すこし未来の、ほかの地球で。

noriko

文字の大きさ
26 / 45
約束とはじまりの記憶

25

しおりを挟む




◇◆◇




しかし、現実はそんなに甘くなかった。
僅かに残った、映画の1シーンのような断片的な記憶は、あまりにも細かすぎて繋がらない。
だから、ほとんど意味がなかった。
わけのわからないいくつかの映像はおそらく、必要がなければ徐々に薄れていくだろう。
それはつまり、時間が経つほど、記憶は0に近づくということ。
もう、諦めるしかないのか。


僕は、ため息をついた。
外に出れば何か刺激があって、思い出せたりするだろうか。
でも、僕はいつになったら出歩けるのかわからない。
体はまだ軋む。
腕を見ると、包帯が巻かれて、固定されていた。
折れてる?
そうでないにしろ、完治に時間はかかりそうだ。
足もおそらく、そんな感じだろうか。
「思い出せたところで、どうにかなるのかな」
僕が大助の言うとおり追われているのなら、今までの記憶があったって意味はない。
もしかしたら、邪魔なものにさえなるかもしれない。


窓の外は、もう暗かった。
随分寝ていたつもりだったが、そんなこともなかったようだ。
少し、肌寒い。
窓が閉まっているから、風が吹いてくる訳じゃないのに。
今は冬なのか、それとも寒い地方なのか。
窓からは、月が丁度見えて綺麗だった。
ぼんやりと、光が見える。
――聞こえる?
何も考えず、ただ月を眺めていたら、突然そんな声が聞こえてきた。


脳に直接、響いてくるような。
何度も言うけれど、窓は開いてないし、人の影も見当たらない。
「どこにいる?」
声の主――少女だろうか――は続けた。
――よかった、繋がった。
「誰なの? 僕になにか用?」
幻聴?
それとも、僕を殺しに来た?
――あ、ごめんなさい。わたしはミント。えーと…強いていうなら、キミの中にいる。
「……は?」


先程の大助よりひどい誤魔化し方だった。
なんていうか、ぶっ飛んでる。
僕が話した3人目の人物は、随分と厄介なヒトだった。
――とにかくよかった、キミと話せて。やっぱり北部は違うね!
彼女は僕を置いて、1人で話を進めていく。
「だから、僕になんの用なの? 君は一体なんなの!?」
――説明が難しいのよね、わたしって。キミの守護霊とか、それくらいに思っておいてよ。
「実体は?」
――とりあえず、ここにはないかな。


確かに、人影は見当たらなかった。
部屋の外からの声にしては鮮明で、そして。
(もしかして、思ってる事とかわかる?)
――わかるよ!
「……うう」
普通のヒトじゃない、認めるしかなかった。
――ね、わたしの話はとりあえずここまで! 折角話せたんだから、早いうちに用事済ませなきゃ。
「わかってると思うけど、僕は何も知らないよ」
――だからこそキミが必要なの。それに、キミのことならわたしの方が詳しいんだからね。
「もしかして、"綺羅"ともこうやって話してたの?」


――そういう訳じゃないけど、まあ、いろいろあるのよ。ていうか、キミ、声に出す必要ないじゃん。
「仕方ないだろ、声に出さずに会話なんて気持ち悪いんだから」
僕には普通に声が聞こえているんだ。
それくらい理解してほしい。
――ふうん、まあいいや。とにかく……えっと、キミに簡単に死んでもらっちゃ困るって言いたいのがひとつ。
「そんな事言われてもなあ……」
――とりあえず、北部にいる間は大丈夫かな。逆に死にたいと思っても簡単には死ねないよ、ここじゃ。
彼女はおかしそうに笑う。
「大助とか、ここの人達は僕の味方?」
――味方って、面白い言いかた。でも、そうかな。キミにとって一番強い盾になりえるのがここになると思う。


それを聞いて、少し安心した。
しかし、ここでふと気付く。
「君は僕の味方?」
――わたしはキミに、味方になってほしい。
不思議と、その言葉をすんなり受け入れられた。
よくわからないけど、彼女の声はすごく懐かしかった。
「……僕はなにをすればいい?」
――話が早いね。感謝するわ。とりあえず今は、自分を大事にしてほしい。それから……わたしに協力して。
「君に、協力?」


――わたしはこの通り実体がここにはなくてね、キミ以外に声を届けるのもひと苦労だし、行動に限界があるの。だから、普段は普通に生活してもらえばいい。でも――わたしがお願いしたときは、わたしの身体になって動いてほしいの。
「君の変わりに、具体的には何をするの?」
――世界を、人を救ってほしい。人のために動いてほしい。
それは、随分と抽象的だ。
ああ、僕はとんでもないことに巻き込まれた。
頭を抱えたかったけど腕の自由がきかず、間抜けな顔を晒してしまった。


「約束しちゃったからには仕方ないや。僕にできる事なの?」
――わたしもできるだけサポートする。でも、それぬきでもキミなら十分にできるはずだよ。だからわたしは、キミを選んだっていうのもある。
なにか含みのある言い方だった。
「記憶がなくて、僕にできそう……それで、僕は選ばれた、と」
――あとは、キミを信じてるから。
先程までとは打って変わって、妙に落ち着き払った口調でそんなことをいう。
「わかった。じゃあ僕もミントを信じる」
――よろしくね。えっと、名前……
「あ、忘れてた。考えとかなきゃ」


――かっこいい名前がいいよ。
「ほっといてよ! ……あ、ミント。ひとつ聞いていい?」
――なあに。
「君から僕の姿は見えてる?」
――うん、見えてるよ。
ずっと気になっていたんだ。
これでいいのかって。
「この髪の長さ、鬱陶しいと思わない?」
正直、邪魔だし。
それに、あまり青いのは嬉しくない。


――正直ね。
「……ありがとう」
まずは髪を切ろう。
新しい"僕"のスタートとして。
――ねえ。
彼女は、あらたまって言った。
「なに?」
――……
彼女が何かを口にしようとしたとき、ノックの音が聞こえた。


  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

処理中です...