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第2章 現実と仮想現実
第206話 トリック
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今回の話は、アル視点となります。
次からはまたアキに視点がもどります。
――――――――――――――――
「あぁ! また大きく避けてるっすよ! アキさん、どうしたんっすかね……」
隣に立っているスミスさんの声が響く。
しかし、その感想もわからなくはない。
俺たちの目の前に投影されたモニターには、シンシさんの攻撃を、大きく避けるアキさんの姿が映し出されていたからだ。
「……もしかするとアキさんは、突きのトリックに苦戦しているのかもしれないな」
「突きのトリック……っすか?」
「あぁ、そうだ。そういえばスミスさんは鎚だったな。突きはあまり使わないか」
スミスさんの扱う大槌は、その形状として、叩く、薙ぐを多用することはあっても、突くことは少ない。
ましてや、今回のような使い方で突くなんて、まずあり得ないだろう。
「突きと言うのは「その説明は私が!」……その声は、ハスタさんか」
スミスさんへ説明しようと、繋いだ言葉に、割り込むように元気な声が響く。
会ったことは1度しかないが、あの声の勢いは……なかなか印象が強い。
「こんにちわ! あ、でも今は夜だからこんばんはですかね?」
「姉さん。こんばんは、だと思う」
ハスタさんの後ろから、呟くような声が、耳に届く。
姉さんと言うことは……双子の妹のラミナさんか。
「あぁ、こんばんは」
「そんなことより、トリックっすよ! 教えてくださいっす!」
「うむうむ。説明しようー!」
説明の途中で割り込まれたことで、釈然としなかったのか、スミスさんが声を大にして叫ぶ。
まぁ実際、突きの事に関しては、大剣使いの俺よりも、槍使いのハスタさんの方が、説得力があるか。
そう納得した俺は、頷くと同時に「ハスタさん、頼む」と彼女へバトンを渡した。
「突きっていうのは、結構単純に見えて、実は奥が深いの。元々突きっていうのは、隙を見せずに素早く攻撃するための手段だけど、薙いだりするよりも攻撃できる範囲が狭くて、読まれると避けられやすいのー」
「ふむふむっす」
「だから、どちらかというと間合いを測ったり、距離を取りたいときに使ったりが多いかなー」
実際、剣を使うときには、軽く突きを入れ、相手の体勢を崩した上で、踏み込んで袈裟切るなんかが常套手段だ。
もちろん、軽い突きをフェイントにして、踏み込んで再度突いたりするのも、槍ではよく使われるだろう。
「でもそれだと、アキさんがわざわざ大きく避けてる理由がわからないっす。相手の武器的には、突きを多用するのは分かってるはずっすから、もう少し小さく避けれるはずじゃないっすか……?」
「姉さん」
「うん、わかってる。アキちゃんが大きく避けてる突きは、さっき私が言ったような突きじゃないの。……普通ならあんなに連続でやれるような突きでもない」
「できない突き……?」
確かにそうだ。
もし、アキさんに向けられている突きがそうなら、あのシンシという相手の技術は……凄まじいとしか言えないだろう。
針穴に糸を通す、とは良く言ったものだ。
まさしく、シンシという裁縫師の為せる技ということだな。
「あの突きは、ずっとある一点に合わせられてるの」
「ある、一点?」
「アキちゃんの……視線。アキちゃんの目に対して、ズレること無くまっすぐに」
「視線に合わせる……。あ、もしかするとアキさんには、剣が近づいてることが分からないんすか?」
「そう。アキの視点からだと、剣が動いてるのがわからない。だから大きく避ける」
「私も極力狙ってるんだけどね……模擬戦とかで、ラミナに動かないでもらっても10回に1回成功するかどうか……。だから、あの人がもし、常にそれをしてるんだったら、凄いなんて言葉でも言い尽くせないよー!」
仮にそうだとして、アキさんでは無く俺だった場合は、まだ対処が可能だろう。
突きにはそういったものがあるのだと知っていることや、咄嗟の回避も戦闘回数をこなして身体が覚えている。
しかし……アキさんは咄嗟の対処が苦手だ。
1週間前、イベント開始と同時に戦った大猪を思い出しても、それがよく分かる。
あの魔物の突進に、アキさんは受け身も取らずに飛び退いただけだった。
「せめて、アキさんがトリックに気づければ、あるいは……」
「でもこっちの声は届かないっすからね……」
「あっちの声は、聞こえるのにー!」
アキさん……勝ってくれ。
そう思った矢先、映し出されたモニターの中で、アキさんが先ほどまでと違う動きを見せた。
これは、何かに気づいたのかもしれないな。
次からはまたアキに視点がもどります。
――――――――――――――――
「あぁ! また大きく避けてるっすよ! アキさん、どうしたんっすかね……」
隣に立っているスミスさんの声が響く。
しかし、その感想もわからなくはない。
俺たちの目の前に投影されたモニターには、シンシさんの攻撃を、大きく避けるアキさんの姿が映し出されていたからだ。
「……もしかするとアキさんは、突きのトリックに苦戦しているのかもしれないな」
「突きのトリック……っすか?」
「あぁ、そうだ。そういえばスミスさんは鎚だったな。突きはあまり使わないか」
スミスさんの扱う大槌は、その形状として、叩く、薙ぐを多用することはあっても、突くことは少ない。
ましてや、今回のような使い方で突くなんて、まずあり得ないだろう。
「突きと言うのは「その説明は私が!」……その声は、ハスタさんか」
スミスさんへ説明しようと、繋いだ言葉に、割り込むように元気な声が響く。
会ったことは1度しかないが、あの声の勢いは……なかなか印象が強い。
「こんにちわ! あ、でも今は夜だからこんばんはですかね?」
「姉さん。こんばんは、だと思う」
ハスタさんの後ろから、呟くような声が、耳に届く。
姉さんと言うことは……双子の妹のラミナさんか。
「あぁ、こんばんは」
「そんなことより、トリックっすよ! 教えてくださいっす!」
「うむうむ。説明しようー!」
説明の途中で割り込まれたことで、釈然としなかったのか、スミスさんが声を大にして叫ぶ。
まぁ実際、突きの事に関しては、大剣使いの俺よりも、槍使いのハスタさんの方が、説得力があるか。
そう納得した俺は、頷くと同時に「ハスタさん、頼む」と彼女へバトンを渡した。
「突きっていうのは、結構単純に見えて、実は奥が深いの。元々突きっていうのは、隙を見せずに素早く攻撃するための手段だけど、薙いだりするよりも攻撃できる範囲が狭くて、読まれると避けられやすいのー」
「ふむふむっす」
「だから、どちらかというと間合いを測ったり、距離を取りたいときに使ったりが多いかなー」
実際、剣を使うときには、軽く突きを入れ、相手の体勢を崩した上で、踏み込んで袈裟切るなんかが常套手段だ。
もちろん、軽い突きをフェイントにして、踏み込んで再度突いたりするのも、槍ではよく使われるだろう。
「でもそれだと、アキさんがわざわざ大きく避けてる理由がわからないっす。相手の武器的には、突きを多用するのは分かってるはずっすから、もう少し小さく避けれるはずじゃないっすか……?」
「姉さん」
「うん、わかってる。アキちゃんが大きく避けてる突きは、さっき私が言ったような突きじゃないの。……普通ならあんなに連続でやれるような突きでもない」
「できない突き……?」
確かにそうだ。
もし、アキさんに向けられている突きがそうなら、あのシンシという相手の技術は……凄まじいとしか言えないだろう。
針穴に糸を通す、とは良く言ったものだ。
まさしく、シンシという裁縫師の為せる技ということだな。
「あの突きは、ずっとある一点に合わせられてるの」
「ある、一点?」
「アキちゃんの……視線。アキちゃんの目に対して、ズレること無くまっすぐに」
「視線に合わせる……。あ、もしかするとアキさんには、剣が近づいてることが分からないんすか?」
「そう。アキの視点からだと、剣が動いてるのがわからない。だから大きく避ける」
「私も極力狙ってるんだけどね……模擬戦とかで、ラミナに動かないでもらっても10回に1回成功するかどうか……。だから、あの人がもし、常にそれをしてるんだったら、凄いなんて言葉でも言い尽くせないよー!」
仮にそうだとして、アキさんでは無く俺だった場合は、まだ対処が可能だろう。
突きにはそういったものがあるのだと知っていることや、咄嗟の回避も戦闘回数をこなして身体が覚えている。
しかし……アキさんは咄嗟の対処が苦手だ。
1週間前、イベント開始と同時に戦った大猪を思い出しても、それがよく分かる。
あの魔物の突進に、アキさんは受け身も取らずに飛び退いただけだった。
「せめて、アキさんがトリックに気づければ、あるいは……」
「でもこっちの声は届かないっすからね……」
「あっちの声は、聞こえるのにー!」
アキさん……勝ってくれ。
そう思った矢先、映し出されたモニターの中で、アキさんが先ほどまでと違う動きを見せた。
これは、何かに気づいたのかもしれないな。
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