ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

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43.5000万で買われた男の話

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「5000万! 5000万です、他に誰かいませんか?」

俺の値段は5000万だった。落札したのは隻眼の男だ。刃のような美貌は明らかにカタギの雰囲気ではない。

手錠と足枷で動きを封じられたまま、男に引き取られた。

何をさせる気か知らないが、きっとろくなことじゃないだろう。

枷もあるし反抗するだけ無駄なので、大人しく着いていくと巨大なお屋敷に連れていかれる。

男は俺を見下ろし、処遇を伝えた。

「お前は今日から蓮と名乗れ。蓮としての振る舞い方を覚えるまで顔を見せるな」

尋ねる間もなく男は出ていき、使用人に蓮の振る舞いを教えられながら暮らす。

蓮ってのは彼の死んだ恋人らしい。
俺と見た目が瓜二つなんだと。

恋人として振る舞えって、アレなことも込みなのだろうか……使用人に尋ねるも、お館様に身を委ねてくださいとしか返事は返ってこない。

自由はないが食事は豪勢で、全財産を失い気力を無くした俺は逃げだす気もなかった。

いよいよ蓮としてお館様の前に立つ日、尻でもなんでも掘ればいいという気で彼の前に向かうと、甘く蕩ける笑顔を向けられる。

「蓮、蓮……待ち侘びたよ、君と再び会える日を」
「ハッ、俺に会いたいなら、さっさとくたばればよかっただろ、パーカ」

彼が言いそうな返事を返すと、猫撫で声で宥めてくる。

「つれないことを言わないでくれ、死ねない事情があるのはわかっているだろう? 私の最愛……おいで」

案の定抱かれたが、丁寧に気持ちよくしてくれて悪くないなという感覚だった。

お館様の恋人役を演じるだけで、快適な生活が送れるから悪くない。

そう思っていたはずだった。

いつからだろう、それが苦しくなったのは。

蓮ではなく、本当の自分を見てほしい。

「お前さ、最近帰り遅いんじゃねえの?」
「なんだ、もっと構ってほしいのか?」

その通りだ。ちゃんと俺を見てくれないと嫌なんだ。

「ちげえよ、自惚れんなバーカ」

自惚れてはいけないのは俺の方だ。

唇を噛み締めると、噛むなと言いたげにキスが降ってくる。

「ん……っ、するなら最後までやれよ」
「ああ。場所を移そう」

腕の中に抱かれて揺さぶられると、その時ばかりは寂しさを忘れていられる。

ザマァねえな、蓮。お前が先に死んだから、この男は俺を抱くんだ。

ああ、だがしかし願わくば。
いつか、一度でいいから俺自身のことを見てほしい。

「あ、好き、好きだ……っ」
「蓮……私もだよ」

俺は蓮じゃない。
こいつに金で買われた男だ。
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