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10話「マジで中身が残念すぎるわ」
しおりを挟むソリというものは中々に便利だ。
雪国は勿論のこと、簡易組み立て式の物なら車輪を付けてやれば平らな平原でも使える。
こいつがアイテムボックスに入りきれない大きな荷物を運ぶのに重宝する。
特に生き物だ。生きている物はアイテムボックスに入らないし、ソリは動物や人を運ぶのに適していると言える。
それに、日除けの布を被せれば砂漠でも使用可能なところがありがたい。
おかげで、人を抱えずに移動する事ができる。
まぁ、問題が無いわけじゃないのだが。
「あー……マジで重いわ、これ……」
「ライさん、私が引きましょうか?」
「あー。朝方になったら頼むわー。交代しながらじゃねーと体力がもたん」
「なら軽くしますかー?」
「暴力を含まない提案なら認める」
「……どうしましょう。何も言えなくなりました」
どうにかしたいのはお前の頭だ。
現在、まだまともに歩けない少女を砂漠仕様のソリに乗せて、えっちらおっちら引いて歩いているところだ。
夕方なのでやや肌寒いはずなんだか、それでも少し汗ばんでいる。
尚、ソリに乗っている本人はまだ眠ったままだ。
起きてるだけでも体力を消耗するので、半強制的に言い聞かせて寝かせている訳だ。
かなり躊躇っていたが、やがて力尽きるかのように眠ってしまった。
「なぁアル。思ったんだけどさ。二人乗ってるソリ引けないか?」
「無理ですね! 私、基本能力値からポンコツなんで!」
「やっぱりポンコツだって自覚あるのな、お前」
「攻撃以外何もできませんからね!」
「攻撃もろくに出来ないだろ」
いやまぁ、少しはマシになってるけど、まだ俺の援護無しだと危ないからな。
うあぁ……いつになったら俺は楽できるんかねぇ……
「ほら、もうちょい進むからな。この時間帯に進まないとヤバいからな。地図見る感じ、この先に岩場があるからひとまずそこ行くぞ」
「了解しましたー!」
「元気だなぁお前。まぁ良い事だけどさ」
「元気と攻撃力と殺意が取り柄です!」
「はいはい。最後のは消しとこうかー」
まぁ無駄話できる相手が居るだけ、マシだと思いますかね。
一人で黙々と歩くのは精神的にくるし。
なんとか日が沈み切る前に目的地に到着出来た。
岩場に鉄鋼玉を投げて簡易テントを作り、敷き布を置いて少女を寝かせるた後、自分たちの飯をアイテムボックスから取り出した。
黒パンと燻製肉のスープ、それにトマト。少し物足りないけど、旅の途中だから贅沢は言ってらんないし。
まぁ食えるだけマシだ。いやはや、エッセルで保存食買い溜めしておいて良かったわ。
「ほらアル、飯だ飯。早く食え」
「わお! ご馳走ですね!」
「……お前の感性はやっぱりよく分からんわ」
黒パンをスープに浸して柔らかくしながら食べる。
この酸味は嫌いじゃないけど、やっぱり白パンの方が好きだ。
でもあれ、高いからなー。安定して稼げるようになるまで贅沢は出来ないな。
つーか俺、最終的になんの仕事しようかな。やっぱり狩人かな。
いや、農民として穏やかに暮らすのもありだな。麦とか家畜の世話して生きていくのも悪くない。
あぁ、便利屋ってのもありかもな。雑用なら大概できるし。
夢が広がるな。やっぱ、冒険者なんて向いてねーよ、俺。
……てかアルはそこんとこ、どうなんかね。
「なぁアル。お前の話、聞いても良いか?」
「んぐ? 何の話です?」
「そうだなー。とりあえず目標の詳細は聞いておきたいんだが」
「ぶっ殺す相手ですか?」
「それな。いや、お前の場合、見境い無いようにも見えっけどな」
ことある事に殺そうとしてるからなぁ、こいつ。
頭ん中どうなってんのか見てみたいわ。
「あれ、言ってませんでしたっけ。復讐です」
「お? 案外まともな理由だが……何のだ?」
「んーと。婚約破棄されたんですよ、私」
意外と重いっ!? こいつの事だからろくでもない理由だと思ってたわ。
「でも婚約ってことは、お前良いとこのお嬢様か?」
「一応、貴族の一人娘ですねー」
うわぁ。こんなお嬢様、いやだなぁ。
「でまぁ、使用人とかも辞めちゃいまして、没落しそうなんで家出して来ました。両親も特に止めませんでしたし」
「それで一人旅してたってことか」
なるほどなー。だから旅に関する常識が無かったのか。
こいつもマジで波乱の人生歩んでんなー。
「……ん? てことは何か? お前、元婚約者をぶっ殺したいのか?」
「んー。まぁ、まずは理由を聞きたいですね。その後でぶち殺します」
「揺るぎねぇな、お前」
「私は漲る殺意に従ってるだけです!」
「そこは抑えとけ。人として」
でもまぁ、分からんでもないが。
俺だったらたぶん人間不信になってるわ、それ。
流石に殺そうとは思わないけど。
「そう言うライさんはなんで『龍の牙』抜けちゃったんですか?」
「あー。そもそも加入したのが間違いだったって言うか……俺なんかが居ていい場所じゃなかったからなぁ」
「そうなんですか? そんな事無いと思いますけど」
「いやいや。俺に出来るのは精々雑用だし。それに、戦いとか怖ぇじゃん」
「ふーん……そんなもんですかー」
腑に落ちない顔をされるが……俺としては嬉々として戦いに行くアルの方がよく分からないんだけどな。
「つーかさ。お前、何処まで着いてくる気なんだ? 俺はどっかの田舎町で平穏に暮らしたいなーって思ってんだけど」
「とりあえず王都ですかねー。そこで情報を集めるつもりです」
「そっかー。んじゃ、それまで宜しくな」
「こちらこそ!」
笑い合いながら握手した。
いやぁ、こうやって見ると普通の可愛い女の子なんだけどなー。
マジで中身が残念すぎるわ。
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