転生したら世話係?

東雲

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「それじゃあ、ここから真面目な話をするぞ。」
辺りが真っ暗になる前に戻ってきたノアたちと夕食を済ませると、リアムはすぐに零を寝かせにかかった。
その行動がまるで零に早く寝て欲しいように映り、俺は訳がわからなかったが、ノアたちは理解しているようで休憩する様子もなく、夕食の片付けなどをしていた。
そして今までの疲れもあったのだろう、零が寝ると、リアムは焚き火を囲むように座った俺たちをぐるっと見回して真剣な表情で切り出した。

「まず翔。 お前の気持ちを教えてくれ。」
え、俺?
なんか悪いことでもしたか?
さっき何していいかわからなくて、手伝いもせずに座っていたこと?
それとも荷台で居眠りしてたこと?
焦ってノアたちを見たが、二人とも真剣な表情で俺を見ている。

「もし、元いた世界に帰れる方法があったら、帰りたいか?」
「へ? なんだ怒られるのかと思った。」
「なんかやらかしたのか?」
緊張しながら次の言葉を待っていたが、予想もしていなかった質問に、俺は思っていたことを口に出してしまった。
するとリアムは、追求するような視線で俺を見た。

「いや、してない……よ? あ、うん。 こっちの世界のこと全然わかんねえから、今の所って感じだけど、帰りたいとは思わないかな。 だって、もう死んだことになってるから、今さら戻ってもって感じなんだよな。 て言うか、帰れるの?」
「わからないわ。 ただ言い伝えに、ダンジョンを攻略し、力を認められた者はなんでも願いが叶う宝を手に入れることができるっていう言い伝えがあるの。 ただ、今見つかっているダンジョンは全部踏破させているけど、手に入れたっていう噂も聞かない。 まだ見つかっていないダンジョンの宝なのか、踏破できるだけの戦闘力が、その言い伝えの力じゃないのか、その辺のことは誰にもわからないの。 だからもし、翔くんが帰りたいって思っているのであれば、ダンジョンをしらみ潰しに巡っていかないとって考えて、リアムは聞いたのよ。」
やらかしたかどうか、正直わからねえ。
でもここは、してないって言っておいた方がいいよな。
リアムの視線から目を逸らすと何もやらかしていないと答え、元の世界についても正直に話した。
俺は孤児院で育ったから親もいないし、友達と呼べる奴もいない。
だから居なくなったところで心配している奴なんか一人もいないだろうし、何より、もう死んだことになっている。
未練もないし、帰りたいとも思わない。
でも、もしこの世界が、日本より劣悪な環境だったりしたら?
この世界のことをまだ何も知らないから、帰りたくないとも断言できない。
正直にそう伝えると、アメリアがリアムがなぜ急にそんなことを聞いてきたか教えてくれた。
やっぱリアム、いい奴だな。

「そうか。 なんか、ありがとな。」
お礼を言うと、リアムはそっぽを向いた。
その顔がどこか赤かった気がしたが、それは焚き火のせいだってことにしておこう。

「そしたら、あとは零についてだけだな。 お前らにも事前情報として、零が人間恐怖症だってことは伝えていたけど、今日実際に会ってどうだった?」
「確かに近づいたり、触ろうとしたら身構えて震えてたし、過呼吸も起こしてたな。」
「あれは私たちが、高レベルの魔物に睨まれた時と同じ症状よね。 それだけ零くんにとって、人間は怖い生き物なのよね。」
「あそこまで恐怖を植え込んだ王たちを許すことはできないけど、零が俺たちに恐怖を抱いてるからって、そこでやっぱり一緒に暮らすのはやめるわとはならないよ。 受け入れてもらえるよう、頑張るだけだな。」
「そうね。 優しく接していく。 これが私たちの答えよ。」
リアムは今度はノアとアメリアの方を見て、気持ちの確認をしている。
零を守りたいリアムにとっては、仲間であっても零に対して少しでも敵意や嫌悪感を抱いていたる人間は、味方ではないから連れていけないということなんだろうな。
しかしリアムの不安は杞憂はだったようで、ノアもアメリアも王様や研究員たちに対して怒ってはいるものの、零に対しては好意的というより守りたい存在として認識しているようだった。
二人の言葉を聞いたリアムは、安心したように笑顔を見せると持っていたコップを口元へと運んでいった。

「それで、隷属契約はどうなったんだ? 契約したにしては、お前らの関係は対等に見えたけど。」
確かに、ノアの言う通りだ。
隷属契約って名前の通り、主従関係みたいなものが出来上がるのかと思っていたが、馬車の中でのリアムと零はいつもと何も変わっていなかった。
俺も不思議に思いリアムを見ると、彼はコップを地面に置いて重たい口を開いた。

「隷属契約は成立した。 契約を行なったと同時に、俺は永続的な命令を二つ出した。 一つは俺が零に話しかけても、それは命令ではない。だから自分で考えて行動しろ。 どうしても命令をする時は、『命令する』とはっきり言う。 もう一つは辛い事やしんどい事があれば、包み隠さず報告すること。」
「その二つで、今までの関係性を壊さずにいられているわけね。」
話を聞いたノアは感心したようにリアムを見ているし、アメリアも納得したように頷いていた。
なんで今の説明で二人が理解できたのかわからないが、俺は全く話についていけてねえ。
誰か説明をお願いします。

「翔くん、隷属契約って何か知ってる?」
俺の顔を見て理解できていないことに気づいたのか、アメリアが質問をしてきた。
ここは見栄を張ってもしょうがないだろうと、俺は素直に首を横に振った。

「隷属契約っていうのは、奴隷の隷に、属性の属っていう漢字を使うの。 その字のごとく、契約された魔物は魂を縛られ、主人に対して絶対服従を強いられるわ。 そればかりか、主人に対して恐怖さえ抱くと言われているの。」
「恐怖を抱かせることで、反抗心を失わせるっていうことだろうな。」
「だから隷属契約をされた魔物は、感情を失うとまで言われているわ。 でも今日の零くんの態度。 翔くんから見て、どう思った?」
「どうって、いつもの零と変わらなかったな。 色んな人や物に怯えて……でもリアムのことはすごい信頼してて、甘えてる。 うん、いつも通りだな。」
「私たちは零くんとリアムの今までの関係を見たことがないけど、ここまで主人に対して心を許しているっていう事実だけでも信じられないの。 一般的な従魔契約でも、契約された魔物は自由が制限されるからか、主人に恨みや嫌悪感を抱くものも多いって聞くわ。 だから今までの二人の関係を知っている翔くんの感想を聞いて、リアムの命令の内容の凄さに驚いてるのよ。」
アメリアは近くに落ちていた石を拾うと、地面に隷属という文字を書きながら説明してくれた。
アメリアとノアが代わる代わる説明してくれているが、要は魂を縛られるとか、恐怖を抱かせるとか物騒な言葉が出てくるほど残酷な契約なのだろう。
俺は地下で見てきた零とリアムの関係を見たまま伝えたが、それを聞くとアメリアはさらに興奮していった。
でもあれ? 
謁見の間で契約が終わった後、零はリアムの前で片膝立ちをしていたような……。
そのことに引っかかったが、アメリアの興奮している様子を見ると言い出せる雰囲気ではなかった。

「アメリア、ちょっと落ち着け。 簡単に言うと、俺は零に今までと変わらない関係を築いていこう。 零が嫌じゃなければ、家族になろうって伝わるような、命令をしたってことだ。 それと一緒に、何度言っても体調が悪いことを隠す零のために、体調が悪い時はすぐ知らせろって言う命令をあえてした。 あと、お前の表情から察するに、謁見の間の零の態度に引っかかっているみたいだけど、あれは契約を行う前に、契約が完了したらひざまずくよう指示しておいたんだよ。」
興奮のあまり今にも大声で叫びそうなアメリアに、リアムは一言声をかけると、俺の方へ向き直った。
そして命令の内容についてもう一度説明してくれたのだが、俺のレベルに合わせてくれたのか、今回の説明はわかりやすかった。
しかも謁見の間での零の態度に対する疑問も見破られていたようで、そちらについても説明してくれた。

「でも何で、紋章が二箇所に出たんだ?」
俺が納得していると、ノアが聞いてもいいのか探るように、ゆっくりとリアムに質問した。
二箇所というか、紋章なんかあったっけ?
俺が思い出そうと頭を捻っているとリアムが立ち上がり、寝ている零へと近づいていった。

「ほら、首と腕。 この二箇所に紋章が刻まれているんだよ。」
ぐっすりと眠っている零を抱えて戻ってくると、リアムは俺に見せるように零のパジャマの袖をめくってくれた。
そこには黒いうねった線が描かれている。
何の絵なんだろうとしばらく眺めて、ようやく腕の紋章は焔のような、波のようなものを表していて、首は狼の遠吠えのようなデザインだと気づいた。
紋章ってなんていうか、すごく抽象的なデザインなんだな。
そんなことを考えていると、俺の横で紋章を見ていたノアが何かに気づいたようで首を捻っていた。

「なあ、リアム。 この場所を選んだのって、意図的にか?」
「ああ。 お前らも聞いたことはあるだろ? 従魔契約をする時に、主人となるものは希望する場所に紋章を入れることができ、そこに怪我や病気があった場合、治すことができるっていう言い伝え。」
「ええ。」
「それが隷属契約でもできるんじゃないかと思って、王様たちに怪しまれずに触れる喉と右腕に、俺の血をつけたんだ。」
「それで結果は、成功だったのね。」
「完治にはならなかったみたいだから、成功かどうか微妙なところだけどな。」
何に引っかかっているんだろうとノアの横顔を盗み見ていると、ノアは零の首元を指差しながらリアムに尋ねた。
するとリアムは誰でも知っていることだろうと言うように説明を始め、アメリアも返事をしていたが、俺には何のことかわからない。
この世界の一般常識だけじゃなくて、そういう言い伝えとかも覚えていかないと、話についていけなくなりそうだな。
ただ言われてみたら確かに、紋章は傷痕付近に浮かび上がっていた。
首の斜めに入った大きな切り傷は、残念ながら紋章の狼の横顔が切り傷の方向とは逆を向いていたため、ほとんど隠れていないが、腕の刺し傷に関しては、すぐ近くで見ない限りは気づかないほど綺麗に隠れている。
紋章と重なり見えにくくなったのは計算外だっただろうが、とっさに言い伝えを思い出し、傷を治してやろうと行動したリアムの判断力に俺は感心していた。
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