超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第四章 ダンジョン騒動編

20 信頼

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「ま、待ってくださいカイル殿下! 貴方への忠誠心は変わっておりません!」

 フェナンは慌てふためきながら弁解するが、カイルは腕を組んだまま警戒をとかない。

「だったらなぜ、俺が国を出た後ものうのうと領地で暮らしていたんだ」
「後を追いかけました! ですが私が駆けつけた時にはもう、貴方は国を出た後で……魔力の痕跡は途中で途絶えており、領地に戻るしかなかったのです」

 なんだなんだ、つまりフェナンは元々カイルの部下かなんかだったのか?

 カイルが同胞に襲われて、獣人王国に逃げた後奴隷堕ちしてからも、助けにこれなかったと。

 うーん、なるほどな。当時の獣人たちは、魔人を見つけ次第奴隷にするか、亡き者にするかの二択だった。

 フェナンの力不足かなんかで、捕えられたカイルを深追いできなかったわけか。

「だとしても、なぜイツキと共に魔人國に戻った後も顔を見せなかった」
「当時から父は、ダンジョンの利益と相反するであろう魔酵母を忌々しく思っておりました。父を宥め、魔酵母を領地に普及させるのに苦心しまして」
「要するにアンタの親父さんは、ダンジョンによる利益の独占がままならなくなって、辛抱ならなかったんだな」

 俺が話を振ると、フェナンは肩を縮こませた。

「はい……身内の中で解決しようとしたのが間違いでした。もっと早くに陛下や殿下に相談していれば、大それた事件を起こす前に止められたかもしれません」

 親や兄妹が國を裏切ってるのに、自分だけでどうにかしようとするのは無理があるって。

 望むような結果は出せなかったものの、責任感が強いやつなのかもしれない。勇気づけてやりたくて、フェナンに笑いかけた。

「俺たちに任せな、必ずアンタの親父さんを止めてやるから。な、カイル」
「……止めることに異存はない。だが、こいつを連れていく必要はないだろう」
「待ってくださいカイル殿下! 今度こそお役に立ちますので、どうか!」

 フェナンは床に立て膝をついて必死に言い募る。カイルは厳しい目で彼を見つめたまま何も言わない。

 助け舟を出してやりたいところだが、当時の事情もこいつらの関係もよく知らない俺が、口を出していいことじゃねえよな。

 黙って見守っていると、リドアートがカイルの背中を宥めるように叩いた。

「カイル、君の気持ちは痛いほどよくわかる。だがね、彼は信じられる人だと私は思うよ」
「なにを根拠に」
「ほら、見たまえ! この曇りなきまなこを!」
「っ⁉︎」

 フェナンは叔父さんに頭を上に向かされて、目を白黒させている。

「彼にのっぴきならない事情があったのは事実だ。魔力が低い中級魔人の苦労人くんでは、自由に動くことができなかったのも本当のことだろう」
「だからといって……」

 カイルは納得いかないようだ。フェナンは土下座しそうな勢いで頭を下げた。

「どうかお願いします、殿下! 必ずお役に立ってみせます!」
「……」

 カイルはフェナンを一瞥すると、フンと鼻を鳴らした。

「俺を失望させるな」
「はい!」

 一緒に行くことが決定したようだ。本当に信頼できるやつかどうかは、これからのおこない次第でわかるだろう。

「よし、そうと決まれば腹ごしらえをしてから、夜のうちにマーシャルへ戻ろう」
「はい、お供させてください!」

 フェナンは泣きそうな顔で俺に頭を下げた。山羊角がブンと目の前を横切っていく、怖え。

「食事はこちらで提供しよう、力のつくとっておきの晩餐を用意するぞ!」
「あんまり重いのは勘弁な」

 腹を壊したりしたら目も当てられねえ、食べ過ぎないようにしよう。

 張り切るリドアートは、最近雇ったというお抱え料理人に、選りすぐりの料理を用意させた。

「どれもこれも、ハニーくんや獣人の賓客が来た時用に、魔人にも獣人にも美味しく感じられる料理を取り揃えておる。遠慮なく食すとよい」
「へえ、いただきます」

 薄くスライスされたハムサラダには、ほどよい酸味のドレッシングがかかっている。野菜や果物が入った冷製スープもなかなか美味しい。

 魚を魔酵母に漬け込んだメインも、ソースをクリーム状にして挟んだパンも平らげて、口元をナプキンで拭った。

「ごちそうさん、美味かった」
「もう行くのかね? 現地の情報を得てからの方がいいのではないか?」

 情報を得ようにも、テーブルの脇に置いた魔導話の魔石は、沈黙したままだ。

 聞けばリドアートも獣人王国のレオンハルト王子と魔導話を交換したそうだが、通じないらしい。

「通じないってことは、なんかのっぴきならない事態が起こってるってことかもしれないだろ。今から行くよ」
「そうか、くれぐれも気をつけてくれたまえ。なにかあればいつでも連絡してほしい」

 リドアートからいざというときの魔導話を渡された。これを使うのは最終手段だ。

 まずは獣人たちを刺激しないために、少数精鋭かつ獣人を装って現場に向かう。

「なるべく大事にならなければいいが、いざとなれば魔人の増援を向かわせる。準備しておくから、いつでも頼ってくれたまえよ」
「ああ、助かる」
「お前の手を借りずとも上手くやる」

 カイルも食事を終えて、腕を組みながらリドアートに向かってつっけんどんに返した。

 カイルの後ろには、おどおどした様子のフェナンも控えている。

「イツキ、王都ケルスに向かおう」
「ああ。アンタも準備はいいか?」

 フェナンに声をかけると、彼は垂れ目を精一杯キリッとさせて、胸の前に手を置いた。

「どうぞフェムとお呼びください、イツキ殿下」
「いいのか?」

 たしか魔人は、上司とか目上だと認めた相手にしか、愛称を呼ばせないとか聞いた覚えがあるんだが。

「はい、ぜひとも……」

 カイルはピリピリしながらフェナンの言葉を遮った。

「おい、イツキに取り入ろうとしても無駄だ」
「いえ、そのようなつもりは……すみません、出過ぎたことを申しました」

 俺はカイルとフェナンの顔を見比べて苦笑した。おいおい、あんたらこれから一緒に仕事をしようってのに、大丈夫かよ?
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