ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

兎騎かなで

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76.鯉バース♡

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目覚めると鯉になっていた。息苦しすぎて隣の家の池まで死ぬ気で飛び跳ね、なんとか助かった。

(なんで鯉!? せめてポメラニアンだったらよかったのに!)

ぷくぷくため息を吐いていると、隣家の住人が池を覗きこんできた。

「あれ、鯉なんて今までいなかったはずだけど……綺麗だなあ」

優しそうな目で鯉を見ながらため息をつく彼は色っぽくて、男相手なのに鼓動が跳ねた。

すぐに彼女が変わる遊び人相手にときめくなんて、不覚だと思ってそっぽを向く。

「ねえ聞いてよ、さっき彼女にフラれたんだよね」

ただの鯉だと思って愚痴を言う彼。

「告白されてつきあっても好きになれないんだ。俺ってどっかおかしいのかな」

悲しそうに呟くのが放っておけなくて、側で話を聞いてあげた。

「やっぱり、隣人くんが好きなせいかな」

なんですと? 出目金のように目を剥いた。

「最初は男相手に恋するなんておかしいって、自分に言い聞かせてたんだけど。ピーしてピーの中をピーに掻き回してピーでピーをしたくてたまらなくてさ」

えげつない放送禁止用語を止めどなく口にしながら、色っぽい男は切なげに吐息を吐く。

「あーあ、今日は隣人くん出掛けてるのかなあ。愛想のない挨拶だけでも聞けたら、妄想が捗るのにな」

捗らんでよろしいと叫ぼうとすると、グンと身体が大きくなり人に戻った。

裸で男と見つめ合う。逃げようとしたら羽交締めされた。

「ねえ、聞いちゃった? 今の聞いちゃったよね、そして引いたよね? これはもう悠長に距離を詰めてる場合じゃないね、避けられる前に既成事実を作ろうか、ぜひそうしよう」
「助けておまわりさーん!」
「どっちかっていうと、捕まるのは全裸の君だからね? 隅々まで綺麗に洗ってあげるから、お風呂においで」

ストレスで鯉に戻るが、その度にセクハラ発言を耳に流しこまれて、叫ぼうとすると人に戻るのを繰り返す。

そのうちに叫びというより喘ぎが止まらなくなり、ピーをピーでピーなことをされてしまう鯉くん。

色男は体で堕とすつもりなのか、ピーをピーしてピーからピーまでしてしまう。

元々色男が苦手だと思っていた鯉くんだけど、無意識に惹かれてしまう自分にストップをかけていただけらしい。

色々されまくった後は色男の顔を見つめながら、すっかり目をハートマークにして彼に抱きついた。

「ねえ、俺たちもう恋人同士だよね?」
「ん、うん♡ 」
「ここに住んでね?」
「ぅん♡ 」

言質を取られまくって、なし崩し的にお付き合いと同棲を始めたけれど、色男は鯉くんをこれでもかと大事にしてくれる。

ストレスで鯉になっても、綺麗で可愛いといいながら献身的にお世話をされて、鱗は艶々だしそもそも鯉になることも少なくなった。

流されてつきあい始めたけれど、今では幸せいっぱいの鯉くんだった。
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