息子の彼氏にクレームをつけにいったら、そのパパに美味しくいただかれました

兎騎かなで

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 二階に登り、アパートの中に入って扉を閉めると心底安堵した。はあー……ため息をつきながら、玄関にしゃがみ込む。

 いったい、あの出来事はなんだったんだ……夢だと思いたい。まさか僕がこんなにも快楽に流されやすい性質だったなんて、三十八年も生きていて初めて知った。

 妻とのセックスでは、あんな風に我を忘れて求めることなんてなかったのに。初対面の男相手に、あれほど乱れるなんてと頭を抱えた。

 好きでもない人と体を重ねるなんて、僕はなんてふしだらなんだろう。亡くなった妻に申し訳なさすぎる。顔を覆って、情けない声を漏らした。

「ごめん、夏葉……」

 生涯君だけを愛すると誓って結婚をしたのに。いや、抱かれたからといって森栄を愛しているわけじゃない、ただ流されただけだ。それだってよくないことだろうけど、決して彼に心惹かれたわけではない、はずなんだ……

 居た堪れなさに身じろいだ時、違和感に気づいた。知らない靴がある、息子のより大きいな……まさか。

 やたらと重く感じる身体をなんとか動かして、和泉の部屋の方へ近づく。耳を澄ませると、和泉の他にもう一人、自信に満ちた若々しい男性の声が聞こえてきた。

「ねえ大吾、本当にここでするの?」
「いいだろ和泉、もう俺の家じゃ何度もやってるのに、なんでここじゃ駄目なんだ?」
「だってさあ、一人で部屋にいると思い出しちゃうじゃん……」
「思い出してくれよ。いつだって俺のことを考えていてほしいんだから」
「そんな、心臓もたない……っん」

 扉越しにわずかに漏れ溢れる喘ぎ声とリップ音に、僕は呆然と部屋の前で立ち尽くした。

(お、お前ら~! 人の家で盛っているんじゃありません!)

 勢いのままドアノブに手をかけようとして機敏に動くと、腰に鈍い痛みが走って足が止まった。ううっ、痛い……!

「は、んふ……」
「和泉、かわいい」
「あ、大吾……っもっとして……」

 聞いたことのない和泉の蕩けきったような声とその内容に、先程まで自身がされていたことが脳裏に蘇る。

『郁巳さん……先っぽを撫でられるのがお好みなんですね?』

 カッと顔に熱が昇り、身動きがとれなくなった。扉を一枚隔てて、だんだんとエスカレートしていく二人の行為を止めなければと思うのに、足が動かない。

「ん、ん……」
「またキスマークつけていい?」
「や、ダメ……」

 それ以上聞いていられなくなり、自分の部屋にとって返した。まだ何か挟まっているような感覚を強く感じてしまい、立っているのも辛くなりベッドの上に突っ伏した。

「う……くそう」

 尻がじんじんする。わずか半日の間に起こった天地がひっくり返るような事態に、今更ながら強く動揺した。

 巽の低くセクシーな声音が、された出来事が、次々と脳裏に蘇る。あまりの巧みな愛撫に流されてしまい、自ら彼に続きをねだったことまで思いだして、意味もなく両手で耳を塞いだ。

「うわああぁ……っ!」

 とてもじっとなんてしてられなくて、ベッドの上を転げまわった。いい大人が情けないと思うものの、どうにも止められない。ずいぶんと長い間、頭を抱えたまま動けなかった。

 やがて廊下に二人分の足音が響き、玄関で一言二言交わす声が聞こえた後、静かになった。どうやら和泉は大吾を送っていくらしい。

「……ご飯、作ろ」

 ほうほうの体で起き上がり、気力だけで冷蔵庫の中から人参を取り出し、下拵えをはじめる。人参を切る時必要以上に力を込めてしまい、ダンッ、ダンッと大きな音が部屋の空気を揺らす。

(ちくしょー、森栄巽……! もう絶対に、二度と会わないぞ! あんな風に初対面の相手に乱れたのは雰囲気に流されただけであって、けして僕の本意じゃないのだから!)

 まだ痺れるような感じが残る腰を庇いながら、なんとか料理をし終えた頃に和泉が戻ってきた。

「ただいまー、っと。父さん、帰ってきたんだ」
「おかえり、和泉」
「うん」

 和泉はそそくさと部屋に入っていった。大吾くんが来ていたことは言わないつもりなのか……こっちから聞いた方がいいのか?

 いや、聞きたくないぞ……和泉の口から大吾くんに関するのろけとか、本気で聞きたくない。二人の睦み合いの音を聞いただけでも、大ダメージを受けているというのに。

 和泉が部屋から出てきて、珍しく自分から洗濯をしはじめた。チラリと横目で見ると、どうやらシーツを洗うようだ……

「どうしたんだ和泉、洗濯なら僕がやっておくよ? 受験生なんだから、家事はほどほどでいいって言っただろう?」
「うん、でも父さんにばかり任せておけないから。父さんって家事の要領悪いし。っていうか下手だし」
「うっ……」

 流れるような動きで洗濯機のボタンを押した和泉がリビングにやってきて、食事の用意を手伝ってくれる。

 シーツが汚れるようなことしたのかな……絶対に、ぜーったいに内容を詳しく聞きたくないから、スルーしよう……泣きそう。

 内心涙目になっていると、スープを味見した和泉が変な顔をした。

「父さんこれ、味ついてないよ」
「あ」
「まったくもー、やっぱ父さんに任せてたら駄目だな。貸して」
「ごめん和泉、ありがとう……」

 もう今日の僕はボロボロだ、大人しく和泉の好意に甘えることにしよう。

 和泉の味付けしてくれた人参と卵のスープは、ほどよくしょっぱくほんのり甘くて、ささくれた心を慰めてくれた。
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