転生!底辺ドワーフの下剋上~小さい英雄の建国記~

西の果てのぺろ。

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第182話 夜闇の奇襲

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 緩衝地帯まで遠征してきたセイレイン王領地方軍五百は、前祝いとばかりに宴会を行い、深夜まではしゃいだようであった。

 その声も静かになり落ち着いた頃。村の外の森に潜んでいたコウ達が仮眠から目を覚ます。

 コウは剣歯虎のベルに騎乗し、それにコボルト精鋭機動歩兵部隊五十名が続く。

 コウ達は、敵の本陣の裏に密かに回る。

 敵陣はコボルトの村側を見張る者はいても、その背後については、全くの無防備であった。

「……作戦通りに」

 コウの騎乗するベルが低い体勢で進み、コウもその背中に密着したまま、周囲のコボルト達に短く伝える。

 コボルト達は、その言葉に無言で頷くと、敵陣に入っていく。

 糧秣のあるテントを確認し、ドワーフから習った火魔法で放火して回る。

 火の手が上がると、初めてここで、

「裏切者が、食糧に火を点けて回っているぞ!」

 というコウ達の大きな声が上がった。

 これには、気持ちよく寝ていた兵士達も慌てて外に飛び出す。

 お酒が残っている者もおり、フラフラな状態で剣を握りしめているのだが、火を消す為に走ってくる兵士を裏切者の敵と勘違いして、剣で斬りつけた。

 これが、呼び水になって、同士討ちが始まる。

 そこには、奇襲中のコボルト達もいるから、裏切者はコボルトも招き入れたと思い、さらに混乱状態に。

 その中で、仮面を付けた小柄な兵士が、大戦斧を振るって混乱する兵士達を縦横無尽に暴れて切り捨てていくものだから、本陣は収拾のつかない状態になった。

 指揮官は完全に熟睡しており、この状況に気づかないでいたが、起こしに来た部下に何度も揺すられてようやく目を覚ます。

「指揮官殿! コボルト達の奇襲です! 裏切者が本陣に招き入れたらしく、糧秣は燃え、兵士達も大混乱に陥っています!」

「むにゃむにゃ……。──な、何!? これはいかん! う、馬をここへ! 騎兵百騎で蹴散らしてくれる!」

 指揮官は、状況が把握できない中、部下に命じて馬を連れ来るように指示する。

「馬はすでに、敵に追い立てられていなくなっています!」

 部下は、まだ、冷静なのか、状況をまだ、把握しており、そのことを伝えた。

「何ー!? 兵をまとめて対抗せよ! 相手はたかがコボルトだ。冷静に対応すれば、すぐに逃げ出すに決まっている! 裏切者は、そのあとに討伐すればよい!」

 指揮官は、コボルトを侮っていたから、そのお陰で多少冷静になった。だが、まだ、ここに至っても状況を正しく把握できていない。

「表に兵を何名か待機させておりますが、この状況では一度、退避した方よろしいかと思います!」

 部下は、状況が完全に負けを示していたので、指揮官にそう進言する。

「退避だと!? 馬鹿を申すな! コボルトごときに兵を退いたとあっては、末代まで笑いものになるわ! 我に続け!」

 指揮官はそういうと鎧を着ることなく剣と盾だけ手にして、外に飛び出した。

 そして、初めて自分の置かれている状況に、茫然とする。

 兵士達のテントは燃えており、仲間同士で殺し合いをはじめ、そこを一陣の風のように、陣形を組んだコボルトの複数の部隊が、槍をしごいて駆け抜けていく。

 混乱している兵士達は、そのコボルトの槍に突き殺されていった。

「こ、こんなことが……!?」

 指揮官が驚いている中、自分のテントにも火の粉がかかり、あっという間に燃え広がる。

「指揮官殿、脱出を! 他の包囲している部隊と合流して隊の建て直しをはかりましょう!」

 部下はもっとも妥当と思える案を出した。

 だが、それも、無駄である。

 それは、本陣の奇襲を合図に、コボルトの村からも、予備兵隊が包囲する地方軍の部隊に夜襲をかけていたからだ。

 完全に油断していた地方軍の他の部隊もこの夜襲に対応できず、多くの者が命を失うか命からがら領内に逃げ帰ることになる。

 そんな混乱の中、指揮官はようやく部下の案を聞き入れ、一時撤退し、兵を編成し直すことにした。

 だが、時すでに遅し。

 指揮官の下に兵士二十名を集結させていたことで、コウの目にその姿を捕らえられたからだ。

「あれは、指揮官クラスの気がする!」

 コウは、大戦斧を大きく掲げると、その後ろについていた十名のコボルト部隊が、状況を把握して頷く。

 一同は、一つにまとまると、その指揮官達のいる二十名の塊に突っ込んでいった。

 コウは大戦斧を大きく振りかぶると、指揮官を目指す。

 それに、指揮官もすぐに気づいた。

 何しろ剣歯虎に跨り、コボルトを率いているのだ。目立たないわけがない。

「指揮官殿をお守りしろ!」

 部下がそう命令すると、兵士達は慌ててコウを迎え撃とうとする。

 それは勇気のある行動に見えた。

 しかし、相手が悪かったとしか言いようがない。

 コウが大戦斧を一閃すると、鎧をつける暇がなかった兵士達は、なまくらな剣ごと胴体を両断されてその場に突っ伏す。

 そう、超魔鉱鉄製の大戦斧の前には、鎧も着ていないその姿は、紙のようなものであったのだ。

 コウは、二振り目で、立ちはだかる兵士を掃討すると、指揮官に迫る。

「ひぃ!」

 指揮官はブランドの盾でコウの大戦斧を防ごうと構えた。

 コウは、冷静に自分の膂力と技術力、そして、自分の作った大戦斧があれば切れる、と判断して盾の上から大戦斧を振るう。

 指揮官の盾は、大戦斧の前に文字通り両断されて腕ごと切り落とされる。

「ぎゃー!」

 指揮官は、ブランドの盾のお陰で、一撃で殺されはしなかったが、その分、痛みに苦しむ時間が、一秒ほど伸びることになった。

 コウは、体ごと回転させて大戦斧の勢いを殺すことなく、そのまま二振り目を指揮官に振るう。

 大戦斧は指揮官に吸い込まれていき、首を飛ばしてようやく止まるのであった。


 夜が明けた。

 朝焼けに、地方軍の本陣があった場所が照らされる。

 そこには、兵士の遺体が転がって、まだ、火が燻って場所も見られた。

「こちらの被害は、六名の軽傷のみです」

 コボルトの一部隊を率いたレトリーがコウにそう報告する。

「村の方は?」

 コウが予備兵隊方を気にした。

「あちらは、十五名が負傷。三名が戦死だそうです」

「……三名か……。敵の数を考えるとかなり少なかったと考えるべきだね……。ふぅ……」

 コウは、安堵のため息を吐くと、作戦通りに事が成ったことを喜ぶ。

 そこへ、予備兵隊を指揮していたダークエルフのララノア、街長の娘カイナがコウのもとに手を振ってやってくるのであった。
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