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2話「これも仕事の内に入るのかな」
しおりを挟む何とか町から脱出した俺がまず向かったのは、近くにある一番デカい街だった。
砂の都エッセル。
周りを砂漠に覆われている、でっかいオアシスを中心にした街だ。
外壁や街全体がレンガで作られていて、なんとも味わい深い印象である。
前に一度来た時は見慣れない服装や人種に驚いたりワクワクしたりしたなー。
カイトはいつも通り大笑いしてたし、ミルハは屋台の食い物を片っ端から制覇しようとしてた。
そしてルミィは、そんな俺たちを見て楽しそうに微笑んでたな。
……いやほんとさー。いきなり狂化すんじゃねーよ。
かなり理想の女性像だったのに、いきなり女性不信になりましたわ、マジで。
まぁそれはさておき。何とか昼過ぎに街に着いて、ほっと一息ついた。
さんさんと降り注ぐ日光に照らされた街並。
そこら中に背の高あ細い木が植えられていて、大通りのいたる所に露店が並んでいる。
人々の服装も特徴的で、ぶかぶかの長袖に、頭には多種多様の帽子。
他所の街ではあまり見かけない、鱗に覆われたリザードマンや、手が翼になったハーピーが多い。
そんな異国情緒溢れる光景の中、俺は真っ先に古ぼけた冒険者ギルドへと向かった。
いやね、飛び出してから気付いたんだけどさ。
俺、全然金持ってねーんだわ。
パーティーの共有財産は冒険者ギルドの銀行に預けてたし、道具とか罠は自作だからあまり持ち合わせも無かったんだよ。
乗合馬車代と今日の宿代くらいしかない。マジでやばい。
なので、いろんな仕事を斡旋している冒険者ギルドに来たって訳だ。
実は冒険者の仕事は魔物討伐だけじゃない。
確かにそっちの方が人気だけど、薬草採取や手紙配達なんかの難易度が低い依頼もたくさんある。
そんな中で俺が選んだのは、街の外壁修理の仕事だった。
そこそこの数がまとめられた依頼書の紙束から、目的の紙を引きちぎって受付に向かう。
ボロい木のカウンターの向こうでは、受付の女性がニコニコ微笑んでいる。
て言うかこの人、めっちゃ可愛いわ。
愛らしい顔立ちに活発なショートヘア、背は小さめなのに胸はそこそこある。
男にモテそうだなー。いや、俺は御遠慮願いたいけどさ。
……だって、なぁ。ルミィのあれ見ちまったら、しばらく無理だって。
眼が完全に病んでたもん、アイツ。
普段との落差が激しすぎて、マジで怖かったしなぁ。
「おやおやっ。新顔さんですねっ。冒険者登録はされてますかっ?」
近寄って来た俺を見て、受付の女性が声をかけてきた。
おー。見た目通り元気な人だな。でもあんまりびょんぴょん飛び跳ね無い方がいいと思うぞー。
周りの野郎共の視線が一箇所に集中してっし。
「あーどうも。登録してますよ。この依頼もらっていいですか?」
名前が見えないように冒険者タグを見せる。
このタグは名前、年齢、賞罰が書かれていて、主に犯罪歴があるか無いかを示すものだ。
自然に名前を隠してれば、俺が『龍の牙』のセイだってバレやしない。
いや、そこそこ有名だからなぁ俺。無駄に。
一流パーティーのオマケの罠師ってだけなのになー。
「外壁修理ですねっ。これ、結構キツイけど大丈夫ですかっ?」
「あー。魔物と戦うんじゃなけりゃ大丈夫です」
「じゃあ手続きするから待っててくださいねっ」
依頼書の写しを書いて簡単なサインとハンコを押すと、その紙を俺に渡してくれた。
よし。これでとりあえず、仕事は何とかなったな。
しばらく続く仕事で日払いだから、次の仕事までの繋ぎには持ってこいだし。
つーか、一流冒険者パーティーと一緒に旅をする以上にキツイ仕事なんてねーよと言いたい。言えねぇけど。
宿屋で部屋を取った後は、早速外壁修理の仕事に向かうことにした。
現場に着くと、すでに何人かの冒険者が高台で作業をしている。
周りを見渡すと日焼けしたマッチョの群れ。その中で現場監督のバッジを付けたオッサンを発見。
……うっわ。顔こわっ。迫力あるわー。
「今日から世話になります。よろしくお願いします!」
「おう、新入りか! お前、体力はある方か?」
「それなりに鍛えてます!」
ふざけて力こぶを作ってみせる。
実際、三日間は走り続けられるくらいには鍛えられたからな。自然と。
「よし。じゃあお前は上を担当してくれ。壊れてるレンガを崩して新しいレンガを貼り付けるだけだ。分からんことがあれば俺か周りに聞いてくれ!」
「了解です!」
レンガ置きは……あっちか。んじゃ、登りますかね。
既に組んであった木の高台に登り、古くなったレンガを叩き割っては新しいレンガを貼り付けて行く。
つーか、周りの奴ら仕事はえーなー。
俺が唯一使える身体強化の魔法を使っても追いつかねーんだが。
見た目も相まって、冒険者ってより職人だな、ありゃ。仕事の後もめっちゃ綺麗だし、熟練の技ってやつかね。
「お! なんだ新入り、お前なかなかやるじゃねぇか!」
「初日でそんだけやれりゃあ大したもんだ!」
「才能あるなお前!」
「おぉ、まじですか! ありがとうございます!」
職人に仕事を褒められた。嬉しいもんだねー。
いやー、命の危険が少ない仕事、最っ高だわー。
周りの人も朗らかでやりやすいし、ずっとここに居てぇなー。
……まぁ、パーティーの連中から逃げなきゃなんねぇですし、ここには留まれないんだけども。
あーあ。でもまぁすぐにって訳じゃねぇし。しばらくはこの幸せを噛み締めますかねー。
とか。思ったのが悪かったんだろうか。
休憩中に先輩から貰った塩飴舐めながら水を飲んでると、職人の一人が砂漠を指さして叫んだ。
「おい! ありゃデザートウルフじゃねぇか!? 誰か襲われてるぞ!?」
げ。デザートウルフか。
砂漠に住んでる人間くらいでけぇ狼型の魔物。群れを作り、商隊なんかを襲う厄介な奴らだ。
普通の冒険者ならパーティー組まないと逆にやられちまう事もある。
でもあれ……襲われてるの、一人じゃないか?
対してデザートウルフは三匹。こりゃちょっとやばいな。
「うっわ、あれ、大丈夫ですかね?」
「いや、無理だな……おい! 冒険者ギルドに行って助っ人連れて来い!」
「でも親方! それじゃ間に合わねぇよ!」
「いいから行け! 俺が時間を稼ぐからよ!」
「……へいっ!」
険しい表情を浮かべて街の中に走っていく職人さん。足はやっ!
て言うか、そんなことより。
「……なぁ旦那? 戦闘、出来るんですか?」
「あぁ!? まぁ死なない程度にやりゃいいだろ! なぁに、腕一本無くなっても仕事はできらぁ!」
マジか。そんな覚悟で助けに行くのか、この人。
軽く言ってるように見えるけど、顔がマジだ。この旦那、覚悟を決めている。
……あーもー。しゃーない。半日とは言え世話になってるし。
見捨てたら目覚めも悪いしな、って言い訳を作っておくか。
「よし。旦那、ちょっと行ってきまーす」
「なんだお前、戦えるのか?」
「いや、ただの罠師ですけど、一人抱えて走るくらいできるんで」
ぐっ、ぐっ、と足を曲げ伸ばして、準備運動完了。
んーじゃ、行きますか。正直、マジでこえーけど。
「魔術式起動。展開領域確保。対象指定。略式魔法、身体強化!」
魔法詠唱。俺の中の微々たる魔力を全身に廻し、活性化させる。
戦闘用とは言え、魔石消費無しの略式の魔法じゃ三分が限界。その間に、アイツをかっさらって逃げる。
なぁに、簡単な仕事だ。ビビんな、俺。
「よし。行ってきまーす!」
砂を蹴り込み、駆け出した。
それはさておきさー。
これも仕事の内に入るのかな。
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