三男のVRMMO記

七草

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16、三男の気持ちとマリの怒り

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いつもより遅くなってすみません。
今回戦闘多めというか戦闘しかないというか。
戦ってるのはマリなんですけどね(^^;)


ーーーーーーーー


薬草採取の依頼を満たすだけの薬草はさっきの草原で手に入ったので、あとはハニービーとの交渉だ。
蜜花は水場にあるとの事だったが、草原は見渡す限りでは水なんてなかった。
あるとすればこの森の中ってことかな。
きっとここからはノンアクティブモンスターだけじゃなくなってくるだろうし、気をつけて進んでいこう。

「マリは肩の上にいてくれ。モンスターが出てきたら、1匹か2匹なら対応で、3匹以上なら逃げるからな」
「きゅ!」

ここのモンスターのレベルは分からないが、さっきの草原と同じなら2匹までは対応できるだろう。
俺が戦力外なのが本当に申し訳ない。
街にもどったら何か出来ることを探そう。
そんなことを考えながらも、俺はマリを肩に乗せて森を進んでいく。
森には草原で見られたスライムやラビィの姿はなく、全く別のモンスターが現れた。

「マリ、あれニーマスだよな。あっちの犬はコボルトだっけ。どっちもチュートリアルの森にいたな」
「きゅぴ~」

コボルトはともかく、ニーマスはマリにとって仲間という認識はあるのだろうか。
もしあるのなら、極力戦わずに終わりたいな。
でも篠田さんの話からすると、あの2匹はアクティブモンスターだったはずだし、見つかったら攻撃されるだろうな。

「なるべく隠れて移動しようか」
「ぴゅぅ」

幸いにしてさっきまでいたニーマスとコボルトはどこかに行ったようなので、今のうちにと歩みを進める。
広葉が言ってた膨大な量のスキルの中には、モンスターの位置がわかるスキルもあるだろうし、スキル屋に行ったら探してみようかな。
俺がちゃんとそのスキルを使えるかどうかはさておいて。
この森はそこまで木が密集しておらず、木々の間から木漏れ日が指していて前は見えるし辺りも明るい。
だが、こんな森ばかりじゃないだろう。
きっと昼間から暗い森も存在するはずだし、いつかの為にも今から対策をとっておかないとな。

「きゅ、きゅぴ!」
「ん?どうした、マリ」
「ぴ!」

マリが何かを伝えるように鳴いて、つい考え込んでいた俺の意識を戻した。
肩にいるとマリの姿が見えないからマリを腕の中に抱えると、マリはもう一度鳴いて小さな前足を前に示した。
マリの指す方向を見ると、そこには1匹のニーマスがいて、まだこちらには気づいていないようだった。

「ニーマスか。教えてくれてありがとう、マリ」
「きゅい!」

よりによってニーマスか。
マリは戦いたいのだろうか。

「マリはあのニーマスと戦いたいか?」
「ぴぅ?ぴ!きゅぅ!」
「そっか。なら、行っておいで」

俺の心配は杞憂だったみたいだ。
マリはニーマスと戦えるみたいだし、むしろ戦いたいみたいだな。
マリに戦闘を任せきりなのはやっぱり心苦しいが、俺は俺の出来ることをしよう。
草原とは違い、ここはアクティブモンスターが沢山いるからな。
マリが戦闘に集中できるように、周りへの注意は俺がしておこう。

「マリ、頑張れ」
「きゅ!」

マリは腕から飛び出て流れるように針を飛ばす。
ニーマスはその事でやっと気づいたらしく、戦闘態勢をとったがマリの針からは逃れられなかった。
針が当たったニーマスはふらつき、足が震えて崩れ落ちた。
どういうことだろうか。もしかして、マリの針の効果か?
でも、最初にスライムやラビィと戦った時はそんな効果はなかったはずだ。
草原の戦いの中でスキルLvがあがったのかな。
俺がそう検討をつけている間も、マリは止まらない。
動けなくなったニーマスに構うことなく、流れるように数回タックルを次々と決めて、今俺の目の前でニーマスはホログラムとなって消えていった。
ピロンという音とプレートが現れ、もはや見慣れたドロップアイテムの文字とその下にはニーマスの針の表記があった。
マリが強くなってて頼もしい限りです。

「凄いなマリ!どんどん強くなってるな」
「きゅー!」

戻ってきたマリを腕に迎えて、よしよしと撫でると、マリは嬉しそうに声を上げて花びらを散らせた。
この瞬間が本当に可愛くて、きっと俺がマリを撫でるのを辞める日は来ないんだろうなと密かに思った。

「さて、先に進むか」
「きゅ!」

今度は見逃さないように気をつけながら前へと進んでいく。
アクティブモンスターはノンアクティブモンスターより現れる率が少ないのか、単純に運がいいのかは分からないが、今のところはモンスターの姿がない。
このまま水場まで辿り着けるといいのだが、そう上手いこといかなかった。
俺とマリの目の前に3匹のコボルトが現れ、こちらにも気づいてしまったのだ。
マリの飛針で2匹を足止めしつつ、1匹を確実に倒していくしかないだろう。
気づかれなければ逃げたのだが、流石に足の速さではコボルトには勝てない。

「マリ、まずは飛針で足止めをしよう。その後で、1匹ずつ戦ってくれ」
「きゅ!」

グルグルと唸りをあげるコボルトは見た目こそデフォルメされた犬だったが、その口から見える牙と足にある爪は鋭く、まさにモンスターといえる姿だった。
マリはそんな3匹の前に飛びかかり、針を飛ばす。
飛針は逃げ遅れた1匹には当たったが、惜しくも2匹には当たらずに避けられてしまった。
崩れ落ちた1匹には目もくれず、マリは残りの2匹に飛針を当てるべく向かっていく。
2匹のコボルトも負けじとマリに向かって足を振り上げて鋭い爪で攻撃を仕掛ける。
マリはそれを避けながら飛針を当てようとするが、流石に2対1では完全に避けきることが出来ないらしく、何度か爪が当たってしまっていた。
俺はその度に治癒をかけて見守る。
マリのHPやMPが分かれば治癒や回復をかけるタイミングも分かるのだが、鑑定しながらでは流石にこの状況は厳しいし、辺りへの警戒も怠ってしまう。
なにかいい方法があればいいのに。
マリに治癒と回復をかけながらそう考えていると、目の前にプレートと文字が現れた。

【戦闘時におけるHP、MPの表示をONにしますか?】
【ON/OFF】

こんなことができたのか。
街に帰ったら設定もちゃんと見ておかないとな。
とりあえず、今は迷わずONだ。
俺がそう選択すると、マリと俺だけでなくコボルトのHPとMPも表示された。
表示はバーの形をしており、端にHPとMPの数字も書かれてある親切仕様だった。
これなら治癒や回復を無駄にかけることも無いし、周りもちゃんと見れるな。
よし、とマリを見ると、ちょうどマリが2匹のコボルトに針を当てるところだった。
コボルトに対してマリは小さく、それゆえにコボルトはマリに攻撃を当てることが難しいみたいで翻弄されていた。
マリはそこをついて針を当てたわけだ。
うちの子は強いだけじゃなくて賢かったらしい。
マリは崩れ落ちたコボルトのうちの1匹にタックルを数回当てて倒した後、もう1匹にも同じようにして背中の針を立ててタックルを繰り返す。
動けないコボルトにはそれに対抗する術がなく、あっけなくコボルトはホログラムの欠片となった。

「凄いぞマリ!」
「きゅぅ!ーーっ!きゅぴ!!」
「え?」

マリが嬉しそうに俺を見たあと、目を見開いて叫んだ。
その目は俺の後ろを見ており、その顔を見てやっと俺は思い出した。
コボルトが3匹いたことを。

「あっ、くっ…回避!」
「きゅきゅ!」
「だい、じょうぶ。ちょっとかすっただけだよ」

マリが教えてくれたおかげでとっさとは言え回避のスキルを使うことができ、コボルトの一撃は俺の腕をかするだけにすんだ。
先にスキル屋でヘイト回避だけでも取っておくんだったな。
リアリティなしなので切られたような痛みはないが、ぶつけたような鈍い痛みと衝撃はあった。
コボルトはマリの針による影響から完全に脱した訳ではなく、先程の攻撃も必死の行為だったみたいで追撃はない。
俺はそれを確認しつつマリの元へと向かった。

「マリ、教えてくれてありがとう」
「……」
「マリ?」

マリは俺の腕を見てから俯いてしまい、呼びかけに応えずコボルトの元へと向かっていった。
ちらりと見えたマリの顔は怒りが目に見えてわかり、その背後には怒りのマークが五つ浮かんでいた。
不謹慎だが、マリが俺の怪我に怒ってくれたのがすごく嬉しい。

「シャー!」
「キャンッ!」

マリが今まで聞いたことの無いような声を出してコボルトへと針を放つ。
未だ鈍い動きのコボルトにはそれは避けられず、コボルトは再び崩れ落ちた。
マリはそれを見ると今までのように近くからタックルするのではなく、少し離れて助走をつけてコボルトへと向かっていき、思いっきりぶつかりに行った。
マリ、激おこモードだとああなるのね。
コボルトのHPは今の一撃で半分以下にまで削れていて、マリの一撃の強さを感じた。
俺がマリの強さに驚いているうちに、マリはもう一度離れたところから助走をつけてコボルトに全力のタックルを当て、コボルトはホログラムとなって四散していった。
ピロンという音と共にドロップアイテムの文字とコボルトの牙、コボルトの爪、コボルトの毛、コボルトの肉という文字が表示されたプレートが現れた。
しかし今はそれどころではなく、俺は目の前のマリに視線を向けた。

「フーッフーッ」
「マーリ、落ち着いて。大丈夫だから、な?」

興奮冷めやらぬマリは未だに戦闘態勢で針が立ったままだが、俺は気にせずにマリを撫でる。
俺のために怒って戦ってくれたんだから、少しの針の痛みなんて気にする程じゃない。
マリの針が俺を傷つけるとも思ってないし。

「マリ、怒ってくれてありがとう。カッコよかったよ」
「フーッ………きゅぅ」
「俺は大丈夫。リリーちゃんの治癒ポーションもあるし、何よりもマリが守ってくれたからな」
「きぅ…きゅぴ」

針が解け柔らかい毛に変わっていくのを手のひらで感じながら、俺はマリに語りかけ続ける。
マリは少し落ち込んだ様子でとことこと近づいてきたので、抱き上げて胸の位置で抱える。
ありがとう、となんども言いながら撫でていると、マリはすりすりと俺の胸に顔を埋めてからやっと持ち直したようにきゅっと鳴いた。

「きゅう、きゅーぴ」
「ん?…ああ、ポーションを飲めって?」
「きゅぅ!」
「そうだな。HPも…意外と減ってるな。これクラウスさんのくれた装備じゃなかったらやばかったかもな」

改めてクラウスさんに感謝して、リリーちゃん印の治癒ポーションをストレージから2本取り出す。
1本でどれくらい治るか分からないしな。
マリには肩に乗ってもらって、きゅぽっとポーションの蓋を外す。
ポーションからは薬のような匂いがして少し飲むのを躊躇ったが、マリの心配そうな視線を感じたので意をけして瓶を口につけ、ポーションを口の中に入れる。
トロっとした液体と薬の匂いが広がり、ついで薬草の苦味を感じた。
簡潔に言おう。美味しくない。
この一本でHPが全回復してくれるといいのだが、残念なことにHPバーはあと2割ほど残っていた。
下級治癒ポーション1本で2割の回復量みたいだな。
中級はどのくらいの回復量なのだろうか…ついでに、これより苦いとかやめて欲しいな。
薬の苦味が好きな人はいるのだろうか。俺は苦手だ。
躊躇うようにごくりと唾を飲み、もう1本のポーションを開けて口につける。
先程の苦味を思い出して嫌にはなったが、1本も2本も同じだ。
今度ポーション作る時は苦味を無くせるように果物とかと混ぜてみよう。
苦味を忘れるべく違うことを考えながら、くいっと瓶の中身を飲み干した。

「はー…苦かった」
「きゅーぴ」
「んー、大丈夫だよ、マリ」

心做しか涙目になっている気がする。
そんな俺を心配してか、マリが声をかけてくれたことに、今のすり減った俺の心は癒されていく。
肩の上の方がマリもいろいろと見渡せるのだが、今だけは許して欲しい。
ポーションの苦味も苦痛だったが、やはりあのコボルトの一撃は痛みではなく恐怖心として少なからず残っていたのだ。
俺は空いたポーションの瓶をストレージに入れ、肩の上にいるマリを再び腕に抱えた。
マリに顔を近づけてマリの頬と自分の頬を当てて、柔らかく暖かいマリを感じて癒される。
マリはそんな俺に何も言うことなく、ただただ好きにさせてくれた。
しばらくの間そうしてマリに癒されて心の回復も済ませた俺は、マリにありがとうと告げて肩へと戻した。
いつまでも怖がってはいられないし、なによりマリはそんなコボルトと戦ったんだ。
マリに情けないところばかり見せるのは流石にな。

「ありがとうマリ。…よし!気を取り直して水場を探そう!」
「きゅー!」

俺はマリがいれば大丈夫だと思ってる。
マリも俺がいれば大丈夫だと思ってくれるように頑張らないとな。
今回の一件でマリとの絆の深まりを感じながら、俺は再び森へと足を進めて行った。
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