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最終章 願望
第二話
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何もないと思っていた。
右も左も、北も南もわからない空間に、ウリアは立っていた。
「ここは…どこだ…?」
辺りを見回すと、見慣れた真っ白い少女がいた。
「トコノハ!」
その少女の名前を呼べば、少し驚いたように彼女が振り返る。
「ウリアくん…」
驚いた表情はほんの一瞬で、常葉はウリアの姿をその目に映すと、ふわりと微笑んだ。
「ここは、黄泉国か?」
ウリアが問えば、
「ううん…。似てるけど…ちょっと違うかな?」
常葉は首を横に振り、答えた。
「じゃあ、ここはどこだ?」
ウリアが問えば、常葉はうーん、と難しい顔をした後、答えた。
「天国。私たち、死んじゃったから」
死んだ。
今こうしてここにいるのに。
実感がわかなかった。
胸に手を当ててみると、確かにそこにあるはずの鼓動は沈黙したままだった。
「でも、本当はこんなところにいないはずなんだけどね。天国に行くとかいうけれど、本当はそんなもの存在しないもの」
常葉は少し歩く。
ウリアはその姿を見失わないように歩く。
「じゃあ、クレハだ」
ウリアが言う。
「クレハの願いがきっと届いたんだ」
「暮葉の願い?」
常葉の問いに、ウリアが答える。
「あぁ。俺とトコノハがずっと幸せに過ごせますように…って。クレハは最期にそう願ったんだ」
常葉はじっとそれに耳を傾け、やがてあはは、と笑った。
「暮葉…かっこいいね、ずっと」
「そうだな…」
常葉の独り言のような小さなつぶやきに、ウリアは答えた。
「暮葉もいたら、もっと幸せだったのに…。でも、仕方ないよね。もう…どうしようもない」
常葉がうつむく。
涙をこらえるような震える声でそう呟く彼女の隣に並び、ウリアはその肩をそっと抱き寄せた。
常葉の肩の震えは、次第におさまっていく。
「なぁ、トコノハ」
ウリアはしばらくしてから、彼女の名前を呼ぶ。
「ん?」
常葉が、ウリアを見上げるようにして見る。
「お前、今幸せか?」
ウリアが問えば、
「うんっ!とっても幸せ!!」
常葉は元気いっぱいに答える。
その答えにウリアは満足げに、そうかと頷き、見上げてくる彼女の視線から少し目をそらし、
「俺も…幸せだ」
風も吹かない“天国”という空間。
その中でウリアと常葉は、バカみたいな会話を繰り返す。
お互いの幸せを確認するように。
そしてそれは、きっとそれを願った今ここにいないもうひとりの女神も同じ気持ちなのだと確かめるように。
「これで…みんなが命を大事にしてくれるといいな…」
「すぐには無理だろうけど…いつかは…」
今頃きっとたくさんの人が消えてパニックになっていることだろう。
殺し遊びも、もう少しだけ続くだろうが、もう生き返ることはないと気付けば次第になくなるだろう。
そのときにあの処刑台に上るのは街の長だろう。
お互いがお互いを大切だと、かけがえのない命であると…そう思えるようになるのだろう。
「ホントに…」
ウリアはため息交じりとともに、吐き出すように言う。
「一体俺は、何回“ない”はずの時間を過ごしてるんだろうなぁ~…」
思わず笑みがこぼれる。
「ホントにね」
常葉があはは、と笑う。
何気ない時が、こんなにも楽しい。
隣に寄り添ってくれる存在が、こんなにも愛おしい。
―――こういう時間が本来あるべきなんだ。
右も左も、北も南もわからない空間に、ウリアは立っていた。
「ここは…どこだ…?」
辺りを見回すと、見慣れた真っ白い少女がいた。
「トコノハ!」
その少女の名前を呼べば、少し驚いたように彼女が振り返る。
「ウリアくん…」
驚いた表情はほんの一瞬で、常葉はウリアの姿をその目に映すと、ふわりと微笑んだ。
「ここは、黄泉国か?」
ウリアが問えば、
「ううん…。似てるけど…ちょっと違うかな?」
常葉は首を横に振り、答えた。
「じゃあ、ここはどこだ?」
ウリアが問えば、常葉はうーん、と難しい顔をした後、答えた。
「天国。私たち、死んじゃったから」
死んだ。
今こうしてここにいるのに。
実感がわかなかった。
胸に手を当ててみると、確かにそこにあるはずの鼓動は沈黙したままだった。
「でも、本当はこんなところにいないはずなんだけどね。天国に行くとかいうけれど、本当はそんなもの存在しないもの」
常葉は少し歩く。
ウリアはその姿を見失わないように歩く。
「じゃあ、クレハだ」
ウリアが言う。
「クレハの願いがきっと届いたんだ」
「暮葉の願い?」
常葉の問いに、ウリアが答える。
「あぁ。俺とトコノハがずっと幸せに過ごせますように…って。クレハは最期にそう願ったんだ」
常葉はじっとそれに耳を傾け、やがてあはは、と笑った。
「暮葉…かっこいいね、ずっと」
「そうだな…」
常葉の独り言のような小さなつぶやきに、ウリアは答えた。
「暮葉もいたら、もっと幸せだったのに…。でも、仕方ないよね。もう…どうしようもない」
常葉がうつむく。
涙をこらえるような震える声でそう呟く彼女の隣に並び、ウリアはその肩をそっと抱き寄せた。
常葉の肩の震えは、次第におさまっていく。
「なぁ、トコノハ」
ウリアはしばらくしてから、彼女の名前を呼ぶ。
「ん?」
常葉が、ウリアを見上げるようにして見る。
「お前、今幸せか?」
ウリアが問えば、
「うんっ!とっても幸せ!!」
常葉は元気いっぱいに答える。
その答えにウリアは満足げに、そうかと頷き、見上げてくる彼女の視線から少し目をそらし、
「俺も…幸せだ」
風も吹かない“天国”という空間。
その中でウリアと常葉は、バカみたいな会話を繰り返す。
お互いの幸せを確認するように。
そしてそれは、きっとそれを願った今ここにいないもうひとりの女神も同じ気持ちなのだと確かめるように。
「これで…みんなが命を大事にしてくれるといいな…」
「すぐには無理だろうけど…いつかは…」
今頃きっとたくさんの人が消えてパニックになっていることだろう。
殺し遊びも、もう少しだけ続くだろうが、もう生き返ることはないと気付けば次第になくなるだろう。
そのときにあの処刑台に上るのは街の長だろう。
お互いがお互いを大切だと、かけがえのない命であると…そう思えるようになるのだろう。
「ホントに…」
ウリアはため息交じりとともに、吐き出すように言う。
「一体俺は、何回“ない”はずの時間を過ごしてるんだろうなぁ~…」
思わず笑みがこぼれる。
「ホントにね」
常葉があはは、と笑う。
何気ない時が、こんなにも楽しい。
隣に寄り添ってくれる存在が、こんなにも愛おしい。
―――こういう時間が本来あるべきなんだ。
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