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第1章 新しい世界と出会い
第45話 茶毛狼
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――茶毛狼。
その名の通り、全身が茶色い毛に覆われた狼であり、大きい個体であれば人が住む家と同等の大きさになる――と、そう聞いてはいたけれど、僕らの前に姿を現した茶毛狼は、顎までの高さですら僕の身長の優に3倍はありそうだった。
立ち上がった状態なら、ジンさんでも腹部の下に入れそうだし……もしかするとジェルビンさんに聞いていた、大きいサイズ、というやつなのかもしれない。
そんなことを考えつつゆっくりと近づいていけば、突然周囲の空気が変わる。
きっとこれが、隔離された空間、なんだろう。
「よし、始めるぞ。いつも通り、俺とジンが先行する。リアは俺らの後に仕掛けてくれ」
「わかったわ」
「それとティキ。盾を頼む」
アルさんの指示にティキさんが頷き、インベントリから1冊の本を取り出す。
まるで魔導書のような……そんな見た目の本。
それをティキさんは空へ投げ、流れるように手を組み言葉を紡ぎだす。
「主よ。天上よりて我らを見守りし父よ。その大いなる御心をもって、我が盟友たちを護り給え。〔聖なる守護の障壁〕」
ティキさんの詠唱が終わると同時に、アルさんとジンさんへ神々しい光が降り注ぐ。
どうやらこれが、アルさんの言っていた盾なんだろう。
というか、詠唱してる間……本が浮いてたんだけど……。
「ハァッ!」
突如響いた声に、ティキさんの本へと注いでいた視線を動かせば、アルさんが籠手のついた右手で武器を……殴ってる!?
あ、でも……その音で、茶毛狼がアルさんを目標として定めたみたいだ。
もしかすると元々そのために武器を殴って音を出したんだろうか?
そんなことを考えていた僕の視界の中では、アルさんと茶毛狼の距離が一気に近づき、茶毛狼が右前脚で鋭い薙ぎ払いをしてみせた。
「ぐっ!」
武器の大剣を盾のように構えていたアルさんから黄色い光が弾け、防御の反動で少し後ろへと退がる。
直後、茶毛狼の死角を狙うように、ジンさんが左前脚へと斧で豪快に斬りつけた。
「ッ! かってぇ!?」
「っジン、退け!」
「――彼のモノを、押し潰せ!〔堅硬なる破城の石槌〕!」
アルさんの声に、その場からジンさんが飛び退く。
その瞬間、まるでその予定通りだったと言わんばかりのタイミングで、茶毛狼の背中に大岩が落ち、砕け散った。
しかし、そんな攻撃などまるで効いていないかのように、茶毛狼はアルさんへと前脚を振るう。
「アル!」
「この程度、問題ない! それよりも、俺に目が向いているうちに攻めろ!」
その言葉を背に、ジンさんは再度懐に入り、斧を叩きつける。
だが、やはり硬いのか……思ったよりもダメージが出せていないように見えた。
「母なる大地に希う。我願うは天への道。我紡ぐ盟約への言葉を以って、天へと届く塔と成れ!〔天を貫く砂礫の塔〕!」
そんな中、リアさんの声が響いたかと思えば、茶毛狼の腹部下の地面から、突如砂の塔が生える。
その塔は勢いよく茶毛狼の腹部を突き上げ、その巨体を少しだけ宙に浮かせた。
突き上げた反動で塔はすぐ壊れてしまったが、茶毛狼にとっても十分なダメージになったみたいで、攻める一方だった茶毛狼が、身を翻すように後方へと飛び退いた。
その反応に余裕が生まれたのか、アルさんとジンさんも僕らの傍へと戻ってくる。
「……どうやら腹部は硬くないみたいだな」
「そうみたいね。でも、さすがに警戒しちゃうだろうし、2発目は厳しいわよ?」
「だろうな。とりあえずジンは腹部を狙えそうなら狙ってくれ。ティキはジンを集中してサポート、リアも狙えそうなときには狙ってみてくれ。ただし無理はするなよ? 厳しければ妨害程度でも構わない」
出された指示に各々自由に頷き、ジンさんは武器を変更した。
今まで振るっていた斧とは違う……より柄の長い、槍のような斧だ。
きっと位置の高い腹部に当てるためだろう。
しかし……
「あの、アルさん?」
「ああ、アキさんは……特に……」
「あ、はい」
言いづらそうに言うアルさんに、僕もなんとも言えず……そのまま背を見送る。
わかってたことなんだけど、何も出来ないのはどうにも歯痒い気持ちになるというか、いや仕方ないんだけど。
とりあえず何かあった時のために水の入った瓶を出しておいて、[最下級ポーション(即効性)]がすぐ作れるようにだけはしておこう……。
「アル、そろそろ敵さん来そうだぜ?」
「わかった。それじゃ、みんな。2回戦といこうか」
その言葉を締めに、アルさんは剣を盾代わりに一気に突っこんでいく。
その姿を捉えた茶毛狼は、最初と同じように右前脚を引き絞り――アルさんの前方、地面を薙ぎ払った。
「なっ!?」
抉るように薙ぎ払われた大地から、大量の土が舞い……アルさんの視界を塞ぐ。
それを見計らったかのように、今度は左前脚を振り抜いた。
「アル!」
身体をくの字に曲げて、軽く3メートル以上武器飛ばされたアルさんに、ジンさんが思わず動きを止めてしまう。
それを逃す茶毛狼ではない……一気に距離を縮め、その巨体ごとジンさんへと体当たりをぶちかました。
「なっ……」
「――ッ! ティキ! すぐにジンへ盾! アキちゃんはアルを起こして回復してきて!」
体当たりを喰らったジンさんは、茶毛狼の足下で転がるようにしてなんとか回避を繰り返している。
でも、このままじゃ……なんて、目の前の光景に呆然とする僕の耳へと、リアさんの指示が突き刺さる。
それに気付いた僕はすぐさまアルさんへと顔を向け、一歩踏み出そうとして……手に持っていた瓶の存在を思い出した。
「そうだ、これに……」
すぐさまインベントリから[薬草(粉末)]を取り出し、一気に中へと入れる。
そして、それを混ぜるように振りながら、僕はアルさんの元へと急いだ。
アルさんのHPは残り30%ほど。
ほとんど満タン状態からここまで一気に減ったってことは……たぶんクリティカル判定が出たのかも知れない。
視界を塞がれて、無防備な状態で攻撃されたわけだしね。
「アルさん! 大丈夫ですか!?」
「ぐ……ああ、なんとかな……」
「ちょっと苦いですけど、まずこれを飲んでください」
僕は倒れたままのアルさんの頭を少し持ち上げて、混ぜ終わっていた[最下級ポーション(即効性)]をアルさんの口の中へと流し込んでいく。
「……っ!?」
苦いんだろうなぁ……あり得ないくらいに顔が歪んでるし。
身体も痛いのに、飲むのも辛いとか……どんな拷問なんだろう、これ。
「アルさん、お水と……[下級ポーション(良)]もどうぞ」
死んだ顔をして即効性を飲みきったアルさんに、さらに飲みにくいポーションを飲ませていく。
回復させようとしてるのに、絵面的には殺そうとしてるみたいに見えるなぁ……。
でも、これで30%しかなかったHPも、最終的に80%まで回復できるはずだ。
そこまで回復すれば、1発で死んじゃうってことも多分ないはず。
倒れてた時よりも顔色を悪くしたアルさんに「すまない、助かった」なんて言われても、まったく説得力はないんだけど……そんなことを思っているとは顔に出さないようにして、僕は曖昧に笑顔を返した。
「いえ、これくらいしかできないので……。それよりも、ジンさんを早く助けに」
「ああ、任せろ!」
言葉と共に立ち上がり、大剣を構えるアルさん。
僕は彼の後ろで、虚空に顔を向けながら一度だけ頷いて、その背中へと風を纏わせた。
「また、後でお話しします」
「……わかった。行ってくる!」
「はい!」
言いたいことがわかったのか、振り向くことなくアルさんは風を切り裂き、駆けていく。
僕はその姿を見ながら、戦いの後でシルフの事をお話ししよう、と心に決めた。
その名の通り、全身が茶色い毛に覆われた狼であり、大きい個体であれば人が住む家と同等の大きさになる――と、そう聞いてはいたけれど、僕らの前に姿を現した茶毛狼は、顎までの高さですら僕の身長の優に3倍はありそうだった。
立ち上がった状態なら、ジンさんでも腹部の下に入れそうだし……もしかするとジェルビンさんに聞いていた、大きいサイズ、というやつなのかもしれない。
そんなことを考えつつゆっくりと近づいていけば、突然周囲の空気が変わる。
きっとこれが、隔離された空間、なんだろう。
「よし、始めるぞ。いつも通り、俺とジンが先行する。リアは俺らの後に仕掛けてくれ」
「わかったわ」
「それとティキ。盾を頼む」
アルさんの指示にティキさんが頷き、インベントリから1冊の本を取り出す。
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それをティキさんは空へ投げ、流れるように手を組み言葉を紡ぎだす。
「主よ。天上よりて我らを見守りし父よ。その大いなる御心をもって、我が盟友たちを護り給え。〔聖なる守護の障壁〕」
ティキさんの詠唱が終わると同時に、アルさんとジンさんへ神々しい光が降り注ぐ。
どうやらこれが、アルさんの言っていた盾なんだろう。
というか、詠唱してる間……本が浮いてたんだけど……。
「ハァッ!」
突如響いた声に、ティキさんの本へと注いでいた視線を動かせば、アルさんが籠手のついた右手で武器を……殴ってる!?
あ、でも……その音で、茶毛狼がアルさんを目標として定めたみたいだ。
もしかすると元々そのために武器を殴って音を出したんだろうか?
そんなことを考えていた僕の視界の中では、アルさんと茶毛狼の距離が一気に近づき、茶毛狼が右前脚で鋭い薙ぎ払いをしてみせた。
「ぐっ!」
武器の大剣を盾のように構えていたアルさんから黄色い光が弾け、防御の反動で少し後ろへと退がる。
直後、茶毛狼の死角を狙うように、ジンさんが左前脚へと斧で豪快に斬りつけた。
「ッ! かってぇ!?」
「っジン、退け!」
「――彼のモノを、押し潰せ!〔堅硬なる破城の石槌〕!」
アルさんの声に、その場からジンさんが飛び退く。
その瞬間、まるでその予定通りだったと言わんばかりのタイミングで、茶毛狼の背中に大岩が落ち、砕け散った。
しかし、そんな攻撃などまるで効いていないかのように、茶毛狼はアルさんへと前脚を振るう。
「アル!」
「この程度、問題ない! それよりも、俺に目が向いているうちに攻めろ!」
その言葉を背に、ジンさんは再度懐に入り、斧を叩きつける。
だが、やはり硬いのか……思ったよりもダメージが出せていないように見えた。
「母なる大地に希う。我願うは天への道。我紡ぐ盟約への言葉を以って、天へと届く塔と成れ!〔天を貫く砂礫の塔〕!」
そんな中、リアさんの声が響いたかと思えば、茶毛狼の腹部下の地面から、突如砂の塔が生える。
その塔は勢いよく茶毛狼の腹部を突き上げ、その巨体を少しだけ宙に浮かせた。
突き上げた反動で塔はすぐ壊れてしまったが、茶毛狼にとっても十分なダメージになったみたいで、攻める一方だった茶毛狼が、身を翻すように後方へと飛び退いた。
その反応に余裕が生まれたのか、アルさんとジンさんも僕らの傍へと戻ってくる。
「……どうやら腹部は硬くないみたいだな」
「そうみたいね。でも、さすがに警戒しちゃうだろうし、2発目は厳しいわよ?」
「だろうな。とりあえずジンは腹部を狙えそうなら狙ってくれ。ティキはジンを集中してサポート、リアも狙えそうなときには狙ってみてくれ。ただし無理はするなよ? 厳しければ妨害程度でも構わない」
出された指示に各々自由に頷き、ジンさんは武器を変更した。
今まで振るっていた斧とは違う……より柄の長い、槍のような斧だ。
きっと位置の高い腹部に当てるためだろう。
しかし……
「あの、アルさん?」
「ああ、アキさんは……特に……」
「あ、はい」
言いづらそうに言うアルさんに、僕もなんとも言えず……そのまま背を見送る。
わかってたことなんだけど、何も出来ないのはどうにも歯痒い気持ちになるというか、いや仕方ないんだけど。
とりあえず何かあった時のために水の入った瓶を出しておいて、[最下級ポーション(即効性)]がすぐ作れるようにだけはしておこう……。
「アル、そろそろ敵さん来そうだぜ?」
「わかった。それじゃ、みんな。2回戦といこうか」
その言葉を締めに、アルさんは剣を盾代わりに一気に突っこんでいく。
その姿を捉えた茶毛狼は、最初と同じように右前脚を引き絞り――アルさんの前方、地面を薙ぎ払った。
「なっ!?」
抉るように薙ぎ払われた大地から、大量の土が舞い……アルさんの視界を塞ぐ。
それを見計らったかのように、今度は左前脚を振り抜いた。
「アル!」
身体をくの字に曲げて、軽く3メートル以上武器飛ばされたアルさんに、ジンさんが思わず動きを止めてしまう。
それを逃す茶毛狼ではない……一気に距離を縮め、その巨体ごとジンさんへと体当たりをぶちかました。
「なっ……」
「――ッ! ティキ! すぐにジンへ盾! アキちゃんはアルを起こして回復してきて!」
体当たりを喰らったジンさんは、茶毛狼の足下で転がるようにしてなんとか回避を繰り返している。
でも、このままじゃ……なんて、目の前の光景に呆然とする僕の耳へと、リアさんの指示が突き刺さる。
それに気付いた僕はすぐさまアルさんへと顔を向け、一歩踏み出そうとして……手に持っていた瓶の存在を思い出した。
「そうだ、これに……」
すぐさまインベントリから[薬草(粉末)]を取り出し、一気に中へと入れる。
そして、それを混ぜるように振りながら、僕はアルさんの元へと急いだ。
アルさんのHPは残り30%ほど。
ほとんど満タン状態からここまで一気に減ったってことは……たぶんクリティカル判定が出たのかも知れない。
視界を塞がれて、無防備な状態で攻撃されたわけだしね。
「アルさん! 大丈夫ですか!?」
「ぐ……ああ、なんとかな……」
「ちょっと苦いですけど、まずこれを飲んでください」
僕は倒れたままのアルさんの頭を少し持ち上げて、混ぜ終わっていた[最下級ポーション(即効性)]をアルさんの口の中へと流し込んでいく。
「……っ!?」
苦いんだろうなぁ……あり得ないくらいに顔が歪んでるし。
身体も痛いのに、飲むのも辛いとか……どんな拷問なんだろう、これ。
「アルさん、お水と……[下級ポーション(良)]もどうぞ」
死んだ顔をして即効性を飲みきったアルさんに、さらに飲みにくいポーションを飲ませていく。
回復させようとしてるのに、絵面的には殺そうとしてるみたいに見えるなぁ……。
でも、これで30%しかなかったHPも、最終的に80%まで回復できるはずだ。
そこまで回復すれば、1発で死んじゃうってことも多分ないはず。
倒れてた時よりも顔色を悪くしたアルさんに「すまない、助かった」なんて言われても、まったく説得力はないんだけど……そんなことを思っているとは顔に出さないようにして、僕は曖昧に笑顔を返した。
「いえ、これくらいしかできないので……。それよりも、ジンさんを早く助けに」
「ああ、任せろ!」
言葉と共に立ち上がり、大剣を構えるアルさん。
僕は彼の後ろで、虚空に顔を向けながら一度だけ頷いて、その背中へと風を纏わせた。
「また、後でお話しします」
「……わかった。行ってくる!」
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