掌編まとめ(810以内の短編集)

くろひつじ

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狂科学者の伝え方

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テーマ:バレンタイン


 マンションの自室に帰ると、部屋の中にデカい箱があった。
 1畳程度の高さ。縦横は半畳程度。
 それが部屋のど真ん中に置いてある。

 ……まーたあの子の仕業か。
 鍵変えても意味無いな。

 スーツの上着を椅子にかけ、さてと向き合う。
 見た目はただの箱だ。金属製で、押してみるとかなり軽い。
 どうやって運んだんだ、これ。
 あの子のやる事は毎度よく分からないな。

 犯人は恐らく、隣に住むマッドサイエンティストの女の子。
 いつもよく分からない発明品を見せてくれる、少し変わった子だ。
 黙っていれば深窓の令嬢なのにな。

 さて。それはさておき、これはなんだ?
 ただの箱にしか見えないが、あの子の事だ。何かギミックがあると思うんだが。
 ヒントは無いかと部屋を見回すと、テーブルの上に1枚の紙。

『箱の中身はなんでしょう。フルネームで呼んでね☆』

 ヒントどころか答えが書いてあった。


 まぁなんだ、あれか。
 今日はバレンタインデー。つまり、チョコを渡しに来たのだろう。
 ふむ。このまま名前を呼ぶのも面白くないし、どうするか。
 
 ……そうだな。では、こうしてみようか。

「箱の中身か。そうだな、俺の理想としてはまず、小柄で黒髪の女の子だな。細身の体型で、胸はそれほどなくて良い」

 カタリと箱が動いた。

「笑顔が魅力的で、実は家事能力が高くて、いつも俺の部屋を掃除してくれている。飯も美味い。特にシチューが最高だったな」

 カタカタと箱が動いた。

「いつも俺を見ていてくれて、発明品を見せてくれている様はとても愛らしい。可愛いさのあまり、自制出来なくなる日が来るんじゃないだろうかと思う」

 ガタン、と箱が跳ねた。

「もしこの部屋の中で二人きりになんてなってしまったら、欲望を抑えきれる気がしない。多分、俺の事を好きでいてくれるだろうし」

 沈黙した箱に寄り添い、囁く。

「いっその事、美味しく頂いてしまうかな?」

 ゴトリと、箱が倒れた。
 きぃ、と箱が開く。

「いらっしゃい。こんばんは」

 彼女の顔はトマトのように赤かった。
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