ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

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48.水泳コーチとどもりくん

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着ぐるみの中のどもりくんは、いつもパークショーに遊びにきてくれる、優しいお兄さんに恋をしている。

「こんにちは、今日も可愛いね」

ぶさかわなキャラクターが大好きだと、いつも輝く笑顔で話しかけてくれるので、全力で手を振り返す。

イケメンで気さくで、着ぐるみ状態の自分にもよく世間話を振ってくれるお兄さんは、実は通っている水泳教室の先生でもある。

どもりくんは人前に出ると、自分の鶏ガラみたいな体型やそばかす塗れの容姿に自信がないから、緊張して上手く話せない。

だから身振り手振りだけでもお兄さんとコミュニケーションが取れて、幸せだった。

身体を鍛えて、ちょっとでも筋肉をつけようと入った水泳教室は、水泳が上手くなっても身体は貧相なままだ。

もう辞めようかな、大好きな彼とも一度も話せたことがないしと、辞退届を出すことにした。

「ちょっと君、いいかな」

書類を抱えて事務室を通りがかると、憧れのお兄さんに声をかけられた。

「水泳をやめてしまうの? 筋がいいし、もう少し続けてほしいな。なんなら個人的にコーチをするよ」

なんのご褒美かという申し出に、どもりくんは何度も頷いた。

優しく声をかけながら、的確な指導をしてくれるお兄さんに返事をしながら、だんだん打ち解けていくどもりくん。

つっかえがちな言葉も笑わずに接してくれて、好きって気持ちがますます増してく。

ある日ご飯に誘われて食べにいくと、彼は幸せそうに好きな人がいるんだと教えてくれた。

「顔も名前も知らないんだけれど、雰囲気が君と似てるんだ」

もう頭が真っ白になって、言葉が右から左に流れてく。

「昔落ち込んでいた時、コミカルな動きで励まして笑わせてくれたんだけど、そんなところも似てるよね」

着ぐるみがどうとか聞こえた気もしたが、落ち込みすぎて頭が回らず、そうですか、しか言えない。

実はお兄さんは、もしかしたら目の前の人が着ぐるみの中の大好きな人の正体では、と期待して遠回しに話を持ちかけていた。

当てが外れて戸惑うお兄さんと、ひたすらそうですかと言い続けるどもりくん。

両思いなのにひたすら気まずくなって別れた後、着ぐるみバイト中にふらついて倒れたどもりくんを、お兄さんが助け起こした。

 頭の被り物をとったお兄さんは、とろけるような笑顔で告げる。

「ああ、やっぱり君だった」

ようやく誤解に気づいたどもりくんは、お兄さんの恋人になれましたとさ。

ちなみにお兄さん家に遊びに行くと、ぶさかわグッズばかり。

そういえばこのマスコット、自分と似ているかもしれない。

(俺もぶさかわの一員だと思われてる……?)

苦笑しながらも、彼の好みに当てはまっているなら嬉しいと感じる。

お兄さんに大切にされて、幸せになるどもりくんの物語。
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