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約束とはじまりの記憶
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しかし、現実はそんなに甘くなかった。
僅かに残った、映画の1シーンのような断片的な記憶は、あまりにも細かすぎて繋がらない。
だから、ほとんど意味がなかった。
わけのわからないいくつかの映像はおそらく、必要がなければ徐々に薄れていくだろう。
それはつまり、時間が経つほど、記憶は0に近づくということ。
もう、諦めるしかないのか。
僕は、ため息をついた。
外に出れば何か刺激があって、思い出せたりするだろうか。
でも、僕はいつになったら出歩けるのかわからない。
体はまだ軋む。
腕を見ると、包帯が巻かれて、固定されていた。
折れてる?
そうでないにしろ、完治に時間はかかりそうだ。
足もおそらく、そんな感じだろうか。
「思い出せたところで、どうにかなるのかな」
僕が大助の言うとおり追われているのなら、今までの記憶があったって意味はない。
もしかしたら、邪魔なものにさえなるかもしれない。
窓の外は、もう暗かった。
随分寝ていたつもりだったが、そんなこともなかったようだ。
少し、肌寒い。
窓が閉まっているから、風が吹いてくる訳じゃないのに。
今は冬なのか、それとも寒い地方なのか。
窓からは、月が丁度見えて綺麗だった。
ぼんやりと、光が見える。
――聞こえる?
何も考えず、ただ月を眺めていたら、突然そんな声が聞こえてきた。
脳に直接、響いてくるような。
何度も言うけれど、窓は開いてないし、人の影も見当たらない。
「どこにいる?」
声の主――少女だろうか――は続けた。
――よかった、繋がった。
「誰なの? 僕になにか用?」
幻聴?
それとも、僕を殺しに来た?
――あ、ごめんなさい。わたしはミント。えーと…強いていうなら、キミの中にいる。
「……は?」
先程の大助よりひどい誤魔化し方だった。
なんていうか、ぶっ飛んでる。
僕が話した3人目の人物は、随分と厄介なヒトだった。
――とにかくよかった、キミと話せて。やっぱり北部は違うね!
彼女は僕を置いて、1人で話を進めていく。
「だから、僕になんの用なの? 君は一体なんなの!?」
――説明が難しいのよね、わたしって。キミの守護霊とか、それくらいに思っておいてよ。
「実体は?」
――とりあえず、ここにはないかな。
確かに、人影は見当たらなかった。
部屋の外からの声にしては鮮明で、そして。
(もしかして、思ってる事とかわかる?)
――わかるよ!
「……うう」
普通のヒトじゃない、認めるしかなかった。
――ね、わたしの話はとりあえずここまで! 折角話せたんだから、早いうちに用事済ませなきゃ。
「わかってると思うけど、僕は何も知らないよ」
――だからこそキミが必要なの。それに、キミのことならわたしの方が詳しいんだからね。
「もしかして、"綺羅"ともこうやって話してたの?」
――そういう訳じゃないけど、まあ、いろいろあるのよ。ていうか、キミ、声に出す必要ないじゃん。
「仕方ないだろ、声に出さずに会話なんて気持ち悪いんだから」
僕には普通に声が聞こえているんだ。
それくらい理解してほしい。
――ふうん、まあいいや。とにかく……えっと、キミに簡単に死んでもらっちゃ困るって言いたいのがひとつ。
「そんな事言われてもなあ……」
――とりあえず、北部にいる間は大丈夫かな。逆に死にたいと思っても簡単には死ねないよ、ここじゃ。
彼女はおかしそうに笑う。
「大助とか、ここの人達は僕の味方?」
――味方って、面白い言いかた。でも、そうかな。キミにとって一番強い盾になりえるのがここになると思う。
それを聞いて、少し安心した。
しかし、ここでふと気付く。
「君は僕の味方?」
――わたしはキミに、味方になってほしい。
不思議と、その言葉をすんなり受け入れられた。
よくわからないけど、彼女の声はすごく懐かしかった。
「……僕はなにをすればいい?」
――話が早いね。感謝するわ。とりあえず今は、自分を大事にしてほしい。それから……わたしに協力して。
「君に、協力?」
――わたしはこの通り実体がここにはなくてね、キミ以外に声を届けるのもひと苦労だし、行動に限界があるの。だから、普段は普通に生活してもらえばいい。でも――わたしがお願いしたときは、わたしの身体になって動いてほしいの。
「君の変わりに、具体的には何をするの?」
――世界を、人を救ってほしい。人のために動いてほしい。
それは、随分と抽象的だ。
ああ、僕はとんでもないことに巻き込まれた。
頭を抱えたかったけど腕の自由がきかず、間抜けな顔を晒してしまった。
「約束しちゃったからには仕方ないや。僕にできる事なの?」
――わたしもできるだけサポートする。でも、それぬきでもキミなら十分にできるはずだよ。だからわたしは、キミを選んだっていうのもある。
なにか含みのある言い方だった。
「記憶がなくて、僕にできそう……それで、僕は選ばれた、と」
――あとは、キミを信じてるから。
先程までとは打って変わって、妙に落ち着き払った口調でそんなことをいう。
「わかった。じゃあ僕もミントを信じる」
――よろしくね。えっと、名前……
「あ、忘れてた。考えとかなきゃ」
――かっこいい名前がいいよ。
「ほっといてよ! ……あ、ミント。ひとつ聞いていい?」
――なあに。
「君から僕の姿は見えてる?」
――うん、見えてるよ。
ずっと気になっていたんだ。
これでいいのかって。
「この髪の長さ、鬱陶しいと思わない?」
正直、邪魔だし。
それに、あまり青いのは嬉しくない。
――正直ね。
「……ありがとう」
まずは髪を切ろう。
新しい"僕"のスタートとして。
――ねえ。
彼女は、あらたまって言った。
「なに?」
――……
彼女が何かを口にしようとしたとき、ノックの音が聞こえた。
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