超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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番外編

イツキとクインの受け談義(クインシー視点)

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 結婚式の後しばらくは騒がしかった俺達の周囲も、だんだんと平常どおりに戻ってきた。

 今年の対抗戦には俺もヴァレリオも出場しないから、秋の間はゆったりできた。

 マーシャルの領地にいればいろいろと手伝うことがあっただろうけど、俺は既にヴァレリオと結婚した身だからね。

 王都の彼の屋敷で過ごしながら、今は魔人と獣人の溝を埋めるべく活動しているよ。

 イツキとロビンに肩入れして、魔人の生態本を大々的に広めちゃったものだから、魔人関係の窓口みたいな扱いになっててさ。

 陛下から頼まれた魔人國との交渉を終えた後、レオンハルト殿下からスカウトが来てね。今は殿下の補佐官みたいな役割を担っているんだ。

 大出世だよねえ、別に嬉しくないんだけどね。テオは一緒に着いてきてくれて、俺の部下として文官仕事をしている。

 まあ、悪くない生活だよ。領地経営の手伝いとは勝手が違うけれど、なかなか楽しい。

 そんなある日、昼休憩をとっている時に、イツキから相談したいことがあるって連絡が入ったんだ。
 
 魔道話越しに聞く彼の声は潜められていて、なにやら他言してほしくなさそうな気配を感じた。

「なあクインシー、おりいって頼みがあるんだが」
「どうしたのイツキ、珍しいね」
「魔道話越しじゃ話しにくいんだが、お前にしか頼めないことなんだ。ヴァレリオにも内緒にしてくれないか」

 なにを頼むつもりだろう、ヴァレリオにも聞かれたくない話なんだ? 俄然気になってきた。考えるフリをしてもったいつけてみたけど、俺の心はすでに相談を受ける方に傾いていた。

「うーん、俺も新しい仕事を覚えるので忙しいんだけど……でも他ならぬイツキの頼み事であれば、叶えてあげたいなあ。いいよ、頼まれてあげよう」
「そうか、助かるよ。早速今晩あたりいいか?」
「今晩? 急だね、来れるの?」

 いくら彼が魔力の支配持ちで空を飛んでこれるとは聞いていても、王都とマーシャルにはそれなりの距離がある。思いついて今日いきなり来れるものなのか。

「問題ないぜ。ギルド通りのバーで待ち合わせでいいか?」
「いいよ」

 その日の夜、日暮れ頃に仕事を終えた俺は城を出て、そのまま城下町のバーに向かった。

 だいぶ寒くなってきた街の空気を突っ切りながら、ヴァレリオに連絡を入れる。魔道話が数度光ると彼は応答した。

「やあ、ヴァレリオ。突然だけど、今晩は外で食事を摂ることになったんだ」
「急にどうしたんだ?」
「イツキが俺に相談事があるんだってさ。ちょっと話をしたら帰るよ」

 なにやらヴァレリオが焦ったように声を上擦らせる。

「待ってくれ、イツキ殿と二人きりで会うのか?」
「そのつもりだけど? 大丈夫、君の心配しているようなことは起こらないよ。俺がヴァレリオにぞっこんなのは知ってるでしょう?」
「君はそのつもりでも、イツキ殿の本心はわからないぞ」

 大真面目に忠告されて、あははっとヴァレリオの心配を笑い飛ばした。

「おっかしい、彼は俺のことなんて眼中にないよ! はー、おもしろいなあ。とにかく、ちゃんと帰るから心配しないでくれ。じゃあまた後でね」
「クイン!? 話はまだ終わっていない」

 もう店の前についたので、通話を終えて店内へと入った。カウンターに見覚えのあるシルエットの兎獣人を見つけて、背後まで歩み寄る。

「おまたせ」
「ん? ああ、来たのか。まあ座れよ」

 イツキはごく自然な動作で隣の椅子をポンと叩いた。まるっきり市政の青年といった様子で、魔王の威厳のいの字も見られない。

 信じられる? 彼ってば最近まで魔王だったんだよ。王座に座っている彼を見た時、俺がどんなに驚いたかイツキはわかってるのかな。

 じとりと視線を当てると、首を傾げられた。イツキの方はなんとも思ってなさそうだね。馬鹿らしくなって、苦笑しながら椅子に腰掛けた。

「失礼するよ」
「クインシーもなんか飲めよ」

 座るなり酒を勧めてくるイツキはすでに飲んでいたようで、手に持ったグラスを傾けた。

 店内の棚には所狭しと酒瓶が置かれていて、コアな酒も置いてあるようだ。

 バーと名乗っているだけあって、店内は落ち着いた雰囲気だ。質の悪い安酒はなさそうだし、適当に頼んでもいいのが出てきそうで期待が持てる。

「君のおすすめは?」
「俺? そうだな、今飲んでるヤツとか、ウイスキーみたいで美味いぜ」
「ウイスキー?」
「まあ、飲んでみればわかる」
「じゃあせっかくだし、マスター、彼と同じものを一つ」

 出てきたのは、舌を焼くようなアルコールが強い酒だった。ペロリと舐めて舌を巻く。

「けっこうキツイね。イツキってこういう酒が好きだったっけ?」
「……今日は飲みたい気分なんだ、つきあえよ」

 酒のせいか、頬を赤く染めてチラリと上目遣いをする彼は、強烈に可愛らしかった。ヴァレリオに惚れている俺でも一瞬グッとくる破壊力だ。

 サッと目を逸らして見なかったことにした。

「……つきあえとか軽々しく言わない方がいい、勘違いする輩が出てくるから」
「なんの話だ?」
「カイル君は苦労してるなあ」

 無愛想な彼の顔を思い浮かべていると、隣からグラスをダンッと机に打ちつける音が聞こえた。

「くっそ、カイルのやつ……!」
「どうしたの、喧嘩でもした?」

 珍しい、イツキがカイル君に対して怒っているところなんてはじめて見たかもしれない。イツキは長い耳をしょぼんと垂らしている。

「喧嘩っていうか……けっこうなんでもつきあってくれるヤツだけど、これだけは譲れないって言うからさ。困ってるんだ」
「へえ? イツキでも困ることがあるんだね」
「俺をなんだと思ってるんだ?」
「魔王様?」
「やめろって、過去の話を蒸し返すなよ」

 嫌そうに顔をしかめてから、イツキは一口酒を口に含み、ポツポツと語りはじめた。 

「だからさ……その……アイツ、激しいんだよ」
「……へーえ?」

 もうその恥ずかしそうな顔を見ただけで、何を意味しているかわかってしまったよ。頬杖をついてからかう。

「そうなんだあ、カイル君ってムッツリそうな顔してるもんねえ」
「ばっ……茶化すんじゃねえよ」

 カッカと顔中を火照らせながら、誤魔化すようにグラスを傾けるイツキ。かわいいなあ、耳撫でていいかなあ……うん、やっぱりやめておこう。色々と後が怖い。

「俺としては、カイルといろんなところに出かけてその……デートしたり、一緒に実験したりとか、そういうのでも十分楽しいんだ」
「うんうん。でもカイル君はそうじゃないんだね?」
「別にそれはそれで楽しそうにしてっけど、二人で家にいるとそういう雰囲気になるだろ?」
「へえーふふふ」
「笑うな」
「ごめん。それで?」

 イツキがこういう色っぽい悩みを打ち明けてくれるなんて、随分信用されたものだなあ。人の恋の話って、なんでこんなに面白いんだろうね。

「それで……でも毎回そればっかりだとちょっとなって、この前がんばって誘いを拒否したんだよ」
「そしたらなんて?」
「めちゃくちゃ迫られて……こ、拒めなかった……! くそっ」

 流されちゃってるじゃないか、男前なイツキもカイル君にかかれば形無しだねえ。ニヤニヤ見守っているうちに、イツキはグラスを空にしてしまった。おかわりを頼んでいる。

「そんなに飲んで大丈夫?」
「平気だ」

 真っ赤な顔は酒のせいなのか、それとも羞恥心のせいなのか。じとりと据わった目で睨まれる。

「お前はどうしてるんだ、そういう時」
「え?」
「だから! ……顔が好みすぎて流されちまうんだよ、どうやったら断れるんだ?」
「ええー、それを俺に聞くの?」

 むすりと黙り込んだイツキは重々しく頷いた。まいったなあ、俺にお鉢が回ってくるなんて。

 ヴァレリオとのあれそれを思い浮かべて、脳内に低い声が蘇った。

『貴方を前にすると、歯止めが効かなくなってしまうな……一晩中貴方を愛してもいいだろうか?』
「よくない! 腰が死ぬ!!」
「うぇ!? 急にどうしたんだよ」
「……なんでもない」

 浮かしかけた腰を椅子に戻した。上手く断る方法ねえ……そんなのあるんだったら俺が知りたいよ。

「うーん……やっぱりさ、そういう雰囲気になる前に断っておくのがいいんじゃない? 今日はしないって宣言しておくとか」
「そういう時に限って、気合い入れて口説かれたりしないか?」
「……するね」
「だろ!? そしたらさぁ、俺に断れるわけねーんだよぉ! だって、好きにゃんだから……」

 イツキの呂律がだいぶ怪しくなってきた。心なしか首もぐらんぐらんと揺れている感じがする。

「ねえ、やっぱり飲み過ぎじゃない? そろそろやめた方がいいってば」
「おれは、へいきだってば……うぅ」
「おっと」

 くらくらと体をふらつかせたイツキが肩にもたれかかってきた。そろそろ限界かな。

「ほら、やっぱり飲み過ぎだって。もう帰るよ」
「やだぁ、帰らないでくれぇ」
「宿を手配してあげるから、ほら立って」

 ぐずぐずと泣きそうに顔を歪めるイツキを立たせようとすると、嫌々と拒否される。

「いやだ、かえらない」
「ええー、じゃあどうしたいのさ」
「おまえのうちに行く、ひとりにしないでくれ」

 すがりつかれて、やっぱりちょっとだけ耳を撫でてもいいかなと心がぐらついた……いけないいけない、カイル君に殺されるしヴァレリオに足腰立たなくさせられる。

 こんなに弱っているイツキを放っておけなくて、マーシャル家の邸で泊まらせてあげようと思いなおした。

「わかった、だったら一緒にマーシャル邸にいこう。それならいいでしょう?」

 その時店の扉が勢いよく開いて、大きくて黒ずくめの狼獣人が店内に飛び込んできた。

「クイン! ここに居たのか」
「えっ、ヴァレリオ?」

 目を見張って気を取られていると、イツキがまたふらついたのでしっかりと支えなおす。その様子を見てヴァレリオは眉をひそめた。

「彼はなぜクインに抱きついているんだ?」
「俺ぇ? こんやはいっしょにいてくれるって、言ってくれたから?」
「クイン?」
「違う違う、浮気じゃないからね? こんなにへべれけに酔ってるイツキを置いてなんていけないでしょう?」

 弁解していると、ヴァレリオの背後から黒い影を纏ったカイル君が現れた。王都まで全速力で飛んできたのだろうか、幽鬼のような形相をしている。

「イツキ……なにをしている」
「あ、カイル……」

 イツキはぽやんとした顔を精一杯引き締めて、彼を威嚇した。

「きょうはおれ、帰らないからな! クインシーといっしょにいるから!」
「嫌だよ無理だよ帰りなよ!! こんな怒ってるカイル君の相手とか無理だからね!?」
「なんでだよ! さっきはいっしょに泊まってくれりゅっていっただろ!」
「言ったけどそれ今このタイミングで言うのやめてくれるかな!? 火に油を注ぐって!」

 焦っていると、俺はヴァレリオに引き寄せられ、イツキはカイルに抱き抱えられて引き離された。イツキはふわふわの垂れ耳をぶんぶん左右に揺らして抗議している。

「やだぁ、カイル、はなせってば!」
「イツキ、消えていなくなったかと思った……」
「え、あ……ごめん」
「調子に乗って悪かった。ちゃんと我慢するから側にいてくれ」
「あ……おれこそごめん……しつこくしないなら、ぜんぜんいいんだ。だってカイルとしゅるの、好きだし……」
「イツキ……!」

 完全に二人の世界になっている。ヴァレリオは俺の肩を抱いて店を出るように促した。ぴったりとくっついたままで、家までの道のりを歩く。

「痴話喧嘩に巻き込まれたということか?」
「うーん、そんな感じだったね」
「そうか。災難だったな」

 グッと肩を抱かれて引き寄せられる。豹耳にそっと声を吹きこまれた。

「貴方がイツキ殿にとられてしまうかと焦った。クインは魅力的だからな」
「……っ、そんな心配をするのは君くらいだよ。俺はちゃんと自分の身を守れるしね」
「少しはぐらついたりしなかったのか?」

 一瞬言葉に詰まったのを、ヴァレリオは目ざとく見咎めた。瞳を光らせながらうっそりと笑う。

「今夜はお仕置きだ」
「やめてよね!? 君ってばただでさえ絶倫なんだから、本気で明日立てなくなる」
「そうなったら俺も休みをとって貴方の看病をしよう。たまにはそんな休日を過ごすのもいいんじゃないか?」
「よくないって、あ、こら往来で尻尾を触るんじゃない!」

 わあわあ言いあいながらも屋敷へと戻った。その後どうなったかって? まあ……君の予想通りだと思うよ。彼の技巧に俺は完敗した。

 イツキからは後日、この前は酔っ払って悪かったという手紙と共に、大量の魔石が送られてきた。もちろん有効活用させてもらったよ。

 こんな役得があるなら、また酔っ払ってもらってもいいくらいだ。でもまあ、カイル君が怖すぎるから、次回は最初からみんなで飲みたいね。
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