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第二章 陰謀恋愛編
200話記念SS お別れ会
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食べ頃の豚亭で、カイルと二人で明日の動きを確認していると、来客があると宿の従業員から告げられた。
「おーい、旦那方? 今大丈夫っスか?」
「犬っころ、何の用事だ」
カイルがジロリとテオを見下ろす。彼はハハッと口元を引きつらせながら笑ってみせた。
「お二人のところを邪魔してすみませんって。でもでも、明日出発でしょ? お別れは言ったけど、やっぱり送別会したいねって、レジーが」
「送別会?」
んなもん開いてもらうほどの、長いつきあいだったわけでもねえんだが……ずいぶんレジオットには懐かれてたからな。
またすぐ会えるとはいえ、寂しいんだろう。せっかくもてなしてくれるっていうなら、今晩の宿の夕飯はキャンセルして顔を出すか。
「行こうぜカイル」
「……仕方ないな」
カイルは面倒そうにしていたが、反論はせずについてくる運びとなった。テオがホッと胸を撫で下ろしている。
「よかったー! じゃ、日暮れ頃に邸に来てほしいんで、よろしくお願いするっス!」
宿でイチャつきながら、本を読んだり耳掻きしたりとのんびりして、日暮れと共にクインシーの邸に赴く。
兎メイドに案内された部屋に着くと、なにやら扉越しに話し声がするのが聞こえた。
「テオ、僕緊張してきた。イツキ達に喜んでもらえるかな」
「だーいじょうぶだってレジー、旦那方は絶対喜ぶって俺が保証するっス!」
「レジオット、落ち着かないのはわかるけどさ。そんなにウロウロしないで座って待っていた方が、気分も落ち着くんじゃないかな?」
コンコンとノックをすると、バタバタと忙しない足音が近づいてきた。
レジオットはそっと扉を開けて、俺達の顔を見つけると、はにかむような笑みを浮かべた。
「今日は来てくれてありがとう、イツキ、カイルさん」
「お招きありがとうよ、送別会なんて開いてもらって悪いな」
「僕が勝手にやりたかっただけだから、むしろつきあってくれてありがとう。どうぞ入って」
部屋の中にはいい匂いが漂っていた。部屋の中央のテーブルの上には、豪華な料理が所狭しと並んでいる。
「おお、美味そうだ」
「イツキ、お腹空いてる? だったら早速食べよう」
「乾杯が先っスよ、はいこれがイツキの旦那の分で、こっちがカイルの旦那ね」
「それじゃ、俺が音頭をとろうか。対抗戦の素晴らしい成績を讃えて、乾杯!」
渡されたワイングラスを掲げる。今日はカイルにもお酒を用意されたらしく、彼はちょっと目を見張った後、満足そうな表情で一口ワインを口に含んだ。
「まあまあだ」
「よかったです、お口にあったみたいで」
そっけないカイルの感想に、レジオットはホッとしたように頷きながら返答している。なんかこの二人のやりとり見てるのって面白いな。
「イツキの旦那、俺のおススメの端肉パンも食べてみてほしいっス! めっちゃ美味しいんで」
「これか? じゃあもらうわ……うん、美味いなコレ」
「でしょー? 使用人のまかないなんっスけど、今日はぜひ旦那方にもこの美味しさを知ってもらいたいと思って、わざわざ作ってもらったんだー」
端肉パンをかじっていると、レジオットもおずおずと料理を差しだしてきた。
「イツキ、これ僕が作ったんだ。食べてみてほしい」
「木の実パイじゃねえか、レジオットは料理もできるんだな」
「ううん。できないけど、これだけはどうしても作ってみたくて、厨房の人に教えてもらったんだ」
早速切り分けてもらって一口含む。カリッとした木の実が香ばしく、パイの甘みもちょうどよかった。
「美味しいぜコレ。カイルも食べてみろよ」
「火が通り過ぎていて味がしなさそうだ」
「もったいねえな、こんなに美味しいのに味わえないなんて」
嘆いているとカイルが俺の手を引き寄せて、味見をしてくれた。
しゃくしゃくと苦い顔で咀嚼し、一言。
「味がしない」
「本当に魔人の味覚って不思議だよな、どうなってんだよ」
「俺からすれば、魔力を味わえないお前達の方こそ、不可思議な存在だ」
異文化の壁は根深いな、果たして共存する道はあるのか……
真面目な思考に囚われそうになっていると、クインシーがちょいちょいと俺の肩をつついた。
ローストビーフの皿を両手で捧げ持つ彼は、満面の笑みで企むように笑いかけてくる。
「イツキ、俺もコレ作ってみたんだよ。食べてみてほしいなあ」
「いや、それ絶対ウソだろ」
「ボスは料理したことないはずっスよ。それに厨房の人が火を通してるところも見たんで」
「ちょっと、ネタバラシが早すぎるよテオ。料理くらいしたことあるからね? 一回だけだけど」
「え、料理したことあったんっスね? 知りませんでした、すみませんボス」
「そんな真正面から謝られても、返答に困るんだよね。もうちょっと一緒にふざけてくれて、よかったんだけどなあ」
ふざけてほしいと言われて、真面目なレジオットがキリッとした顔で便乗した。
「さすがクインシー様です。僕の尊敬するクインシー様なら、料理なんて朝飯前です。初めてでもプロ級に作れます」
「あはは、それほどでも……って、なんか虚しいねこの遊び。うん、やめようか」
その後もおおいに盛り上がり、楽しい時間を過ごした。
こいつらと話すのは気楽でいいよな。またこういう時間が、いつか持てるといいな。
「おーい、旦那方? 今大丈夫っスか?」
「犬っころ、何の用事だ」
カイルがジロリとテオを見下ろす。彼はハハッと口元を引きつらせながら笑ってみせた。
「お二人のところを邪魔してすみませんって。でもでも、明日出発でしょ? お別れは言ったけど、やっぱり送別会したいねって、レジーが」
「送別会?」
んなもん開いてもらうほどの、長いつきあいだったわけでもねえんだが……ずいぶんレジオットには懐かれてたからな。
またすぐ会えるとはいえ、寂しいんだろう。せっかくもてなしてくれるっていうなら、今晩の宿の夕飯はキャンセルして顔を出すか。
「行こうぜカイル」
「……仕方ないな」
カイルは面倒そうにしていたが、反論はせずについてくる運びとなった。テオがホッと胸を撫で下ろしている。
「よかったー! じゃ、日暮れ頃に邸に来てほしいんで、よろしくお願いするっス!」
宿でイチャつきながら、本を読んだり耳掻きしたりとのんびりして、日暮れと共にクインシーの邸に赴く。
兎メイドに案内された部屋に着くと、なにやら扉越しに話し声がするのが聞こえた。
「テオ、僕緊張してきた。イツキ達に喜んでもらえるかな」
「だーいじょうぶだってレジー、旦那方は絶対喜ぶって俺が保証するっス!」
「レジオット、落ち着かないのはわかるけどさ。そんなにウロウロしないで座って待っていた方が、気分も落ち着くんじゃないかな?」
コンコンとノックをすると、バタバタと忙しない足音が近づいてきた。
レジオットはそっと扉を開けて、俺達の顔を見つけると、はにかむような笑みを浮かべた。
「今日は来てくれてありがとう、イツキ、カイルさん」
「お招きありがとうよ、送別会なんて開いてもらって悪いな」
「僕が勝手にやりたかっただけだから、むしろつきあってくれてありがとう。どうぞ入って」
部屋の中にはいい匂いが漂っていた。部屋の中央のテーブルの上には、豪華な料理が所狭しと並んでいる。
「おお、美味そうだ」
「イツキ、お腹空いてる? だったら早速食べよう」
「乾杯が先っスよ、はいこれがイツキの旦那の分で、こっちがカイルの旦那ね」
「それじゃ、俺が音頭をとろうか。対抗戦の素晴らしい成績を讃えて、乾杯!」
渡されたワイングラスを掲げる。今日はカイルにもお酒を用意されたらしく、彼はちょっと目を見張った後、満足そうな表情で一口ワインを口に含んだ。
「まあまあだ」
「よかったです、お口にあったみたいで」
そっけないカイルの感想に、レジオットはホッとしたように頷きながら返答している。なんかこの二人のやりとり見てるのって面白いな。
「イツキの旦那、俺のおススメの端肉パンも食べてみてほしいっス! めっちゃ美味しいんで」
「これか? じゃあもらうわ……うん、美味いなコレ」
「でしょー? 使用人のまかないなんっスけど、今日はぜひ旦那方にもこの美味しさを知ってもらいたいと思って、わざわざ作ってもらったんだー」
端肉パンをかじっていると、レジオットもおずおずと料理を差しだしてきた。
「イツキ、これ僕が作ったんだ。食べてみてほしい」
「木の実パイじゃねえか、レジオットは料理もできるんだな」
「ううん。できないけど、これだけはどうしても作ってみたくて、厨房の人に教えてもらったんだ」
早速切り分けてもらって一口含む。カリッとした木の実が香ばしく、パイの甘みもちょうどよかった。
「美味しいぜコレ。カイルも食べてみろよ」
「火が通り過ぎていて味がしなさそうだ」
「もったいねえな、こんなに美味しいのに味わえないなんて」
嘆いているとカイルが俺の手を引き寄せて、味見をしてくれた。
しゃくしゃくと苦い顔で咀嚼し、一言。
「味がしない」
「本当に魔人の味覚って不思議だよな、どうなってんだよ」
「俺からすれば、魔力を味わえないお前達の方こそ、不可思議な存在だ」
異文化の壁は根深いな、果たして共存する道はあるのか……
真面目な思考に囚われそうになっていると、クインシーがちょいちょいと俺の肩をつついた。
ローストビーフの皿を両手で捧げ持つ彼は、満面の笑みで企むように笑いかけてくる。
「イツキ、俺もコレ作ってみたんだよ。食べてみてほしいなあ」
「いや、それ絶対ウソだろ」
「ボスは料理したことないはずっスよ。それに厨房の人が火を通してるところも見たんで」
「ちょっと、ネタバラシが早すぎるよテオ。料理くらいしたことあるからね? 一回だけだけど」
「え、料理したことあったんっスね? 知りませんでした、すみませんボス」
「そんな真正面から謝られても、返答に困るんだよね。もうちょっと一緒にふざけてくれて、よかったんだけどなあ」
ふざけてほしいと言われて、真面目なレジオットがキリッとした顔で便乗した。
「さすがクインシー様です。僕の尊敬するクインシー様なら、料理なんて朝飯前です。初めてでもプロ級に作れます」
「あはは、それほどでも……って、なんか虚しいねこの遊び。うん、やめようか」
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