超好みな奴隷を買ったがこんな過保護とは聞いてない

兎騎かなで

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第四章 ダンジョン騒動編

37 燕尾服と銀のハンカチーフ

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 帰り道、カイルの脇腹をちょいと肘でつついて問いかけた。

「なあ、ヴァレリオとなに話してたんだよ」
「知りたいか?」
「気になるから聞いてるんだ」

 カイルは唇に弧を描きながら、コートの下で尻尾をにゅるんと振った。

「明日になればわかる」
「なんだよ、もったいつけんなって」
「イツキと一緒に行きたい場所があるから、魔人國に帰る前に時間をくれないか」
「ああ、いいけど」

 結局その日はなにをするつもりなのか、教えてもらえなかった。

 適当にとった宿で、いつものように兎耳のブラッシングをされているうちに、目蓋がガクンと落ちてしまう。

 翌朝、目覚めた時にはカイルの姿はベッドの上になかった。シーツの窪み触ってみると冷めている、けっこう前に起きたみたいだ。

「カイル?」

 どこに行ったのかと辺りを見回していると、ガチャリと部屋の扉が開いた。

「イツキ、目が覚めたのか」
「ああ、おはよ……へ?」

 カイルは朝食をとりに行ってくれたらしい、手のひらにはプレートが乗っている。それはいい、ただありがてえなって思うだけだ。

 普通じゃないのは服装で、黒の燕尾服っぽいフォーマルな衣装を着ていた。胸元には銀のハンカチーフまであつらえられている。

「なんだその格好、朝っぱらから誰かの結婚式にでも出席したのか?」
「違う」

 カイルは若干頬を赤らめながら首を横に振ると、気を取り直したようにベッドの端に座る俺のところまで寄ってくる。

 枕元のサイドテーブルに朝食を置いたカイルは、熱のこもった瞳で俺を見つめる。

 なんだなんだと思っているうちに跪かれて、手の甲にキスをされた。

 おいおいおい、本当にどうしたんだよと茶化したいのに、伏せた瞳から発せられる濃密な色気にあてられて、ドッドッドと心臓が逸りはじめる。

「イツキ。俺と共に結婚式を挙げてくれないか」
「……はあ?」

 なんでいまさらとか、恥ずかしすぎるとか、魔人と獣人の結婚式なんて受け入れられるのかとか、疑問と戸惑いがいっぺんに頭の中を駆け巡る。

 けれどそれと同時に、カイルに熱烈に求められているのを感じて、体の底が熱くなってきちまう。

 手を振り払うことすらできずに固まったまま、無理やり口角を押し上げて、動揺を誤魔化そうと試みた。

「どうしたんだよカイル、わざわざ結婚式なんてしなくても、俺とお前は契約で結ばれた正式な伴侶のつもりだぜ?」

 実際に、俺たちの間で契約陣も交わしてあるしな。

「ああ、わかっている」
「じゃあなんで、いまさら結婚式がしたいと思ったんだ?」

 別に式を挙げるのがどうしても嫌なわけじゃない。ただ俺は今の状態で満足してるし、アンタだってそうだろうと思っていたから、純粋に疑問なんだ。

 カイルは一度目を伏せて考えた後、赤みがかった葡萄色の瞳で俺を真正面から見上げた。

「俺は今まで、結婚などという制度に囚われる必要はないと思っていた。今でもお互いがわかりあっていればそれでいいと思っている。だが」

 カイルは一度言葉を切り、眉根を寄せて瞳を揺らした。

「……お前がだんだん冷たくなっていくのを目の当たりにして、証がほしくなったんだ」
「証?」
「思い出と言い換えてもいい。上手く言えないが、一つでも多くイツキとの思い出がほしいんだ」

 普段口数の多いほうじゃないカイルの、たどたどしい説得は、俺の胸にスッと飛び込んできて心の深いところを打った。

 そうだよなカイル、俺だってアンタとの思い出がたくさん欲しいよ。

「俺と結婚式をあげてくれないか、イツキ。お前は俺の伴侶なんだと、世界中に知らしめたい」

 その言葉を聞いただけで、俺の頭のてっぺんから足の先までが、ピリリと痺れたような気がする。

 俺のやることなすことに、呆れながらもついてきてくれる。そして守ってくれて、さりげなく手助けをしてくれるカイル。

 そんな彼が、はじめてまともに言ったわがままが熱烈すぎて、頭の中が沸騰しそうな心地になる。

 たちまち瞬間湯沸かし器のように顔へと熱が昇って、垂れ耳がピンと立つほどに衝撃を受けた。

「カイル……っ! アンタ、とことん独占欲の塊だな⁉︎」
「だが、お前はそんな俺が」
「好きだよ! くっそ……」

 自信ありげに微笑む顔は、いっそ目の部分に黒線を入れて隠したいくらいに強烈に美麗で、魅力的で。

 俺はろくに何も言えねえ。ただただ圧倒的に惹かれる美貌に、見惚れていることしかできない。

 真っ赤になった顔に手のひらを押し当てて、顔を隠しながら視線を塞ぐと、立ち上がったカイルに手首を掴まれ止められた。

「よせ、乱暴なことをするな。顔に傷がつくだろう」
「こんぐらいじゃ傷つかねえよ、せいぜい鼻が潰れるだけだ」
「それは困る、イツキが好いてくれている俺の匂いが、嗅げなくなるかもしれない」

 ちょんと鼻頭にキスを落とされる。ちょっと待て、俺はアンタの匂いが好きだなんて一言も言った覚えがないんだが⁉︎

「なんで知って……っ?」
「お前を見ていればわかる。今までだって、お前は恥ずかしがりながらも、俺に好きだという合図をいくつも送ってくれていた」

 それは伝わっていて嬉しい限りだが、同時に指摘されると、恥ずかしさが天を突破しちまいそうでもあり……

 何も言えなくなって俯く俺の額に、カイルは再びそっと唇を落とした。

「明確な言葉をくれないことで、時々不安に思っていた。イツキはこんなにも明白に、俺が好きだと態度で表してくれているのに」
「も、もう黙れって……」

 これ以上俺を口説いてどうするつもりだ、とっくにアンタに心なんて預けきってるんだ。真っ赤になりすぎて憤死したっておかしくない。

 俺の弱々しい懇願を聞いたカイルは、唇を閉じて弧の形に円を描き、かっかと火照る俺の身体を優しく抱きしめた。
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