息子の彼氏にクレームをつけにいったら、そのパパに美味しくいただかれました

兎騎かなで

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第六章 墓参り

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 洗練された装いのラウンジを通り抜けた巽は、ホテルの部屋を借りてくれた。世話になってばかりじゃ悪いから、出る時に宿泊料を半分出そうと決めて、エレベーターに乗り込む。

 ルームキーを部屋に差し込んだ巽は、僕をエスコートするように腰を抱いてホテルの部屋に連れ込んだ。

 このままめちゃくちゃに抱いてほしい気もするし、もう少し話をしたいようにも思う。できれば身体を重ねる前に気持ちを伝えたいな……

 扉前で立ちすくんでいると、彼は部屋の奥へと僕の背を押した。

「どうぞこちらへ」

 手前にはダブルベッドが二つ、窓際には二人がけのローテーブルがあり、巽は椅子を引いて僕に座るように促す。

「食欲はないようですが、何か口にした方が元気が出ますよ。ルームサービスを頼みましたので、少しでも腹に入れられそうなら食べてください」
「……わかった」

 向かい側に腰掛けた巽は、僕に気遣うような視線を向けてくる。恥ずかしくて居た堪れなくて、僕は窓の外をじっと眺めた。

 星明かりのほとんど見えない都会の空は、夏だというのに寒々しい気分になった。入道雲はいつの間にか去って、視界一杯に晴れ渡った空が広がっている。

 外を見て初めて、かなりの高層階にいることに気づいた。一般的なホテルの部屋より広めだし、いい部屋をとってくれたみたいだ。

 僕が取り乱してしまったせいで、余計な散財をさせちゃったな。自嘲するとまた目尻の端が潤みそうになる。

 その時、部屋の扉が叩かれた。どうやらルームサービスが来たらしい、巽が立ち上がり受け取りにいってくれる。

 涙腺が壊れちゃったのかもしれないと苦笑しながら、密かに水滴をぬぐった。

「お待たせしました、食べましょうか」

 巽はイタリアンをチョイスしたようで、トマトパスタやチーズとソーセージの盛り合わせを机の上に置いた。

 全然食欲はないけれど、取り皿に盛ってくれた分だけはちゃんと食べようとフォークを手に取る。

 お腹は空いていないと思い込んでいたが、実際食べてみると空腹だったことに気づかされた。美味しい料理に食が進み、気がつけば完食していた。

「美味しかった」
「それはよかった。顔色も少しはマシになりましたね」

 瞼の腫れが引いてきたのだろうか。目元を触っても自分ではよくわからなかった。頬に片手を添えたまま、ポツリと呟く。

「……あのさ」
「はい、どうしました?」

 とっくに食事を終えて、優雅に食後の紅茶を飲んでいた巽が僕に視線を向ける。

「流石に、幻滅したんじゃないか」

 巽は目を丸くして、しょうがない人ですねとでも言うかのように苦笑した。包み込むような笑顔を向けられる。

「何をおっしゃるかと思えば、あり得ませんね。むしろ不謹慎にも、私は喜んでいますよ」
「なんでだよ」
「だってあれほど私に心を開かなかった貴方が、私の前で弱音を吐いて涙を見せてくれたんですよ」

 彼は茶器をローテーブルの上に戻すと、色っぽく口元を笑みの形に緩める。

「正直な感想を申し上げますと、大変に唆りました」
「お前……ほんと、節操がないよな」
「おや、心外ですね。節操がないだなんて、誤解されるようなことをおっしゃらないでください。私は郁巳一筋ですよ」

 なんら変わらぬ態度を前にして、肩の力が抜けていく。彼が変わらず僕を好いてくれていることがわかって、ほんのり口元が緩む。

(僕が巽のことを好きだと伝えたら、一体どんな反応をするんだろう)

 喜ぶだろうか、信じられないと耳を疑うだろうか。そっと巽の顔を上目遣いで見上げた。彼は窓の外を楽しげに見上げている。

 好きという短い言葉を、実際に口にしようとすると勇気がいるなあ。巽はこんなにも心が騒ぐことを平然とやってのけていたのかと、尊敬の念まで抱いてしまう。

 それなのに僕ときたら、何度も彼の告白を退けて……今度こそ気持ちに応えたいと口を開こうとすると、ピカっと空から光が差し込んできた。

「え?」

 一泊遅れて、ドーン! と爆発音が耳に飛び込んでくる。わあ、花火だ!

「そうか、今日は花火大会だったっけ」
「ええ。だからこの部屋にしたんですよ。偶然キャンセルがあったようで、ラッキーでしたね」

 花火を見せるために高層階の部屋を選んでくれたようだ。色とりどりの光の花に声もなく見惚れる僕の頬を、巽の悪戯な指先がくすぐる。

「ふふ、また少し元気になりましたね」

 ああ、僕の為を想ってこんなにも気遣ってくれるなんて。僕のことを心から愛してくれているのが伝わってきて、じんと心が震えた。

 好きだなあ。心の底から湧いてきた言葉をそのまま声に出した。

「好きだ」

 僕の告白はドーンと花火の音にかき消されてしまった。巽は聴き取れなかったようで、不思議そうに首を傾げる。

「今なにかおっしゃいましたか」
「ああもう、だから」

 立ち上がり、ぐいっと彼の腕を引いて耳元で告げた。

「巽さんが、好きだ」

 彼は腕を引かれた体勢のまま、しばらく動きを止めていた。

 引っ張りすぎて筋でも痛めただろうか、そんな強く引いたつもりはなかったんだけどな。心配していると、復活した彼は勢いよく僕の両肩を掴む。

「郁巳さん」
「うん」
「郁巳さん……!」
「な、なに?」

 二回も僕の名前を呼んだ巽は、おもむろに欲望を口に出す。

「貴方を愛しています。今すぐセックスしましょう」

 ドーン、パラパラパラ……彼の言葉を装飾するようなタイミングで、言い終えた直後に花火が上がって散っていく。

 花火のタイミングまで味方につけるなんて、本当に運に恵まれた男だなあ。僕は照れながら笑い返す。

「駄目だって。汗だくなんだからシャワーを浴びないと」
「そんなの待っていられません。浴室で繋がりましょう」
「がっつくなってば……気持ちを自覚して初めてのセックスなんだから、ちゃんとベッドでしないか?」

 もにょもにょと言い訳をするように告げると、彼は目を血走らせながら何度も頷いた。

「それは素敵な考えですね郁巳さん。そうしましょうか、ベッドに辿りつくまで私の理性が保つか甚だ疑問ではありますが」
「そこは頑張ってくれよ?」
「……善処しましょう」

 本当に口惜しそうに待てを受け入れた巽は、先にシャワーを譲ってくれた。かなり汗臭いし顔も酷いことになっていそうなので、ありがたく先に入らせてもらう。

 浴室にまで響く花火の音を聞く度に気持ちが逸ってしまい、さっと汗を流した後、尻穴だけは念入りに洗ってから急いで身体を拭く。

 バスローブを着て浴室を譲ると、巽は大股で脱衣所に駆けこんでいった。彼も興奮しているらしい。ベッドの端にそわそわと座りながら、腰がもつかなと心配になった。

 そんな風に考えながらも、カーテンを閉めて部屋の電気を仄かな卓上ライトだけに調整していたりして、僕もしっかりやる気に満ちていて参るなあと頬を染める。

 ううっ、ベッドサイドのチェストの上に置かれたコンドームとローションのボトルが真っ直ぐ見られない……あいつめ、これ見よがしに置いていきやがって。
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