掌編まとめ(810以内の短編集)

くろひつじ

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花言葉は「尊敬」

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 僕は仕事人間だった。
 大学卒業後、すぐに就職して懸命に働いてきた。
 妻を娶り、家庭を持ち、子どもが育ち、そして独り立ちして。
 あっという間に、孫が出来ていた。
 その日も私は仕事をしていて、定時で帰ってきた僕に妻が教えてくれた。

 あの時は嬉しかったなぁ。
 小さかったあの子がいつの間にか大人になって、子どもを産んで。
 あぁ、もうこの子は子どもじゃないんだなって、そう思った。
 嬉しさくて、同時にどこか、寂しくもあったな。

 仕事に捧げた生涯だった。
 家庭もかえりみず、僕の全てを持って会社に尽くしてきた。
 そして先日。私は晴れて定年退職する事となった。

 職場の人間関係は良好で、仕事終わりに皆で小さな居酒屋に行き、笑顔で祝ってくれた。
 僕の人生の集大成。それを感じる事が出来た一日だった。


 しかし翌日から、僕は抜け殻のようになってしまった。
 仕事しかしてこなかったんだ。その仕事が無くなってしまった今、僕に残されたものは無いと思っていた。

 色褪せた日常。感動の無い日々。張合いの無い生活。
 なんだか、くたびれてしまった。

 でも、時間だけはたくさんあった。
 そのおかげで僕はやっと気がつけた。

 僕が今こうして生きていられるのも、全ては妻が支えてくれたからだ。
 毎日飯を作ってくれて、家を綺麗にしてくれて。
 僕のカッターシャツを洗濯してシワを伸ばしてくれて。
 そして毎日、行ってらっしゃいと、お帰りなさいを言ってくれた。

 辛いこともあったろう。僕は家の事も子育ても、何一つ関わりはしなかった。
 親としては失格だと思う。

 それでも、妻はいつでも笑顔で居てくれた。
 僕はその事に感謝している。

 今日はバレンタインデー。海外では男性から女性に花束を送る習慣があると聞いて、僕はすぐに花屋に向かった。
 妻が好きなラッパ水仙の花束を手に、歩き慣れた道を軽い足取りで進む。

 いつも通り、我が家のインターホンを鳴らす。
 花束を背中に隠し、出迎えてくれた妻にただいまと返す。

「ただいま」

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