38 / 91
第三章 魔人救済編
りんこさんちの子とコラボ番外編
しおりを挟む
前書き
ツイッターで交流させてもらっております絵師様、ばばりんこ様のキャラクターとコラボした話です。
イツキが珍しい異国の商品を買い漁ります。
読まずとも本編の展開とは関わりがないので、飛ばしても支障はありません。
読んでもいいよという方はスクロールどうぞ。
─────────
またダンジョンで稼ぐべく、リドアートがダンジョンの外に出かけているであろう、夕暮れ時に出かけてみた。
するとダンジョン前で、誰かが揉めているのが視界に入る。なんだあいつら。見たことのない獣人がいるぞ。
揉めているのはダンジョンの猪門番と、二人の見知らぬ青年だった。
一人は俺よりちょっと大きい程度の、茶髪垂れ耳の兎獣人で、カイルくらい背が高いもう一人は……魔族のように耳が尖っているが、角がない。
なんの獣人だ? それとも魔人? な訳ないよな……彼は地面の上に布を敷き、異国の気配がする怪しげな商品を並べていた。
「だから、ここで商売されちゃ困るんだ」
「ちょっとくらい見逃してくれよ、門番さん。ほら、珍しい異国のお香だぞ。こいつをやるからちょっとだけ、ここで商売させてくれねえかな」
謎の獣人は、緑色の髪をしている。彼の長髪は下の部分が薄紫に染まっていて、ファンタジックな見た目をしていた。
この獣人世界では、基本的に動物の色の髪やら目の色ばかりだから、緑の髪なんぞ見たことがない。染めてんのかな、ちょっと興味が出てきた。
「なあ、どうしたんだ?」
門番に声をかけると、彼はぱあっと笑顔になった。
「お、ちょうどいいところに! この人達にマーシャルのルールを教えていたんだよ。兎のあんちゃんも知ってるだろ、ここで商売しちゃいけねえって!」
「いや、初耳だなあ」
「知らなかったのかよ!? でもな、ダンジョン前に露店が出てるとこなんて、見たことねえだろ? つまり、ここで商売しちゃダメってことなんだよ」
商売しようと思ったことがなかったから、知らなかったな。こいつら、おそらく旅人だろ? 俺と同じように無知だったんだろう。
大きなリュックが二人分、無造作に道端に置かれており、二人とも旅装を身につけている。
「なあアンタら、ここで商売しちゃダメなんだってさ。かわりと言っちゃなんだが、場所を変えて俺になんか売ってくれないか?」
「お前誰だよ」
「樹だ。こっちはカイル。俺達はダンジョン探索者なんだ、よろしくな」
ギロっと鋭い目つきで睨んできた謎の獣人は、腕を組んでニヒルに口の端を釣り上げながら、自己紹介をした。
「俺はダン。後ろにいるのはトゥーリだ」
「はじめましてイツキさん、それにカイルさん」
ダンの後ろからひょっこり顔を出したトゥーリは、恥ずかしそうに微笑んだ。俺もにこっと笑い返しておく。
「場所を変えようぜ。商品をみせてくれよ」
「ダンジョン探索者か、稼いでるんだろうな。いいぞ、待ってろ今荷物をまとめっから」
ダンは手早く商品をまとめると、俺達の方に寄ってきた。猪門番に感謝されながら、手を振って別れる。
黄色っぽい、これまた稀有な色の目をしたダンからは、煙草のような香りが漂ってくる。彼はじろっと俺を見ながら問いかけてきた。
「どこで売ればいいんだ」
「どこがいいだろうな……カイル、なんかいい場所を知らないか?」
「さあな。この町のルールなど俺も把握していない」
「だよなあ。じゃ、家に呼ぶか?」
「あの辺りでいいんじゃないか」
カイルはダンジョンから離れた場所にある、公園を指差した。
木がほどよく生えていて目隠しになりそうだし、短時間商談するだけなら、あそこでよさそうだな。
「そこにするか」
二人組を連れて公園のベンチに腰かけ、早速商品を見せてもらった。ゴソゴソとリュックを漁ったダンは、次から次へと珍しい品を取りだす。
「お前はどういうものに興味があるんだ? 塩やスパイス、タリスマン、他にもお香や煙草や、薬の材料なんかもあるぞ」
「スパイスや薬の材料が気になるな」
「だったらこれなんてどうだ。クセになる風味だぞ」
黄色い粉の入った瓶を手渡される。トゥーリが補足するように説明をつけ加えた。
「タメリクっていうんですけど、土っぽいいい匂いがするんですよ。僕は好きです」
「へえ、開けて匂いを嗅いでみてもいいか?」
「構わねえよ」
ダンの許可をもらえたので、蓋を開けて匂いを嗅いでみた。ちょっと苦味を感じる香りだが、いい匂いだな。
「アンタも嗅いでみてくれ」
カイルに手渡すと、彼は眉をしかめて首を横に振った。
「嗅ぎ慣れない臭いだ」
「そうか? 俺は好きだけどな」
カレーが食べたくなるような匂いだ。あー、ダメだ想像したら食いたくなってきた。
この世界にカレーってないのか……こいつら知ってたりしねえかな? 遠回しに質問をしてみることにする。
「ダンとトゥーリは、遠くから旅をしてきたのか?」
「そうだ。南から海を渡ってきて、ずっと陸地を北上してここまできた」
へえ、海か。まだこの世界じゃ見たことねえな。
「なんでも、マーシャルには評判のいいダンジョンがあって、魔人っていう怖い種族がいるらしいからな。興味本意で見にきたんだ」
魔人ならアンタの目の前にいるけどな、とは言わないでおく。カイルに目配せすると、フッと笑われた。
「そうか、アンタのような種族は、南の大陸にはよくいるのか?」
「いるな。俺は海トカゲ族だが、この大陸にはどうやら同胞はいないらしい。よく珍しがられるぜ」
海トカゲ族……爬虫類の獣人……いや、獣じゃないから爬虫人になるのか? そんなのもいるのかこの世界には。世界は広いな。
旅の話を聞きながら、他のスパイスも見せてもらう。クミンっぽいものやナツメグっぽいものを見つけたので、タメリクとあわせて購入する。
「景気がいいじゃねえか、さすがダンジョン探索者様だ」
「はは、まあな。ところで、このスパイスを使ったレシピとか教えてくれたりしねえ?」
「レシピありますよ、どうぞ」
トゥーリは細かいところによく気がつくようで、折りたたんだ紙を取り出して俺にくれた。
ちゃんと獣人王国で使われている文字で書かれている。南の大陸と言語が一緒だったりすんのかな。
「読みやすいな。アンタが書いたのか? 大陸とは文字が違うんじゃねえか?」
「がんばって覚えました」
「すげえな。ありがとよ、もらっておくぜ」
このレシピがあれば、スープカレーっぽいものができそうだ。
ついでにレシピに書かれていた他の材料も買いつけると、ダンは商機を逃すまいとどんどん商品を披露しはじめた。
「薬の材料も欲しいって言ってたな。見てくれ、貴重なコビトトカゲの尻尾もあるぞ」
干からびた尻尾を誇らしげに見せられても、返答に困るな。カイルを振り返って確認する。
「これって、ポーションの材料になったりとかは……」
「しない」
「だよな」
「だったらこれとか、ナマクイドリの尾羽!」
虹色の尾羽を目の前で掲げられるが、カイルは一刀両断する。
「買わない」
「ナンマンゾウの耳!」
「いらん」
「それじゃ俺のとっておき、マクビラスクジラの糞はどうだぁ!」
「絶対にいらん」
ぷゎんと塩っぽいような、仄かに甘いような、なんとも言えない香りがその場に漂った。白っぽい見た目だし、糞というよりは香料みてえだな。
「いい匂いじゃねえか」
「買うなよイツキ」
「そんなにダメか……? そこまでアンタが拒否するのも珍しいな」
「そもそも、ポーションの材料に動物性の物は使わない。必要ないだろう」
たしかにな、香水とか別にいらねえし、買う必要はねえか。俺はカイルの自然な匂いの方が好きだしな。
「雑多な匂いはいらない。お前自身の匂いが何より香り高い」
「ちょ、カイル……! わかった、買わないからそれ以上言うなよ」
俺と同じことを思ってくれてたのか、嬉しいけど初対面の人達の前でのろけてんじゃねえよ!
俺はごまかすようにして、ダンとトゥーリに苦笑した。
「スパイスを大量に買えたし、今日はこのくらいにしとくわ」
「そうか……たくさん買ってくれてありがとうよ」
ダンが大人しく商品を仕舞いはじめた。トゥーリは困ったように笑いながら、組紐で編まれた玉を俺達に一つづつ差しだした。
「すみません、ダンさんが暴走してしまって……あの、お詫びといってはなんですが、よかったらこちらをもらってください」
「これは?」
「タリスマンです。ダンさんが一生懸命石を磨いて、僕が編みこんだので、ご利益があると思います!」
「そうか、これにはどういう効果があるんだ?」
「魔除けです。これがあればきっと、悪魔に食べられそうになっても、守ってくれると思います」
思わず渋い顔をしたカイルと顔を見あわせてから、二人分のタリスマンを受け取る。にっこり笑ってトゥーリに返答した。
「そりゃ頼もしいな。大事にするぜ」
「ありがとうございます!」
商品を全てリュックに詰めこんだダンが立ち上がる。夕陽が彼を照らし、長い影が公園の草地にのびていた。
「俺達はそろそろ行くぜ。商売ができる場所を探さないとな」
「そうですね。宿も探さないといけませんし」
「だったら、白枝のせせらぎ亭ってとこがオススメだ。料理も美味いし」
馴染みの宿を紹介すると、彼らは喜んで礼を言ってくれた。
「いいですね、ダンさん! そこにしましょうよ」
「部屋が空いてるといいけどな」
「とにかく行ってみましょう。ああでも、リゴの実パイを買えなかったですね……」
「泊まって、明日買えばいいだろ」
「そうですね、そうしましょう」
トゥーリはリゴの実パイが好きなのか。好物が被ってるし、同じ垂れ耳の兎獣人だし、ちょっと親近感が湧いてきた。
「じゃあな。またどこかで会ったら、商品を見せてくれ」
「ああ。面白い物を仕入れておくな」
「今日はありがとうございました、イツキさん、カイルさん! またどこかで会えますように!」
手を振って彼らと別れて、家路につく。手の中のタリスマンを眺めていると、一つカイルに奪われた。
「あ、こら」
「一つは俺にくれた物だろう」
「そうだけどさ。魔人が魔除けを持ってていいのかよ?」
「お前もわかっているだろう。これは魔力も何も宿っていない、ただの飾りだ」
綺麗な玉だが、なんの魔力も込められていないことは、もちろん俺にもわかっている。
「家に飾るか。どこがいいかな、玄関か窓辺か」
「魔除けなら玄関でいいんじゃないか」
「アンタさっき信じてないって言っただろ?」
「こういう物は気の持ちようだ。信じれば効果があるかもしれない」
「なら試してみるか。カイルが玄関を通れなくなったりとか、しないといいけどな」
ふざけあいながら帰って、早速玄関の内側にとりつけた。うん、華やかになっていいじゃねえか。
その後はトゥーリにもらったレシピを参考にしながら、カレースープもどきを作って食べた。
カイルは匂いに辟易としていたが、俺は久しぶりのカレーに舌鼓を打った。悪いなカイル、匂いは後で風呂に入って落とすからさ。
その日の夜、俺はなにやら面白い夢を見ていたようだ。カイルいわく、寝言を言いながら笑っていたらしい。
本当に通れないとか、ウケる……とか言いながら、含み笑いをしてたんだってよ。
起きた時には夢の内容を、綺麗さっぱり忘れていたから残念だ。
ツイッターで交流させてもらっております絵師様、ばばりんこ様のキャラクターとコラボした話です。
イツキが珍しい異国の商品を買い漁ります。
読まずとも本編の展開とは関わりがないので、飛ばしても支障はありません。
読んでもいいよという方はスクロールどうぞ。
─────────
またダンジョンで稼ぐべく、リドアートがダンジョンの外に出かけているであろう、夕暮れ時に出かけてみた。
するとダンジョン前で、誰かが揉めているのが視界に入る。なんだあいつら。見たことのない獣人がいるぞ。
揉めているのはダンジョンの猪門番と、二人の見知らぬ青年だった。
一人は俺よりちょっと大きい程度の、茶髪垂れ耳の兎獣人で、カイルくらい背が高いもう一人は……魔族のように耳が尖っているが、角がない。
なんの獣人だ? それとも魔人? な訳ないよな……彼は地面の上に布を敷き、異国の気配がする怪しげな商品を並べていた。
「だから、ここで商売されちゃ困るんだ」
「ちょっとくらい見逃してくれよ、門番さん。ほら、珍しい異国のお香だぞ。こいつをやるからちょっとだけ、ここで商売させてくれねえかな」
謎の獣人は、緑色の髪をしている。彼の長髪は下の部分が薄紫に染まっていて、ファンタジックな見た目をしていた。
この獣人世界では、基本的に動物の色の髪やら目の色ばかりだから、緑の髪なんぞ見たことがない。染めてんのかな、ちょっと興味が出てきた。
「なあ、どうしたんだ?」
門番に声をかけると、彼はぱあっと笑顔になった。
「お、ちょうどいいところに! この人達にマーシャルのルールを教えていたんだよ。兎のあんちゃんも知ってるだろ、ここで商売しちゃいけねえって!」
「いや、初耳だなあ」
「知らなかったのかよ!? でもな、ダンジョン前に露店が出てるとこなんて、見たことねえだろ? つまり、ここで商売しちゃダメってことなんだよ」
商売しようと思ったことがなかったから、知らなかったな。こいつら、おそらく旅人だろ? 俺と同じように無知だったんだろう。
大きなリュックが二人分、無造作に道端に置かれており、二人とも旅装を身につけている。
「なあアンタら、ここで商売しちゃダメなんだってさ。かわりと言っちゃなんだが、場所を変えて俺になんか売ってくれないか?」
「お前誰だよ」
「樹だ。こっちはカイル。俺達はダンジョン探索者なんだ、よろしくな」
ギロっと鋭い目つきで睨んできた謎の獣人は、腕を組んでニヒルに口の端を釣り上げながら、自己紹介をした。
「俺はダン。後ろにいるのはトゥーリだ」
「はじめましてイツキさん、それにカイルさん」
ダンの後ろからひょっこり顔を出したトゥーリは、恥ずかしそうに微笑んだ。俺もにこっと笑い返しておく。
「場所を変えようぜ。商品をみせてくれよ」
「ダンジョン探索者か、稼いでるんだろうな。いいぞ、待ってろ今荷物をまとめっから」
ダンは手早く商品をまとめると、俺達の方に寄ってきた。猪門番に感謝されながら、手を振って別れる。
黄色っぽい、これまた稀有な色の目をしたダンからは、煙草のような香りが漂ってくる。彼はじろっと俺を見ながら問いかけてきた。
「どこで売ればいいんだ」
「どこがいいだろうな……カイル、なんかいい場所を知らないか?」
「さあな。この町のルールなど俺も把握していない」
「だよなあ。じゃ、家に呼ぶか?」
「あの辺りでいいんじゃないか」
カイルはダンジョンから離れた場所にある、公園を指差した。
木がほどよく生えていて目隠しになりそうだし、短時間商談するだけなら、あそこでよさそうだな。
「そこにするか」
二人組を連れて公園のベンチに腰かけ、早速商品を見せてもらった。ゴソゴソとリュックを漁ったダンは、次から次へと珍しい品を取りだす。
「お前はどういうものに興味があるんだ? 塩やスパイス、タリスマン、他にもお香や煙草や、薬の材料なんかもあるぞ」
「スパイスや薬の材料が気になるな」
「だったらこれなんてどうだ。クセになる風味だぞ」
黄色い粉の入った瓶を手渡される。トゥーリが補足するように説明をつけ加えた。
「タメリクっていうんですけど、土っぽいいい匂いがするんですよ。僕は好きです」
「へえ、開けて匂いを嗅いでみてもいいか?」
「構わねえよ」
ダンの許可をもらえたので、蓋を開けて匂いを嗅いでみた。ちょっと苦味を感じる香りだが、いい匂いだな。
「アンタも嗅いでみてくれ」
カイルに手渡すと、彼は眉をしかめて首を横に振った。
「嗅ぎ慣れない臭いだ」
「そうか? 俺は好きだけどな」
カレーが食べたくなるような匂いだ。あー、ダメだ想像したら食いたくなってきた。
この世界にカレーってないのか……こいつら知ってたりしねえかな? 遠回しに質問をしてみることにする。
「ダンとトゥーリは、遠くから旅をしてきたのか?」
「そうだ。南から海を渡ってきて、ずっと陸地を北上してここまできた」
へえ、海か。まだこの世界じゃ見たことねえな。
「なんでも、マーシャルには評判のいいダンジョンがあって、魔人っていう怖い種族がいるらしいからな。興味本意で見にきたんだ」
魔人ならアンタの目の前にいるけどな、とは言わないでおく。カイルに目配せすると、フッと笑われた。
「そうか、アンタのような種族は、南の大陸にはよくいるのか?」
「いるな。俺は海トカゲ族だが、この大陸にはどうやら同胞はいないらしい。よく珍しがられるぜ」
海トカゲ族……爬虫類の獣人……いや、獣じゃないから爬虫人になるのか? そんなのもいるのかこの世界には。世界は広いな。
旅の話を聞きながら、他のスパイスも見せてもらう。クミンっぽいものやナツメグっぽいものを見つけたので、タメリクとあわせて購入する。
「景気がいいじゃねえか、さすがダンジョン探索者様だ」
「はは、まあな。ところで、このスパイスを使ったレシピとか教えてくれたりしねえ?」
「レシピありますよ、どうぞ」
トゥーリは細かいところによく気がつくようで、折りたたんだ紙を取り出して俺にくれた。
ちゃんと獣人王国で使われている文字で書かれている。南の大陸と言語が一緒だったりすんのかな。
「読みやすいな。アンタが書いたのか? 大陸とは文字が違うんじゃねえか?」
「がんばって覚えました」
「すげえな。ありがとよ、もらっておくぜ」
このレシピがあれば、スープカレーっぽいものができそうだ。
ついでにレシピに書かれていた他の材料も買いつけると、ダンは商機を逃すまいとどんどん商品を披露しはじめた。
「薬の材料も欲しいって言ってたな。見てくれ、貴重なコビトトカゲの尻尾もあるぞ」
干からびた尻尾を誇らしげに見せられても、返答に困るな。カイルを振り返って確認する。
「これって、ポーションの材料になったりとかは……」
「しない」
「だよな」
「だったらこれとか、ナマクイドリの尾羽!」
虹色の尾羽を目の前で掲げられるが、カイルは一刀両断する。
「買わない」
「ナンマンゾウの耳!」
「いらん」
「それじゃ俺のとっておき、マクビラスクジラの糞はどうだぁ!」
「絶対にいらん」
ぷゎんと塩っぽいような、仄かに甘いような、なんとも言えない香りがその場に漂った。白っぽい見た目だし、糞というよりは香料みてえだな。
「いい匂いじゃねえか」
「買うなよイツキ」
「そんなにダメか……? そこまでアンタが拒否するのも珍しいな」
「そもそも、ポーションの材料に動物性の物は使わない。必要ないだろう」
たしかにな、香水とか別にいらねえし、買う必要はねえか。俺はカイルの自然な匂いの方が好きだしな。
「雑多な匂いはいらない。お前自身の匂いが何より香り高い」
「ちょ、カイル……! わかった、買わないからそれ以上言うなよ」
俺と同じことを思ってくれてたのか、嬉しいけど初対面の人達の前でのろけてんじゃねえよ!
俺はごまかすようにして、ダンとトゥーリに苦笑した。
「スパイスを大量に買えたし、今日はこのくらいにしとくわ」
「そうか……たくさん買ってくれてありがとうよ」
ダンが大人しく商品を仕舞いはじめた。トゥーリは困ったように笑いながら、組紐で編まれた玉を俺達に一つづつ差しだした。
「すみません、ダンさんが暴走してしまって……あの、お詫びといってはなんですが、よかったらこちらをもらってください」
「これは?」
「タリスマンです。ダンさんが一生懸命石を磨いて、僕が編みこんだので、ご利益があると思います!」
「そうか、これにはどういう効果があるんだ?」
「魔除けです。これがあればきっと、悪魔に食べられそうになっても、守ってくれると思います」
思わず渋い顔をしたカイルと顔を見あわせてから、二人分のタリスマンを受け取る。にっこり笑ってトゥーリに返答した。
「そりゃ頼もしいな。大事にするぜ」
「ありがとうございます!」
商品を全てリュックに詰めこんだダンが立ち上がる。夕陽が彼を照らし、長い影が公園の草地にのびていた。
「俺達はそろそろ行くぜ。商売ができる場所を探さないとな」
「そうですね。宿も探さないといけませんし」
「だったら、白枝のせせらぎ亭ってとこがオススメだ。料理も美味いし」
馴染みの宿を紹介すると、彼らは喜んで礼を言ってくれた。
「いいですね、ダンさん! そこにしましょうよ」
「部屋が空いてるといいけどな」
「とにかく行ってみましょう。ああでも、リゴの実パイを買えなかったですね……」
「泊まって、明日買えばいいだろ」
「そうですね、そうしましょう」
トゥーリはリゴの実パイが好きなのか。好物が被ってるし、同じ垂れ耳の兎獣人だし、ちょっと親近感が湧いてきた。
「じゃあな。またどこかで会ったら、商品を見せてくれ」
「ああ。面白い物を仕入れておくな」
「今日はありがとうございました、イツキさん、カイルさん! またどこかで会えますように!」
手を振って彼らと別れて、家路につく。手の中のタリスマンを眺めていると、一つカイルに奪われた。
「あ、こら」
「一つは俺にくれた物だろう」
「そうだけどさ。魔人が魔除けを持ってていいのかよ?」
「お前もわかっているだろう。これは魔力も何も宿っていない、ただの飾りだ」
綺麗な玉だが、なんの魔力も込められていないことは、もちろん俺にもわかっている。
「家に飾るか。どこがいいかな、玄関か窓辺か」
「魔除けなら玄関でいいんじゃないか」
「アンタさっき信じてないって言っただろ?」
「こういう物は気の持ちようだ。信じれば効果があるかもしれない」
「なら試してみるか。カイルが玄関を通れなくなったりとか、しないといいけどな」
ふざけあいながら帰って、早速玄関の内側にとりつけた。うん、華やかになっていいじゃねえか。
その後はトゥーリにもらったレシピを参考にしながら、カレースープもどきを作って食べた。
カイルは匂いに辟易としていたが、俺は久しぶりのカレーに舌鼓を打った。悪いなカイル、匂いは後で風呂に入って落とすからさ。
その日の夜、俺はなにやら面白い夢を見ていたようだ。カイルいわく、寝言を言いながら笑っていたらしい。
本当に通れないとか、ウケる……とか言いながら、含み笑いをしてたんだってよ。
起きた時には夢の内容を、綺麗さっぱり忘れていたから残念だ。
138
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。