ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

文字の大きさ
24 / 101

23話「過剰戦力にも程がないか?」

しおりを挟む

 魔導船の動力は魔石だ。
 帆を広げて風で進むことも出来るけど、主に魔石によって動かされるスクリューによって進む。
 その為、馬車なんかよりもだいぶ早い速度で船は海を進んでいく。

 それに、船頭からは魔物避けの灰が撒かれており、波に混ざってキラキラと輝いているのが見える。
 つまり速度と相まって、ほとんど魔物に襲われる心配がないのだ。
 一応念の為に護衛の冒険者達が乗ってはいるが、退屈そうにあくびを噛み殺しているのが見える。

 と言うことでまぁ、やる事がない訳で。
 いくらでもダラダラできる訳だ。
 いやぁ、最高だな、マジで。
 飯だけ自分たちで用意すりゃいいし、船旅自体は快適だし。
 あとはアル達が絡んでこなけりゃかなり理想的なんだけどなー。

「ライさーん。暇です。何か面白いことないですかー?」

 自室のベッドで横になっている俺にアルが話しかけてきた。
 なんだよもー。ほっといてくれよ。

「海でも見てこーい」
「さすがに飽きましたよ!」
「んじゃジュレに相手してもらえー」
「ジュレさんの周りはいつも人がいます」
「……あぁ、有名人だもんな、あいつ」
 
 元超一流冒険者パーティー『雪姫騎士団』所属、『絶氷の歌姫アブソリュート』のジュレ・ブランシュだもんなぁ。
 見た目も外面も良いから人が集まるんだろうなー。
 俺なら進んで近寄りたくないけど。

「てかお前、そんな事で尻込みするタイプじゃなくね?」
「隙だらけの人が居るとぶっ殺したくなるんで控えてます」
「おぉ、自制を覚えてきたか。えらいぞー」
「えへへ。私も日々進歩してるんです。より多くを殺すためには我慢も必要なので!」
「考え方の根本は狂ってるけど被害が無いならそれでいいわ」

 結果良ければ全て良し。とりあえず、撫でとくか。

「……ライ。私も撫でて」
「あーはいはい。サウレもご苦労さん」

 おそらく船に乗って一番働いているサウレを労ってやる。
 アルの監視に加えて周辺の警戒をしてくれてるし、船員と天気から考えられる進路についてのやり取りをしてるのも見かけたな。
 さすが熟練冒険者だ。頼りになる。
 感謝の気持ちを込めて撫でると気持ち良さそうに目を細める。
 うーん。やっぱり見た目は癒されるなー。
 たまーに俺を見る目付きが肉食獣みたいで怖いけど。

「ふむ……アル、暇ならちょっとチェスでもやるか?」
「え、チェスとか持ってきてるんですか?」
「あぁ、たまたま専門書貰ったから道具を買ったんだよ。一人でも楽しめるからな」

 指導書のようになっているこの本には、基本的な定石などに加え、決められた配置と手数でチェックメイトまでの道順を考える問題なんかがたくさん書かれている。
 まとまった休みが取れた時は寝るか、酒を飲むか、本を読むか、チェスをするか。
 たまーに買い物なんかも行くが、俺は基本的には宿でのんびりするタイプだ。

「うーん。でも私ルールもよく知らないからやめときます」
「そうかぁ。んじゃ適当に暇つぶし――」

「……ライ、敵襲。上空からワイバーンの群れが迫ってきてる」

「――する暇も無くなったなー。ちくしょう」

 空からじゃ魔物避けの灰も意味ないからなぁ。
 でも護衛の冒険者も乗ってるし、問題はないだろ。
 ワイバーンは見た目は龍に近いけど、小さな群れなら中級冒険者パーティーなら対処できる程度だし。
 魔法で遠距離から戦えばただの羽が生えたでかいトカゲだ。

「……上位個体がいる。群れの規模が大きい」
「うわ、マジか!?」

 普通の魔物が魔力を溜め込んで進化すると上位個体になる。
 基本的に群れを統率する力を持ってるので、上位個体がいる群れは規模が大きくなりやすい。
 ワイバーン自体はそこそこの強さだけど、上位個体がいるとなるとかなりヤバいな。
 くそ、ついてねぇ。加勢しに行くしか無いか。

「アル、ジュレを呼んでこい。俺とサウレは甲板に出るわ」
「わっかりましたぁ!」
「はぁ……なーんでこう、のんびりさせてくれないのかねぇ」

 ただ静かに平穏な日々を送りたいだけなんだけどなぁ。



 甲板に出ると、サウレの言う通りワイバーンの群れがこちらに向かって飛んできているのが見えた。
 ざっと二十匹はいるな、あれ。うわぁ、怖っ。
 この数だと王国騎士団が総出しないとならない規模だ。通常なら全滅を覚悟しなければ行けない程の脅威である。
 だがまぁ、今回に限っては大した驚異でもないけどなー。

「遅れました。確かに上位個体がいるようですね」
「おう、ジュレか。あれどうにかなるか?」
「そうですね。私とサウレさんなら対処できます」

 おぉ、頼もしい。さすがの貫禄だ。
 こんな状態でも堂々としてるし、超一流冒険者なだけある。

「だろうなぁ。まぁ、頼むわ」
「嫌です」
「……は?」

 え、この流れで断るのかこいつ。

「もっと切迫して頼み込んでください。哀れさをかもしだして。さぁ!」

 いやいや、こんな所で性癖全開にしてんじゃねぇよ。

「あー……アレか、泣きながら土下座でもしたらいいか? そのくらい平気でやるぞ、俺」
「それは面白くないですね……困りました」
「いいから早くやれ、この変態が」
「あぁっ! その冷たい眼差しも悪くないですね……!」

 自分の体を抱きしめて震えるジュレド変態
 あぁ、こいつに何か頼む時はこうしたらいいのか。
 かなり嫌だけど、楽っちゃ楽だな。

「ほれ、ご褒美がほしいなら必死になって戦ってこい。なんか考えとくから」
「はぁはぁ……承知しました、ご主人様!」
「サウレ、すまんがこの変態任せた。アルは俺が見ておくから」
「……私にもご褒美」
「あいよ。後で撫でてやる」
「……行ってくる」

 人としてダメな表情のジュレを連れて、サウレは甲板の端の方に立った。

 そのまま二人揃って空に手を向けて、詠唱する。
 世界を書き換える、力のある言葉。
 それぞれの口から紡がれていく、魔法。

「……魔術式起動。展開領域確保。対象指定。其は速き者、閃く者、神の力。我が身に宿れ、裁きのいかずち!」

「透き通り、儚き、汚れなき、麗しきかな氷結の精霊。願わくば、我にその加護を与えたまえ!」

 直後、雷と氷の弾が嵐の様にワイバーンに殺到した。
 抵抗のしようも無く撃墜されていき、次々と海に落ちていく。
 いやぁ、やっぱすげぇなこいつら。
 てかアレ、回収したいところだけど……ちょっと進路変えてもらうかな。

「二人ともお疲れさん。サウレ、念の為に周囲の警戒を任せていいか?」
「……その前に、ご褒美」
「はぁはぁ……私にもお願いします!」
「あぁ……うーん。どうすっかね」

 処理が早すぎて考える暇も無かったわ。

「……じゃあ夜伽エッチな事を」
「しねぇから」
「そういうプレイも悪くないですね。受けと攻め、どちらが良いでしょうか」
「いや、しねぇからな?」

 ヤバい、何か考えないと俺の貞操がピンチだ。
 かと言って撫でるくらいじゃ納得しそうにないしなぁ。

「あー……サウレ、ちょっとこっち来い」
「……なに?」

 無警戒に近付いてきたサウレを優しく抱きしめた。

「いつもありがとな」

 耳元で小さく呟く。ほんと、サウレには感謝しかない。
 こいつはスキンシップ取るのが好きだし、今回はこれで良いはず。
 あー。長袖来てて良かったわ。鳥肌がやべぇ。
 いや大分失礼な話なのは分かってっけど、本能的なものだから勘弁してほしい。

「……好き。抱いて」
「それは却下だ。ジュレはどうする?」
「えぇと……人前でそれは恥ずかしいですね」
「んじゃ後でなー」
「はぁはぁ……これはこれで焦らされている感じがたまりません!」
「今日は絶好調だなお前」

 てか、アルが大人しいのが気になるんだけど。
 すっげぇ不服そうな顔してるし。

「アル、どうした?」
「欲求不満です! 私も殺りたかったです!」
「あぁ……遠距離の攻撃手段も考えてみるか?」
「お願いします! せっかくのチャンスを逃したくないので!」

 ……こいつの場合、そのチャンスは魔物を殺せることなのか、俺に褒められることなのか判断しにくいな。
 せめて後者であってほしい。

「んじゃまぁ、ちょっと船長と話してくるわ。ワイバーン回収してぇし」

 三人に見送られ、とりあえず一番顔が怖い船員に話しかける事にした。
 しかしまぁ、割とマジで、うちのパーティーってさ。

 過剰戦力にも程がないか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...