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第四章 夕暮
第三話
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彼女が見えなくなった。
そろそろもどらなければ。
もうすぐ夜も明ける。
―――と、その時。
私の前に続く道から、ひとりの少女がこちらに向かって歩いてきた。
その少女は私に気づくと、言った。
「ね、女神さま。一緒にあそんでた男の子、知らない?」
その少女は、度々海で遊んでくれていた幼い少女だ。
そういえば男の子もいたよね。
「…おうちは?」
「いないの。あの子のパパとママにきいても、まだ帰ってきてないって…わたし、心配で…」
私の問いに首を横に振った少女は、涙ぐんで答えた。
「私も協力するから、一緒に探そう!」
私は少女を励ますように、語気を強めて言った。
―――。
――。
***
鳥があちこちで鳴き始めるころ。
その男の子は見つかった。
―――水平線のあたり。
だれかが、いた。
「あれ、だれかいるー」
少女もその゛だれか”に気づいた。
私は半ばパニックのまま少女に言った。
「あの男の子だよ!!早く助けなきゃ…!波に流されて、あの子死んじゃう!」
私は急いで海の中へ入る。
波に押されて歩きにくいけど、一生懸命歩いた。
どんどん深くなっていくけど、構わず歩いた。
―――助けなきゃ、助けなきゃ…!!
男の子はもう体力的に限界がきたのか、見えたり見えなくなったりを繰り返している。
―――ふと、後ろを見ると、少女は浜辺で人差し指を咥えたまま、ぼーっと立ち、微動だにしない。
私はそんな少女に向かい、叫んだ。
「あの子だよ!あの子があそこにいるんだよ!?助けに行かないのっ!?死んじゃうよ…!」
叫べば口に潮水が時折入り、むせ返りながらも、必死に叫ぶ。
涙ぐんで心配していたというのに、その探していた男の子が目の前でもがいているというのに、少女は浜辺から動かない。
私の叫びに、少女が言った。
私の期待をはるかに裏切る言葉を。
いや―――予想できるはずの言葉を。
「あんなところにいるんじゃ仕方ないや。きっとすぐ死ぬよね」
そう言って、くるりと私に、男の子に背を向けて帰る。
男の子はあんなに苦しんでいるのに。
私はその場に凍り付いた。
全身から力が抜けていくのは、海水に長く浸かっていたから、ではないだろう。
去っていく少女に釘付けになった。
視線が―――動かせない。
涙が頬を伝い、波にのまれた。
―――あんなに男の子を大切に思っていたのに。
どうせ死んだらまた会えるから。
そう思って少女は、男の子が死ぬのを待つ選択肢を選んだ。
私は後悔でいっぱいになった。
そこでようやく、もう見えなくなった少女から目を離し、男の子へと移す。
水平線でもがく男の子は、もういなかった―――。
―――。
――。
***
楽しかった。楽しかった。
でも、ずっと辛かった。
自分の願いの愚かさを再認識した。
やっぱり暮葉が女神だったほうがよかったに違いない。
私、絶対この願いを取り消すよ。
暮葉が教えてくれた方法で。
大切な人が目の前で死に直面しているのに、助けようともしない子がいるんだよ。
おかしいね。
でも。
そんな世界を作ったのは、私。
ウリアくん、今までありがとう。
とてもとても楽しい夢をありがとう。
そして―――さよなら。
そろそろもどらなければ。
もうすぐ夜も明ける。
―――と、その時。
私の前に続く道から、ひとりの少女がこちらに向かって歩いてきた。
その少女は私に気づくと、言った。
「ね、女神さま。一緒にあそんでた男の子、知らない?」
その少女は、度々海で遊んでくれていた幼い少女だ。
そういえば男の子もいたよね。
「…おうちは?」
「いないの。あの子のパパとママにきいても、まだ帰ってきてないって…わたし、心配で…」
私の問いに首を横に振った少女は、涙ぐんで答えた。
「私も協力するから、一緒に探そう!」
私は少女を励ますように、語気を強めて言った。
―――。
――。
***
鳥があちこちで鳴き始めるころ。
その男の子は見つかった。
―――水平線のあたり。
だれかが、いた。
「あれ、だれかいるー」
少女もその゛だれか”に気づいた。
私は半ばパニックのまま少女に言った。
「あの男の子だよ!!早く助けなきゃ…!波に流されて、あの子死んじゃう!」
私は急いで海の中へ入る。
波に押されて歩きにくいけど、一生懸命歩いた。
どんどん深くなっていくけど、構わず歩いた。
―――助けなきゃ、助けなきゃ…!!
男の子はもう体力的に限界がきたのか、見えたり見えなくなったりを繰り返している。
―――ふと、後ろを見ると、少女は浜辺で人差し指を咥えたまま、ぼーっと立ち、微動だにしない。
私はそんな少女に向かい、叫んだ。
「あの子だよ!あの子があそこにいるんだよ!?助けに行かないのっ!?死んじゃうよ…!」
叫べば口に潮水が時折入り、むせ返りながらも、必死に叫ぶ。
涙ぐんで心配していたというのに、その探していた男の子が目の前でもがいているというのに、少女は浜辺から動かない。
私の叫びに、少女が言った。
私の期待をはるかに裏切る言葉を。
いや―――予想できるはずの言葉を。
「あんなところにいるんじゃ仕方ないや。きっとすぐ死ぬよね」
そう言って、くるりと私に、男の子に背を向けて帰る。
男の子はあんなに苦しんでいるのに。
私はその場に凍り付いた。
全身から力が抜けていくのは、海水に長く浸かっていたから、ではないだろう。
去っていく少女に釘付けになった。
視線が―――動かせない。
涙が頬を伝い、波にのまれた。
―――あんなに男の子を大切に思っていたのに。
どうせ死んだらまた会えるから。
そう思って少女は、男の子が死ぬのを待つ選択肢を選んだ。
私は後悔でいっぱいになった。
そこでようやく、もう見えなくなった少女から目を離し、男の子へと移す。
水平線でもがく男の子は、もういなかった―――。
―――。
――。
***
楽しかった。楽しかった。
でも、ずっと辛かった。
自分の願いの愚かさを再認識した。
やっぱり暮葉が女神だったほうがよかったに違いない。
私、絶対この願いを取り消すよ。
暮葉が教えてくれた方法で。
大切な人が目の前で死に直面しているのに、助けようともしない子がいるんだよ。
おかしいね。
でも。
そんな世界を作ったのは、私。
ウリアくん、今までありがとう。
とてもとても楽しい夢をありがとう。
そして―――さよなら。
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