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9話「しっかしまぁ、変なもん拾ったな」
しおりを挟む砂漠の旅は過酷だ。昼は暑くて、夜は寒い。
日差し対策にも寒さ対策にも、外套は絶対に欠かせないアイテムだ。
俺の外套は少し重いが、雨も弾いてくれる優れものだ。ゴブリン程度の牙くらいなら防いでくれるほど分厚いし、何かと重宝している。
今まで何度も世話になってきた頼れるやつだ。
その外套を頭から被り、直射日光を避けながら真昼間の砂漠をひたすら歩いている。あちぃ。
しかし、一面が砂丘だから方向も分からなくなってくるな。
これだけ広い砂漠だと、常にコンパスや星を見ながら歩かないと、簡単に遭難してしまう。
それに街から離れてしまうと、全くって言っていいくらい水の補給が出来なくなる。
砂漠の旅は昼は暑くて汗をかくし、夜は乾燥してるから通常の旅の三倍くらい水を準備しておかないといけない。
じゃないとマジで死ぬ思いをする。と言うか、経験済みだ。
今回はもしもの事を考えて飲料水をアイテムボックスに大量に用意して来たけど、これでも足りるか不安は残る。
更に、魔物。砂漠の魔物は厄介で、身を隠す術に長けている上に夜行性の奴が多い。
デザートウルフやデザートゴブリンはまだ良い。
デススコーピオンは砂に潜って奇襲してくるし、ただのサボテンだと油断してたらトゲを撃ってくるキラーサボテンだったりと、かなり面倒臭い。
なので、砂漠の旅は昼や夜は休んで、朝方や夕方に移動するのが基本だ。
その方が体力の消耗を抑えられるし、魔物の奇襲にも備えることができる。
歩きの旅では特に周りに注意を払う必要があるから、尚更だ。
もし今のように昼間や夜に進む必要が出てきた場合は、焦らずじっくり、常に警戒しながら進む必要がある。
あるんだけどなぁ。
「らんっらんっらんっ♪ ざっんさっつ♪ ぎゃっくさっつ♪ きっりこっろせー♪」
「うっせぇわ。その物騒な歌やめろ」
「えぇー。良い歌じゃないですか? 作詞作曲アルテミスです!」
「自作かよ……て言うかもう少し警戒しろ。魔物が出たらどうすんだよ」
「もちろんぶっ殺します!」
だから純真な眼で怖い事言ってんじゃねぇよ。
つーかお前、一人じゃまともに戦えないだろ。
「それにいざとなったらライさんを囮にして逃げますから!」
「最低だな、お前……」
「いやぁ、照れますねぇ!」
「……もう黙って歩いてろ」
こいつの相手してると頭おかしくなるわ。
何でこんなに能天気なんかねー。
俺なんかビクビクしながら歩いてんのに。
いやまー魔物よけの匂い袋を首から下げちゃいるけどさ。
「あ! ライさん! 大変です!」
「なんだー? お前の頭以上に大変なのかー?」
「人です! 人が倒れてます!」
アルが指差す先を見ると、確かにフード付きの外套を纏った人型が砂の上に横たわっていた。
うわ。なんだ、行き倒れか?
「あれまぁ。こりゃ確かに大変だ」
「私トドメ刺してきますね!」
「行くな行くな! ランランと両手剣振りかざすな!」
「だって今がチャンスですよ!?」
「チャンスじゃねえよ! どっちかって言うとピンチだよ!」
マジでやべぇわこいつ、早くどうにかしないと。これは根本から叩き直さないとだめかな。
いや、今はそれよりこの人か。
「おいアンタ、生きてるか?」
「……生きてる」
おっと? 今の声、女か? 女が砂漠で一人旅って珍しいな。
「……良ければ、水が欲しい」
「はいよ。起きれるかー?」
「……無理」
あー。だいぶ弱ってんな。仕方ない、背中を支えて起こして……って、軽っ!?
背もかなり低いし、子どもか。フードの合間から褐色の肌が見えるし、亜人かもしれない。
これ、思ってたよりヤバいかもな。子どもの方が体力無いし。
「ほら、飲めるか?」
「……手が上がらない」
見ると、手が震えている。まずいな。脱水で力が入らないのか。思ったより重症かもしれない。
「ほら、コップ持っててやるから。ゆっくり飲め。落ち着いて少しずつだ」
「……んくっ。んぐっ」
「よーし。良くやった……アル! 周りみてろー!」
「はーい!」
次は食い物だが……その前に、あっちの岩場に移動するか。簡易テントでも出さないと余計弱っちまう。
「担ぐぞ。文句は後で聞く」
「……うん」
肩の裏と膝下に手を入れて抱き抱えると、やはり軽い。こうやって見ると背も小さいが、それにしても軽すぎる。ちょっとこれ、しばらく様子見だな。
岩場に着くと彼女を敷き布に横たえ、岩肌に鉄鋼玉を打ち込む。伸びた棒と棒の間に紐を通して、革布を並べて張れば簡易テントの完成だ。とりあえず日差しを遮ってやれば多少は違うだろ。
次は飯だな。手持ちだと……パン粥か。
ちぎった黒パンをミルクに浸し、鍋で加熱する。
ちと勿体ないが塩と砂糖も入れるか。汗かいてるなら塩は欠かせねぇし、体力回復には甘いもんが向いている。
もし食えるようならアイテムボックスに入れてる乾燥野菜のスープも食わせてぇところだけど。
まーとにかく食わないことには体力が回復しないからな。
ものの数分でパン粥が完成。温度もそこまで熱くないし、これなら食えるだろ。
「おい、座れるか?」
「……まだ無理」
「そうかよ。なら起こすぞー」
背に手を突っ込み、体を斜めに起こす。横になったまま食べさせると器官に入って窒息することもあるから仕方ない。
文句があるなら後から聞く事にしよう。
「しんどいかもしんねーけど、食え」
「……ん」
「よし、いい子だ。ほれ」
「……んぐ」
匙で口まではこんでやると、そのまま飲み込んだ。それを繰り返し、パン一枚分を食べさせて、再び横たえる。
後は頭をデカい血管を冷やしてやれば大丈夫だな。
アイテムボックスから青い中抜きの箱を取り出し、水を注いで魔力を通す。少し待つと、真ん中の空洞に氷の玉が数十個出てきた。
これを薄い革の袋に入れて、頭の下と脇の下、内ももに突っ込む。師匠から教わった応急処置だ。これで体の余分な熱が抜けるはず。
後は夕方まで日陰で寝かせときゃいい。
「……なんで?」
「うん? 何がだ?」
「……どうしてここまでする? 氷の魔道具は非常に高価だったはず。私は無一文。お金は払えない」
「いやいや。行き倒れに金なんて期待してないって」
大体お前、体型的にまだガキだろうが。なんで一人旅なんてしてるか知らねーけど、ガキが遠慮なんてするもんじゃねーよ。
「……そう。分かった」
「そんなら寝とけ。夕方になったら移動するからな。
アルも今のうちに寝とけよー!」
「はーい!」
さてと。んじゃ、俺はちょっと見張りでもやりますかね。
魔物が出ないなら大した苦でもないし。
しっかしまぁ、変なもん拾ったな。
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