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36 家族との再会
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アレッタとユースは、ルーチェ、マイム、ジェレミーを連れて人間界に渡った。殺風景な屋敷の庭を見て、マイムはどこか不安そうにしている。
「ここがアレッタ様の屋敷なんです? 想像していたのと少し違いますね……魔力がほとんどなくて息苦しいです」
「そうね、お花も草木もあんまりなくて寂しい雰囲気だよね。魔力がないと体が辛いんじゃない? 大丈夫?」
アレッタがマイムの様子をうかがうと、彼女は困ったように笑ってみせた。
「半日程度でしたら大丈夫だと思います」
「そう、なら早めに用事をすませるね。ごめんなさいね、お父様はお花が好きじゃないの」
本当は妖精が好きではないんだけどね……もうすぐわかることかもしれないが、自分の口から説明するのは躊躇われてアレッタは口をつぐんだ。
アレッタが妖精界にいる間に、どうやら夏は過ぎ去ったみたいだった。
もう秋の風が吹きはじめている午後の庭は、上着なしでは少々寒い。アレッタは上着を羽織ると屋敷の正面に妖精達を案内した。
「ここを開けてちょうだい。アレッタ・ユクシーが今帰ったわ」
アレッタが正面の扉から声をかけると、驚いた顔の使用人が急いで屋敷の主人であるブライトンにアレッタの帰還を伝えにいった。
はあ、緊張するわ。また問答無用で部屋に閉じこめられたらどうしよう……
アレッタが気を揉んでいるとその様子に気づいたユースが彼女の肩に乗り、ポンと励ますように肩に手を置いた。
「もし捕らえられそうになっても心配するな、俺が必ず君を妖精界に返すから」
「ええ、その時はお願いね」
小さい妖精さん姿でも頼もしいユースがいることで、アレッタも勇気が湧いてくる。
しばらくすると使用人が戻ってきて父の部屋に通されることとなった。どうやら父はまだ王都の屋敷にいたらしい。
ここにいなければ領地まで行かなければならないところだったから助かった。
ユースも知らない場所や手がかりのない場所にはさすがに飛べないので、下手をしたら馬で一日かけて走らなければならなくなるところだった。
アレッタとユースに付き従うようにして、ルーチェ達もふわふわと周りを飛びながらついてくる。
ジェレミーは花瓶に近づいてみたり、領地の屋敷と森が描かれた絵画に向かって飛んでみたりと忙しくしている。
「へえー、ほおー、いいじゃんこの花瓶の形、釣鐘草みたいじゃん。こっちは風景画かあ、風景画なのに一輪も花が咲いてないし池すらないってどういうこと。なんでこのチョイスで描いたか謎すぎだけど、この色遣いは結構好きだなー」
緊張感が皆無のジェレミーにユースが釘を刺す。
「ジェレミー、扉が閉まると合流するのが困難になるかもしれない。しっかりついて来るように」
「はいはい殿下、わかりましたよ。じゃあアレッタちゃんさ、後で時間あったら一緒に散歩しながら家の中紹介し」
「ジェレミー、蹴られるなら顎と鳩尾どっちがいい?」
「……いややっぱり遠慮しとくわ」
ルーチェの睨みを受けてヘラリと笑って誤魔化したジェレミーは、アレッタの歩みにあわせて大人しく着いてきた。ユースとマイムは苦笑している。
部屋の前で使用人が扉をノックすると、ブライトンの声がすぐに返ってきた。
「入れ」
威圧感を感じる声にアレッタの心臓はどきりと音を立てる。マイムはピャッと飛び上がりアレッタの後ろに隠れてしまった。
肩に座るユースの存在に励まされながら、アレッタは部屋に入室した。
「失礼します」
アレッタが部屋に入るとブライトンは窓を背にして立ち上がった状態で出迎えた。アレッタの姿を上から下まで検分する。
彼は安心したようにため息を吐くと腕を組んだ。
「……いきなり帰ってきてどうした。王都で噂になっている妖精の祟りはお前の仕業か?」
「それは……私は関わっていましたから、そうであると言えるかもしれません」
チラリと花の祟りの元凶であるジェレミーを確認するが、彼は部屋の中を見回るのに余念がない。ルーチェが後ろをついて回って叱りつけている。
ある意味緊張が解れてありがたいのだけれど、気が散っちゃうな……
アレッタはがんばってジェレミー達から目を逸らし、父との対話に集中した。父は隣の机をトントンと指で叩きながら会話を続ける。
「なんでも第二王子の話によると、怪しい人物からお前を助けだし実験の協力を依頼したようだが、最終的にはその怪しい人物に再び拐われてしまったらしいな」
「それは誤解です! テオドール殿下とその協力者が私を拐ったのです」
「やはりそうか。彼がその話をする度にやたらと風で物が飛んできたり、水が頭にかかったりするらしいからな。嘘だろうとは思っていた」
妖精さん……ユースのことを怪しい人物扱いしたから怒ったのかな。
ユースは時々人間界でパトロールしてるって言ってたし、人間界にいる妖精さん達にも慕われていそうだものね。
「私はお父様と別れてからずっと妖精界で匿っていただきました。そして今日はお父様と話をするために、一時的に戻って参りました」
「そうか……お前が好いているという妖精の元にいたのか」
また怒鳴られるかもしれないと身構えながら話をしたけれど、ブライトンは思ったよりも冷静な反応を返してきた。思わずユースと顔を見合わせる。
「アレッタ、この先は俺からも話をしてもいいだろうか?」
ユースが肩からフワリと降りて聞いてくるので、アレッタは頷く。
「お父様、実は今日はその妖精さんと一緒に屋敷に来ています。彼からも話をしたいと言ってくれているので聞いてほしいのですが」
「ハッ、どのように聞けというのだ。誰もがお前のように妖精を認識できるわけではないんだぞ」
失笑したブライトンだったが、ルーチェ達が魔法を使ってユースの像を形作ると、目を見開いたまま固まり動かなくなってしまった。
「お初にお目にかかります、私はユスティニアン・ラトゥ・アルストロメリア。妖精の国の王子です。この度はアレッタ嬢との結婚をお許し頂きたく参上しました。突然このような形でご挨拶することになり、非礼をお詫びします」
「あ、ああ……ブライトン・ユクシーだ。妖精の王子だと?」
「はい。若輩者ではありますが、今後王として国民のために力を尽くす所存です。そして王となった暁にはアレッタ嬢を伴侶として共に歩みたいと思っております」
ユースはスッと片腕を上げて花びらを散らしながら酒瓶を宙から取りだした。ギョッとするブライトンは差しだされたそれを恐る恐る受けとる。
「どうぞお近づきの印としてこちらをお納めください。花妖精の造った花酒です」
お父様は辛口の香りがいいお酒が好きって言ったから、わざわざ用意してくれたんだね、ユース。
ユースはその後もブライトンの質問に淀みなく答え、如才なく振る舞いブライトンを驚かせた。
「アレッタ、妖精とはみなこのように理知的で話の通じる者ばかりなのか?」
みんな理知的……? アレッタはユースの像を維持しながらも小競り合いを続けるルーチェとジェレミーを意識しないように、気をつけながら話を続けた。
「妖精も人間と一緒で、理知的な方もいればそうでない方もいます。けれど嘘をついたりする方はいらっしゃらないし、皆さん根はいい方ばかりなので私は楽しく過ごさせてもらっています」
「そうか……ではあの人ももしかしたら、無理矢理連れ去られたわけではなかったのか」
ブライトンはポツリと呟く。
あの人って、お父様が前に話していたお婆様のお姉様のことだよね。妖精の国に行って帰ってこなかったっていう……
「ユクシー卿、その方はカレンという名で、アレッタと同じ透きとおるような緑の瞳の女性ではありませんか?」
ブライトンはその名前を聞いて明らかに動揺した。
「ここがアレッタ様の屋敷なんです? 想像していたのと少し違いますね……魔力がほとんどなくて息苦しいです」
「そうね、お花も草木もあんまりなくて寂しい雰囲気だよね。魔力がないと体が辛いんじゃない? 大丈夫?」
アレッタがマイムの様子をうかがうと、彼女は困ったように笑ってみせた。
「半日程度でしたら大丈夫だと思います」
「そう、なら早めに用事をすませるね。ごめんなさいね、お父様はお花が好きじゃないの」
本当は妖精が好きではないんだけどね……もうすぐわかることかもしれないが、自分の口から説明するのは躊躇われてアレッタは口をつぐんだ。
アレッタが妖精界にいる間に、どうやら夏は過ぎ去ったみたいだった。
もう秋の風が吹きはじめている午後の庭は、上着なしでは少々寒い。アレッタは上着を羽織ると屋敷の正面に妖精達を案内した。
「ここを開けてちょうだい。アレッタ・ユクシーが今帰ったわ」
アレッタが正面の扉から声をかけると、驚いた顔の使用人が急いで屋敷の主人であるブライトンにアレッタの帰還を伝えにいった。
はあ、緊張するわ。また問答無用で部屋に閉じこめられたらどうしよう……
アレッタが気を揉んでいるとその様子に気づいたユースが彼女の肩に乗り、ポンと励ますように肩に手を置いた。
「もし捕らえられそうになっても心配するな、俺が必ず君を妖精界に返すから」
「ええ、その時はお願いね」
小さい妖精さん姿でも頼もしいユースがいることで、アレッタも勇気が湧いてくる。
しばらくすると使用人が戻ってきて父の部屋に通されることとなった。どうやら父はまだ王都の屋敷にいたらしい。
ここにいなければ領地まで行かなければならないところだったから助かった。
ユースも知らない場所や手がかりのない場所にはさすがに飛べないので、下手をしたら馬で一日かけて走らなければならなくなるところだった。
アレッタとユースに付き従うようにして、ルーチェ達もふわふわと周りを飛びながらついてくる。
ジェレミーは花瓶に近づいてみたり、領地の屋敷と森が描かれた絵画に向かって飛んでみたりと忙しくしている。
「へえー、ほおー、いいじゃんこの花瓶の形、釣鐘草みたいじゃん。こっちは風景画かあ、風景画なのに一輪も花が咲いてないし池すらないってどういうこと。なんでこのチョイスで描いたか謎すぎだけど、この色遣いは結構好きだなー」
緊張感が皆無のジェレミーにユースが釘を刺す。
「ジェレミー、扉が閉まると合流するのが困難になるかもしれない。しっかりついて来るように」
「はいはい殿下、わかりましたよ。じゃあアレッタちゃんさ、後で時間あったら一緒に散歩しながら家の中紹介し」
「ジェレミー、蹴られるなら顎と鳩尾どっちがいい?」
「……いややっぱり遠慮しとくわ」
ルーチェの睨みを受けてヘラリと笑って誤魔化したジェレミーは、アレッタの歩みにあわせて大人しく着いてきた。ユースとマイムは苦笑している。
部屋の前で使用人が扉をノックすると、ブライトンの声がすぐに返ってきた。
「入れ」
威圧感を感じる声にアレッタの心臓はどきりと音を立てる。マイムはピャッと飛び上がりアレッタの後ろに隠れてしまった。
肩に座るユースの存在に励まされながら、アレッタは部屋に入室した。
「失礼します」
アレッタが部屋に入るとブライトンは窓を背にして立ち上がった状態で出迎えた。アレッタの姿を上から下まで検分する。
彼は安心したようにため息を吐くと腕を組んだ。
「……いきなり帰ってきてどうした。王都で噂になっている妖精の祟りはお前の仕業か?」
「それは……私は関わっていましたから、そうであると言えるかもしれません」
チラリと花の祟りの元凶であるジェレミーを確認するが、彼は部屋の中を見回るのに余念がない。ルーチェが後ろをついて回って叱りつけている。
ある意味緊張が解れてありがたいのだけれど、気が散っちゃうな……
アレッタはがんばってジェレミー達から目を逸らし、父との対話に集中した。父は隣の机をトントンと指で叩きながら会話を続ける。
「なんでも第二王子の話によると、怪しい人物からお前を助けだし実験の協力を依頼したようだが、最終的にはその怪しい人物に再び拐われてしまったらしいな」
「それは誤解です! テオドール殿下とその協力者が私を拐ったのです」
「やはりそうか。彼がその話をする度にやたらと風で物が飛んできたり、水が頭にかかったりするらしいからな。嘘だろうとは思っていた」
妖精さん……ユースのことを怪しい人物扱いしたから怒ったのかな。
ユースは時々人間界でパトロールしてるって言ってたし、人間界にいる妖精さん達にも慕われていそうだものね。
「私はお父様と別れてからずっと妖精界で匿っていただきました。そして今日はお父様と話をするために、一時的に戻って参りました」
「そうか……お前が好いているという妖精の元にいたのか」
また怒鳴られるかもしれないと身構えながら話をしたけれど、ブライトンは思ったよりも冷静な反応を返してきた。思わずユースと顔を見合わせる。
「アレッタ、この先は俺からも話をしてもいいだろうか?」
ユースが肩からフワリと降りて聞いてくるので、アレッタは頷く。
「お父様、実は今日はその妖精さんと一緒に屋敷に来ています。彼からも話をしたいと言ってくれているので聞いてほしいのですが」
「ハッ、どのように聞けというのだ。誰もがお前のように妖精を認識できるわけではないんだぞ」
失笑したブライトンだったが、ルーチェ達が魔法を使ってユースの像を形作ると、目を見開いたまま固まり動かなくなってしまった。
「お初にお目にかかります、私はユスティニアン・ラトゥ・アルストロメリア。妖精の国の王子です。この度はアレッタ嬢との結婚をお許し頂きたく参上しました。突然このような形でご挨拶することになり、非礼をお詫びします」
「あ、ああ……ブライトン・ユクシーだ。妖精の王子だと?」
「はい。若輩者ではありますが、今後王として国民のために力を尽くす所存です。そして王となった暁にはアレッタ嬢を伴侶として共に歩みたいと思っております」
ユースはスッと片腕を上げて花びらを散らしながら酒瓶を宙から取りだした。ギョッとするブライトンは差しだされたそれを恐る恐る受けとる。
「どうぞお近づきの印としてこちらをお納めください。花妖精の造った花酒です」
お父様は辛口の香りがいいお酒が好きって言ったから、わざわざ用意してくれたんだね、ユース。
ユースはその後もブライトンの質問に淀みなく答え、如才なく振る舞いブライトンを驚かせた。
「アレッタ、妖精とはみなこのように理知的で話の通じる者ばかりなのか?」
みんな理知的……? アレッタはユースの像を維持しながらも小競り合いを続けるルーチェとジェレミーを意識しないように、気をつけながら話を続けた。
「妖精も人間と一緒で、理知的な方もいればそうでない方もいます。けれど嘘をついたりする方はいらっしゃらないし、皆さん根はいい方ばかりなので私は楽しく過ごさせてもらっています」
「そうか……ではあの人ももしかしたら、無理矢理連れ去られたわけではなかったのか」
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