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第20話 緊急事態を告げる
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「これはどうなっている! 貴様の報告とは全く違うではないか!」
ここは鉱山の街マルタの街長邸である。
その執務室で街長のマルタ子爵は鉱山の責任者を呼び出して叱責していた。
「も、申し訳ございません! 奴らが自分達の給料を引き上げる為の駆け引きだとばかり……」
責任者はそう答えると、平謝りする。
それは何なのかと言うと、数か月前から起きている鉱山労働者減少問題だった。
ドワーフのリーダー・ヨーゼフがある時、三番勝負による『賭け』に勝利すると一部のドワーフの契約を解除してきた事を発端に、続々と契約が切れるとそのまま、更新する事無くこの街をドワーフ達が去って行っているのだ。
それも当初は、頭の回るヨーゼフが次の契約から給金を引き上げる為の工作と鉱山責任者は睨み、街長に対して「強気でいれば仕事欲しさにあちらが折れる」と進言していた。
しかし、日を追うごとにドワーフ達は契約切れと共に、鉱山をあとにするどころか、この街から離れていっている。
最初こそ、たかがドワーフの一人や二人、すぐに補充できると思っていたのだが、ドワーフは減る一方だし、鉱夫どころか他の職種に就くドワーフ達も早々に身の回りを整理し、引っ越しを始めているようだ。
「これはマズい、非常にマズい! 現在、ドワーフ以外に範囲を広めて鉱山の労働の求人を出しているが、誰も応募してこない……。採掘量は一人頭の契約だから全体量は急激に減って赤字だぞ! ダン、鉱山責任者として何とかしろ!」
街長は焦った様子で、鉱山責任者ダンを再度叱責する。
だが、今のままでは鉱山は閉鎖だろう。
なにしろ鉱山という大変な肉体労働にも拘らず、ドワーフが相手という事で、人並み以下の給金しか払ってきていなかったのだ。
だから、大きな黒字を出し続けていたのだが、人並み以上の働きで採掘量も多いドワーフがそっぽを向いたら、採掘量は激減するだけである。
仕事がない人族にこの仕事を割り振ったとしても同じ給金で誰がこの過酷な労働を引き受けるだろうか?
ドワーフが人族に酷い差別を受け、モグラと揶揄されながらも仕事をもらい、生きてこられたのは、この鉱山での人並み以上の労働力を提供していたからであり、ドワーフ以外に好き好んでやる者はそうそういないだろう。
それを長い間当然のように甘受していた街長マルタ子爵と鉱山責任者ダンはそのありがたみを忘れていたのだ。
当然の報いだろう。
だがしかし、今更それに気づいたとしてもそれを認める気はさらさらない。
地味な肉体労働するしか才能がないドワーフに行く当てはないはずだと思って見下し続けていたし、それはこれからも変わらないだろうからだ。
「……こうなったら、強制的に働かせてはどうでしょう? 相手はドワーフ。それを批判する者はそう多くないでしょう。なんなら女子供を人質にして働かせるのも手かもしれません。男のドワーフはどこかへ先に多く旅立っていますが、女子供はまだ残っている者が多いです。それらを捕らえて脅し、男連中を呼び戻す事も可能かと」
「……できるか?」
街長はドワーフに人権はいらないと思っている側の貴族だから、この荒唐無稽と思える案を否定する事無く成功するか否かだけで聞き返した。
「領兵を出して頂ければ、残りのドワーフ連中ごとき、全員ひっ捕らえて見せます」
「……言う事を聞かなければ?」
「ネビン・マルタ子爵様、あなたはこのマルタ街の主。この領内で起きる事はあなたの判断でいくらでも黒を白にする事は可能ではないですか。抵抗すれば、反乱を起こそうとした罪人として処罰すれば済む事ですよ」
鉱山責任者ダンはニヤリと悪い笑みを浮かべると、主の背中を押す。
「貴様に言われなくてもわかっておるわ。──確かに相手はたかがドワーフ。こちらが損害を受けているのに、のうのうとこの土地を去るというのは、許せない事だ。その損害の補填にドワーフの強制労働は、当然の事だな……。よし、兵を集めろ! リーダー格のヨーゼフ以下、残りのドワーフ全員を捕らえ、男は強制労働、女子供はその人質として監禁だ!」
ネビン・マルタ子爵は、劣等種族と見下しているドワーフに対して、非情な判断を下すのであった。
「ヨーゼフさん、動きがありましたよ!」
領都郊外のヨーゼフ宅に、ドワーフと大きな鼠が駆けこんできた。
大きな鼠、これは大鼠族と呼ばれる種族の一つで、見た目は完全に二足歩行する人並みに大きな鼠そのものであるが、ちゃんと人語を解すし、頭もいい。
服もちゃんと纏っていて、身だしなみにも気を遣っているのが窺える。
「……聞こう」
ヨーゼフは丁度、集会終わりで他のドワーフ達が立ち去った後であったが、丁度、そこには食事に案内されていたコウがいた。
「依頼通り見張って聞き耳を立てていたら、旦那達を捕らえる為に領兵を動かすらしいです。鉱山の運営が一気に赤字になっているから、鉱山責任者も相当お怒りみたいだぜ」
大鼠族の首に赤いスカーフを巻いた彼? はヨーゼフから仕事を依頼されていたらしく、要点を簡潔に報告した。
それを聞いていたコウは、驚いて目を見張る。
どうなったら、僕達ドワーフを捕らえる結論に至るのだろうと思ったのだ。
「想定していた中でも一番悪い事態だな……。──コウ、ダンカン達にこの事を至急伝えてくれ。現在、領都内のドワーフはすでにほとんどが旅立っていないが、郊外の我々は女子供を中心にまだ、百五十人程残っている。男はそのうち五十人程、その者達に理由を説明して準備を整えさせてくれ。みんなこの領地から少しでも早く脱出してもらうしかない。男達はその守りについてもらう」
「わ、わかりました!」
コウはこのヨーゼフの話を聞いて、この事態を想定して自分達が残されていたのだ、と理解し、ダンカン達の下に急ぐのであった。
ここは鉱山の街マルタの街長邸である。
その執務室で街長のマルタ子爵は鉱山の責任者を呼び出して叱責していた。
「も、申し訳ございません! 奴らが自分達の給料を引き上げる為の駆け引きだとばかり……」
責任者はそう答えると、平謝りする。
それは何なのかと言うと、数か月前から起きている鉱山労働者減少問題だった。
ドワーフのリーダー・ヨーゼフがある時、三番勝負による『賭け』に勝利すると一部のドワーフの契約を解除してきた事を発端に、続々と契約が切れるとそのまま、更新する事無くこの街をドワーフ達が去って行っているのだ。
それも当初は、頭の回るヨーゼフが次の契約から給金を引き上げる為の工作と鉱山責任者は睨み、街長に対して「強気でいれば仕事欲しさにあちらが折れる」と進言していた。
しかし、日を追うごとにドワーフ達は契約切れと共に、鉱山をあとにするどころか、この街から離れていっている。
最初こそ、たかがドワーフの一人や二人、すぐに補充できると思っていたのだが、ドワーフは減る一方だし、鉱夫どころか他の職種に就くドワーフ達も早々に身の回りを整理し、引っ越しを始めているようだ。
「これはマズい、非常にマズい! 現在、ドワーフ以外に範囲を広めて鉱山の労働の求人を出しているが、誰も応募してこない……。採掘量は一人頭の契約だから全体量は急激に減って赤字だぞ! ダン、鉱山責任者として何とかしろ!」
街長は焦った様子で、鉱山責任者ダンを再度叱責する。
だが、今のままでは鉱山は閉鎖だろう。
なにしろ鉱山という大変な肉体労働にも拘らず、ドワーフが相手という事で、人並み以下の給金しか払ってきていなかったのだ。
だから、大きな黒字を出し続けていたのだが、人並み以上の働きで採掘量も多いドワーフがそっぽを向いたら、採掘量は激減するだけである。
仕事がない人族にこの仕事を割り振ったとしても同じ給金で誰がこの過酷な労働を引き受けるだろうか?
ドワーフが人族に酷い差別を受け、モグラと揶揄されながらも仕事をもらい、生きてこられたのは、この鉱山での人並み以上の労働力を提供していたからであり、ドワーフ以外に好き好んでやる者はそうそういないだろう。
それを長い間当然のように甘受していた街長マルタ子爵と鉱山責任者ダンはそのありがたみを忘れていたのだ。
当然の報いだろう。
だがしかし、今更それに気づいたとしてもそれを認める気はさらさらない。
地味な肉体労働するしか才能がないドワーフに行く当てはないはずだと思って見下し続けていたし、それはこれからも変わらないだろうからだ。
「……こうなったら、強制的に働かせてはどうでしょう? 相手はドワーフ。それを批判する者はそう多くないでしょう。なんなら女子供を人質にして働かせるのも手かもしれません。男のドワーフはどこかへ先に多く旅立っていますが、女子供はまだ残っている者が多いです。それらを捕らえて脅し、男連中を呼び戻す事も可能かと」
「……できるか?」
街長はドワーフに人権はいらないと思っている側の貴族だから、この荒唐無稽と思える案を否定する事無く成功するか否かだけで聞き返した。
「領兵を出して頂ければ、残りのドワーフ連中ごとき、全員ひっ捕らえて見せます」
「……言う事を聞かなければ?」
「ネビン・マルタ子爵様、あなたはこのマルタ街の主。この領内で起きる事はあなたの判断でいくらでも黒を白にする事は可能ではないですか。抵抗すれば、反乱を起こそうとした罪人として処罰すれば済む事ですよ」
鉱山責任者ダンはニヤリと悪い笑みを浮かべると、主の背中を押す。
「貴様に言われなくてもわかっておるわ。──確かに相手はたかがドワーフ。こちらが損害を受けているのに、のうのうとこの土地を去るというのは、許せない事だ。その損害の補填にドワーフの強制労働は、当然の事だな……。よし、兵を集めろ! リーダー格のヨーゼフ以下、残りのドワーフ全員を捕らえ、男は強制労働、女子供はその人質として監禁だ!」
ネビン・マルタ子爵は、劣等種族と見下しているドワーフに対して、非情な判断を下すのであった。
「ヨーゼフさん、動きがありましたよ!」
領都郊外のヨーゼフ宅に、ドワーフと大きな鼠が駆けこんできた。
大きな鼠、これは大鼠族と呼ばれる種族の一つで、見た目は完全に二足歩行する人並みに大きな鼠そのものであるが、ちゃんと人語を解すし、頭もいい。
服もちゃんと纏っていて、身だしなみにも気を遣っているのが窺える。
「……聞こう」
ヨーゼフは丁度、集会終わりで他のドワーフ達が立ち去った後であったが、丁度、そこには食事に案内されていたコウがいた。
「依頼通り見張って聞き耳を立てていたら、旦那達を捕らえる為に領兵を動かすらしいです。鉱山の運営が一気に赤字になっているから、鉱山責任者も相当お怒りみたいだぜ」
大鼠族の首に赤いスカーフを巻いた彼? はヨーゼフから仕事を依頼されていたらしく、要点を簡潔に報告した。
それを聞いていたコウは、驚いて目を見張る。
どうなったら、僕達ドワーフを捕らえる結論に至るのだろうと思ったのだ。
「想定していた中でも一番悪い事態だな……。──コウ、ダンカン達にこの事を至急伝えてくれ。現在、領都内のドワーフはすでにほとんどが旅立っていないが、郊外の我々は女子供を中心にまだ、百五十人程残っている。男はそのうち五十人程、その者達に理由を説明して準備を整えさせてくれ。みんなこの領地から少しでも早く脱出してもらうしかない。男達はその守りについてもらう」
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コウはこのヨーゼフの話を聞いて、この事態を想定して自分達が残されていたのだ、と理解し、ダンカン達の下に急ぐのであった。
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