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61.恋人と別れた話
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五年間つきあってた恋人に、もう別れよっかと告げられた。
まあ確かに、最近惰性で一緒に暮らしてたよなって思う。
最初はときめきポイントだった彼の強引なところも、今はうざいなと感じる時も増えた。
それでも一緒にいたのは、とにかく彼の顔が好きだから。
どこから見ても理想的で、見てるだけでご飯が何杯でも食べられちゃう。
別れよっかって言われた時の痛みをこらえるような顔も、やっぱり綺麗で。
気がついたら口をついて出ていた「そうだね」の言葉。
彼は一瞬驚いたような顔をして、けれど反論も何もせずに出ていった。
一つきりの歯ブラシ、シワのないシーツ、がらんとした部屋のどれもに、彼がいない空虚さを感じる。
それでも時間は過ぎていくもので、毎日会社に行って仕事をこなし、日々の生活を淡々と送っていると虚しさは忘れられた。
ある日職場の同僚に飯でも行こうかと声をかけられたので、久しぶりに向かうことにした。
「最近変わったな、お前」
「そう?」
「ああ。……寂しそうで正直そそる」
「えっ?」
「お、あったぞ店。評判いいらしいし楽しみだ」
聞き間違いかと首を捻りながらも入った店の看板メニューは、元彼が好きだったオムレツだった。
ふわふわが好きとか言うからわざわざ練習したんだっけな。
また寂しくなって、ごまかすように酒を飲む。
帰り道ふわふわした気分で歩いていると、同僚が緊張した面持ちで伝えてくる。
「なあ、今フリーなんだろ? つきあってみないか」
正直同僚のことはそんな目で見たことがなかった。
好みではない顔を近づけられ手をとられて、うっと後ずさる。
「寂しいんだろ? 俺ならそんな顔させない」
「いや……俺は」
寂しいのは本当だ。図星を突かれて掴まれた手を離せないでいると、元カレが通りかかった。
彼はバッと面食いくんの腕を掴んで同僚から引き離し、走り出す。
「えっ、おい!」
無言で走り続け、一緒に暮らしていた面食いの家まで来ると彼は赤い顔で言い放つ。
「あんなヤツとつきあうなよ! 俺のがいい男だろうが!」
「は、別れよって言ったのはそっちだろ」
「確かに言ったけど、まさか頷くとは思ってなかったんだよ。いつもなんかしたいって言い出すのは俺ばっかで、もうお前の気持ちは俺にないのかって確かめただけだったんだ」
なんだそれ。ズビズビと泣き出した彼も酔っているようで、ふらつきながら面食いにすがりついた。
「なんで本当に振るんだー、俺は本気でお前のことが好きなのに、お前はもう他のヤツが好きなのかよ……」
言いたいだけ言って崩れ落ちるように寝てしまう。
しょうがないヤツと思いながら、一緒に寝ていたベッドに放りこんでやる。
目の下には隈をこさえ頬は削げ、いつもパリッと着こなしてた服はよれっとしている。
「なんだ、お前は俺がいないとだめなのか」
ゾクゾクと仄暗い満足感が湧いてくる。
今まで強引に振り回されたことも愛情表現の一種だったんだと思うと、ウザいよりも可愛いの気持ちがグンと大きくなってきた。
起きたらコイツの好きなふわふわなオムレツを作ってやろうと決めて、同じベッドに潜りこむ。
久しぶりに馴染む体温に、隙間風に吹かれていた心が温まるのを感じた。
まあ確かに、最近惰性で一緒に暮らしてたよなって思う。
最初はときめきポイントだった彼の強引なところも、今はうざいなと感じる時も増えた。
それでも一緒にいたのは、とにかく彼の顔が好きだから。
どこから見ても理想的で、見てるだけでご飯が何杯でも食べられちゃう。
別れよっかって言われた時の痛みをこらえるような顔も、やっぱり綺麗で。
気がついたら口をついて出ていた「そうだね」の言葉。
彼は一瞬驚いたような顔をして、けれど反論も何もせずに出ていった。
一つきりの歯ブラシ、シワのないシーツ、がらんとした部屋のどれもに、彼がいない空虚さを感じる。
それでも時間は過ぎていくもので、毎日会社に行って仕事をこなし、日々の生活を淡々と送っていると虚しさは忘れられた。
ある日職場の同僚に飯でも行こうかと声をかけられたので、久しぶりに向かうことにした。
「最近変わったな、お前」
「そう?」
「ああ。……寂しそうで正直そそる」
「えっ?」
「お、あったぞ店。評判いいらしいし楽しみだ」
聞き間違いかと首を捻りながらも入った店の看板メニューは、元彼が好きだったオムレツだった。
ふわふわが好きとか言うからわざわざ練習したんだっけな。
また寂しくなって、ごまかすように酒を飲む。
帰り道ふわふわした気分で歩いていると、同僚が緊張した面持ちで伝えてくる。
「なあ、今フリーなんだろ? つきあってみないか」
正直同僚のことはそんな目で見たことがなかった。
好みではない顔を近づけられ手をとられて、うっと後ずさる。
「寂しいんだろ? 俺ならそんな顔させない」
「いや……俺は」
寂しいのは本当だ。図星を突かれて掴まれた手を離せないでいると、元カレが通りかかった。
彼はバッと面食いくんの腕を掴んで同僚から引き離し、走り出す。
「えっ、おい!」
無言で走り続け、一緒に暮らしていた面食いの家まで来ると彼は赤い顔で言い放つ。
「あんなヤツとつきあうなよ! 俺のがいい男だろうが!」
「は、別れよって言ったのはそっちだろ」
「確かに言ったけど、まさか頷くとは思ってなかったんだよ。いつもなんかしたいって言い出すのは俺ばっかで、もうお前の気持ちは俺にないのかって確かめただけだったんだ」
なんだそれ。ズビズビと泣き出した彼も酔っているようで、ふらつきながら面食いにすがりついた。
「なんで本当に振るんだー、俺は本気でお前のことが好きなのに、お前はもう他のヤツが好きなのかよ……」
言いたいだけ言って崩れ落ちるように寝てしまう。
しょうがないヤツと思いながら、一緒に寝ていたベッドに放りこんでやる。
目の下には隈をこさえ頬は削げ、いつもパリッと着こなしてた服はよれっとしている。
「なんだ、お前は俺がいないとだめなのか」
ゾクゾクと仄暗い満足感が湧いてくる。
今まで強引に振り回されたことも愛情表現の一種だったんだと思うと、ウザいよりも可愛いの気持ちがグンと大きくなってきた。
起きたらコイツの好きなふわふわなオムレツを作ってやろうと決めて、同じベッドに潜りこむ。
久しぶりに馴染む体温に、隙間風に吹かれていた心が温まるのを感じた。
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