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第四章 ダンジョン騒動編
35 思ってたよりも大丈夫らしい
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クインシーはマーシャルのタウンハウスではなく、現在はヴァレリオと二人で、彼の用意した屋敷に住んでいるようだ。
魔導話で手短にダンジョンを片づけたことを報告し、犯人を捕まえた後の処遇などの詳細については、彼らの家で報告することになった。
二人とも夜遅くまで働いてた関係で、昼間は休息に当てるらしい。夕食時に落ちあって話をしようってことになった。
念の為に、魔鳥を真似して作って、リドアートの元に飛ばして情報の裏どりを試みた。
何もかも解決したと伝えたのに、後から俺たちの報告が実は間違っていました、なんてことになったらややこしいからな。
てことで、返信が帰ってくるまでなんもできないし、時間が空いた。
久しぶりに王都のギルドをのぞいてみるかと、かつての古巣に顔を出してみる。
ギルド内は閑散としていた。やっぱ仕事が少ないせいかと、眉をしかめながら掲示板を見にいく。
「あれ、思ったより仕事があるな」
意外にも護衛任務やら煙突の掃除、道路工事や下水道の掃除なんかの、細々とした仕事がいくつか貼られていた。
「冒険者の方ですか? よかったら下水道掃除の仕事、受けていかれませんか!」
カウンターから、ギルド職員の垂れ耳犬兄さんに声をかけられた。
この時間まで残ってる依頼なんてあんまり受ける気しねえけど、と思いながら報酬を確かめてみる。
「……意外と稼げるな、これ」
「そうなんですよ! 悪臭が町にまで漏れ出して、近隣住民がとても困ってるんです。どうかお願いします」
いやでも、臭いんだよなあ……獣人の体になってから匂いに敏感になっているし、どうも気が進まねえ。
魔石を作って売っているから金もあるし、断ろうか迷っていると、後ろから来た牛獣人がぬっと俺の前に手を伸ばした。
「……この依頼、私が受けてもいいか」
「ん? ああ」
牛獣人はのっそのっそと歩いて、カウンターに依頼書を持っていく。犬兄さんは尻尾を振って大歓迎していた。
「ありがとうございますー! 冒険者の方って華々しい活躍がしたい方が多くて、こういう地味な困り事にはなかなか手を貸してくれないんです」
「……私は人助けをするほうが、やりがいがある」
「本当ですか、助かります!」
なるほどなと苦笑いをした。なんだ、ダンジョンがなくなった今でも、冒険者の仕事はそれなりに需要があるんじゃねえか。
あんなに必死になってダンジョンの奥にまで駆けつけてくるもんだから、本気で生活に困ってるのかと心配しちまった。
今思えば、押し寄せてきた冒険者たちは、痩せたりみすぼらしい服を着たりしていなかったし、本当にまた冒険がしたかっただけなのだろう。
気持ちはわかるけどな。俺だって、カイルと一緒にダンジョンの奥に潜ってた頃は、わくわくしてたから。
「出るか」
「ああ」
適当に土産屋なんかを探して暇を潰していると、カイルはぽつりと呟いた。
「イツキは、ダンジョンが好きだったのか?」
「うーん……命の危険があるし、今でも潜りてえとは思わないけど。当時はそうだな、好きだった」
だってボス部屋があれば宝箱だって出るんだぞ。ゲームっぽいし、この奥には何があるんだろうって探究心でいっぱいだった。
「王都に向かう途中で滅びた村を見てからは、そんな浮ついたこと考えたりしてなかったけどな。金を稼ぐ手段だったよ」
「そうか」
「代わりに今は、リッドおじさんが面白え依頼をくれるし、ロビンと一緒にポーションや魔石の研究を進めるのも楽しいし。それで満足してるかな」
カイルは腕を組みながら、なにか考え事をしているようだ。足が遅くなったので、俺も歩調をあわせて隣を歩く。
「どうした?」
「いや……お前はマーシャルでゆっくり過ごすのが夢だと言っていただろう」
「ああ、マーシャルの町の雰囲気は好きだからな。あそこには知り合いもいるし。でも研究はどこでもできるし、いろんなとこ行くのも楽しいぞ」
結局俺は、カイルと一緒にいられるならどこだっていいんだ。男らしくも美しい横顔をうっとりと見上げる。
俺の視線に気づいたカイルが、宝石のような瞳を俺に向けた。
はあ、相変わらずなんて俺好みの顔をしてやがる……陽光に煌めいて銀に光る髪のせいで、よけいに煌めいて見える。
おっと、見惚れてる場合じゃねえ。話の途中だったと我に返る。伝えようか一緒迷ってから、結局言葉にした。
「俺は、カイルと一緒にいられれば、本当はどこにいたっていいんだ」
「イツキ……俺も同じ気持ちだ」
硬質な美貌が艶やかに綻んだ。はあ、顔がいい……こんなに喜んでくれるなら、ちゃんと伝えてよかったぜ。
二人でゆっくり王都を散策している間に、リドアートから返信が返ってくる。
懸念したようなフェナンの裏切りは起こらず、彼はダンジョン外に控えていた魔人に父親と弟を引き渡し、魔王城に向けて帰還中らしい。
ふう、肩の荷がおりたぜ。一件落着だ。
夕日が沈みはじめた頃に、ヴァレリオの家へと向かった。
ヴァレリオは公爵家の出身だとか、クインシーから聞いた気がする。
大貴族が住む屋敷にしちゃこじんまりとしているが、庭が広くて居心地がよさそうな家だ。
「おーい、来たぞ」
ドアベルを掴んでコンコンコンと扉を叩く。返事はすぐに返ってきた。扉越しにくぐもった声がする。
「はーい、この声はイツキだね。時間ぴったりだ。ヴァレリオ、出てきてよ」
「ああ……くれぐれも気をつけてくれ」
「わかってるってば、ほら行った行った」
は? 家主が出迎えるとか……ひょっとして、使用人が誰もいないのだろうか、通いで来てるとか……?
驚きながらも、扉を開けてくれた黒髪の狼獣人に礼を告げる。
「お招きありがとう、取り込み中か?」
奥から煮込んだ玉ねぎの匂いが、ふわりと漂ってくる。クインシーは姿を見せずに、声だけで応えた。
「取り込み中だよ、ちょっと時間配分を間違えてしまってさ。ごめんね」
「イツキ殿もカイル殿も、よく来てくれた。気にせず中に入ってくれ」
「なら、邪魔するぜ」
なんだなんだ、俺の想像通りなら、今頃クインシーは予想外なことをしているはずだが……?
廊下からチラリとクインシーの声が聞こえてきた部屋をのぞくと、エプロンをつけたクインシーが、上機嫌で鍋をかき回していた……
魔導話で手短にダンジョンを片づけたことを報告し、犯人を捕まえた後の処遇などの詳細については、彼らの家で報告することになった。
二人とも夜遅くまで働いてた関係で、昼間は休息に当てるらしい。夕食時に落ちあって話をしようってことになった。
念の為に、魔鳥を真似して作って、リドアートの元に飛ばして情報の裏どりを試みた。
何もかも解決したと伝えたのに、後から俺たちの報告が実は間違っていました、なんてことになったらややこしいからな。
てことで、返信が帰ってくるまでなんもできないし、時間が空いた。
久しぶりに王都のギルドをのぞいてみるかと、かつての古巣に顔を出してみる。
ギルド内は閑散としていた。やっぱ仕事が少ないせいかと、眉をしかめながら掲示板を見にいく。
「あれ、思ったより仕事があるな」
意外にも護衛任務やら煙突の掃除、道路工事や下水道の掃除なんかの、細々とした仕事がいくつか貼られていた。
「冒険者の方ですか? よかったら下水道掃除の仕事、受けていかれませんか!」
カウンターから、ギルド職員の垂れ耳犬兄さんに声をかけられた。
この時間まで残ってる依頼なんてあんまり受ける気しねえけど、と思いながら報酬を確かめてみる。
「……意外と稼げるな、これ」
「そうなんですよ! 悪臭が町にまで漏れ出して、近隣住民がとても困ってるんです。どうかお願いします」
いやでも、臭いんだよなあ……獣人の体になってから匂いに敏感になっているし、どうも気が進まねえ。
魔石を作って売っているから金もあるし、断ろうか迷っていると、後ろから来た牛獣人がぬっと俺の前に手を伸ばした。
「……この依頼、私が受けてもいいか」
「ん? ああ」
牛獣人はのっそのっそと歩いて、カウンターに依頼書を持っていく。犬兄さんは尻尾を振って大歓迎していた。
「ありがとうございますー! 冒険者の方って華々しい活躍がしたい方が多くて、こういう地味な困り事にはなかなか手を貸してくれないんです」
「……私は人助けをするほうが、やりがいがある」
「本当ですか、助かります!」
なるほどなと苦笑いをした。なんだ、ダンジョンがなくなった今でも、冒険者の仕事はそれなりに需要があるんじゃねえか。
あんなに必死になってダンジョンの奥にまで駆けつけてくるもんだから、本気で生活に困ってるのかと心配しちまった。
今思えば、押し寄せてきた冒険者たちは、痩せたりみすぼらしい服を着たりしていなかったし、本当にまた冒険がしたかっただけなのだろう。
気持ちはわかるけどな。俺だって、カイルと一緒にダンジョンの奥に潜ってた頃は、わくわくしてたから。
「出るか」
「ああ」
適当に土産屋なんかを探して暇を潰していると、カイルはぽつりと呟いた。
「イツキは、ダンジョンが好きだったのか?」
「うーん……命の危険があるし、今でも潜りてえとは思わないけど。当時はそうだな、好きだった」
だってボス部屋があれば宝箱だって出るんだぞ。ゲームっぽいし、この奥には何があるんだろうって探究心でいっぱいだった。
「王都に向かう途中で滅びた村を見てからは、そんな浮ついたこと考えたりしてなかったけどな。金を稼ぐ手段だったよ」
「そうか」
「代わりに今は、リッドおじさんが面白え依頼をくれるし、ロビンと一緒にポーションや魔石の研究を進めるのも楽しいし。それで満足してるかな」
カイルは腕を組みながら、なにか考え事をしているようだ。足が遅くなったので、俺も歩調をあわせて隣を歩く。
「どうした?」
「いや……お前はマーシャルでゆっくり過ごすのが夢だと言っていただろう」
「ああ、マーシャルの町の雰囲気は好きだからな。あそこには知り合いもいるし。でも研究はどこでもできるし、いろんなとこ行くのも楽しいぞ」
結局俺は、カイルと一緒にいられるならどこだっていいんだ。男らしくも美しい横顔をうっとりと見上げる。
俺の視線に気づいたカイルが、宝石のような瞳を俺に向けた。
はあ、相変わらずなんて俺好みの顔をしてやがる……陽光に煌めいて銀に光る髪のせいで、よけいに煌めいて見える。
おっと、見惚れてる場合じゃねえ。話の途中だったと我に返る。伝えようか一緒迷ってから、結局言葉にした。
「俺は、カイルと一緒にいられれば、本当はどこにいたっていいんだ」
「イツキ……俺も同じ気持ちだ」
硬質な美貌が艶やかに綻んだ。はあ、顔がいい……こんなに喜んでくれるなら、ちゃんと伝えてよかったぜ。
二人でゆっくり王都を散策している間に、リドアートから返信が返ってくる。
懸念したようなフェナンの裏切りは起こらず、彼はダンジョン外に控えていた魔人に父親と弟を引き渡し、魔王城に向けて帰還中らしい。
ふう、肩の荷がおりたぜ。一件落着だ。
夕日が沈みはじめた頃に、ヴァレリオの家へと向かった。
ヴァレリオは公爵家の出身だとか、クインシーから聞いた気がする。
大貴族が住む屋敷にしちゃこじんまりとしているが、庭が広くて居心地がよさそうな家だ。
「おーい、来たぞ」
ドアベルを掴んでコンコンコンと扉を叩く。返事はすぐに返ってきた。扉越しにくぐもった声がする。
「はーい、この声はイツキだね。時間ぴったりだ。ヴァレリオ、出てきてよ」
「ああ……くれぐれも気をつけてくれ」
「わかってるってば、ほら行った行った」
は? 家主が出迎えるとか……ひょっとして、使用人が誰もいないのだろうか、通いで来てるとか……?
驚きながらも、扉を開けてくれた黒髪の狼獣人に礼を告げる。
「お招きありがとう、取り込み中か?」
奥から煮込んだ玉ねぎの匂いが、ふわりと漂ってくる。クインシーは姿を見せずに、声だけで応えた。
「取り込み中だよ、ちょっと時間配分を間違えてしまってさ。ごめんね」
「イツキ殿もカイル殿も、よく来てくれた。気にせず中に入ってくれ」
「なら、邪魔するぜ」
なんだなんだ、俺の想像通りなら、今頃クインシーは予想外なことをしているはずだが……?
廊下からチラリとクインシーの声が聞こえてきた部屋をのぞくと、エプロンをつけたクインシーが、上機嫌で鍋をかき回していた……
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