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42話「少し手伝って行くとするか」
しおりを挟む「問題なしだ。王都ユークリアへようこそ!」
「はい、ありがとうございます」
ようやく門兵のチェックを終え、ひたすら長く続く外壁の中へ入ることができた。
最初に目に入るのは王城。その巨大で白い建築物は見る者を圧倒する。
次いで、街並み。大通りは馬車が余裕ですれ違えるほど広く、その脇には多種多様な露店が並んでいる。
食い物が多いが、他の街の特産品なんかも売られていて、見ているだけでも楽しい。
その奥にはありとあらゆる種類の店舗。それぞれドアの上に木製のプレートが下げられていて、何の店なのか絵で分かるようになっている。
人の行き来が盛んで、その種族も色々。
人族の割合が多いが、亜人や魔族の姿も見受けられる。
それに、身に付けた衣装もバラバラだ。
革鎧の冒険者から商人風の女、噴水の縁では吟遊詩人が歌っているし、その節に合わせて丈の長いヒラヒラした服のエルフが舞踊っている。
背が低くて筋肉質なドワーフのおっさん達はこんな時間から大樽をテーブル代わりにして酒を飲んでいるし、人族と魔族の子ども達は追いかけっこをしている。
これが王都ユークリア。世界最大の都市にして、国の中心となる街だ。
「さてと、まずは宿を取るか。この時間ならまだ空いてるだろうし、その後に飯だな」
少し気分が上がるのが分かる。何せ王都は美味い飯屋が多い。
王都に来る度に世話になっている宿ですら、他の街の料理店にも勝る料理を出してくれる。
旅路で簡素な食事しか取れなかった身にとってはありがたい事だ。
それに王都には、俺を拾ってくれたオウカ食堂本店がある。
支店よりもメニューが多く、何より味が一段と美味い。特に当たりの日は段違いだ。
まぁぶっちゃけ、当たりの日とはオウカが店に出ている日の事なのだが。
いや、たまに従業員に交じって料理してんだよ、あの人。
俺も初めて見た時かなり驚いた。
何してんだ女王陛下、と思わないでもないが、美味い物が食えるから特に何か言う気は無い。
周りは凄く大変そうだけどな。何せあの人、単独で国中飛び回ってるし。
そんなことを思い、自然と苦笑いが浮かぶ。
「……ライ。大丈夫?」
「ん? ああ、大丈夫だ。ありがとな」
俺の顔色を見てか、心配してきたサウレを撫でてやりながら馬車を運転し、とりあえず宿に向かう事にした。
無事に宿を取ることが出来たので、せっかくだからと全員でオウカ食堂本店に顔を出すことにした。
久しぶりの里帰りだ。みんな元気でやってるんだろうか。
そんなことを思いながら、店に向かうと相変わらずの盛況だ。
大通りの一角にある店は、まだ昼前なのに客の列が凄いことになっている。
にも関わらず、客は軒並み笑顔なのが特徴的だ。
見た目イカつい冒険者なんかも緩んだ顔をしている。
オウカ食堂。食堂ギルドの頂点にして原点。
王都の一店舗から始まったそれは瞬く間に国中へと展開された。
この店の最大の特徴は、どんな子どもでも雇い入れる所だろう。
あらゆる孤児院から子ども達を雇い入れ、戦争をしていた魔族、スラムに住む亜人、果ては犯罪に手を染めた者まで受け入れる。
仕事の他にも読み書きや計算、魔法の使い方を教えていて、成人した彼らは国の重要な役割を担う事が多い。
オウカ食堂のおかげで国の文明水準が百年は早まったと言われる程だ。
他にも国中の店舗に食材を届けるという名目で街と街を高速で移動できる魔導列車を開発したり、果ては十英雄が太刀打ちできなかった敵を一人で倒したりと、オウカの英雄譚は留まることを知らない。
選ばれるべくして成った女王。オウカ・サカード。
その偉大なる英雄がいま、オウカ食堂の厨房で桜色の炒め鍋を振るっている。
「はーい! 焼肉弁当三十人前! 唐揚げ弁当と生姜焼き弁当ももうすぐ出来るよー!」
元気よく生き生きと料理をする彼女の周りは、みんな笑顔だ。
周りを幸せにする力。それが彼女の最大の魅力だろう。
声を掛けようとした所で、ゆらり、とこれまた見慣れた人物が隣を通って行った。
俯き気味で顔は見えないが、この人が凛とした美人なのを知っている。
スラリと伸びた艶やかな黒髪はこの世界に十一人しかいないと言われているので、まず見間違いようがない。
黒を基調とした上等な仕立ての服に、女性らしさを感じる細身の体付き。
救国の十英雄の一人。王室特別補佐官。
たった一人で国の経済を管理していた才女。
『堅城』カツラギカノン。
まあ、知り合いではある。のだが。
この場にいる全員が凍りついてしまったいるので、俺も声を掛けられない状況だ。
うーん。ガチでキレてんな、アレ。
「…………オウカさん?」
「あ、ごめん! すぐに野菜炒め出来るから待って!」
「またこんな所で、貴女という人は……」
「はい! 野菜炒め弁当出来上がりっ! さて次……は……?」
「迎えに来ましたよ、女王陛下」
「うわっ!? カノンさん!?」
がしっと両肩を掴まれ、ビビるオウカ。
うん。この人怒らせると怖いからなぁ。
「今日は大事な会議があると、伝えていましたよね?」
「え、だってそれ、午後からじゃ……」
「今何時だと思ってるんですか!? お風呂に着替えに資料確認! もう時間が無いんです!」
普段は大人びた顔をしているカノンさんも、今は切羽詰まった表情でオウカを睨みつけている。
あーあ。あのバカ、またやらかしたのか。
「王城に戻りますよ! さぁ!」
「待って! まだ唐揚げがぁぁぁ!!」
後ろ襟を掴まれて引きずられながら、女王陛下が退場。
周りは慌てることも無く、そのまま業務へと戻って行った。
うん。まぁ、日常茶飯事だしな。
「あれ? セイにーちゃん!?」
「ん? おう、久しぶり。元気にしてたか?」
俺に懐いていたチビが駆け寄って来たので頭をグリグリと撫でてやる。
「みんな元気だよ!」
「そうか。何よりだ」
「うひゃー! やめれー!」
ニコニコしながら嫌がるチビを離してやると、興奮した口調でまくし立ててくる。
「セイにーちゃん! 今日は『魔法使い』様がお店に来るんだよ!」
「お、そうなのか。挨拶しに行く手間が省けたな」
「ついでだし手伝って行ってよ!」
「そうだな……お前たちはどうする?」
後ろを振り返りながらアル達に問いかけると、みんな揃って何やら呆然とした表情を浮かべていた。
「あの、ライさん!? 今の方って英雄のカツラギカノンさんですよね!?」
「……それに、女王陛下が厨房で働いていた」
「更には十英雄の一人である『魔法使い』と。どれだけ英雄と縁があるんですか?」
「あーダメだ、ボク混乱してきた……」
口々に語られるが、たまたま知り合いなだけなんだけどなぁ。
王都にいたら英雄と知り合い事なんてそこそこあるだろうし。
「まぁそこら辺はともかく。俺は店を手伝っていくけど、お前らどうする?」
「……私は残る」
「ボクも手伝おうかな! 料理は得意だし!」
「私は料理なんて出来ないので依頼を受けてきます!」
「では私はアルさんの監視ですね。居ても役に立ちませんし」
予想通りか。クレアが料理出来るのは旅してる間に知ってたし。
でもアルとジュレが冒険者ギルドに行くならちょうど良いか。
「アル。冒険者ギルドに行くなら依頼を出しておいてくれ」
「はい? 依頼ですか?」
コテリと首を傾げる。マジかこいつ。
お前は何のために王都に来たんだよ。
「……ほら、この紙だ。人探しの依頼書、書いておいたから」
「あぁっ! そうでした!」
「とりあえず頼んだぞ。サウレの分も書いてあるから、無くすなよ?」
「わっかりましたー! では! 行ってきます!」
「それでは後ほど。夕刻には宿に戻りますので」
元気に駆けていくアルを追って、ジュレも足早に去っていった。
アルの奴、冒険者ギルドの場所分かってんのか……?
まぁ、何はともあれ、久しぶりに帰ってきた事だし。
少し手伝って行くとするか。
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