいよ。 まだ夏だっていっても、この時間帯になったら肌寒いんだから。」
リアムが頷いたのかノアは御者台から降り、アメリアは荷台へ移ってきた。
アメリアはリアムと今後について話し始めたし、俺はノアの手伝いでもするかと荷台から降りかけていると、リアムたちの会話にノアの茶々が入った。
あえて口には出さないけど、そのからかいはまずいんじゃ……と思う間もなく、アメリアの鋭い視線がノアに突き刺さっていた。
「ノア、俺も手伝うよ。」
「悪い。 一緒に枝を拾ってくれるか?」
リアムも姉ちゃんって呼んでたところをみると、上から順にアメリア、リアム、ノアなんだろう。
アメリアの言うことは、素直に聞いておいた方が良さそうだ。
荷台から降りると俺はノアに声をかけ、二人で森の中へと入っていった。
初めて見る異世界!といっても、見た限り普通の森で、俺はまたしても異世界に来たという実感を抱くことができなかった。
そのため不安や恐怖もまだ感じることなく、林間学校にでも来ている気分だった。
枝を拾いながら辺りを見渡すと、馬車が止まっているのは街道から少し森の中に入っただけだが、高い木々が壁の役割を果たして街道からは死角になっているような場所。
そして思ったより時間は過ぎていたようで、辺りは夕焼けで赤く染まっている。
木々の隙間から差し込む夕陽を頼りにノアと一緒に枝を拾うと、俺たちは馬車へ戻り、リアムが手際良く集めてきた枝に火を起こした。
「うん、だいたいわかったわ。 すぐに大きくなるとは考えにくいけど、少し大きめの服も買っておくわね。」
焚き火で周囲が温かくなると、アメリアはリアムの助けを借りながら、零の腰に腕をまわしたり、自分との身長差を測ったりしていた。
そうして大体の採寸が終わると、アメリアはすでに御者台で待機していたノアと街道へ出ていった。
ここから町まで、どのぐらい距離があるかは分からないが、寝る頃までには戻って来れる距離なのだろう。
それまでに俺は作ってきた料理の温め直しでもしようと、荷台から下ろしていた大きな鞄へ向かったのだった。
この世界に来て初めての外!とテンションが上がったが、尾行するよう王様に命令された人間がどこにいるかわからないという理由で、荷台の幕が全て下ろされていたため外の景色は一切見えなかった。
リアムは鎧や剣などを返さなければならないと言って宿舎の方へ戻ったらしく、この馬車には乗っていない。
今、一緒に乗っているのは御者台に座っている男性と、俺たちと一緒に荷台にいる栗色のウェーブがかった背中まである髪が特徴の女性。
男性は背中しか見えないが、多分みんな二十代なんだろう。
「着いたわ。 ここでリアムが来るまで、ゆっくりしましょう。 大丈夫。 私が懇意にしている宿だから、匿ってもらえるわ。」
城を出発して十分もしない間に馬車は止まり、女性が立ち上がりながら降りるよう伝えてきた。
いつの間に後ろに回っていたのか、御者台に座っていた男性がカーテンのように下ろしていた布をめくり、荷台に登ってきた。
そして荷台の一番奥の隅でうずくまり、不安そうにしている零に近づくと安心させるように声をかけ始めた。
布をめくった時に見えた男性の顔は頬に斜めの傷痕があるものの、リアムとは違って面倒見のいい兄貴って雰囲気が漂っている爽やかな青年。
もしかしたら、俺と同い年かもしれない。
「なあ、悪いんだけど、零を連れてきてくれないか? 俺だと怖がられるみたいで……。」
女性の後に続いて馬車を降りようとしていると、遠慮がちに声をかけられた。
振り返って声のした方を見ると、男性が困ったように奥を指差した。
指さされた方を見た俺は、納得したように頷いた。
ああ……俺も最初は苦労したからなあ。
壁の方へ顔を向けて隅っこで蹲り、震えている零は早く怖いことが去ってくれないかと願いながら、じっと耐えている子どものようだった。
零とまともに関わろうと決めた一ヶ月前。
リビングに連れてきたはいいものの、ずっと怯えて部屋の隅から動こうとしない零にどう接していいか分からず、さっきの男性のように途方に暮れてリアムに相談したことがあった。
その時リアムに言われたのが、『自我が芽生える前から人間に怖い目、痛い目に遭わされてきたんだ。 零にとっては、お前も王様も、研究員もみんな同じ人間なんだよ。 自分は敵じゃないって、気長にわからせるしかないんじゃないか? 俺はその方法しかわからなかったから、そうしてきた。』だったんだよなあ。
結局俺も他に方法が思いつかなかったから毎日話しかけたりして、ようやく受け入れてもらえたのが、つい先日。
多分あの二人も慣れてもらうまでに、相当時間がかかるだろう。
「零、一緒に外に出よう。 あの人たちはリアムの仲間だから、零に怖いことや痛いことはしないよ。」
俺は零に近づくと、震えている背中にそっと手を乗せ、優しく声をかけた。
リアム以外からは話しかけられることがなかったせいか、あまり難しい言葉は理解できていないと教えられていたため、できるだけ簡単な言葉を選んで、彼らが敵ではないことを伝えた。
しかし零は今までに見たことがないほど怯えていて、慣れたばかりの俺の言葉では安心させることができなかった。
「お前ら、そのまま中にいろ。 このまま出発することにした。」
どれくらいの時間、零を説得していたのか、ギシっと音がして誰かが乗り込んできた気配がした後、リアムの声が後ろから聞こえてきた。
するとリアムの声に反応したのか、零がゆっくりと顔を上げるとこちらを振り返って見た。
そしてリアムを見つけると、ホッとしたような表情を見せた。
リアムは緊張からか少し過呼吸になっている零に近づくと、安心させるように頭を撫でながら街を出発すると言った。
ふと御者台の方を見ると先ほどの二人が乗り込んでいたため、俺が零に手こずっている間にリアムと今後について話し合いが行われていたんだろう。
「一応、正式に零を引き取ったから、罪人として追われることはない。」
「でも、あの王様が素直に零くんを渡すとも思えないわね。」
「ああ。 あの街のギルドで登録したら、追跡魔法を施された従魔の証を渡されるかもしれない。 だから別の町で、ギルド登録をした方がいいと思うんだ。 本当は別の国で登録したかったんだけど、一番近い町でもここから歩いて二週間はかかる。 その間の食料とか考えたら」
「俺たちは昨日のうちに退職して、ギルド登録も終わっている。 だから食料の買い出しなんかは俺たちがやるから、お前らは森にでも隠れていればいい。 零の安全を一番に考えようぜ。」
走り出した馬車は一度止まったが、そのあとは順調に走っている。
一度止まった時に御者台の男性が誰かと話していたが、その後馬車が走り出すと、おもむろにリアムが口を開いた。
その後三人で何やら難しい話を始めたが、この世界のことも、王様のこともよく知らない俺には理解できない。
零はリアムの悩んでいる様子を見て不安になったのか、助けを求めるように俺の元へ来た。
でもごめんよ、俺にも彼らの話はわからねえ。
ただ気持ちを少しでも紛らわせてやろうと、俺は零を連れて荷台の端に行くと少しだけ布を捲った。
「すごいな。 緑しかないぞ。」
「緑?」
布のわずかな隙間から見えたのは、一面草原の世界だった。
街からまだそう遠くには行っていないと思うのだが、馬車が通っている街道らしき整備された砂地を除いて、右も左も草原のようなものしか見えない。
もっと辺りを見渡したいが、これ以上開けるとリアムに怒られそうだから止めておこう。
それでも日本では田舎でしか見ることのできないような自然一杯の光景に感動しながら、膝立ちになっていた俺の前に座っている零に声をかけると、不思議そうに聞き返してきた。
「零、話せるようになったのか?」
葉山さんに声帯を切られてから一度も声を聞いたことがなかった俺は、驚いて零の肩を掴んだ。
馬車の走る音でかき消されそうなほど、小さな声。
でも確かに聞こえた。
「いってえな。 いきなり何するんだよ?」
「不必要に、零を怖がらせるんじゃねえ。」
嬉しさと信じられない気持ちで零を見ていると、いきなり頭を殴られた。
殴られた場所をさすりながら振り返って文句を言うと、リアムは零の方へ視線を向けながら不機嫌そうな表情で立っていた。
言われて改めて零を見ると、殴られるのかと不安そうな顔で俺を見ている。
「翔さん、だったか? そいつは俺たち以上に過保護だから、あんまり変なことはするなよ。」
「ノア、今まで零に会えなかったからって、変なこと言うんじゃねえ。」
零の反応からして、今まで掴まれたら痛いことをされてきたのだろうということに気づき、慌てて手を離していると、御者台に座っている男性が意味ありげに笑いながら忠告してきた。
するとその子どもじみたからかいを聞いて、リアムが呆れたように宥めていた。
そうか、ノアっていうのか。
長い名前じゃなくてよかった。
「あ、今さらなんだけど、俺、黒崎翔。 よろしく。」
「なんだ? お前ら、まだ自己紹介終わってなかったのか? あのバカはノア。 で、あっちの姉ちゃんはアメリアだ。」
そう言えば、自己紹介してない。
やっぱ仲間に入れてもらったんだし、こっちからするべきだよな。
俺が慌てて御者台の二人に向かって自己紹介をすると、零の頭を撫でていたリアムが驚いたように二人を見た。
自己紹介をリアムが合流するまでにしておくという約束でもあったのか、二人が気まずそうにあらぬ方へ視線を泳がせると、リアムは大きなため息をつき、俺に二人を紹介してくれた。
紹介された二人は手を挙げたり、会釈をしたりして挨拶をしてくれたが名前しかわからなかったから、これから色々聞いて仲良くなれたらいいかな。
そんなことを考えていると、馬車がゆっくりと止まった。
「これから森の中に入るのは危険だし、今日はここで野宿だな。」
周りが見えないため、何かあったのかと心配になって御者台の方を見ると、ノアがリアムに意見を聞こうと馬の手綱を握ったままこちらを振り返って見ていた。
ノアとアメリアの隙間から外の様子を伺うと、草原だった景色が一変し、辺りは木々が生い茂っていた。
でもノアは森の中は危険と言っていたから、ここは森の中ではなく、入口なのかもしれない。
「私たちは馬車を売って必要なものを買ってくるけど、食料と寝袋以外に必要なものは……零くんの服も買ってくるわね。 零くん、お姉ちゃんにちょっと触らせてくれるかな?」
「アメリア、お前、そういう趣味が……。」
「服のサイズ確認に決まっているでしょ。 バカなこと言ってないで、さっさと火を起こしなさいよ。 まだ夏だっていっても、この時間帯になったら肌寒いんだから。」
リアムが頷いたのかノアは御者台から降り、アメリアは荷台へ移ってきた。
アメリアはリアムと今後について話し始めたし、俺はノアの手伝いでもするかと荷台から降りかけていると、リアムたちの会話にノアの茶々が入った。
あえて口には出さないけど、そのからかいはまずいんじゃ……と思う間もなく、アメリアの鋭い視線がノアに突き刺さっていた。
「ノア、俺も手伝うよ。」
「悪い。 一緒に枝を拾ってくれるか?」
リアムも姉ちゃんって呼んでたところをみると、上から順にアメリア、リアム、ノアなんだろう。
アメリアの言うことは、素直に聞いておいた方が良さそうだ。
荷台から降りると俺はノアに声をかけ、二人で森の中へと入っていった。
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そして思ったより時間は過ぎていたようで、辺りは夕焼けで赤く染まっている。
木々の隙間から差し込む夕陽を頼りにノアと一緒に枝を拾うと、俺たちは馬車へ戻り、リアムが手際良く集めてきた枝に火を起こした。
「うん、だいたいわかったわ。 すぐに大きくなるとは考えにくいけど、少し大きめの服も買っておくわね。」
焚き火で周囲が温かくなると、アメリアはリアムの助けを借りながら、零の腰に腕をまわしたり、自分との身長差を測ったりしていた。
そうして大体の採寸が終わると、アメリアはすでに御者台で待機していたノアと街道へ出ていった。
ここから町まで、どのぐらい距離があるかは分からないが、寝る頃までには戻って来れる距離なのだろう。
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