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109クリスマス当日の別れ話
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彼氏と別れたのは、よりによってクリスマス当日だった。
用意してくれたケーキが好みと違う、たったそれだけの理由で大喧嘩をして、売り言葉に買い言葉で別れた。
「もういい! 二度と顔を見せないで!」
「こっちのセリフだっての、失せろ!」
翌日、頭が冷えてきて謝ろうとメッセージを送ったが、ブロックされて届かない。
着信拒否までされていた。
家に行っても居留守を使われるし、さすがに職場まで押しかける勇気もない。
「なんだよ、あんなに好きだって言ってくれたのに。こんなことで終わるのかよ……」
彼にとっては「こんなこと」じゃなかったのだろう。
今まで何度も喧嘩したけれど、今度ばかりは許せなかったらしい。
「ごめん……ごめんな。もっと言い方気をつけるから。わがままばっかり言わないし、恥ずかしがらずに好きって返すよ、だから……」
戻ってきてと願っても、もう子どもじゃないからサンタは来てくれなかった。
失意のまま新年を迎え、友達に誘われ初詣に行くことになった。
手を合わせて願う。
(神様、どうかもう一度彼とやり直すチャンスをください)
友達と別れた帰り道、偶然元彼の姿を見かけた。
「待って! 話をさせてくれ」
「俺には話したいことなんてない」
冷たくされるが追いすがり、家の前まで追いかけていく。
「僕が悪かった、やり直したいんだ」
「……俺はお前と喧嘩ばっかりで、正直うんざりしてる。やり直せるとは思えない」
家に入り鍵を閉められてしまった。
「話をしてくれるまで、ここをどかないから」
玄関先にしゃがみ込んで待つ。
指先の感覚がなくなる頃、扉が開いた。
「お前……はあ。もういい、入れよ」
二人で納得ゆくまで話をした。
彼が一番気に入らないのは、愛されている実感がないことだと聞き、顎が外れそうなほど驚いた。
「はっ? あ、あああああ愛っ、してないことはないけど!?」
「恥ずかしがり屋にもほどがあるだろ、どんだけ言葉に詰まってんだよ……わかってても寂しいもんは寂しい」
なるほどと深く納得し、心の中だけで完結していた愛情をもっと伝えることにした。
直接言うのは小っ恥ずかしくて無理すぎるので、手紙を書いたり好きそうな物を差し入れたり、デートに誘ってみたりした。
最初は顔から火が出るほど恥ずかしかった行為も、彼の喜ぶ顔を見てるとやってよかったと思えた。
照れ隠しから強く当たりそうになる時は、口に出さずにスキンシップで気持ちを表現すると、彼はめちゃくちゃ嬉しそうにする。
(なんだよその顔、そんなに僕が好きなのか。恥ずかしいやつめ)
羞恥で死にそうになるが、喧嘩するよりもずっといい。
相変わらずちょっとしたことで意見が食い違うが、文句じゃなく気持ちを伝えるとわかってもらえることも増えた。
いつしかつきあいたてよりも仲を深め、一年が経った。
(去年のクリスマスは大変だったよなあ、アイツと一回別れてさ)
思い出しながら、彼のために用意したケーキを飾りつけていると、来客のベルが鳴った。
「おかえり!」
「ああ、今帰った」
「ご飯の用意できてるよ」
「早速食べようか」
食事中、いつもは口数の多い彼が、今日はやけに静かだ。
(……まさか、まだ僕に思うところがある? 去年のことを思い出して、やっぱり別れたいって言われたらどうしよう)
ビクビクしながら食べ終わると、彼は隣に跪き指輪の箱を差し出した。
「これを受け取ってくれないか」
「えっ……」
「一緒に暮らしたい、パートナーとして」
驚き過ぎて椅子から落ちた。
「大丈夫か!?」
「え、僕死んでない? それか寝ててこれは夢だったりする?」
「現実だ、しっかりしろ!」
尻の痛みで我に返り、涙ぐみながら指輪を受け取った。
「うん、一緒に暮らそう。これからもよろしくね」
「ああ、末長くよろしく頼む」
年度最後のデート先は、不動産屋巡りに決定した。
町を彩るイルミネーションよりも、なんでもない日常の景色が煌めいて見えた。
用意してくれたケーキが好みと違う、たったそれだけの理由で大喧嘩をして、売り言葉に買い言葉で別れた。
「もういい! 二度と顔を見せないで!」
「こっちのセリフだっての、失せろ!」
翌日、頭が冷えてきて謝ろうとメッセージを送ったが、ブロックされて届かない。
着信拒否までされていた。
家に行っても居留守を使われるし、さすがに職場まで押しかける勇気もない。
「なんだよ、あんなに好きだって言ってくれたのに。こんなことで終わるのかよ……」
彼にとっては「こんなこと」じゃなかったのだろう。
今まで何度も喧嘩したけれど、今度ばかりは許せなかったらしい。
「ごめん……ごめんな。もっと言い方気をつけるから。わがままばっかり言わないし、恥ずかしがらずに好きって返すよ、だから……」
戻ってきてと願っても、もう子どもじゃないからサンタは来てくれなかった。
失意のまま新年を迎え、友達に誘われ初詣に行くことになった。
手を合わせて願う。
(神様、どうかもう一度彼とやり直すチャンスをください)
友達と別れた帰り道、偶然元彼の姿を見かけた。
「待って! 話をさせてくれ」
「俺には話したいことなんてない」
冷たくされるが追いすがり、家の前まで追いかけていく。
「僕が悪かった、やり直したいんだ」
「……俺はお前と喧嘩ばっかりで、正直うんざりしてる。やり直せるとは思えない」
家に入り鍵を閉められてしまった。
「話をしてくれるまで、ここをどかないから」
玄関先にしゃがみ込んで待つ。
指先の感覚がなくなる頃、扉が開いた。
「お前……はあ。もういい、入れよ」
二人で納得ゆくまで話をした。
彼が一番気に入らないのは、愛されている実感がないことだと聞き、顎が外れそうなほど驚いた。
「はっ? あ、あああああ愛っ、してないことはないけど!?」
「恥ずかしがり屋にもほどがあるだろ、どんだけ言葉に詰まってんだよ……わかってても寂しいもんは寂しい」
なるほどと深く納得し、心の中だけで完結していた愛情をもっと伝えることにした。
直接言うのは小っ恥ずかしくて無理すぎるので、手紙を書いたり好きそうな物を差し入れたり、デートに誘ってみたりした。
最初は顔から火が出るほど恥ずかしかった行為も、彼の喜ぶ顔を見てるとやってよかったと思えた。
照れ隠しから強く当たりそうになる時は、口に出さずにスキンシップで気持ちを表現すると、彼はめちゃくちゃ嬉しそうにする。
(なんだよその顔、そんなに僕が好きなのか。恥ずかしいやつめ)
羞恥で死にそうになるが、喧嘩するよりもずっといい。
相変わらずちょっとしたことで意見が食い違うが、文句じゃなく気持ちを伝えるとわかってもらえることも増えた。
いつしかつきあいたてよりも仲を深め、一年が経った。
(去年のクリスマスは大変だったよなあ、アイツと一回別れてさ)
思い出しながら、彼のために用意したケーキを飾りつけていると、来客のベルが鳴った。
「おかえり!」
「ああ、今帰った」
「ご飯の用意できてるよ」
「早速食べようか」
食事中、いつもは口数の多い彼が、今日はやけに静かだ。
(……まさか、まだ僕に思うところがある? 去年のことを思い出して、やっぱり別れたいって言われたらどうしよう)
ビクビクしながら食べ終わると、彼は隣に跪き指輪の箱を差し出した。
「これを受け取ってくれないか」
「えっ……」
「一緒に暮らしたい、パートナーとして」
驚き過ぎて椅子から落ちた。
「大丈夫か!?」
「え、僕死んでない? それか寝ててこれは夢だったりする?」
「現実だ、しっかりしろ!」
尻の痛みで我に返り、涙ぐみながら指輪を受け取った。
「うん、一緒に暮らそう。これからもよろしくね」
「ああ、末長くよろしく頼む」
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町を彩るイルミネーションよりも、なんでもない日常の景色が煌めいて見えた。
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