超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第四章 ダンジョン騒動編

36 アンタ誰だよ

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 エプロン姿のクインシー……エプロン自体は上品な雰囲気なんだが、なにせ腐ってもエプロンだ。いつもの貴族然とした雰囲気はなりを潜めていて、アンタ誰だよと思わず足が止まる。

 俺の後ろにいたカイルもつられて静止し、上機嫌な豹獣人の後ろ姿へと、怪訝そうな目を向けた。

「なんだ、その格好は」
「ああこれ? ヴァレリオがくれたんだ。座っててよ、もうすぐできるから」

 クインシーは半身だけ振り向き、エプロンの端をぴらぴらと手で持ち上げた。

 深い緑のエプロンは、なんとなくあの狼獣人の目の色と被るような……

 カイルも俺の目の色のマフラーしてっけど、人がやってるのを見るといたたまれなくなるな⁉︎

「イツキ殿? すまない、まだ料理が出来上がっていないんだ。食卓に案内するから、待っていてもらっていいだろうか」
「……ああ、わかったよ」

 クインシーが、料理……できるのか? アイツに。

 果てしなく不安になりながらも、ヴァレリオに促されるまま椅子に腰掛けた。

「お茶を淹れてこよう、好みはあるか?」
「お貴族様にお茶を入れてもらうだなんて、俺も偉くなったもんだな……」

 遠い目をしながらそう言うと、ヴァレリオは意外そうに目を見張った。

「魔王を務めたお方が、なにを言っているんだ? 遠慮はいらない、今日は使用人が来ない日だから、私たちがもてなそう」

 それもそうかと頷いて、深く考えないことにした。紅茶っぽい飲み物を頼んでおく。

「カイル殿、なにか希望は」
「魔酵母の酒はあるのか」
「もちろんだ」
「ではそれでいい」

 カイルと簡潔に話し終えたヴァレリオは、ふっさふっさと狼尻尾を振りながら居間を出ていく。キッチンの方から気遣うような声が聞こえてきた。

「クイン、大丈夫か?」
「問題ないってば。心配性だなあ」
「やはり私も作りたいのだが、手伝っては駄目だろうか」
「ヴァレリオは手際がよすぎるから、俺の出番をみーんな奪っちゃうじゃないか。いいから君はお茶を淹れてよ」

 なかなかに不穏な会話をしているが、いったい何を作っているのやら……

 匂いは今のところ、食材が煮えているような、普通の匂いしかしないのが救いだ。

 ヴァレリオが持ってきてくれたお茶にちびちびと口をつけながら、まんじりともせずに待つ。

 その後も特におかしな匂いがすることはなく、トマトスープのようないい匂いが漂ってきた。

「お待たせ。なんと俺の手作り特製トマトスープだよ。イツキとカイル君を労うために、心尽くしの料理を作ったんだ」
「……おう、ありがとな」

 目の前に置かれた皿からは、トマトスープに加えてほのかに酒の風味がする。

 カイルが食べられるようにと、魔酵母の酒も混ぜてあるのだろう。いったいどんな味がするのか想像がつかない。

 自分たちの分も配膳し終えて、ふんわりパンと冷製ハム、それにサラダも用意し終えたクインシー。

 意外と手際がいいが、まさか料理し慣れているのか……?

「さあ、冷めないうちに召し上がれ」
「ああ……」

 おっかなびっくりカトラリーを手にとり、トマトスープを口に運んだ。

 途端に口の中にトマトの酸っぱさと、玉ねぎの甘みが広がる。

 魔酵母の酒が加わったことで味に深みが出ていて、肉の旨みとあわさり極上の味に仕上がっていた。

「え、めちゃくちゃ美味いな!」
「ほんと? 気に入ってくれてよかったよ。おかわりもあるからね」

 なんだよクインシー、ただのウサギ獣人好きな変態じゃなかったんだな。見直したぜ。

 カイルも静かにスープを食べて、器を空にしていた。どうやら気に入ったようだ。

「必要なら追加を持ってくるが」

 ヴァレリオの申し出に、カイルは首を横に振った。

「いや、結構だ。それよりも狼の騎士、話がある」
「なにかな?」

 カイルはチラッと俺とクインシーを見て、すでに食べ終わっていたヴァレリオを庭へと促した。

「すぐ戻る」
「ん? ああ……」

 なんだよ、ここで話せばいいのに。背中を見守っていると、クインシーに小声でささやかれた。

「なんかカイル君、雰囲気変わったね。前は絶対に俺とイツキを二人きりになんて、させなかっただろうに」
「クインシーにはヴァレリオがいるし、それでじゃないか?」
「いやいや、そんなことは関係なく威嚇されてたって。なんだろうね、自信がついたのかな」
「自信?」

 アイツが気弱な態度をとったところを見た覚えはないんだが? それこそ、この前酔った時くらいしか……

 待てよ、その件だろうかと脳内で深掘りしようとしたところで、クインシーは大袈裟に目を見張って、わざとらしく豹の尻尾を揺らめかせた。

「嫌だなあ、愛されてる自信に決まってるでしょ」
「あ……?」

 さらりと言われた言葉の意味が入ってこなくて、頭の中で反芻する。

 愛されてると実感しただって……? そうか、やっぱり俺がやたらと恥ずかしがってたせいで、きちんと愛情が伝わってなかったんだな……

 なんにせよ、自信がついたのならいいことだ。

 これからは恥ずかしがってばかりいないで、いろいろカイルに伝えてやりたいなという気持ちが、ぐんぐんと頭をもたげた。

 カイルとヴァレリオは、短時間で庭から戻ってきた。なにを話しあっていたんだかとカイルに視線を送ると、機嫌良さげな微笑が返ってくる。

 くっ、その顔やめろって……! いきいきと目を輝かせていて、心臓に悪いくらい煌びやかな顔をしている。

「話は済んだ? それじゃ、そろそろ報告を聞こうか」

 ああそうだったな。背筋を伸ばして改めて二人に向き直り、事の顛末を話した。

 クインシーとヴァレリオは顎に手を当てて、それぞれ考え込んでいる。しばらく見ないうちにアンタら、仕草まで似てきたな。

「なるほどね。裏切り者がダンジョンを作ったけど、その後始末はもうつけ終わっていて、首謀者は魔人國にて裁く予定と」
「騎士団の集計では怪我人は五名、死者は出なかった。公正な刑罰を下すのであれば、獣人王も否とは言わないだろう」
「まだ詳細は決まっていないが、うちの魔王様から賠償金の話がいくと思う。今ごろそっちの王様と話しあってるはずだな」
「残りは上に任せておけばいい」

 カイルの一言で、場は締めくくられた。クインシーたちも納得してくれたようだし、後処理は両国に任せよう。
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