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15話「町での平穏な日々は楽しかったな」
しおりを挟むさて、気合十分で町の修繕作業に取り掛かった俺たちだったんだけど……
あー。まぁ、あれだ。結論から言おう。
アルもサウレも全く役に立たなかった。
アルはレンガを持ってこようとしては転んでそのレンガをかち割るし、サウレそもそも俺の傍から全く離れようとしない。
マジで使えねぇ、こいつら。
結果、俺と町の人達だけで修繕作業は行われた。
エッセルで得た経験を活かして壊れた壁を貼り直し、みんなで声を掛け合いながら和気あいあいと町を作り直していく。
みんな楽しそうに作業していて、部外者のはずの俺もなんだか嬉しくなった。
その日の夕方になる頃には三件の建物が修繕されたし、その後一週間で外壁に取り掛かる事ができた。
その間ずっと和やかな雰囲気で仕事が出来て、久しぶりに平穏な日々を満喫できた。
「しかしライさん、あんた働き者だな。住人じゃないってのによ」
キツネみたいな細い目をした兄ちゃんが声をかけてきた。
一緒に酒を飲んだりして仲が良くなった奴の一人だ。
最近子どもが産まれたとかで、かなり張り切って仕事をしてる人でもある。
「あぁ、仕事ってのもあるけどさ。俺はこの町が好きだからなー。早く直してやりたいんだ」
「そうかい、そいつは嬉しいな!」
「ここは良い町だからなぁ。俺に出来ることがあるならなんでもやるよ」
戦いは勘弁だけどな。
やっぱりこういう、地味な作業の方が俺には向いている。
命の危険も少ないし、肉体労働した後は、働いたー! って気がして清々しい。
いやぁ、最高だな。あとあれな、仕事の後のエール。あれがまた美味いんだ。
昨日も仕事のあとそのまま酒場に行ったからなー。
つまみも美味かったし、今日も仕事後に行こうかね。
「そういや知ってるかい? 通信用魔導具で連絡があってな。エッセルから冒険者が来てくれるらしいよ」
「お、そうなのか。じゃあ外の魔物も討伐してもらえるな」
「なんでもあと数日で着く予定らしい。ありがたいな」
確かにそりゃありがてぇな。外の魔物が減れば旅も楽になるし。
修繕も終わりが見えてきたし、俺達もそろそろ出発しなきゃならないからなー。
でもなー。エッセルも良い街だったけど、この町もマジで過ごしやすいんだよな。
俺みたいなよそ者にも優しくしてくれるし、何より町の雰囲気が明るくて和やかだ。
ただ、今の仕事が終わったらどうするかって問題はあるけど。
それにあれだ。エッセルから近いってことは、ルミィ達も近くに居るって事だ。
あいつらに見つかるのだけは避けたいからなぁ。
「ん。まぁ外壁もそろそろ終わりそうだし、それが終わったら俺たちは出発するよ」
「そうか……残念だが、仕方ないか」
「事情があってな。けど、この町にはまた来るよ」
「その時はみんなで歓迎するよ」
「ありがとな。マジで嬉しいわ」
「でもせっかくだから冒険者を待ってみるのもいいんじゃないか? 来てくれるのも有名どころだし」
有名どころ?
……おいおい。まさかとは思うが。
「いや待った。もしかしてこっちに向かってるのって……」
「あぁ、あの有名な『龍の牙』らしいぞ!」
「ほほぉ。なーるほーどなー」
またかよ。なんであいつら邪魔してくんのかね。つーか俺たちの目的地バレてんのかな、これ。
だとしたら早めに逃げねぇとヤバいな。王都に着けば流石に撒けるだろうし。
「んー……悪い。どうも出発を早めなきゃならないみたいだ。俺達は今日中に出発するわ」
「え、そうなのか? それはまた急だな」
「すまないな、まだ修繕途中なのにさ」
でもまぁ、こっちに向かってるってんなら、そろそろヤバい頃合だ。
さっさと逃げないとまずい。
「アル、サウレ、準備だけしといてくれ。ここが終わったらすぐに出るぞー」
「わっかりましたー!」
「……分かった」
二人で宿の方に向かうのを見て、腕まくり。
そうと決まりゃ、こっちの壁をぱぱっと終わらせようかね。
夕方。旅の食料や水を買った後、いつもの食堂で早めの夕食をとった。
あいにく砂漠用の魔導ソリは伝達に行った奴が使っていた一つだけらしく、今回も徒歩での旅となったのは残念だが、まぁ仕方ない。
今日出発する事を告げると、みんな寂しがってくれて、色々と餞別の品をくれた。
マジで良い奴しかいなかったな、この町。
いつかまた来たいな。
いざ出発となると、全員で見送りに来てくれた。
その真ん中から、町長が前に出てきて頭を下げた。
「本当にありがとうございました。お礼の言葉が尽きません」
「そりゃ俺もですよ。マジで良くしてもらいましたし。みんな! ありがとうなー!」
大きく手を振ると、みんな口々に別れの言葉を叫んでくれた。
そんな中、町長さんが顔を近づけて小さな声で言った。
「ライさん……いえ、セイさん。何か事情があるのは分かっていますが、良かったらまた町に来てください。みんなで歓迎します」
「……あれま。バレてました?」
「そりゃあ、あなたは有名ですからね」
「んー……それ、内緒でお願いしますね」
「もちろんですよ。それでは、良い旅路を」
「感謝します。では、またいつか」
お互いに頭を下げ合い、その隙を突いて襲いかかろうとするアルをサウレに止めさせ、その場を立ち去った。
鳴り止まない歓声。なんか恥ずかしけど、悪くない気分だ。
「あーあ。結局一人も殺れませんでしたねー。残念です」
「安心しろ。港に着くまでにまた魔物が出てくるから」
「その時はおまかせください! 綺麗にぶっ殺してみせます!」
「そうかい……サウレ、さっきは良くやったな」
「……アルの思考パターンは大体分かってきた」
「この調子で頼むわー」
砂地をザクザク進みながら、一度だけ振り返ると。
町のみんなはまだ手を振ってくれていた。
握りこぶしを作り、真上に突き出す。
ありがとう。また来るから。そんな気持ちを乗せて。
さぁ旅の再開だ。目的地は港町グラッセ。
そこから海を渡ってユークリア大陸の港町アスーラを経由して、王都ユークリアに向かう。
またそこそこ長い旅路になるが、仕方ない。
でも、まぁ。
町での平穏な日々は楽しかったな。
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