すこし未来の、ほかの地球で。

noriko

文字の大きさ
38 / 45
約束とはじまりの記憶

37

しおりを挟む
「それじゃ、杏奈ちゃんの歓迎会を始めましょう。皆さん自由にしてくださいな」


恵さんの一言で、ばらばらと部屋中に分散する。


部屋の隅でいつものように談話するグループ、杏奈ちゃんの元に殺到するグループなど色々だった。


僕もどこかの輪に入ろうと辺りを見渡すと、怪しげな白衣の集団が目に入った。


あの独特な動きと、何より紫色の髪……


……もしかしなくても、ミシェルさんたちだった。


少しして彼女らも僕に気づいたらしく、手招きして僕を呼んだ。


「ミシェルさんたち、どうして白衣なんですか……」


「民人君が言ったんだろう、ちゃんとした格好してこいって。あたしらの正装と言えばこれだからね」


悪びれる様子もなくさらりと言うミシェルさん。


後ろにいる彼女の同僚たちも、大きく頷いていた。


……歓迎会だし、自己紹介も兼ねてるなら、こっちのほうがいい気もするけど。


「あら、怪しげな集団だこと」


ため息混じりにそうつぶやき、僕の隣に恵さんが立つ。


「めぐ姉、ヒドいっ」


少し悲しそうに、頬を膨らませるミシェルさん。


「その呼び方やめて」


不愉快そうに顔をしかめ、低い声で言う。




「うう…、恵ちゃん……」


ミシェルさんは叱られた仔犬のように、しゅんと大人しくなってしまった。


それを見て、恵さんは咳ばらいをする。


「……まあ、あなたたちらしくていいんじゃないの。余裕ができたら杏奈ちゃんに挨拶しなさいな」


彼女は、それじゃあ私は忙しいから、と言い、ミシェルさんの肩を叩いてから人混みに消えていった。


それを見送るミシェルさんは、少しさみしそうだった。


「よし」


しばらくしてから、彼女はそう言って気合いを入れた。


「どうしたんですか、ミシェルさん」


「杏奈ちゃんに挨拶する」


恵さんによってもたらされた妙な使命感が、彼女を奮い立たせたらしかった。




「ってわけで、お前もついて来てくれ」


「え、あ、ちょっと」


僕の手首をがっしりと掴み、杏奈ちゃんへと向かうミシェルさん。


杏奈ちゃんは、丁度大助と談笑している最中だった。


「杏奈ちゃん、久しぶり!」


彼女はそのなかにずけずけと割り込んで、杏奈ちゃんに話しかけた。


大助はもう慣れっこなのか、黙って一歩身をひいた。


「あ、こんにちは。えっと、所長さん」


丁寧にお辞儀をする杏奈ちゃんに、ミシェルさんは思い切り抱き着いた。


「かっわいい! 覚えててくれたなんて嬉しいよ!」


「きゃあっ、えっと、あの……」


「ミシェルさん、とりあえず落ち着いて」


興奮ミシェルさんに振り回される杏奈ちゃんを気の毒に思ったのか、大助がミシェルさんを落ち着かせる。


「あ、ごめんね、つい手が出ちゃった」


我にかえったミシェルさんは、杏奈ちゃんにぺこぺこと謝りだした。


「あ……大丈夫ですから、所長さん」


「あ、ミシェルって呼んでくれればいいよ」


ミシェルさんはよっぽど杏奈ちゃんを気に入ったのか、終始頭を撫でたり、とりあえずスキンシップが凄い。




「大助、大丈夫なの、あれ」


こっそり大助にきくと、


「あの人可愛いものには目がないから……ああなったら仕方ないけど、落ち着くまで待つしかないよ。研究してる時と一緒」


というなんともあっさりとした言葉が返ってきた。


「うーん、害はないからいっか」


杏奈ちゃんが困ってる気はするけど、姉妹みたいで微笑ましい。


そう思いながら二人をみていると、横から大助が僕の肩を叩いてきた。


「あ、そうだ民人君」


「え、なに?」


なにを言い出すかと思ったら、


「クッキー、ありがと。やっぱり手作りは最高だな」


なんて、爽やかな笑顔を浮かべながら言った。


僕もこんなスキルが欲しいとつくづく思う。


「よかった、恵さんも喜ぶよ。あの人が発案者だからね」


「さすが恵さんだよ。頭が上がらないや」


「……恵さんが戻ってきたの、嬉しい?」


「ん、ああ。姉ちゃんみたいなもんだからな、結婚がなくなっちゃったのは残念だけど、ちょっと嬉しい」


「そっか」




やっぱ兄弟とか家族って、いいな。


血が繋がってなくても、その空間を共有できるのがすごく心地好い。


僕は本当の家族の事は全然覚えてないけど、僕らもこんな風だったのかな、なんて考えてしまう。






◇◆◇




パーティーが終わって、僕らは片付けにとりかかっていた。


「民人さん、今日はありがとうございました」


ゲストにも関わらずせっせと片付けを手伝ってくれていた杏奈ちゃんはそう言って、いつもみたいにお辞儀をする。


「楽しかった?」


「はい、とっても楽しかったです! 皆さん優しくしてくださって」


「なら、何よりだよ」


「はい! それにしても、やっぱり白衣ってかっこいいですねえ」


「はあ」


うっとりと天井を見つめる杏奈ちゃん。


さっき、一体何があったんだろうと思わずにはいられない。


「私も、ミシェルさんみたいに白衣の似合う大人になりたいです」


「うん、君なら、なれるよ」


もしかしたら杏奈ちゃんはミシェルさんと感性が似てるのかもしれない。


なにはともあれ、今回に限っては彼女らの「正装」は大正解だったようだ。




◇◆◇




静かな夜だった。


いや、もしかしたらいつもと変わらないのかもしれない。


でも、楽しかったパーティーが終ったあとの、物寂しさがある夜だった。


まだ興奮はさめなくて、疲れはあるのに眠れなかった。


ふらふらと最上階まで上ると、そこには大きなベランダがあった。


庭も、空も、そこから一望できる、僕が一番好きな場所。


着込んでいてもすこし寒い外へ、身を乗り出す。


「いろいろあったなあ」


夏に、千菜様から言われて南西部に行って、不可解な事件にも遭遇した。


そこで、杏奈ちゃんを含めて、過去の僕を知る人に出会った。


「東さん、佳代さんも、どうしてるかな」
杏奈ちゃんとは、定期的に連絡をとっているみたいだけれど。


それから、歌を歌う少女に出会った。


どこかで、聞き覚えのある歌だった。


彼女も今、どうしているんだろう。




「森の中で、君と二人……一人じゃない 夜は明けた


 決して忘れる事なきように、共に歌おう、この歌を」


僅かに心に残る旋律、


うろ覚えの詞(ことば)。


北部の夜は寒くて、言葉を紡ぐ度に白い息が舞った。


いつ、聴いたのだろう。


過去の記憶の、わずかに残った一部なのか。


彼女のこの歌への異様なまでの執着。


もしかしたら、僕にとっても大事な記憶なのかもしれない。


とても気がかりだった。


何か、僕にきっと何か関係があるはずだった。


「絆の途切れる事なきように、心に刻もう、この歌を……そして……、思い出せないや」




それでも僕の記憶はあまりにも曖昧で、これ以上のことは思い出せない。


白いため息が夜空へとあがる。


部屋に戻ろうとした、その時――


「そして二人、空に誓おう」


聞き覚えのある声が、確かな旋律を辿る。




 この歌の在る限りは


 二人は共に 在り続けると


声の主――いつのまにか僕の後ろに立っていた大助は、切な気に微笑みながら、その歌を歌った。


僕の隣まで歩いてきて、空を見上げる。


「ああ……お前だったのか」


僕の中に、ひとつの記憶が蘇る。


我ながらなんて、とぼけた声だったろう。




中央で2人で暮らしていたとき、夜中に目を覚ますと、大助は時々今みたく、ベランダから空を見上げて、歌を歌っていた。


紛れもなく、この歌を。


そう――これはしっかりと、民人の記憶だった。


その事実にがっかりする反面、なぜか安心していた。


何故かはわからない。


いや、わからないふりをしてるだけなのかもしれない。


ひとしきり歌い終えた大助は、照れくさそうに笑った。


それから、僕をまっすぐに見つめて言う。


「俺しか、知らない歌のはずだけど」


その堂々たる言い方は、何かを拒絶していた。




――彼女に、会わなきゃ。


彼女に会って、恐らく持っている彼女の誤解を解かなければいけない。


真実を伝えなくてはいけない。


彼女が探しているのは、僕じゃない。


なんとかして、彼女を探し出さないと……!


「どの範囲で、お前しか知らないの?」


彼は質問に、ため息で返した。


「……やっぱりどこかで、聞いたみたいだな」


笑いながら、そう呟く。


彼の声が少しふるえているのは、寒さのせいだろうか。


「……南西部からここにくる船、乗ってた女の子が歌ってた」


「……そうか」


「きっと今、北部のどこかにいる。そう言ってた」


「……そうか」


力のない返事ばかりが返ってくる。


「マリアだよ、お前がずっと探してた子じゃないのか? 彼女だって、この歌だけを手がかりにずっとお前を探してるんだよ!」


彼は一瞬目を見開いた。


しかし、僕が願うような返事はなかった。




「……会わない方が、互いの為さ」




ぽつり、とこれだけ呟いた。


そして、寂しく笑いながら、室内にもどろうと身を翻した。


「どうして……!? 今まで必死に探してたじゃないか」


情報収集のために、何か手がかりはないかって、中央にまで住んで。


大学に行きながら、ずっと誰かを探してたのを僕は知ってる。


「俺は、会いたかったわけじゃない」


「何でだよ、どうしていっつも、肝心なときに自分に正直にならないんだよ!」


「もう、ほっといてくれ」


頼むように強く言われた言葉に、何も僕は言い返せなかった。


「……っ」


「俺はかなりの幸せ者だよ。これでもう満足した。……民人君も早く部屋に戻りなよ、風邪ひくから」


おやすみ、と吐き捨てるように言って、大助は部屋へと戻ってしまった。


「大助! ……大助」


お前、本当にそれでいいのか?


いつもそうだ。


僕は大助に頼りっぱなしなのに、彼は僕に何も話してくれない。


「また……またお前1人だけで、抱え込むつもりなのか?」


  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

処理中です...