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閑話:『竜の牙』では
しおりを挟む◆視点変更:カイト◆
冒険者ギルドから要請を受けて、俺たちは魔導ソリに乗って問題の町に向かった。
伝令に来た町の青年から盗賊団の規模は聞いている。
俺たち三人でもなんとかなるだろう。
しかし、セイが抜けたのはやはり痛手だ。
ここに来るまでの間で改めてそう思った。
俺たち三人は戦闘しかできない。
特に俺とミルハは役立たずでしかない。
ルミィが料理をしてくれるから飯はどうにかなったが、寝床の確保に周囲の警戒、街での情報収集に必要な物資の買い出し。
そして、戦闘面での罠を使ったサポート。
(アイツは天才だ。誰にも真似出来ない)
まるでチェスのように的確過ぎる戦闘工程。
それは目立ちはしないが、確実に敵の戦力を削いで行き、常に俺たちが万全の状態で戦えるように場を整えてくれていた。
他にも、数えだしたらキリがない。
俺たち『龍の牙』はセイが居たからこそ成り立っていたパーティーだった。
そのセイが抜けた後、何とか取り繕おうとはしたものの、結果は散々だった。
こんな所まで気を回してくれていたのかと驚くことが山ほど出てきたな。
それに、俺以外の二人は女性のパーティーだ。色々と気まずい点もある。
それを潤滑に回してくれていたのも、やはりセイだった。
役立たずだなんてとんでもない。あいつが居てくれたからこそ、俺たちは一流冒険者パーティーと呼ばれるまで成長できたんだ。
(しかし……本当に何があったんだろうか)
あの人情深い奴がいきなりパーティーを抜けた理由は分からないが、きっと何か理由があるはずだ。
俺たちに気を使ったんだろうか。あいつらしいが、水臭いとは思う。
だからこそ、俺たちはセイを追っている訳だ。
アイツの信念はいつも聞かされていた。
困っている人が居たら、自分の出来る範囲でそれを助ける。
助けられた人は、また違う誰かに手を貸す。
そうやって世界は回っているのだと、皮肉げに言っていた。
(そんな事は綺麗事だと本人は言っていたが……)
それでもあいつはそれを貫き通していた。
冒険者の中でも特にお人好しな奴だ。どうせまた、誰かを救っているんだろう。
だからこそ、盗賊団の話を聞いて、すぐにその町に向かう事を決めた。
困っている人がいれば、きっとそこにセイも居るはずだ。
俺たちは受けた恩を返したい。そしてまた、一緒に冒険者としてやっていきたい。
その気持ちは三人とも同じだ。
……同じはず、なんだが。
「うふふふふ……セイ、待っていてね。私がすぐに見つけてあげるからね……」
不気味に微笑むルミィ。それを見て若干引き気味な俺とミルハ。
セイが居なくなってからずっと、彼女はこの調子だ。
あの夜、セイを引き止めに行った時に何かあったんだろうが、詳しい事は教えてくれなかった。
元々セイの事を好いていたのは知っていたが……本当に何があったんだろうか。
「ねぇカイト……セイ、大丈夫かな?」
「なに、あいつの事だ。きっと上手くやってるさ」
「そうじゃなくて、再会した時だよ。ルミィが暴走しそうじゃん?」
「……その時は、俺たちで止めよう」
「……そだね」
猫耳を伏せ、面倒くさそうにため息をつくミルハ。
俺も気持ちは分かる。痛いほど分かる。
急に変貌したルミィに未だに慣れていないしな。
ただ、彼女のセイに対する執着心が凄まじいのだけはよく分かる。
これが恋する乙女という奴だろうか。
一年前に法律が変わって同性婚や二親等での結婚と重婚が認められた今、結婚する奴らが劇的に増えたのも関係しているのかもしれない。
冒険者をやめた後はセイと一緒に暮らしたいと、冗談めかして言っていた事もあるしな。
その時はまさか本気だとは思わなかったが……今のルミィを見る感じだと、当時から本気だったのだろう。
「セイ……うふふ。本当に照れ屋さんなんだから……でも、焦らされるのも嫌いじゃないわ。その分、愛が深まるんですもの」
うわぁ。目がヤバい。
一見するといつも通り穏やかに微笑んでいるように見えるが、その眼は光を反射しないくらいに濁りきっている。
本当に、何があったのだろうか。
知りたいような、知りたくないような、複雑な気分だ。
「あー……ルミィ、そろそろ切り替えろ。魔物が出るかも知れないからな」
「カイト、分かってますよ。周囲の探知魔法はしっかり発動していますから」
「……あぁ、それなら良いんだが」
「もし魔物が出たらお願いしますね。私も頑張ってサポートしますから」
ありがたい事に、俺たちと話す時はいつも通りの澄んだ眼をしている。
まだ理性があるだけ、幾分かマシな状態だ。
当初のルミィは酷かったからな。
だいぶ昔に戻ってきた。
それでも結構な頻度で先程のような状態になるんだが。
「そう言えばミルハ、お前はセイに会ってどうしたい?」
「ん? とりあえず話聞いてぶん殴るかな」
「お前の力で殴るのか……」
「セイなら大丈夫でしょ。それに、水臭いじゃん。仲間なのにさー」
「そこは同意だな。もう少し頼って欲しかった」
アイツはいつも自分一人で抱え込む悪い癖があるからな。俺たちにも背負わせれば良いと何度言ったことか。
「……あのバカ、どうせまた一人で抱え込んでるんだろーしさ。今度は私たちが助ける番だよね」
「そうだな。いつも助けられてばかりだった。次は俺たちの番だ」
やはり、思うところは同じらしい。
俺たちはみんな、あいつの人柄に魅了されてしまっているからな。
あのお人好しめ。俺も一発、拳骨を落とすくらい許されるだろう。
そしてその後、あいつの悩み事を一緒に解決する。
それが例えどんな困難であろうと、俺たち四人ならやれる。
明日には盗賊団の被害にあっている町に着くだろう。
そこで、セイと合流出来れば良いんだが……
先を思い、自然と苦笑いが浮かぶ
全く、困ったやつだ。
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