掌編まとめ(810以内の短編集)

くろひつじ

文字の大きさ
6 / 12

ゆらゆらと紫煙が立ち昇る

しおりを挟む
テーマ:ゆれ


 ゆらゆらと紫煙が立ち昇る。

 煙草を吸い、すぐにふぅ、と煙を吐き出す。
 ゆっくりと室内を漂ったあと、じんわりと空気に消えていった。
 それを、ただぼんやりと見ている。

 なんでこんな事になったんだろう。
 一時間前までは、部屋で普通に会話していただけなのに。


 切っ掛けは、そうだ。彼女が着けていたネックレスだ。


 フェミニンな服に良く似合う、シンプルなデザインのネックレス。
 彼女にもよく似合っていて、それを褒めたんだった。

「可愛いね、それ」
「ありがとう! あなたがプレゼントしてくれてからいつも着けてるの!」
「プレゼント? 俺、そんな物あげた覚えないよ?」
「……あれ? ごめん、勘違いだった! 自分で買ったの、忘れてたよ!」

 そう言って、誤魔化すように笑う。
 ああ、やっぱりそうか。相変わらず、嘘が下手なやつだ。

「なぁ、この際だから聞くけどさ。俺はどっちなの?」
「え、何が?」
「本命なのかキープなのか。他に男、いるんでしょ?」
「……そんな、ことは」
「この間インスタに上げてた写真。鏡に男物のジャケット写ってたよ」

 それだけでは無い。彼女はよくやらかしている。
 寝ぼけて違う男の名前を呼んだり、誕生日を間違えたり。
 これでバレていないと思う方が不思議だ。

 それでも俺は彼女を愛していた。
 それだけの魅力が、彼女にはあったから。

「……ごめん。本命は君じゃないんだ」

 申し訳無さそうな彼女の言葉に、席を立った。

 とても混乱していた。
 俺は彼女の一番では無いらしい。
 そうかもしれない、とは思っていたけれど、直接言われたとなると、予想以上にショックだった。

 そうか。俺とは、遊びの関係だったのか。
 こんなにも彼女を、愛しているのに。

 あぁ、愛おしくて、愛おしくて。
 ずっと傍に居たいくらいなのに。

 感情が振り切れて。

 気がつくと、その場にあったガラス製の灰皿を振りかぶっていた。



 ゆらゆらと紫煙が立ち昇る。

 煙草の煙を吐き出し、そっと彼女の頭を撫でた。


 これからは、ずっと、一緒だね。
 アイシテいるよ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...